第 1 章 自分史とは るのか 自分史の解説本を読むと、「今自分史が静かなブームとなってい 16 自分史ブームは来てい ます」という記述を見かけるが、果たしてそうなのか。国立国会図 書館に納本された書籍の点数を見てみる。 同図書館の詳細検索項目に「自分史」という分類はないので、代 20 わりに自費出版系の主要 6 社を見ると、図 1 のようになる。なお、 自費出版物における自分史の占める割合は 20%である(『データで 主要6社合計納本点数 探る自費出版のすがた』自費出版ライブラリー、2005 年)。 6000 書 5000 4000 3000 組 分 見 史 本 白 2000 主要6社合計 1000 0 第 1 図 自費出版系の主要 6 社の納本合計点数 次に、書籍の全納本点数を図 2 に示す。2005 年から徐々に減っ ている。図 1 と図 2 を比較してみると、図 3 のように図 1 での傾 向と同じ結果になった。国会図書館への納本状況によると、1998 年から増えていき、2005 年から 2007 年にかけてがピークで以降 自 は徐々に減っており、ピークは終わっているように見える。では、 はたして自分史のブームは終わったのだろうか? そこで、インターネットに存在する最終更新年コンテンツ数を見 てみよう。Yahoo! 検索ではコンテンツ数が表示されるので、コン テンツの最終更新日を年ごとに指定してヒットしたコンテンツ数を 全納本点数 350000 300000 250000 200000 150000 100000 50000 0 第 2 図 書籍の納本合計点数 8 全納本点数 第 1 章 自分史とは ●アルバムや写真 16 自分史小事典 昔のアルバムを家族や幼馴染と開いてみれば思い出話の花が咲く ように、写真は回想への最も大きな手がかりである。銀塩写真は、 印画紙に焼き付ける工程を経るので、手間も費用もかかっている。 20 捨てずに取っておかれた写真には、思い出が詰まっているはずだ。 写真に付けるコメントは、被写体の状況説明はもちろん、現在の 自分からのコメントを付けるのも面白い。また、家族の写真なら、 である。 ●色川大吉 書 そこに写っていない家族がいれば、不在の理由も書くに値する内容 組 分 見 史 本 白 1925 年生まれ。東京大学文学部卒業。歴史家。民衆史、自分史 の提唱者として知られる。 著書『ある昭和史-自分史の試み』 (中央公論社、1975 年)にて、 自分史という言葉を定義して使用した。以来、自分史の祖と呼ばれ る。この他、自分史関連の著書として『自分史その理念と試み』(講 談社学術文庫、1992 年)、『“ 元祖 ” が語る自分史のすべて』(河出 書房、2014 年、復刻版)がある。 本書では、色川大吉の功績に敬意を表すために、敬称を付けずに 表記している。 ●引用と転載 自 他人の著作物は、引用ルールに従えば、著作者に無断で使用でき る。 文化庁のホームページ「著作権なるほど質問箱」によると、 『「引用」とは、例えば自説を補強するために自分の論文の 中に他人の文章を掲載しそれを解説する場合のことをいい ますが、法律に定められた要件を満たしていれば著作権者 の了解なしに著作物を利用することができます ( 第32 条 )。この要件とは、[1] 公表された著作物であること、[2] 公正な慣行に合致すること、[3] 報道、批評、研究その他 の引用の目的上正当な範囲内で行われること、[4] 出典を 明記すること ( コピー以外はその慣行があるとき)です。 [2] と [3] の要件については、少なくとも自分の著作物と 他人の著作物が明瞭に区分されていること、引用にいてそ れなりの必然性があり、自分の著作物が主で引用する他人 12 OUT OF 20 【著者】 佐藤章世 16 自分史作品の実例 書 【発行】 2010 年 11 月 13 日 組 分 見 史 本 白 【判型・頁】 A4・70 頁 ■ジャンル 闘病記 ■手法 手記 《制作》佐藤章世 本書は私小説と見紛うばかりの筆致で綴られてゆく、がん克服記 である。筆者自らがすべて自力で打ち、編集したものであろうか。 左あご下にある 1.5 センチくらいのふくらみを見つけるところか ら始まり、治療第 1 クールを終えて退院するところまでが第 1 章、 自 通院治療になる第 2 クールから再発の可能性が高い時期も乗り越 え、家族それぞれの課題をクリアするまでが第 2 章。締めくくり は家族への感謝の言葉が並ぶが、最後の一文は「がんのお蔭」。 単なる記録ではなく、「女の業」にまで触れた、虚構でないとす るならば、感情の機微にまで手を入れた、心の真実の記録ですらあ る。 「あの時、健康で穏やかな笑い顔があればなにもいらない(中略) としみじみ思ったものだった」 「(題名『OUT OF』に)苦しみや悲しみを越えた、さらにその先を、 命ある限りよりよく生き抜きたいという願いをこめました」 自分史的私小説。私小説的自分史。自分史の新たな境地の開拓を 感じさせる著述である。 解説:菖蒲亨 43 【専門家から聞いた自分史ビジネス事情】 ビジネスとして自分史に取り組んでいる、14 社にインタビュー が 8 社、印刷会社系が 4 社、その他が 2 社である。 20 した結果をまとめた。業種の内訳は出版社・編集プロダクション系 16 専門家から聞いた自分史ビジネス事情 今や周知とも言えるほど、自分史は媒体も表現手法も多様である。 しかし、ここで言及するビジネス事情はいずれも紙の書籍を中心に 扱っており、得られた事例もその範囲内に過ぎない。ただし、自分 書 史は、顧客の心や思いを形にするという創造的ビジネスであること から、紙媒体以外を取り扱う業者にとっても、ビジネスモデルの参 考になると考えられる。 組 分 見 史 本 白 ■ビジネスの形態 印刷会社系は、企画や原稿執筆、編集には携わらず、DTP 以降 を請け負う場合が一般的である。一方で、企画・ライタースタッフ を常駐させ、全工程を内製化している印刷会社もある。後者の場合 は、企画から印刷製本までを請け負う、ワンストップサービスを特 徴とするようである。 書籍を取り扱う出版社・編集プロダクション系では、印刷会社同 様にゴールは印刷製本であることがほとんどである。そして多くの 場合、印刷製本は外部委託となる。ただし、顧客の希望によって原 稿完成または印刷データまでを請け負うこともある。 自 異業種からの自分史ビジネスの参入事例もあった。ここも書籍と しての自分史を取り扱うのだが、本業を応用したビジネスモデルを 構築している。編集部門および印刷製本部門は完全に外部委託とし ている。 ■各社の強みおよび特長 それぞれに取材すると明快に返答が得られたことからも、受注の ためには、 この「強みおよび特長」が重視されていることがわかる。 また、 原稿作成は顧客が行う場合と業者が代行する場合があるが、 ある業者は、 「顧客自身による原稿づくりを重視」することを特長 としているため、 聞き書きなどの制作代行を顧客が希望する場合は、 同業者を紹介するという徹底したブランディングに努めているとの ことであった。 以下に、 質問 「御社の強みを教えてください」への回答例をあげる。 75
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