Bog birch (Betula Populus

【派遣支援期間中の研究計画】図表を含めてもよいので、わかりやすく記述してください。2ページ以内で記述して下さい。
(1)研究目的・内容
①研究目的、研究方法、研究内容についてわかりやすく記述して下さい。
②どのような研究で、何を、どこまで明らかにしようとするのか記述して下さい。
①派遣支援期間中の研究目的、研究方法、研究内容
目的 現地で植生の光合成能力に代わる指標を直接計測することで、モデルにより逆推定された結果の確証
データをとる。
研究方法および研究内容
(1) 葉緑素の指標(SPAD 値)の取得
Sun/Shade モデルで算出された vcmax25_leaf は、植生が持つ葉緑素量と相関が高い。そこで、葉緑素と相関
が高い指標である SPAD 値を SPAD 計(SPAD-502, コニカミノルタ)で測定することで、モデルで得られた
vcmax25_leaf と比較・検討する。さらに、火災後の森林は利用できる窒素が多く存在しているといわれている。
利用できる窒素の違いは、植物の光合成に大きく影響を及ぼし、SPAD 値にも影響を与えると考えられる。
この点についても、火災後の林齢が異なる群落間で植生ごとの SPAD 値を比較することで、林齢の影響によ
る SPAD 値の違いを評価する。
SPAD 値の計測は、今までの解析対象のうちアラスカの永久凍
土が発達した成熟林(以下 UAF サイト)、アラスカの永久凍土がな
い成熟林(以下 Delta サイト)、アラスカの火災跡地 10 年目(PF サ
イト)を対象とする(図 3)。調査対象の植生は、成熟林、火災後の
森林に生育する針葉樹林である Black spruce (Picea mariana)、落葉
広葉樹林である Aspen (Populus tremuloides)、Bog birch (Betula
glandulosa) 、 下 層 植 生 の Lingonberry (Vaccinium vitis-idaea) 、
Common Labrador Tea (Ledum groenladicum)、 Common hair-cup
(Polytrichum commune)とする。
図 3 観測サイト
(2) 開放型チャンバー法を使用して、光飽和状態における植物の光合成速度を測る。さらに One-point method
(Kosugi et al, 2003)を用いることで、植物の最大カルボキシル化速度を推定する。
異なる植物間において、種が異なると vcmax25_leaf と SPAD 値の相関関係が異なる可能性がある。そこで、
Sun/Shade モデルで算出された vcmax25_leaf のさらなる精緻な検証に、実際に個葉の最大カルボキシル化速度
(vcmax25_leaf)の計測を行う。種ごとの vcmax25_leaf を測定することで、群落スケールの光合成に最も高く寄与する
植物を明らかにする。最大カルボキシル化速度は One-point method を用いて、以下の手順で得られる。
1.飽和光下(1200 μmol m-2 s-1)の際の植物の光合成速度(A)を測定する。
2.暗所における植生の暗呼吸速度の温度依存性を測定する。
3.以下の式に、1.、2.の結果で得られた値を使用することで、vcmax25_leaf を算出する。
𝐴 = 𝑉𝑐𝑚𝑎𝑥_𝑙𝑒𝑎𝑓
𝑝(𝐶𝑐 )
𝑝(𝑂)
𝑝(𝐶𝑐 ) + 𝐾𝑐 (1 + 𝐾 )
𝑜
Kc と Ko(Pa)はそれぞれ、CO2 と O2 のルビスコのミカエリスメンテン定数である。p(Cc)と p(O) (Pa)はそれ
ぞれカルボキシル化と酸素化が起こる場所での CO2 と O2 の分圧である。
One-point method を使用した vcmax25_leaf の観測は、UAF、Delta、PF サイトを対象とし、不確実性をなくす
ため植生ごとに 5 回行う。調査する植生は Black spruce (Picea mariana)、落葉広葉樹林である Aspen (Populus
tremuloides)、Bog birch (Betula glandulosa)、下層植生の Lingonberry (Vaccinium vitis-idaea)、Common Labrador Tea
(Ledum groenladicum)、Common hair-cup (Polytrichum commune)を対象に測定を行う。
② 研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか
これまでの Sun/Shade モデルで算
出された vcmax25_leaf と比較・検証でき
るデータを取得する。これまで得ら
れた vcmax25_leaf は、北方林における炭
素収支の精緻な動態の把握に重要な
生理学的パラメタである。今回予定
する観測で、モデルで算出された
vcmax25_leaf の信頼性を得ることがで
きると考える。信頼性を得た
vcmax25_leaf は、今後の北方林の炭素収
支のモデルを使った推定において、1
つの新しい正確な情報として利用さ
れるだろう。
図 4 研究のフロー
(2)研究の特色・独創的な点
① これまでの先行研究等があれば、それらと比較して、本研究の特色、着眼点、独創的な点を記述して下さい。
② 国内外の関連する研究の中での当該研究の位置づけ、意義を記述して下さい。
①北方林における火災後の回復に伴う炭素収支は、クロノシーケンスを用いた観測(e.g., Liu et al., 2005;
Goulden et al., 2011)によって行われてきた。クロノシーケンスという手法は林齢の異なる複数の森林で炭素収
支を観測することで、火災後から長期スケールで、炭素収支の変動を明らかにするものである。
申請者は、既往の観測データと申請者のグループが観測した炭素収支データを用いる事によって、火災後
の植生遷移に伴う総一次生産量 (Gross Primary Productivity:GPP)の変化を植物生理の観点から評価した。
この研究で、独創的な点は、Sun/Shadeモデルと最適化技術を用いることによって、クロノシーケンスとい
う手法を植物生理パラメタに適用し、火災後からの植物生理特性の長期変動を明らかに出来る点である。
②植物生理に関するパラメタは、個葉スケールで観測される事が多いが、群落スケールの測定による炭素収
支のデータを用いて、逆解析を行うことで群落スケールでのパラメタを評価することができる(e.g., Kosugi et
al., 2003; Groenendijk et al., 2011)。光合成モデルに気孔コンダクタンスモデルを組み合わせた結合モデルによ
るガス交換の推定がいくつかの論文で報告されている(e.g. Tenhunen et al., 1990; Collatz et al., 1991; Sellers et
al., 1996; de Pury & Farquhar, 1997; Wilson et al., 2001)。この結合モデルは、群落スケールのガス交換を知る重
要な手法であるが、実際の観測データを用いた長期的な解析は、申請者の知る限りない。陸域生態系におけ
るガス交換の評価が重要であるため、季節、植生、環境条件による植物生理に関するパラメタの変化につい
て、更なる研究が必要とされている。
本研究では、群落スケールにおける植物生理特性に関するパラメタの火災後の回復に伴う変化について評
価する。火災後の遷移に伴う植物生理特性に関するパラメタの変動に注目した例は申請者の知る限り存在せ
ず、卓越した成果となる。植生の遷移の変化に伴うパラメタの変動は、将来の北方林の炭素収支予測の精度
の向上につながる。