活動報告(PDF形式、880kバイト)

発表 4
特定非営利活動法人 ピッキオ
http://npo.picchio.jp
助成テーマ
次世代ベアドッグ育成・普及プロジェクト(平成 27 年度助成)
プロフィール
ピッキオでは、「森本来の姿を経済的な価値として高く評価することができれば、未来に森を
残していける」という理念のもと、「知る(調査)」、「守る(保護管理)」、「伝える」を三本柱に据
えて、公益性の高い活動を行ってきました。さらに、「知る」、「守る」事業の透明性をさらに高
め、より多くの方々と活動展開することを目指し、特定非営利活動法人格を取得しました。「Wild
Bears for the Future」を標語に掲げ、生態系の保全をする活動、野生動植物の保護管理およ
び調査研究に関わる活動を通じて、地域住民に対して持続可能な社会を提供し、また子供達から
成人までを対象として普及・啓発を行い、持続可能な社会づくりに取り組んでいます。
■□■助成事業報告■□■
活動の背景
世界中に生息するクマが人口増加などに伴う生息地減少や乱獲で、その生息数を減少させている。
日本でも絶滅の恐れのある個体群がある一方、狭い国土ゆえにクマの生息地と人の生活域が近接・重
複し、両者間の軋轢が急増している。近年は山間部での過疎化に加え、里山崩壊などを理由に、クマ
の里周辺の山林への定着が進み、山間部の集落はもちろん、市街地でもクマの出没が相次いでいる。
さらに国立公園や鳥獣保護区といった自然保護の核心部でも利用者と人馴れ化したクマとの軋轢が発
生しており、社会問題化している。
いざクマが集落付近に出没すると、人身事故や農作物被害の予防という名目で、捕殺されるケース
が多い。しかし本来クマのように繁殖力の低い野生動物は、個体群の動向を把握しながら、できるだ
け駆除に頼らない(非致死的な)方策を実施することが重要である。また、都市部では銃を用いた対
応ができない状況も多い。
弊団体の拠点がある長野県軽井沢町は浅間山南麓に広がり、年間 700 万人もの人々が訪れる国際保
健休養地である。一方、その大半が広大な森林に包まれ、多くの野生動物の生息に適した環境でもある。
この両者の接近した位置関係はまさに日本の縮図と言ってよく、私たちはこれまでクマの個体群の動
向を把握しつつ、クマとの共存を目指した総合的な取り組みを行い、その中でベアドッグ(クマ対策
特殊犬)の導入に尽力してきた。
ベアドッグはクマの匂いの察知や追い払いを行うための特別な訓練を受けた犬で、その育成プログ
ラムは米国にある Wind River Bear Institute(以下、WRBI)という NGO で開発された。WRBI の育成
したベアドッグは米国では政府の認可を受けたサービスドッグ(職業犬)として、主に国立公園を中
心に活躍している。
弊団体は 2004 年にアジアで初めてベアドッグを導入し、軽井沢町でのクマの目撃件数を大幅に減
少させてきた。また、ベアドッグの利口さと愛嬌のある容姿は多くの人々の関心を引き、普段クマに
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関心のない方や地域の子供たちの保護管理への理解を増すなど、人とクマとの「共存のシンボル」と
しても貢献した。しかし、2013 年 4 月、これまで 1 頭で活動してきた初代ベアドッグが急性骨髄性疾
患で急死。その後、ベアドッグ不在の状況が続いており、次世代のベアドッグの導入と育成が急務と
なっていた。
活動の目的
初代ベアドッグの亡き後、「次世代ベアドッグ導入プロジェクト」を立ち上げ、多くの市民や企業
からの支援を受けて、ようやく 2015 年秋にベアドッグの子犬を来日させる目処がたった。そこで、
次節として「次世代ベアドッグ育成・普及プロジェクト」を立ち上げ、これまでのベアドッグの育成
実践活動の実績を活かして、不慮の事態でも対応できるベアドッグ体制の強化、及び軽井沢以外の地
域へのベアドッグの普及を目指していく。
活動の概要
今回の活動では、その中の「他地域へのベアドッグの普及」に注力していく。その候補地として、近年、
ヒグマの市街地への出没が社会問題化している北海道の札幌市を挙げ、まずはベアドッグの生みの親
である WRBI 代表 Carrie L. Hunt 女史を招聘し、軋轢現場の視察や関係者とのワークショップを実施し、
ベアドッグ導入の可能性を模索する。
活動の実績
200 万人都市の札幌、実は意外にも市の西側を中心として、ヒグマの生息地と隣接しており、近年、
出没が多発している。一方、市民やメディアの中には駆除一辺倒の対応に疑問視している方も多く、
今後の市の総合対策、及びベアドッグの活躍に期待が高まっている。
そこで、2015 年 10 月 14、15 日に、クマ軋轢問題の専門家で、ベアドッグの育成プログラムの生み
の親、クマ生態学者でもある WRBI 代表 Carrie L. Hunt 氏を招聘し、北海道札幌市のヒグマ軋轢現場
の視察、及び今後の札幌市でのベアドッグも含めたヒグマ総合対策のあり方を検討するための意見交
換会を行った。
参加者はキャリー氏及び弊団体スタッフ(Picchio:2 名)の他、北海道や札幌市のヒグマ対策に関
わる行政担当者(札幌市役所:2 名、北海道庁:1 名)、研究者(道立総合研究機構:3 名、酪農学園大学:
2 名)、同市でヒグマ対応を実施している NPO 団体(Envision 環境保全事務所:5 名)、知床国立公園
でヒグマ対策に従事している担当者(財団法人知床財団:2 名)、大学生(酪農学園大学:11 名)など、
総勢 28 名となった。
現場視察の前日(10 月 14 日)には、同市でヒグマ対策に従事する Envision 環境保全事務所の職員
から札幌市における近年のヒグマ出没状況が報告された。また、現地視察終了後の意見交換会では、
キャリー氏とより有益な意見交換会を行うため、弊団体の田中純平から「北米、及び軽井沢における
ベアドッグによるクマ対策」について発表すると共に、道立総合研究機構の間野勉研究員から「札幌
市及びその周辺地域におけるヒグマ分布と変遷」、また酪農学園大学の佐藤喜和教授から「札幌市に
おけるヒグマ総合対策と今後」についてのご講演を頂いた。また意見交換会終了後には、キャリー氏
や参加者からでた意見を集約し、将来の札幌市のヒグマ対策におけるベアドッグの導入に向けた戦略
や目標を関係者間で組み立てることができた。
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活動の写真
写真 1. 札幌市は奥山から一気に 200 万人都市になる。
写真 2. 現場視察前の関係者間でのクマ出没状況の共有。
写真 3. 関係者での軋轢現場の視察の風景 〜その 1 〜
写真 4. 関係者での軋轢現場の視察の風景 〜その 2 〜
写真 5. 関係者間での意見交換会の様子
写真 6. 意見交換終了後の関係者での集合写真
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