植物育種学レポート (1) 私は桜の育種について取り上げる。桜は古来

植物育種学レポート
(1)
私は桜の育種について取り上げる。桜は古来からお花見などで楽しまれる日本を代表
する植物であり、日本各地での生息が確認できる。また桜を目当てに来日する外国人観
光客も少なくなく、経済効果は大きいと考えられる。日本における桜はほとんどがソメ
イヨシノである。これは、ソメイヨシノが他の品種に比べて花びらが大きく開花時に葉
が開いていないため、桜の花の色味を楽しめる、また生育が比較的早いことが理由だと
考えられる。ソメイヨシノは染井村で育成された品種であり接木によって繁殖してきた。
しかし、接木によって繁殖したということは日本におけるソメイヨシノは遺伝的に同一
のものということである。そのため元々耐病性の低いソメイヨシノはてんぐ巣病などの
特定の病気に非常に弱く、伝染力の高い病気に罹患した場合の被害は甚大になる。また
入学式が代表としてあげられるが、日本で桜は特定の日に必要とされることが多い。し
かし母の日のカーネーションと違い、桜は個人で所有したり購入したりすることは困難
である。そのため開花時期の制御が求められているが、開花時期を制御するには休眠中
の低温管理が重要であり現実的ではない。加えて桜の遺伝的多様性が失われることも問
題である。またソメイヨシノの台木にはかつてアオハダザクラが利用されていたが、ア
オハダザクラが病気に弱く短命だったためアオハダザクラ台木のソメイヨシノが寿命
60年と言われていると考えられる。また日本では戦後や東京オリンピックの時期に多
く桜が植えられたため、もうじき日本の多くのソメイヨシノが弱ってくると考えられる。
これらの理由から、私は今桜の育種に力を入れるべきであると考える。
育種に用いる品種だがソメイヨシノを含むサクラ属の品種を複数用意する。この品種
には耐病性のものや生育が早いもの、秋咲きのものなど多様な性質の桜を用意する。こ
れはサクラ属は属の中で交雑する可能性が高いためである。またソメイヨシノは自家不
和合性であるため、F1世代で良い特徴を示した個体を接木で増やせば良いことも理由
である。また多品種を一箇所に植えることで自然交雑の可能性を高められるとともに、
開花の時期に一般公開することで観光名所としても利用可能できる。求める品種は上記
の問題点を解決できるようなものだが、他にも優れた性質の品種を作れる可能性もある。
この育種にかかる期間だが対象とする性質による。耐病性については比較的早期に判断
できるが、花の様子を観察したり生育具合を判断したりするには時間がかかる。しかし
実際に上記のような問題点は多く、桜は大きく成長するのに時間がかかるため手遅れに
なる可能性がある。そのため時間がかかるからこそ早急に実践することが必要であると
考える。
(2)
ゲノミックセレクションについて述べていく。まずゲノミックセレクションとはゲノ
ムワイドな DNA 多型情報を用いることで個体の形質を計測せずに選抜を行う育種法で
ある。そのため表現型を評価するのに時間を要する育種において用いられることが多い。
動物においては乳牛では早期の段階から利用されてきた。また植物においてもゲノミッ
クセレクションに必要なコストが低下してきたことから利用が始まっている。
長所としてはまず上記で挙げたような時間短縮である。杉の育種シミュレーションで
は途中で予測モデルを更新する条件下ではあるが、60年間の育種過程シミュレーショ
ンで表現型選抜に対して約2倍の遺伝的獲得量を得た。※1 これは杉において表現型
選抜の1サイクルには約20年を要するのに対し、ゲノミックセレクションでは最短3
年で1サイクルを終えることができるからである。また上記で挙げた乳牛では、雄牛の
評価は娘牛の表現型を計測してから行うことから牛を育てるためのコストも甚大であ
ったため、時間短縮だけでなく大幅なコストの削減にも成功していた。次に表現型をみ
る必要がないため選抜に関して時期や環境を考慮しなくてもいいという利点がある。厳
しい環境における耐性を調査したい場合、一度トレーニング集団を悪環境下で栽培する
ことができれば次世代以降は温室などを用いて確実に生育させながら世代を循環させ
ることができる。 また海外の作物の評価もわざわざ現地に赴くことなく行える。実際
にこの利点を生かしたソルガムの研究も行われている。※2
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/pmg/sorghum.html
また個体単位で計測が難しい形
質についても個体選抜を行うことができるようになる。例えば遺伝率の量的形質につい
ても選抜を行うことができるようになる。※3
ゲノミックセレクションにはデメリットも存在する。まずゲノムワイドにマーカーを
設定しなければならないため近縁種間での育種は困難であるという点である。そのため
近縁種を掛け合わせることの多い稲では点でのマーカー選抜しか行うことができない。
次にゲノミックセレクションで選抜した個体が確実に必要な形質を示すとは限らない
ことが挙げられる。新しい品種を DNA レベルで固定できたとしても、実際に圃場実験を
行った際に通常通り生育しないことや表現型が見られないことが考えられる。※4 ま
たトレーニング集団を更新しない限り、世代を経るごとに精度が下がっていくというデ
メリットもある。トレーニング集団は実際に栽培したい場所で栽培しなければならない
ため、更新頻度によっては上記のメリットの一部が失われてしまう。
ここからは育種に生物学的分子メカニズムの理解が必要か否かについて述べる。私は
育種の手助けにはなるが必要不可欠ではないと考えている。昨今研究は細分化が進み、
非常に限られたジャンルの研究のみを行う研究者も少なくない。そのためある一つの形
質に関する分子メカニズムを行うことも可能であり、そうした直接的な研究であれば育
種に活かすこともできる。またゲノム育種を行う場合は分子メカニズムが解明されてい
る場合、対象とする遺伝子を特定することが容易になる。しかしゲノム育種に適してお
らず表現型選抜を行う作物の場合分子メカニズムの解明は全くの不要である。また分子
メカニズムを解明するための時間的、金銭的コストを考慮すると育種のために分子メカ
ニズムを調べる必要はないと考える。
※1 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsc/121/0/121_0_304/_pdf
※2 http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/pmg/sorghum.html
※3
http://ci.nii.ac.jp/els/110009553896.pdf?id=ART0009998531&type=pdf&lang=jp&ho
st=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1465202327&cp=
※4 http://www.academy.nougaku.jp/annual%20report/kaiho10/13_sympo3.pdf