国土交通省発注の営繕関係工事の入札結果に関する考察(平成26年度) 参 事 森本 文忠 1 調査の概要 本研究は、国土交通省のホームページで公表された同省の地方整備局等が発注した工事の入 札結果から、官庁営繕関係の入札結果を抽出し分析したものである。分析は平成20~26年度に 契約された工事を対象として行った。 2 調査対象データの概要 1)年度別・工種別の件数 年度別・工種別の工事件数は図1に示すとおり である。 工事件数の合計数は減少傾向を示しており、平 成 26 年 度 は 240 件 で 、 平 成 20 年 度 の 527 件 の 約 45.5%になっている。 工種別の工事件数も、概ね減少傾向を示してい る。 図1 年度別・工種別の工事件数 2)工事予定価格の合計額 年度別・工種別の工事予定価格の合計額は図2 に示すとおりである。 年度別の合計額は、平成20年度899億円であっ たものが平成24年度には371億円まで減少したが、 平成26年度は605億円まで増加した。なお、平成23 年度は東日本大震災の災害復旧関係の工事のた め対前年度比1.71倍になっている。 年度別の合計額に対する工種別の合計額の割 合は、建築工事は54.6~65.3%、暖冷房衛生設備 図2 年度別・工種別の工事予定価格の合計額 工事は12.7~19.1%、電気設備工事は15.1~19.5%であった。 3)入札方式別の件数 年度別・入札方式別の工事件数の構成比は図3 に示すとおりである。 一般競争入札(WTO 型・拡大型)の構成比は平 成20年(86.9%)から平成22年度(95.7%)までは増 加 の傾 向 を 示 したが、平 成 23 年 度 以 降 は 88.1 ~ 91.9%の範囲で推移している。一般競争入札で公 募をしたものの応 札する者がなかったために指 名 40 図3 年度別・入札方式別の構成比率 競争入札または工事希望型競争入札に入札方式を変更した結果ではないかと想定される。 4)建築工事の規模(予定価格)別の件数 建築工事の工事規模(予定価格)別の工事件数 を図4に示す。 規模別では、平成26年度は0.6~3億円以外で 平成20年度以降で最も少ない件数であった。 また、WTO 対象の工事件数も6件で平成20年度 以降では最少であった。 合計件数も平成20年度以降では最少であった。 図4 建築工事の規模別件数 5)設備工事の規模(予定価格)別の件数 暖冷房衛生設備工事と電気設備工事の件数の 合計を図5に示す。(電気 設備工事と暖冷房衛生 設備工事を合わせたものを設備工事とする。) 規模別では、平成26年度は2億円以上を除き平 成20年度以降で最も少ない件数であった。 また、WTO 対象の工事件数は暖冷房・電気工 事各3件であった。 合計件数も平成20年度以降では最少であった。 図5 設備工事の規模別件数 3 工事1件あたりの入札参加者数 1)年度別 年度別の工事1件あたりの平均入札参加者数を 図6に示す。 平成20年度から平成23年度は増加の傾向を示 していたが、平成24年度以降は大幅な減少の傾向 を示し、平成25年度から平成26年度は微減であっ 図6 年度別入札参加者数 た。一般土木の平均値は平成25年度は4.92者/件、 平成26年度は5.74者/件で、営繕関係の入札参加 者数とは大きな差が見られる。 2)地域別 地域別の工事1件あたりの平均入札参加者数を 示したものが図7である。平成20~24年度は平均値 を示している。 平成26年度の全国の平均値は2.70者/件であった。 平成25年度の本省を除き、平成25・26年度は平成 41 図7 地域別・年度別入札参加者数 20~24年度の平均値以下であった。平成25・26年度を比較すると、中国、本省ではそれぞれ1.39 者/件、0.57者/件の減少、九州では0.79者/件の増加が見られたが、その他地域では±0.5者/件 以内の増減であった。 3)入札方式別 工事1件あたりの平均入札参加者数を入札方式 別に示したものが図8である。 一般競争入札 WTO 型は平成22年度には14.5 者/件であったものが平成26年度には4.7者/件 ま で減少している。一般競争入札拡大型も平成22年 度の4.5者/件が平成 26年度 には2.4者/件まで減 少している。指名競争入札も概ね減少の傾向を示 図8 入札方式別入札参加者数 している。 4)工種別 工事1件あたりの平均入札参加者数を工種別に 示したものが図9である。 建築工事は平成22年度の5.7者/件が平成26年 度には2.6者/件まで減少している。電気設備工事 は平成22年度の4.7者/件が平成25年度には2.6者 /件まで減少 したが、平成 26年度には3.4者/件に 増加した。暖冷房衛生設備工事は平成23年度の 4.87者/件が平成26年度の3.0ま者/件まで減少し 図9 工種別入札参加者数 ている。 5)入札参加者数別の工事件数の構成比 入札参加者数別の工事件数の構成比を年度別 に示したのが図10である。 1者のみの比 率は平 成 22年 度の15%が平 成25 年度には35%まで増加していたが、平成26年度に は29%に減少した。2~3者の比率は平成20年度の 30%が平成26年度の47%まで増加の傾向が続い ている。平成26年度に入札参加者数が最も多かっ た工事は「石川県警察学校(13)体育館照明設備更 図10 入札参加者数別の工事件数構成比 新工事」で、一般競争入札が指名競争入札(通常指名)に変更されたものの24者が入札に参加した。 4 辞退・不参加・無効の者数 一般競争入札方式(WTO 対象、拡大型、簡易型)の入札について、入札参加者数、無効の者 42 数、及び辞退・不参加・指名取消になった者の合 計数の年度別の構成比を示したのが図11である。 入札参加者の構成比は、平成20年度の84.1% が平成26年度には68.2%になるなど減少傾向を示 している。無効の者数は平成22年度の17.5%が最 も高く、平成24年度には10.3%まで減少したが、平 成26年度には12.5%まで微増した。辞退・不参加 の者の構成比は、平成22年度には9.6%であったも のが平成26年度には19.4%まで急増している。 図11 辞退・不参加・無効等の構成比 (一般競争入札 WTO 対象、拡大型、簡易型) 指名競争入札方式(通常指名、工事希望型、公 募型)の入札について、入札参加者数、無効の者 数、辞退・不参加になった者数の年度別の構成比 を示したのが図12である。 入 札 に 参 加 し た 者 の 構 成 比 は 平 成 20 年 度 の 69.0%が平成26年度の15.9%まで減少している。 無 効 の者 数 は平 成21年 度 の7.4%が最も高く、平 成26年度は2.2%であった。辞退・不参加の者の構 成 比 は 平 成 20 年 度 の 29.5 % が 平 成 26 年 度 の 81.9%まで急増している。 図12 辞退・不参加・無効等の構成比 (通常指名、工事希望型、公募型) 指名競争入札の工事は、一般競争入札で公示 したものの応募するものがないため指名競争入札が適用になったものが多いと想定されるが、その ような場合の業者選定の方法として適切な方法の検討が必要であると思われる。入札結果からみ て指名競争入札の場合、工事場所と同一県内の工事規模のランクに応じた業者をすべて指名し ている場合もあるようだが、地域性を考慮した指名の方法も考えられるのではないだろうか。 5 入札率(年度別) 1)建築工事 ①全工事 建築工事の入札率の年度別の平均値・中央値 を図13に示す。 入札率の平均値は平成21年度の0.96が最も小 さく、平成24年度には1.04になり、その後は大きな 変化が見られない。 ②工事規模別 建築工事の入札率の工事規模別・年度別の平 図13 建築工事の年度別入札率 均値を図14に示す。 43 7.2億円以上の工事では平成20年度から平成25年度まで概ね上昇の傾向が見られたが、平成 26年度は前年度に比較し約5%低下した。 3~7.2億円の工事では平成20年度から平成24 年 度 まで上 昇 の傾 向 が見 られたが平 成 25年 度 に 約3%低下し、平成26年度には大きな変化は見ら れない。 0.6~3億円の工事では平成21年度から平成23 年度まで上昇の傾向が見られたが、その後は大き な変化は見られない。 0.6億円以下の工事では平成21から24年度まで 図14 建築工事の規模・年度別入札率 上昇が見られたが、その後は大きな変化は見られない。 ③年度別構成比 平成20・22・24・26年度の入札率の構成比を図 15に示す。[本図では横軸の値が1.00の場合、0.99 ≦(入札率)<1.01の範囲の構成比を示している。 また、平成21・23・25年度の構成比の表示は省略し ている。(以下同じ)] 年 度ごとの入 札 率について一 元 配 置の分 散 分 析と多重比較により年度別の差の検定を行った。 図15 建築工事の年度別入札率構成比 分散分析の結果、年度による差は有意であった (F(6,6,093)=25.003,p<0.05 )。その後の多重 比較では、平成20・21年度、平成20・22・23年度、 平成23・25・26年度及び平成24~26年度の4グル ープの間に有意な差が見られた。 ④工事規模別構成比 工事規模別の入札率の構成比を図16に示す。 一元配置の分散分析の結果、工事規模による差 図16 建築工事の規模別入札率構成比 は 有 意 で あ っ た ( F ( 3 , 6,096 ) = 132.498 , p < 0.05 )。その後の多重比較では、7.2億円以上と3 ~7.2億円には有意な差がなく、その他のグループ の間には有意な差があった。 2)設備工事 ①全工事 設備工事の入札率の年度別の平均値・中央値 を図17に示す。 図17 設備工事の年度別入札率 44 入札率の平均値は平成22年度の0.98が最も小さく、平成26年度の1.03まで上昇の傾向を示し ている。 ②工事規模別 設備工事の入札率の工事規模別・年度別の平 均値を図18に示す。 2億円以上の工事では平成20年度から平成26年 度まで上昇の傾向が見られた。0.5~2億円の工事 では平成22年度以後上昇の傾向が見られた。0.5 億円以下の工事では平成22年度を除く各年度の 間に有意な差はなかった。 図18 設備工事の規模・年度別入札率 ③年度別構成比 平成20・22・24・26年度の入札率の構成比を図 19に示す。分散分析の結果、年度による差は有意 であった(F(6,4,056)=5.248,p<0.05 )。その後 の多重比較 では、平成20~23年度、平成20・21・ 23~25年度、平成20・23~26年度の3グループの 間に有意な差があった 図19 設備工事の年度別入札率構成比 ④工事規模別構成比 工事規模別の入札率の構成比を図20に示す。 一元配置の分散分析の結果、工事規模による差 は有意であった(F(2,4,060)=70.637,p<0 .05 )。その後の多重比 較では、各工事規模の グループの間に有意な差があった。 6 落札率(年度別) 図20 設備工事の規模別入札率構成比 1)建築工事 ①全工事 建築工事の落札率の年度別の平均値・標準偏 差を図21に示す。 落札率の平均値は平成21年度の0.88が最も小 さく、平成26年度の0.94まで概ね上昇の傾向が見 られる。標準偏差は平成24年度まで小さくなる傾向 を示したが、平成24年度以降は大きな変化は見ら れない。 図21 建築工事の年度別落札率 45 ②工事規模別 建築工事の落札率の工事規模別・年度別の平 均値を図22に示す。 7.2億円以上の工事の平均値はデータ数が少な いこともあるため、年度別に有意な差があるとは言 えなかった。その他の工事規模では、平成21年度 以降落札率が高くなっている傾向が見える。 図22 建築工事の規模・年度別落札率 ③年度別構成比 平成20・22・24・26年度の落札率の構成比を図 23に示す。 同図に示されるようなデータの分布のため、ノン パラメトリック手法による検定(クラスカル・ウォリスの 検定(以下、KW 検定という))と多重比較を行った。 KW 検定の結果、年度による差は有意であった (χ 2 (6,N=1,327)=139.221,p<0.05)。その後の 検定では、平成20~22年度、平成23~25年度、平成 24~26年度の3グループの間に有意な差があった。 図23 建築工事の年度別落札率構成比 ④工事規模別構成比 平成20年度 から平成26年度の全データについ て、工事規模別の落札率の構成比を図24に示す。 KW 検定の結果、工事規模による差はないという 帰 無 仮 説 は 棄 却 されな かった( χ 2 ( 3 ,N=1,327) =2.016,p=0.569>0.05)。 2)設備工事 図24 建築工事の工事規模別落札率構成比 ①全工事 設備工事の落札率の年度別の平均値・標準偏 差を図25に示す。 落札率の平均値は平成21年度の0.89が最も小 さく、平成25年度の0.94まで概ね上昇の傾向が見 られ、平成26年度は前年度を若干下回っている。 標準偏差は平成20年度から平成26年度まで小さく なる傾向を示している。 図25 設備工事の年度別落札率 ②工事規模別 平成20年度から平成26年度の全データについて、工事規模別の落札率の構成比を図26に示す。 46 2億円以上の工事では平成22年度が最も低く、 平 成25年 度 が最も高いが、平 成22年 度 以 外では 大きな差は見られない。2億円未満 の工事では平 成25年度が最も高く、平成26年度は前年度を若干 下回っている。 ③年度別構成比 平成20・22・24・26年度の落札率の構成比を図 27に示す。 図26 設備工事の規模・年度別落札率 KW 検定の結果、年度による差は有意であった (χ2(6,N=1,027)=42.727,p<0.05)。その後の検 定では、平成20~24年度、平成24・26年度、平成 25・26年度の3グループの間に有意な差があった。 ④工事規模別構成比 工事規模別の入札率の構成比を図28に示す。 KW 検定の結果、工事規模による差は有意であ った(χ 2 (2,N=1,027)=9.713,p=0.008<0.05)。 図27 設備工事の年度別落札率構成比 その後の検定では、0.5~2億円と2億円以上、0.5 億円未 満と2億円以 上の2グループの間に有意な 差があった。 7 換算評価点 換算評価点とは、各工事における評価点の最高 得点の整数第一位以下を切り上げた値を評価点の 図28 設備工事の工事規模別落札率構成比 満点と想定し、 換算評価点=入札者の評価点÷評価点満点(想定値)×100 として算出した値である。 換算評価点の分析は工事工事予定価格の金額を、3億円以上、0.6~3億円、0.6億円未満に 区分して行った。 ①3億円以上 換算評価点の年度別の平均値・中央値・標準 偏差を図29に、年度別の構成比を図30に示す。 平均値は平成21年度の87.0から平成25年度 の93.5まで上昇したが平成26年度はやや低くな った。しかし、平成25・26年度の中央値を比較す るとほとんど差はない。標準偏差は平成20年度 47 図29 換算評価点の年度別平均値(3億円以上) から平成24年度まで小さくなる傾向を示しており、 入札参加者の点のバラツキが小さくなっていたが、 平成25・26年度はやや上昇した。 KW 検定の結果、年度による差は有意であった (χ 2 (6,N=1,862)=81.591,p<0.05)。その後の 検定では、平成20~22年度、平成20・23年度、平 成24年度、平成25・26年度の4グループの間に有 意な差があった。 図30 換算評価点の年度別構成比(3億円以上) ②0.6~3億円 換算評価点の年度別の平均値・中央値・標準偏 差を図31に、年度別の構成比を図32に示す。 平均値は平成22年度の90.4から平成25年度の 94.6まで上昇し、平成26年度はほぼ横ばいの値と なった。標準偏差は平成21年度から平成25年度ま で小さくなる傾向を示しており、入札参加者の点の バラツキが小さくなっている。 KW 検定の結果、年度による差は有意であった 図31 換算評価点の年度別平均値(0.6~3億円) (χ 2 (6,N=2,489)=50.059,p<0.05)。その後の 検定では、平成20~24年度、平成25・26年度の2グ ループの間に有意な差があった。 ③0.6億円未満 換算評価点の年度別の平均値・中央値・標準偏 差を図33に、年度別の構成比を図34に示す。 平均値・中央値には大きな変化がない。標準偏 差は平成22年度から小さくなる傾向を示している。 KW 検定の結果、年度による差はないという帰無 図32 換算評価点の年度別構成比(0.6~3億円) 仮説は棄却されなかった(χ 2(6,N=1,992)=12.508,p=0.052>0.05)。 図33 換算評価点の年度別平均値(0.6億円未満) 図34 換算評価点の年度別構成比(0.6億円未満) 48 8 逆転入札件数・構成比 入札者の中で最低価格以外の者が落札者と なった入札を逆転入札という。年度別の逆転入 札の件数と比率を図35に、工事規模別の構成比 を図36に示す。 逆転入札の比率は平成22年度には32%を占 めていたが平成26年度には14%まで減少した。 また、工事規模が大きいほど技術評価の配点が 高く、評価点の得点の高い者が価格の低い者よ り落札者となることが多いため、逆転の比率が高 図35 逆転入札の件数・構成比 くなると考えられる。 9 低入札と低入札工事の発生率(年度別) 入 札において調 査基 準 価 格を下 回 る入札 を 「低入札」、低入札の者が落札者となった工事を 「低入札工事」とする。なお、今年度の報告から 調査基準価格がない工事は対象外としている。 辞退・無効・不参加を除く全ての入札者数に 対する低入 札 者の比率 、及び全ての工 事 件 数 図36 工事規模別の逆転入札の構成比 に対する低入札工事の件数の比率を年度別に 示したものが図37である。 低入札及び低入札工事の比率は平成20年度にはそれぞれ13.2%・13.8%を占めていたが、平 成24年度には2.4%・3.0%まで減少の傾向を示していたが、その後増加の傾向を示し、平成26年 度には5.1%・6.4%となっていた。 図38に低入札工事における落札率と調査基準価格率の差の平均値を年度別に示す。平成20 年度から平成24年度までは-9%前後を示していた値が平成25年度以降は-5%を上回っている。 図38 低入札工事の落札率と調査基準価格率の差 図37 低入札・低入札工事の比率 49
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