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Title
漢詩創作の授業
Author(s)
江川, 順一
Citation
札幌国語研究, 4: 17-27
Issue Date
1999
URL
http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2628
Rights
本文ファイルはNIIから提供されたものである。
Hokkaido University of Education
漢詩創作の授業
はじめに
業ゆえに単なる鑑賞に留まってしまうことが大きな安国ではな
いか。ましてとっつきにくい漢文である。漢詩の授業は、高校
から疎遠にするばかりである。
一
平成九年秋に香川県で行われた第十二回国民文化祭では、初
めて漢詩の部門が設けられた。この漢詩の公募には、文化祭初
ものだろうか。高校はもちろん中学校の国語教室においても、
く行われている。しかし、.漢詩制作の実践はほとんどない。そ
それでは、高校生に漢詩を身近に感じさせるよい方法はない
生にとってひたすら受身の時間になりがちであり、彼らを湊文
の試みにもかかわらず、四十七都道府県すべてから千三育十三
篇もの応募があった。漢詩の創作を趣味とする人たちの根強い
人気は衰えることがなく、漢詩制作を目的とする団体は少なく
はない。しかしながら、その年齢層はおしなべて高い。漢詩部
どの約束事が煩雑であることによる。それならば、正統な漢詩
二
表現活動としての漢詩制作
上でどんな利点があるのかを明らかにする必要があるだろう。
せてみてはどうだろうか。その際、まず漢詩創作は湊文学習の
とは異なる思い切った制作方法を用いて、生徒に漢詩を創作さ
が広く認知されてはいないことと、漢詩創作にともなう平灰な
れは先の国民文化祭で行われたような現代漢詩というジャンル
俳句や短歌を学ぶ単元では、実際に作品を創作させる試みが広
門の応募者の年齢は十五歳から九十五歳までの幅広車層である
とはいえ、平均年齢はやはり六十人歳であった。これは明らか
に若年層の漢詩に対する無関心を示している。若者にとって湊
辞はもちろんのこと、漢文そのものが身近なものとはなってい
な い の で あ る。
高校の国語教室においても、漢詩を扱う授業は低調になるば
かりである。確かに現代詩と比べるならば、漢詩の授業は辞教
材として生徒に訴え迫る力は強くはない。なぜなら、古典の授
ー17−
語と対照させることによって、表現活動としての漢詩制作を考
ある︵注1︶。ここでは、学習の効果という観点から、漢文を英
漢文教育を外国語教育と比較することはよくなされることで
まく行われるならば、どちらか一方だけでは思いもよらなかっ
作とは、車の両輪のような関係と考えられる。両方の活動がう
フィードバックさせてやるのである。漢詩の名作鑑賞と漢詩制
表現活動のフィルターを通すことによって、読解や句法に
ここで報告する実践の対象は二年生の古典Ⅰ、四クラス。秋
三 漢詩の授業のまとめとして
たような効果を生むことができるはずだ。
えてみたい。
英語科の授業で英作文やオーラルコミュニケーションが行わ
れるのは、英語が﹁生きている﹂言語であるからだ。英語の読
程を経ることによって、いっそうの読解力や文法力が養われ、
から冬にかけて、漢文の授業で辞単元を扱った。単元目標は、
解もし、英文法も学んだ。加えて、頭の中で実際に文を作る過
総合的な英語の力として定着する?表現というフィルターを通
できるだけ多くの詩に触れることによって、漢詩の独特のリズ
ム感や洗練された表現を味わうこととした。教科書の筑摩書房
すことによって、フィードバックできるからである。
では、国語科の古典の世界ではどうだろう。日常生活の中で
で聴きこそすれ、話したり書いたりすることばではない。英語
七絶四点︵王維﹁九月九日山東の兄弟を憶ふ﹂・李白﹁黄鶴楼
五絶二点︵李白﹁秋浦の歌﹂・貫島﹁隠者を尋ねて遇はず﹂︶。
古典Ⅰの詩単元で扱った漢詩は全部で一一点。以下に記す。
のようにリアルタイムで用いられる言語ではないのだから、そ
にて孟浩然の広陵に之くを送る﹂・李商隠﹁夜雨北に寄す﹂・
は、古文で話し漢文で記す場面は皆無である。古文や漢文は耳
れは当然のことだろう。
なはだ不幸なことである。英語に照らして言えば、読解や文法
七律二点︵陸瀞﹁山西の村に遊ぶ﹂・菅原道真﹁家書を読む﹂︶。
感有り﹂︶。五律二点︵杜甫﹁月夜﹂・杜甫﹁岳陽楼に登る﹂︶。
蘇戟﹁西林の壁に遺す﹂・菅原道真﹁瀞海装大便の真図を見て、
は扱うが作文やオーラルは行わず、ただ読むだけ、解釈するだ
教室では範読、.斉読、指名読みを何度も繰り返して、漢詩の持
しかしながら、学習の定着度という点から見ると、それはは
けの授業となる。それではいくら英語力の伸長を唱えてみても、
つ独特のリズムを身体に染み込ませるようにした。
これらの漢詩を含め、高校入学以来学んできた漢字や漢文に
おのずと限界がある。古文や漢文は実際に使われる場面のない
﹁生きていない﹂言語である。生徒にとって、それはどうして
うと提案した。しかし、いきなり漢詩の創作は無理なので、あ
ついての知識を総動員するつもりで、漢詩の制作を試みてみよ
それならば、古典のことば、ここでは漢文を用いて、表現活
らかじめ漢詩の名作の形式だけは借り、そこで詠まれている内
も見て終わり、読んで終わりのものになってしまいがちだ。
動を試みてはどうだろう。単なる作品鑑賞に留まることなく、
−18−
容を自分のオリジナルにする、すなわち換骨奪胎して自分自身
の漢詩を創出する段階で各々が工夫を凝らすことができるよう
な活動を設定した。具体的には、漢詩の名作をもとに作品中の
動詞や目的語、補語、副詞や形容詞を変えるのである。このとき、
漢詩の形式と押韻は考えるが、平灰は考えないこととして、生
徒が言語感覚を存分に生かせるような活動としたい。
この活動の長所は、漢文の初歩的な知識のみでも十分対応で
きることである。さらに、自分の力量に応じて、高度な内容を
も盛り込むことができる。生徒一人ひとりの発達段階に応じた
ー19−
作・考載換 る と
の
取組が可能なのである。
て
折しも十二月。定期考査が終了してから冬休みに至る時期の
Vヽ
二時間で漢詩を創る授業、冬休みが明けた二時間で生徒の作品
を鑑賞する授業を考え、ふだん自習室としてしか機能していな
指導目標・計画表
す に 集
をがぶ。らす
漠
詩
で篇
車図書館を有効に使ってみた。
四
漢詩の学習のまとめとしてとらえ、実際に漢文を作る
︵一︶指導目 標
ア
ことによって、漢文の構造に慣れさせる。
集中的に学んだ漢文の句法を使うことを励行し、使用
させることによって理解の深化を図る。
生徒の創作意欲を刺激し、工夫させることによって、
皮 と作
行を
き
続
○読を
ん全
て 参掲 ○ せ る
状用 ○
’通
敦
を 紙
イ
り
漢文に対する興味・関心を養う。
︵二︶指導計画表︵四時間配当︶
十 と 続
方
作
留
付番品
には品
表同鑑
彰じ賞
引
ン 徒湊
ト が詩
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点
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①
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時
2
3
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動
漠す刺モ
①
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点
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開
展
まとめ
4
︵第一 時 ︶
②
等髪ご柔莞髪
学習指導案
我秋頭蒙作何知秋自■【
五
動
を
︵一︶本時の 目 標
巴
漢文の基本構造に慣れる。
例
素業疎本義去霜裏長丈歌
ア
活
湊詩の押韻を理解し、既習の句法をできるだけ使用す
習
るように努める。
学
換骨奪胎の方法を確かめ、創作にうまく生かす。
1
イ
時
入
り
︵二︶本時の 展 開
導
3
2
読詩
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次
時
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口
②
①
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書詩
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−20−
灰づ、
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2
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︵三︶湊詩制作の方法︵プリント︶
目的
漢詩を作ろう
ー
漢詩の名作を換骨奪胎して、自分の思いを込めた別の
詩作の原則
作品に仕上げることを通じて、古典の世界に親しむ。
二
以上の条件を挙げて説明、図書館にあるあらゆる資料を用い
て漢詩を創作してみようと提案。早速、制作に取りかからせた。
六 生徒の漢詩作品
生徒は自らの作品を楽しみながら制作していた。実際の制作
にあたっては、生徒の問を回りながら、質問に随時答え、アド
バイスに努めた。その際、褒めることを柱に据えて、生徒の主
体的な意欲を喚起することに意を用いた。すると、生徒は自分
︵一︶詩型は五言絶句。余力あれば七言絶句、律詩も可。
︵二︶ 題材は自由。ただし、品性を欠くものは不可。
の頭を働かせて考え始めた︵以下▼印は私のコメント︶。
真剣為拳銃
産台変溜池
二人純愛製
両家争乱激
今見現代棟
昔聞悲恋劇
結末哀惜甚だしく
真剣は拳銃と為る
霧台は溜池に変はり
二人の純愛は裂かる
両家の争乱は激しく
今見る現代の棟
昔開く悲恋の劇
①﹁見”悲恋ノ劇㍗
︵三︶偶数句末は押韻。七音の場合は第一句末も押韻。見
分け方は、ローマ字表記にして母音が共通すればよい。
例①﹁眠﹂m引・﹁新﹂,凱 ②﹁園﹂引・﹁年﹂n引
例①杜甫甫︵とほほ︶
結末哀惜甚
軒に憑りて洋酒漁る
④﹁鳥﹂Ch引・﹁少﹂Sy引
︵七︶典拠とした漢詩も記す。
憑軒洋酒流
③﹁魂﹂k引・﹁村﹂S引
︵八︶典拠を用いず、自由な創作も可。
▼杜甫﹁登岳陽楼﹂にならってロミオとジュリエットを詠った。
︵六︶
+3。
結局力及ばず
②﹁愁ン日本㍗︻山二
②陽気妃︵ようきひ︶
ペンネームを付けてもよい。
︵五︶同一字の使用は避ける。それが狙いならば可。
4一︵ 2 + 2 ︶
︵四︶各旬の基本構成については、五言が2+3、七青が
︵九︶作品は、書き下し文も付ける。
︵一︶制作すべき数は、一人一首以上いくつでも可っ
結局力不及
証社遂に自死す
備考
︵二︶制作tた漢詩をまとめて、人気投票を行う。
証社遂自死
三
︵三︶人気投票時には、ペンネームも評価の対象とする。
−21一
惟祈彼無事
我戚彼社働
惟だ彼の無事を祈るのみ
我が戚彼の社に働く
富者唱偽善
貧民語真実
得金又望権
嘗める者は偽善を唱ふ
貧しき民は真実を語り
金を得て又権を望む
願地雷禁止
人入着世界
頭を挙げて平和を望み
願はくは地雷禁止を
人人世界を看る
⑥﹁平和ノ息﹂︻九拾七︼
▼痛烈な社会詩となった。転句と結句の対句が実にうまい。
▼山一証券に勤める親戚を慮る。﹁自死﹂と﹁無事﹂の対照の妙。
③﹁馬尽タシL
新人勝六九
挙頭望平和
頭を低れて月妃を思ふ
桜は共栄行進
秋草は那おなり
低頸思月妃
新人で六九も勝ち
さようえいマーチ
秋草猟犬也
弟は時の幸四郎
桜共栄行進
弟噂幸四郎
たり。
一年で一五九︵勝︶す
菊待兼福来
菊では待兼福来
ゆたか
天才豊 此に有り
一年一五九
天才豊此有
有馬の終わりは何如
夜来大軒声
処処開鐘小
春眠不覚晩
父の健やかなることを知る多少
夜来大軒の声
処処鐘の小なるを聞く
春眠暁を覚えず
▼孟浩然﹁春暁﹂との落差がうまい。父への愛情が伝わってくる。
いびさ
父健知多少
⑦﹁春暁﹂
▼李白﹁静夜思﹂が下敷き。﹁月妃﹂が﹁ダイアナ﹂とはぴっ
ダイアナ
有馬終何如
▼競馬フアンの五律。押韻はともあれ当て字の妙を楽しむべし。
④ ﹁ 憂 ︰ 娘 ヲ﹂
知らず親の心の内
茶 婁 三 千 丈 茶菓三千丈 かく
縁 恋 似 箇 嫡 恋に縁りて箇のごとく 桐 な り
不知親心内
はんしんさよじん
下町は高給を得
ダウンタウン
阪 巨は威厳有り
下町得高給
秋刀魚に静莫く
さんま
莫静秋刀魚
阪巨有威厳
何 処 得 豊 艶 何れの処にか豊艶を得 た る
▼私も小二の一人娘の親として﹁知らず親の心の内﹂にドキリ。 ⑧﹁生Hレシ 大阪ぺ男達﹂︻吉本興業︼
⑤﹁思ン腐 国 ㍗
物音不知足 物は足るを知らざるを苦しみ
−22一
疑是勢地沈
食前計体重
頭を挙げて食欲を恨み
疑ふらくは是れ地に沈む勢ひかと
食前体重を計る
駄符屋呆れて帰る
青勿急換金
雪中問行貞
大臣の音ふを知りたりと錐も
青ふ急ぎて金に換ふること勿かれと
雪中行貞に問へば
咲乱天女花
我為蝶子舞
子若為麗花
孟ぞ我に其の愛を与へざる
咲き乱るる天女花
我味と為りて子に舞はん
も
子若し麗しき花と為らば
及航速影夏空尽
煙雪十二月固身
恩師東辞南高門
我願ふ永遠に情熱貫くを
双航の遺影夏空に尽き
燻雪十二月身を固める
恩師束のかた南高門を辞し
⑮﹁不細工﹂
彼青ふ百の量を献ぜんと
彼三首を請けて帰る
︵☆︶
▼百比採血し、三盲∝輸血され、差し引き二百∝の超過なり。
彼帰三宮請
而献顔青倒 而れども献じて顔青く倒る
彼言古量献
男行初献血 男初めて献血に行く
⑩﹁男行コ輸血ぺ﹂︻私物︼︵☆︶
▼藤原晶氏は今冬新婚旅行でハワイに行った本校教師である。
我願永遠情熱貫
⑬﹁南高門。テ速射原品ノ之㍉南堅﹂︻網子︼︵☆︶
▼再読文字を用いた結句﹁孟与我其愛﹂とは凡人の手ではない。
孟与我其愛
⑲﹁如⋮シ愛七花﹂︻夢煉〓☆︶
▼白楽天ならぬ黒楽天が銀行の楽観的でない未来を暗示する。
ナインティナイン 萎縮九十九 萎縮す 九十九
▼一句に一人、吉本興業の売れっ子芸人を当て字で入れてある。
挙頸恨食欲
頭を低れて我が身を嘆 く
⑨﹁静夜嘆﹂
低頸嘆我身
▼﹁静夜思﹂との落差が眼目。﹁食前計体重﹂には李白もびっ
くり○
⑲﹁行りド歌会ノl無︰券﹂
駄符屋呆帰
我貧しき上に考へ甘し
場 外 問 駄 狩 場外駄符に問ふ
青 券 不 其 安 言ふ券は其れ安からず と
我貧上考甘
▼﹁駄符屋﹂はうまい。すると﹁歌会﹂は﹁コンサート﹂のこ
とだな。
錐知大臣言
嘘多くして其を知らず
⑪﹁被㌔損害↓並コ雪中ぺ﹂︻黒楽天︼
嘘多不知真
ー23−
而爾亦醜湊
爾日我醜女
而れども爾も亦醜漠なり
爾日はく我は醜女なり
倍醜と為る
圭
各怒りて
おのおの
各怒倍為醜
宜しく各交際すべし
︳のーの
宜各交際臭
▼犬も食わぬ夫婦喧嘩。再読文字﹁宜﹂が穏やかな眼差しだ。
○漢字を知らないなあということを痛感した。漢字を知っ
ていれば、もっと漢文が味わえるはず。漢語林でもっと
勉強します。
︵二︶漢詩を創作してみてよかったこと
○同じ内容を表すにしても、実に多くの漢字があり、また、
どれも微妙なニュアンスの違いがあるというのがわかっ
彼憂ふ且に国の滅ばんとするを
○内容を考えるのが一番大変だったが、内容が決まれば、
O﹁インパタ知︵インパクトプラス知的︶﹂の笑いがあった。
たこと。
彼憂且国滅
憤起して大衆に説く
︵☆︶
憤起説大衆
集ふもの無く哀しみて刀を抜き
後はパズルみたいで楽しめた。
○漢文の句法について、実際に創ってネることで、理解が
⑯﹁告白﹂︻仮 面 ︼
無集束抜力
腹を割く刻は晩秋
と。一つ一つの語に込められた想いを読み取るのは難し
○今まで学習してきた詩のすばらしさを、改めて感じたこ
かが、ちょっとわかった。
○漢詩がどれだけ微妙なバランスによって成り立っている
った。
○ふだんは許なんて照れ臭くて書けないので、新鮮でよか
○漠詩集をはじめてひらいた。けっこうおもしろかった。
めてで、とてもおもしろかったし、勉強になった。
04∼5歳の噴から詩を書き続けているのだが、漢詩は初
○あまり面白くない漢詩に興味を持つことができたこと。
で面白かったです。
品を創るということは、高校に入ってからはなかったの
深まったような気がします。また、このような自分の作
割腹刻晩秋
生徒の感想
▼漢文訓読体の生硬なリズムが三島の悲壮さに拍車をかける。
七
︵一︶漢詩を創作してみて辛かったこと
○図書室に参考図善が少なかった。
○内容が決まっても、漠字を当てたり、韻を踏んだりする
のが難しいこと。
○題材を決めるのが大変で、その後文法的にまちがいがな
く、韻を合わせるように工夫するのに苦労した。
○限られた字数の中で、韻を踏んだりするのが難しかった
です。また、漢文の句法を利用するのが難しかったです。
○漢詩は読むのも難しいが、創作は更に難しかった。既存
の詩を少し変化させて作るのが精一杯だった。
ー24−
いと思っていたけれど、自分の気持ちをうまく詠み込む
方 が もっと至難の技だとわか っ た こ と 。
○作っていくうちに楽しくなって、どんどん青葉が浮かん
できた。滅多に引かない漢和辞典が活躍した。
○ワンダフルでした。再読文字や反語、限定など、教科書
で見たぜ、と思、†ものがたくさんあったし、内容もオウ
オウとおもしろいものぞろいでした。つくるよりみる方
が好きです。
ました。南高ってすごい人がいっぱいいるんですね。
○面白い表現とか、きれいな表現がたくさんあって感動し
注意したので、目的語の位置や、どこで返って読むかな
○みんなさすがにうまいなあと思ったが、自分のことを棚
○今までは少ししか気にしていなかった字の順番にすごく
ど、今も覚えているかは別にして、とりあえず勉強にな
にひねりがないというか、ぐつとくるものがない。せっ
︵客観的に見ると︶、曹、今ひとつ結句
りました。創作をすると漠字の理解が深まると思います。
○漢文の知識が深まって、おじいちゃんに自慢できた。漢
かく﹁起承転﹂までいいところにきているのに、﹁結﹂
にあげて言えば
詩を身近に感じることができた。漢詩を作るのは楽しい。
でなにかうやむやに、暴力的に︵?︶まとめてしきって
いるので、今ひとつ心にくるものがなかった。.やはり詩
ま た やってみたいです。
︵三︶仲間の作品を見てどうであったか
終わりよければすべてよしとはうまくいったものだ。人
聖や詩仏と呼ばれる人はすごいバ漢文の道は奥が深い。
○難しそうに思われた律詩でも、みんなうまくまとめてい
て驚いた。そして、社会詩は大きなテーマをよく短い青
生は起承転結だ。漢文の中に人生を見ることができた。
生徒の漢詩集と表彰状授与
行った。古典Ⅰの四単位を受け持つ他の教科担任二名とは、進
きあがった。膨大な数町作品を打ち込む作業は冬休みの間に
最終的には四クラス一五入名、.作品数一七六編の漢詩集がで
八
葉でまとめられたなあと思う。最後に、漢字っておもし
ろ い なあと感じた。
○他の人の作品を見て、それぞれ工夫を凝らしていて、お
もしろかったです。特に、漫画や競馬などまでが題材と
なっているのに驚きました。また、作品を多数出してい
る人や、センスの良さを感じる人など尤は、発想の豊か
生徒の感想には、さまざまな思いがケづられている。漢詩の
たからだ。よいタイミングであった。
度面で不都合なことは起こらなかった。冬休みに入る直前の二
さ を うらやましく思いました 。
○尾材が似通っているのが多く、オリジナリティーがない。 時間と休み明けの二時間とで、それぞれ融通のきく時間であっ
もちろんその中には面白いアレンジをしているものもあ
る の だが。
−25一
本朝、軋
鴇箪舶用
︶丁人匹り年す軋
−サ鼻 緒 嶋 ド 尊 と
碕馬
1して“て2の
婚巌と為さ埼ネタ
祇P 生 七 ヰ 惧 J 下 し
書蒜怒皇軍芋
ル箪笥
ヰ札十−†三月ヰエ盲
一
通解碑・聖二†■ 三
ナ
l
を
微妙なバランスに言及するもの、そこから詩人への敬意を述べ
るもの、そして、漢詩の素晴らしさを発見するもの。まるで生
徒と漢詩との本当の出会いが目の当たりにできたような思いに
とらわれた。特筆すべきは、この活動によって、自己の感懐を
盛ることができたとするものがずいぶん多かったことである。
漢詩創作のように、一見難しく思えるような形式であっても、
生徒は自己の思いを表白する手段にしてしまう。彼らの柔軟な
頭に舌を巻くばかりであった。
生徒から集めた投票用耗によって、優秀作品一〇点を決めた。
そのいくつかを掲載、生徒作品の詩題に☆印を付した。生徒の
人気は、教員を題材としたものに集まったようだったが、全体
としては固まることなく、万遍なくばらけた印象を持つ。
の
て賞状に貼りつけ、私が筆で書いただけのものだった。生徒は
た。小学二年の娘が措いたサンマの絵をカラーコピーで印刷し
優秀作一〇点には表彰式を催して、手作りの表彰状を授与し
マ
娘の清音をことあるたびに話題にする私の授業に慣れているた
絵
ン
めか、﹁サーヤの絵だ、サーヤのサンマの絵だ﹂と言ってずい
さやね
サ
ぶん喜んでくれていた。ふだんから小テストの満点者に、娘の
︵プリクラのスタンプ版︶を押して喜ばれている
の
顔のスタクラ
﹁実績づくり﹂が功を奏してか、表彰状を手にして得意満面の
姿を見るとつくづくよかったと思った。お金で買うことができ
ないものの方が価値があると私は考えている。
ともあれ、今回の実践の評価は、生徒の漢詩作品集を通読し
た際の私のコメントに加えて、表彰式での講評やねぎらい、表
−26−
た 表彰状
娘
おわりに
彰 状 授 与 と して行った。
九
これらの未熟ではあるがきらりと輝く生徒作品は、高校生の
漢字とのかかわりの可能性、ひいては教室における漢文の可能
性を示してはいないだろうか。生徒の身近なところから表現活
動を用いて漢文へのアプローチを試みる。この方法はもっと研
究されてよい。各々の学校の実情に合ったかたちで、表現活動
を用いて教室を活性化させることが大切と考える。
今回の実践は、私が昨年度まで勤務していた北海道札幌南高
校で平成九年冬に行ったものである。実践の具体化にあたって
は、山本勇先生による北海道岩見沢兼高校での先行実践を参考
にさせていただいた。記して深くお礼を述べたい。
︵注1︶江連隆﹃漢文教育の理論と実践﹄大修館書店
ー27−