持続可能な北海道農業の確立に関する政策提案

持続可能な北海道農業の確立に関する
政
策
提
案
平成28年7月
北海道農業協同組合中央会
北海道農業は、過酷な自然条件のもとで、農畜産物の安定供給と高品質化に努
め、我が国の食料供給基地としての役割を果たすとともに、国土・環境の保全や、
観光資源の提供など多面的機能を発揮してまいりました。
こうした中で、昨今の農業をとりまく様々な環境変化により、生産現場には大
きな不安が募っております。
まず、TPPについては、本年2月に署名が行われ、今後各国における批准に
向けた手続きが行われる予定となっております。我が国においても、今後国会に
おいて関連法案を含めた審議がなされる見通しにありますが、農業者の不安は
いまだ払拭されておらず、今後の審議において十分かつ丁寧な議論を行う必要
があります。
また、昨年11月に政府は「総合的なTPP関連政策大綱」を閣議決定し、力
強い農林水産業をつくりあげるための一定の道筋がつけられたところでありま
すが、引き続き継続検討項目について議論していくこととされており、農業者の
所得向上と農村地域の活性化を一層進めるための施策の構築が必要不可欠であ
ります。
我々JAグループ北海道は、我が国の食料安定供給へのさらなる貢献を果た
すという使命感に立ち、農業生産を担う多様な担い手の確保・育成、農業所得の
拡大に向けた生産販売対策、食の安全・安心対策、環境に配慮した農業の実践な
どに全力で取り組むとともに、自らも組合員にとって真に必要な組織となるべ
く改革を実行していく所存であります。
つきましては、北海道が持つ潜在能力を最大限に発揮の上、持続可能な北海道
農業を確立するために下記のとおり政策提案を致します。
記
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Ⅰ 基本的な考え方
1.基本的な考え方
(1)
「総合的なTPP関連政策大綱」の着実な推進や食料・農業・農村基本計画等の具体化
に向けた農業政策の確立とJAグループ北海道が掲げる「JA北海道大会決議」及び「め
ざす姿」の実現に向け、生産現場の意見を十分反映した施策を構築するとともに、補正予
算の確保を含めて農業予算を充実・強化すること。
(2)TPPにおいては、国民の不安が払しょくされるよう、国会で十分審議を行うととも
に、拙速な批准をしないよう対応を行うこと。
Ⅱ 作目共通対策
1.担い手・人材力強化対策
(1)担い手の倍増や人材力の強化に向けて、各地域の創意工夫で行う担い手確保・育成対策
を助長する観点から、総合的な支援を行うこと。また、金融支援対策、法人支援対策、
雇用確保対策など担い手対策関連事業を充実・強化すること。
(2)青年就農給付金については、
「将来の担い手に対する先行投資」と位置付け、経営が不
安定な就農直後の所得を確保するための支援を継続的に実施すること。また、運用にあ
たっては、就農における地域の実態を踏まえ、弾力的な要件とすること。
(3)担い手確保・経営強化支援事業(TPP対策)については引き続き事業を継続するとと
もに、経営体育成支援事業とあわせ、意欲ある農業者の経営体質強化につながるよう十
分な予算確保と要件の見直しを図ること。
(4)近年規模拡大に伴い労働力が大幅に不足していることから、他産業と連携した労働力
確保対策や通年雇用体制の構築に向けた対策、外国人を活用した対策(外国人技能実習
制度の見直し含む)等の強化を行うこと。
2.農地対策
(1)農地中間管理機構を軌道に乗せるため、関係予算を十分確保すること。
(2)また、既に担い手の農地集積率が約9割に及び、売買による権利移動の割合が高い北海
道において、新たな交付金の創設を含め、機構を活用したさらなる農地の集積・集約化
に取り組む地域に対する支援の充実を図ること。
(3)機構の実績を上げた都道府県について各般の施策に配慮する仕組みの導入にあたって
は、現状の担い手集積率や農地売買等事業の実績も評価するなど、北海道の実態を十分
考慮すること。
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3.産地体質強化対策
(1)国際競争力のある産地づくりを実現するためにも、生産現場の実態に即した制度を構
築するとともに、必要な予算を確保すること。
(2)特に、産地パワーアップ事業については、現場から強いニーズのあることから、十分な
予算を確保するとともに、地域の実態に応じた弾力的な運用を図ること。
(3)強い農業づくり交付金や農山漁村振興交付金等については、国産農畜産物の安定供給
と生産から流通までの強い農業づくりに向け、十分な予算を確保すること。
4.税制対策
(1)28年度末に適用期限が切れる税制措置のうち、特に①農業経営基盤強化準備金制度
の特例 ②肉用牛の売却による農業所得の課税の特例(肉免) ③農業用A重油の石油
石炭税の免税及び還付については、農業者の経営安定を図るため延長とすること。
5.「総合的なTPP関連政策大綱」継続検討項目関係
<生産資材価格形成の見直し>
(1)生産資材の「見える化」については、各種奨励策や引取り運賃等の実態を適切に踏まえ
た内容とするとともに、誤解や生産現場に混乱を招くことがないよう十分に配慮するこ
と。また、価格形成の見直しにあたっては、JAグループのみならず、商系、メーカー
や流通等のあり方も含め総合的な観点から検討するとともに、製造コスト削減につなが
るよう法制度の見直しを図ること。
<原料原産地表示>
(1)原料原産地表示については、すべての加工食品について原料原産地を表示するととも
に、外食産業においても表示の義務化を検討すること。
<収入保険制度の導入>
(1)収入保険制度のみでは「再生産」を確保しうる制度とは言えないため、生産費と販売価
格の差を補填するゲタ対策とセットの上、万全な経営所得安定対策を構築すること。あ
わせて、急激な資材価格の高騰等には対応できない制度であるため、恒久的に別途対策
を講じること。
(2)収入保険制度の導入に伴い、既存のナラシ対策や農業共済制度など既存の制度を後退
させることのないようにすること。
(3)収入保険制度における補填率および掛金に対する国庫負担水準については、少なくと
もナラシ対策などの現行制度以上とすること。
<土地改良制度の在り方の見直し>
(1)農業基盤整備事業については、真に必要な基盤整備を行うための予算を確保すること。
<輸出>
(1)農畜産物の輸出については、生産者の所得増大に資する観点から国を挙げた戦略的な
対策を講じること。
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Ⅲ 作目別対策
【水田農業対策】
1.米の生産調整の見直し
(1)需要に応じた生産は、国内全体で取り組む事により、その効果を最大限発揮できること
から、30 年産からの米の生産調整の見直しを見据え、全国段階で関係者の協議の場を設
けるとともに、需要に対し過剰に生産を行う地域に対しては、引き続き関係団体と連携
の上、適切な生産に向けた取り組みを促すこと。
(2)各地域で引き続き需要に応じた生産を円滑に実施するためには、農業再生協議会を中
心とし、生産者や集荷業者はもとより、地域の農業振興において重要な役割を担う、都
道府県・市町村行政等、関係者が一体となって十分な議論ができるよう国による環境整
備を進めること。
2.米の需給改善対策
(1)
「主食用米等の需給および価格の安定を図る」という食糧法の趣旨を踏まえ、産地の需
給調整機能が最大限発揮できるよう継続的な支援を行うこと。
(2)米の需給改善に向けて、産地の取り組みを支援する「米穀周年供給・需要拡大支援事
業」については、将来にわたり十分な予算の確保を行うとともに、大規模な需給変動に
対して即効性のある対策の検討を行うこと。
(3)米の消費減少が続く中、
「和食」を中心とした日本型食文化の普及啓発や外食における
原料原産地表示の働きかけなど、官民一体となった消費拡大対策を行うこと。
3.水田の有効活用対策
(1)産地交付金を含めた水田活用の直接支払交付金については、30 年産において「米の直接支払
交付金」が廃止となる中、需要に応じた米生産・供給体制を構築するため、将来にわたり必要
かつ十分な予算を確保するとともに、産地交付金については、地域の強みを活かした産地づく
りに向け、地域の創意工夫が発揮できる仕組みとすること。
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4.担い手経営に対する支援策の構築
(1)収入減少影響緩和交付金について、現行制度では生産数量目標の達成を要件としてい
るが、生産数量目標の配分が無くなる 30 年産以降においても、需要に応じた生産を行
う担い手を対象にする等、メリット措置の検討を行うこと。
(2)将来にわたる水田機能の維持・発展に向けては、安定的に担い手の再生産を確保するこ
とが重要であり、収入減少影響緩和交付金の拡充を含めたセーフティネット対策の確立
に向けた検討を行うこと。
5.水田農業の持続的発展に向けた政策の確立
(1)水田農業の体質強化と所得向上に向けては、省力化・生産コスト低減と生産性・品質向
上の両方に継続的に取り組む必要があることから、農業機械・施設や生産基盤整備につ
いては、安定的な支援を措置すること。また、事業実施にあたっては、生産現場の実態
にあった弾力的な要件とすること。
(2)産地の競争力強化に向けて、極良食味から業務用、飼料用米など消費者・実需者ニーズ
を反映させた新品種の早期開発に対する支援を行うとともに、低コスト・省力化栽培技
術の導入等に対する支援を強化すること。
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【畑作・青果対策】
1.経営所得安定対策等
(1)畑作物の直接支払交付金は、今後の国内生産力確保を図るべく、生産者が将来にわたり
安心して営農に取り組めるよう、必要かつ十分な対応と予算を確保すること。
(2)地域自らが目指す合理的輪作体系を維持・確立すべく、輪作により栽培される畑作物等
の生産性向上に対する必要かつ十分な予算を確保すること。
2.病害虫対策
(1)近年の気象変動を受け、様々な病害虫が発生しており、産地ではその対応に苦慮してい
ることから、被害拡大の要因分析や抵抗性品種開発等、被害低減に関する試験研究並び
に普及に対する十分な予算措置が必要。また、作物に対する効果・安全性を考慮した上
で、登録拡大や新規農薬の承認までの期間短縮に向けて必要な対応を図ること。
3.てん菜・てん菜糖対策
(1)糖価調整制度の安定的運営のためには砂糖需要量の底上げが必要であり、高甘味度甘
味料対策並びに抜本的な需要拡大対策(砂糖の機能性等による訴求)を講じること。
(2)てん菜・てん菜糖は食料自給率の向上に寄与していることから、生産者の品質・生産向
上に向けた努力が報われるよう生産されたてん菜全てを政策支援対象数量並びに供給
可能数量とすること。
(3)国内における砂糖の需給調整を目的に措置されているてん菜糖の一部を精製糖企業へ
販売する仕組み(原料糖制度)について、てん菜糖の更なる円滑な流通確保につながる
仕組みとするほか、糖業者に対する適正な支援を講じること。
4.でん粉原料用馬鈴しょ・馬鈴しょでん粉対策
(1)国が示すでん粉の需給見通しにおける馬鈴しょでん粉の需要量 24 万㌧を実現するため
に、種子馬鈴しょの安定確保と品質向上対策や、生産者の農作業・労働支援体制の構築
に向けた複数年にわたる生産振興対策など、万全な甘味資源作物対策を講じること。ま
た、収量性と耐病性に優れた新品種が速やかに開発される体制を整備すること。
(2)ジャガイモシストセンチュウ(シロシストセンチュウ含む)発生地域拡大防止と密度低減に向けて、まん延防
止対策については行政による指導力の発揮と、産地ニーズに即した抵抗性品種(生食・加
工用を含む。特にシロシストセンチュウには抵抗性品種が存在しない)の早期開発・普及並びに土
壌分析体制の拡充・強化、輸送車両やコンテナ等の洗浄・殺菌対策に向けた支援を講じ
ること。
(3)でん粉工場の持続的な操業に向けて体質強化への十分な支援を講じること。
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5.麦類対策
(1)実需者ニーズに応えるべく安定品質・安定供給を図る上で、内麦優先の原則に基づく国
家貿易の管理の維持並びに民間流通の仕組みの見直しなど、国の主導力による需給調整
機能の強化により、安定的かつ確実に国内産麦が供給・流通される仕組みを構築するこ
と。実際、産地では新麦受入まで産地負担の伴う調整保管が行なわれている状況にある
ことから、適切な供給と流通の実現が急務である。
(2)国内産麦の需要拡大に向けた産地形成に向けて、安心・安全な良品質麦の安定供給を図
るべく、新品種・新技術の開発等生産振興対策や、既存施設の拡充・再編整備に向けた
万全の予算を確保すること。
6.豆類対策
(1)雑豆類は、我が国の食料自給率向上に寄与するとともに、輪作構成作物として農地の有
効活用や農業生産力の維持向上に貢献しているが、近年需給バランスが崩れている品目
もあることから、関税割当制度の適正運営(検証を含む)並びに国産・輸入雑豆・輸入
加糖餡を含めた全体としての需給調整機能の確立を図ること。
(2)需要に即した安定供給体制を確立するための生産対策が必要であり、合わせて生産さ
れた豆類の円滑な流通と国産豆類需要拡大対策を講じること。
7.野菜対策
(1)平成 28 年度予算において措置された、加工・業務用野菜生産基盤強化事業については、
加工・業務用野菜の生産振興に向けた産地の取組を一層推進すべく、次年度以降も必要
かつ十分な予算を確保すること。また、面積要件については、品目ごとの生産実態に即
した見直しを図ること。
(2)近年、輸送コストが大幅に上昇しており、特に北海道は輸送距離が長く輸送運賃が高い
ことから、輸送コスト低減や物流改善に向けた対策が必要。また、青果物を安定的に消
費地に輸送できるよう、鉄道貨物を含めた輸送力の増強に向けた支援や鮮度保持技術の
開発、輸送容器のコンパクト化などへの総合的な支援を講じること。
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【酪農畜産対策】
1.加工原料乳生産者補給金制度の再構築(液状乳製品の対象化)
(1)補給金単価の一本化について、平成 29 年度の補給金単価については、投資のための所
得が確保され、持続的に再生産可能となるよう、全算入生産費を基本に実態を踏まえた
生産コストと乳製品向 3 用途(脱粉・バター向、チーズ向、生クリーム等向)の加重平均
取引価格との差を補てんする単価水準とすること。
(2)ホエイやチーズの関税撤廃により、長期的に加工原料乳価格の下落が懸念されること
から、初年度において再生産可能となる補給金単価水準の設定を前提に、2 年目以降は
単価の大幅な変動とならないよう、現行の生産コスト変動率方式にもとづく算定とし、
将来にわたり安定的な制度とすること。
(3)また、配合飼料価格をはじめとした生産資材価格の急激な高騰により所得が低下する
場合においては、機動的に補給金単価の期中改訂を行う仕組みが必要であり、さらに加
工原料乳価格が下落する際には、初年度の単価の見直しを行うこと。
(4)交付対象数量については、3 用途全量を対象に設定する仕組みとすること。
2.加工原料乳生産者経営安定対策事業(ナラシ)の充実
(1)乳製品向用途の販売価格下落等による所得の低下に対しては、経営への影響を緩和す
るため、乳製品向用途全体を対象に、機動的に発動しやすい仕組みへの改善など加工原
料乳生産者補給金制度の見直しとパッケージにより、安定的に所得を確保できるよう事
業の充実強化を図ること。
3.万全な需給調整対策の確立
(1)生乳の需給は緩和と逼迫を繰り返す中、これまでの需給緩和時における需給調整は、生
産現場における減産対応であり、結果として生乳生産基盤の弱体化並びに所得の減少に
繋がったことから、需給緩和時に経営に影響を与えないよう、乳製品製造経費(委託加
工費)や調整保管経費等を支援対象に、国の主導により輸出も見据えた万全な需給調整
対策を講じ、加工原料乳生産者補給金制度の見直しとパッケージにより酪農経営の安定
を図ること。
(2)バター等乳製品については、国の責任において円滑な流通を促し、適切な需給管理にも
とづき国民への安定供給を図ること。
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4.牛・豚マルキン等の充実強化
(1)牛マルキンについては、法制化、補てん割合の引き上げを早急に行うとともに、物財費
相当額への全額補てん、もと畜費の急激な変動に対応する算定ルールの変更等制度を充
実の上、将来にわたり制度の安定化を図ること。
(2)豚マルキンについても法制化、補てん割合の引き上げ、国庫負担水準の引き上げを早急
に行い、将来にわたり制度の安定化を図ること。
(3)肉用子牛生産者補給金制度の見直しにあたっては、品種毎に再生産が可能となる保証
基準価格等の設定や直近の生産コストの実態を反映した機動的で簡素な算定ルールへ
の見直し等早急に制度の充実を図ること。
5.酪農畜産生産基盤強化対策の確立(大綱における継続検討項目への反映)
(1)畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(畜産クラスター事業)については、安定的
に計画投資が可能となるよう、長期にわたり、十分な予算を確保の上、事業の継続強化
を図ること。
(2)優良繁殖雌牛群の整備等生産基盤強化や乳用種資源確保など万全な畜種別資源確保対
策の確立に向け、
「畜産・酪農生産力強化対策事業」については、継続的な支援に必要な
予算確保を図ること。
(3)畜産クラスター事業で対応しきれない乳量の増加や規模拡大等の取組み及び乳用牛資
源の確保等に向け、現行の「酪農経営支援総合対策事業」については、生産現場の実態
を踏まえ、十分な予算を確保するとともに事業の拡充強化を図ること。
(4)酪農経営安定化支援ヘルパー事業については、平成 28 年度で終了することから、傷病
時対応に備えた人員体制整備への支援や技能・経験を有したヘルパーに対する研修指導
手当の支給支援等、新規就農の促進の観点からも、酪農ヘルパーの要員確保と雇用環境
の充実等による定着が図られるよう十分な予算を確保の上、事業の継続強化を図ること。
6.家畜防疫対策
(1)近隣アジア諸国を中心に海外における口蹄疫等の家畜伝染病が発生し、家畜伝染病の
国内への侵入リスクが高まっていることから、国内における防疫対策並びに体制の充実
強化を図ること。
(2)家畜伝染病予防法にもとづく、ヨーネ病等の患畜の殺処分にあたっては、安定した経営
の継続が図られるよう、生産現場の実態を踏まえた手当金の限度額引上げを早急に行う
とともに、必要な予算の確保を図ること。
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