農地面遮蔽による土壌侵食抑制について

島根大農研報(Bu11Fac Agr Shmane Un1v)15:82−85.1981
農地面遮蔽による土壌侵食抑制について
一傾斜農地の侵食に関する研究(皿)一
栄
今 尾 昭 夫
Ak1o IMA0
0n Contro111ng S011Eros1on w1th Protectlve Co∀er on the
S011−Surface of Farm1and一
一Stud.1es on S011Er010n of S1oped Farm1and一(III)一
傾斜農地の土壌侵食抑制については,経験的に営農手
1、ま え が き
傾斜農地の降雨による土壌侵食とは,雨滴の衝撃によ
る土壌の飛散から始まり,土の浸透能以上の降雨が,煩
3)
段の一部として,いくつかの方法が行なわれているが,
その1つに農地面の遮蔽による方法がある.
斜面の下流へ流去するとき,土の移動を伴って肥沃土が
降雨による土壌侵食の初期形態は,おもに雨滴の土壌
流亡する現象を指す.従って,降雨や土の性質,地形(
表面への衝撃に起因する土壌の飛散であることから,こ
農地の形態),および農地の管理状況などがこれに関連
の衝撃を軽滅する方法として,マルヂング,あるいは,
し,その要因は多様性を持っている.土壌侵食の研究
農地面に生育する作物の遮蔽効果がある.本研究は作物
は,要因の多様性に対し,すべてを包含した形での論議
による土壌面被覆の程度(遼蔽率=ソヤヘイ率)と侵食
は困難であり,多少の問題は残るとしても,各要因と土
量にっいて,モデル化した作物被覆物を用い,室内降雨
壌侵食との関係を個々に検討して,その結果を総合する
装置によって検討を行なったものである.
方式を採用するのが一般的である.
2。実 験 方 法
土壌侵食研究の先進国であるU.S.A.においても,
侵食に関連する要因を,それぞれ個別的に検討して,そ
1),2)
れらを総合した形で土壌侵食量の予測をを行なっている
が,実用面において,ほぼその手法が確立されている.
実験は,土を充填し傾斜を与えた土槽に,作物をモデ
ル化した小片を土壌面に保持させ,その表面に模擬降雨
を降らせる方式を採用した.
我が国においては,研究の歴史も浅く,いまだ基礎的
2.1実験装置
な研究が進められているに過ぎないが,農地拡大による
農業経営の近代化を目的として開発されている中山間部
降雨は降雨強度,分布などを検定した噴霧型スクリー
4)
ノ方式の模擬降雨装置により与え,土は木枠(幅45cm
の農地造成における計画,設計,および施工に,この研
長さ121cm 深さ10cm)内に充てんし,それを可煩
究の進展が望まれている.
式台車上に設置した。作物のモデルは,2.5cm角のべ
4)
表一1供試土の物理的性質等
突固め
責比重 液性限界 塑性限界 最 適
含水比
%
%
2.65
30.5
N P
%
14.2
粒 度
粒径区分
mm
重量百分率%
レ キ
2.O以上
8.9
試 験
粗砂
細 砂
シルト
2.O∼
O.47∼
o6衡o・齢
O.47
46.3
*農地工学研究室
一82一
O.074
分散率
侵食率
90.3
290.3
粘 土
路・・1・…1…
今尾昭夫:農地面遮蔽による土壌侵食抑制について
ニヤ板に長さ10cm,直径O.2cmの支持棒をとりつ
一83一
圃場面と法面を想定して緩こう配,急こう配の場合を取
け,これを木枠内の土壌面に差込むようにした.降雨に
り上げた.両者の関係は直線関係を示し,シャヘイ率の
より土壌面より流出する水,および土(侵食土)は,台
増加によって,土壌侵食量が直線的に減少することが明
車下端に設けたホッパーを通してポリ容器(2004)に収
らかになった.そして,降雨強度15mm/mmの場合,
容した。
傾斜度が200程度まで,シャヘイ率30%で流出土量がほ
2.2試料土
実験に用いた試料土は,松江市近郊の花崩岩風化土(
ぽ%に減少し,シャヘイの効果が大きいことを示してい
る.
マサ土)で,その物理的諸性質,および粒度試験結果を
5)
これは,牧草による作物被覆で得られた結果より,安
表一1に示した.なお,団粒分析,および透水試験によ
全側の値を示しているが,シャヘイ率の表現において,
れば,土の構造は単粒構造を示し,透水係数は5.05×
より明確である.一般に,土壌面遮蔽による土壌侵食抑
10・2cm/secである.また,土の採取現場の状況,およ
制効果は,マルヂングなどの方法によって,経験的に知
び侵食率から受食性の強い土であるといえる.
23供試体の作製
られているが,その効果が,シャヘイ率と直線関係にあ
ることを量的に把握できたものと考えられる.
試料土は,328mmのフルイで調整し,最大乾燥密
度を示す最適含水比(表一1参照)に近い状態にした土
を,三層に分けて,一定の方法で突き固めて木枠に充填
し,厚さ9Cmの土層が作製されるよう整形した.
作物のモデルは,土の表面からO.5cmの空間を有す
15
流
出
土
量
㊥ ⑧
傾斜度
曾 30◎
αφ
10
るよう支持棒によって土壌表面に保持させ,平面的にシ
ャヘイ率が,O,5,10,15,30,50%となるよう格子
◎
状に並列させた.
◎
5 ⑬O
24 降雨強度と傾斜度
降雨強度は,降雨分布の均等性を考慮し,15mm/
m1n,25mm/mmの2種とし,降雨時間は60分間与え
20。◎
⑬
12.
㊧
ることにした.
土槽の傾斜度は4o,8。,12◎,16。,20。,25◎,30◎
4。
0 10 20 30 40 50
シヤヘイ率㈱
の7種とし,圃場面から法面までの勾配を想定した.
図一1 流出土量とシャヘイ率の関係
(降雨強度15mmlm1n)
以上で述べたソヤヘイ率,降雨強度,および傾斜度の
それぞれの場合について,実験を行ない,降雨によって
流出する水量,および土量(侵食土量)を測定した.な
お,流出土量は,ポリ容器内に流出した土を採取し,そ
の絶乾重量を計測した.
3.実験結果と考察
本実験は,農地表面を遮蔽することによる土壌侵食抑
制効果を追求することに主眼をおいているから,結果的
30
傾斜度
30。㊧
流
出
土
量
㈹)
20
◎
◎
0o
には,侵食初期の雨滴侵食に対しての効果を検討するこ
とになると考える.従って,シャヘイ率と土壌侵食量の
関係を実験的に確かめるとともに,遼蔽による雨滴エネ
.ルギーの軽減効果について考察することにした.
10
⑯ ⑮
31シャヘイ率と土壌侵食量
80
土壌侵食量は,それぞれ所定の降雨強度,傾斜度,お
8
よびシャヘイ率に設定された場合の土槽枠外に流出した
土の絶乾重量である.2種の降雨強度に対する流出土量
とシャヘイ率の関係を,傾斜度をパラメータとして,図
一1,2に示した.なお,この図において,煩斜度は,
0 10 20 30 40 50
シヤヘイ率㈱
図一2 流出土量とシャヘイ率の関係
(降雨強度25mm/mm)
一84一
島根大学農学部研究報告
第15号
つぎに,この遮蔽が,土壌侵食にどのようにかかわり
60
を持つかを検討するため,流出土量を流出水量で除した
濃度,すなわち,単位流出水量に対する流出土量に換算
して考察した.図一3は,算出された濃度とシャヘイ率
の関係を傾斜度4◎,20◎,30◎,降雨強度15mm/mm,
⑱
⑬ ω降雨強度m/mm
N
濃 50
度
2.5
傾斜度
(x10・29/
30。⑧
⑮
Φ
25m㎜/mmの場合について示したものである.両者は
40
直線関係を示し,シャヘイ率の増加に対して,濃度の減
Φ
121
Φ 1.5
少を表している.ここで,濃度をW,シャヘイ率をC
Φ Φ
とした直線回帰式を,図申の番号に従って求めれば下記
30。
⑧
2.5
Φ
30
O。
のようになる.
傾斜度 降雨強度
mm/min
(1) 1V=一〇.2470+53,828 ブ=O.887**・・・… 30◎ 2.5
◎
◎
◎141
(2) 1V=一〇.145C+39,228 ブ=O.840**・・… 30o 1.5
20。 ◎
(5) !V=一〇.1040+ 8,062ブ=0,749へ・・… 4◎ 2.5
(6) 1V=一〇.079C+5,524ブ=O.882**・・… 4◎ 1.5
1・ 4。⑬’
C:シヤヘイ率㈱
考えられ,全体的には降雨強度,傾斜度の増加に対して
図一3 濃度とシャヘイ率の関係
遼蔽の効果割合は多少大きく現われているもののその差
は顕著でない.このことは,遼蔽の効果が,土壌侵食に対
1500
傾斜絆
して同じような遠蔽の効果割合を表わすことを示してい
がら降雨強度,傾斜度の差によって生ずることがわかる.
2.5
01020304050
この直線式のこう配は,遮蔽の効果割合を示すものと
3.2 シャヘイ率と雨滴エネルギー
6)
白然降雨の雨滴エネルギーは,三原の方法などによっ
◎
51
16
㊥
㊧
(4) ムr=一0,118C+17,267ブ=0,652 ・・20◎ 1.5
る。従って,土壌侵食量の差は,遼蔽によって抑制されな
1.5
◎
(3) W:一〇.0950+32,255ブ=O.920**・・… 20◎ 2.5
4
雨
滴
2σ
30
エ
ネ
ノレ
ギユ000
降雨強度m/min
2.5
\こ4
、\2工こ\
(J)
30’、ミぐ、、、
て求められるが,ここでば,模擬降雨の雨滴が,終速度
に達していないためつぎのような計算手法を用いて求め
、、、、、1.5
た.まず,降雨の発生面から,土槽の中点までの距離を
50
\、
求め,ルンゲ・クッタ・ギル法によって空気中を運動す
る小滴の衝突速度を算出し,平均雨滴径(実測)より雨
10 20 30 40 50
シヤヘイ率㈱
滴1ケの質量を換算して,それぞれ雨滴エネルギーを求
めた.一方,1分間降雨量と平均雨滴径より雨滴1ケの
図一4
シャヘイ率と雨滴エネルギーの関係
1500
降雨強度皿m/min
2.5 シヤヘイ率%
体積を算出し,60分間に降った雨滴の個数を求め,この
個数と雨滴1ケのエネルギーから土槽面に与える総雨滴
エネルギーを算出した.シャヘイ率別の雨滴エネルギー
爾
滴
は,この総雨滴エネルギーと遮蔽されていない面積の割
エ
合から求めた.図一4に傾斜度4o,200,30◎の場合につ
ノレ
いてシャヘイ率と雨滴エネルギーの関係を降雨強度別に
0
2.5
15
ネ
ギ1000
(J)
1.5
・・’}’・.’一一一一一一一一一一一..」....
示した.雨滴エネルギー算出過程から当然シャヘイ率の
一一一一老一一一一一一一一.....坦...
増加とともに雨滴エネルギーは減少するが,降雨強度に
30
よって大きく影響されることがわかる.また,図一5
に,傾斜度との関係を示したが,傾斜度の増加に対し
て,雨滴エネルギーの減少煩向はみられるもののその程
500
ユ.5
・一一一一一一一一一一一一一一一一一一.一一且L一
481215202530
度は小さい.従って,雨滴エネルギーが土壌面に与える
傾斜度(O)
影響は30◎程度までは,傾斜度によって大きく変ること
図一5 傾斜度と雨滴エネルギーの関係
今尾昭夫:農地面遼蔽による土壌侵食抑制について
一85一
はないと考えられる.
以上の検討から,農地面の遼蔽に
粘 土
度に大きく影響し,傾斜度に対して
は影響が小さいといえる.
33流出土の粒度組成
流出した土の粒度試験結果の1例
を図一6に示す.この図は,とくに
00=801604020
よって,雨滴エネルギーは,降雨強
100
紬 砂 粗 砂 レキ
0.074 0,42 2.O棚π
〆
供試土
加80
積
通
過
シ ル ト
0.005
1
圃場面(8◎)について,降雨強度の
大きい場合(25mm/㎜m)を示す.
!
〆
!
00・”流出土
〃
〃
〃
率60
㈱
1
〃
1
〃
1
〃
’
この図から,細粒部分より,むしろ
粗粒部分の流出がみられるが,この
傾向は他の場合にもみられ,裸地状
0.00ヱ
1)
態における流出土と異る点である.
0.01 ’ 0.i 工.0 3.28
粒径㎜
図一6 流出土と供試土の粒度比較
実験中の観察によれば,土の飛散部
分(細粒)が遼蔽物に附着し,下流への流出を抑制してい
たととが原因と考えられる.従って,マルチングの土壌
侵食に対する1つの抑制効果を示すものと考えられる。
される.
以上の点を明らかにしたが,本実験においては,作物
モデルを用いているため,実際の作物が栽培されている
農地との関連を明確に表現するまでには至っていない.
4、ま と め
今後,この点の検討が必要であると考える.なお,本研
農地面遼蔽による土壌侵食抑制効果について,作物モ
究は科研費の補助を受けたこと,および,学生諸君の助
デルを利用して実験的に検討したが,若干の実証的な所
力によることを付記して謝意を表する.
見が得られたと考えられる.その主な結果をまとめると
以下のようである.
1)シャヘイ率の増加とともに土壌侵食量は直線的に減
参 考 文 献
1 USDA:PREDICTING RAINFALL EROSION
少する.
LOSSES_Agu1detoconser∀at1onp1anmng
2)遼蔽による効果割合は,ほぼ等しい.
1978,1_58.
3)遮蔽による土壌侵食抑制効果は顕著であるが,侵食
量そのものは,降雨強度,煩斜度に影響される.
4)シャヘイ率によって土壌面に与える雨滴エネルギー
は,直線的に変化する.
5)雨滴エネルギーは,煩斜度30o程度では,ほとんど
変化しない.
6)農地面遮蔽によって流出土の細流部分の流出が抑制
2 今尾昭夫:農土学会中国四国支部講演会講演要旨,
第32回、1977,73−74.
3.今尾昭夫:島大農研報,13.1979,134−138.
4.今尾昭夫:島大農研報,12.1978,131−133.
5.今尾昭夫:農土学会大会瀧演会講演要旨集,珊78,
66−67.
6.三原義秋:農業気象,∀⑪皿15,N⑰.$,1950,6−8.
S胴㎜飯y
Th1s report1s exper1me皿ta1research on the s1tuat1on of s011eros1on to chang1ng cover rat1o
of the su㎡ace of s1oped−fam1and−mod.e1by crop mod−e1The farm1and=mod−e11s s011tank of
0.42m w1dth,121皿1ength and O.09m d−epth A used.s0111s the weather1ng gramte s011ca11ed一
‘‘MASA” The crop mod−e11s smal1wooden p1ece of2.5×25c皿true square,and−c0Yer
rat1o are got by arrangement m1att1ce_work on the su㎡ace of farm1and皿oae1.The farIn1and−
mode1on the s1oped tab1e ha∀mg seYera1c0Yer rat101s set und.er the ra1nfa11s1mu1ator.
The quant1ty of s011eros1on1s a vo1u血e of s011則nnmg out fro皿the farm.1a1nd皿ode1
The1皿am resu1ts are as fo11ows:
1)The quant1ty ofso11eros1on fro血co▽ered fam1and shows11neardecreasew1th mcrease
of cover rat1o 2)The effect1ve rate of co∀er1s near1y equ1va1ent,so the s011eros1on1s
affected.by ra1nfa11strength and.s1op degree of farm1and 3)The energy of ra1nfa11drops
g1y1ng on the su㎡ace of farmユand.are changed.by cover rat1o.4)The cover on the su丑ace
of farnユ1and contro1s the run−off of f1ne s011