医療コストと平均余命等価年齢を考慮した調整人口構造指数の提案

医療コストと平均余命等価年齢を考慮した調整人口構造指数の提案
Dependency ratios adjusted by age-specific medical cost and life expectancy
濱松 由莉 (東京大学)
Yuri Hamamatsu (The University of Tokyo)
梅崎 昌裕 (東京大学)
Masahiro Umezaki (The University of Tokyo)
金子 隆一 (国立社会保障・人口問題研究所)
Ryuichi Kaneko (National Institute of Population and Social Security Research)
E-mail: [email protected]
背景 人口構造指数は、0-14 歳を年少人口、15-64 歳を生産年齢人口、65 歳以上を老年人口とし
て、生産年齢人口を扶養人口、年少・老年人口を非扶養人口とみなしている。しかし、従来の人口
構造指数は①同一年齢区分のなかでは、従属あるいは扶養の重みが同じであるという仮定をおき
②年少人口、生産年齢人口、老年人口を区分する際に使われる区切りの年齢(15 歳と 65 歳)のそ
れぞれの社会のコンテクストにおける妥当性が検討されていないという点において、現代の人口問
題を把握するのに不十分である。例えば医療コストは年齢によって変化し、老年人口のなかでもよ
り年齢が高い人口では、1 人あたりの医療コストが高くなる傾向にある。また平均余命の延長により、
暦の上での年齢と社会的な年齢(社会の中での役割などと対応する指標としての)との対応関係が
経時的に変化してきたため、老年人口の始まりを 65 歳とすることについても再検討が必要である。
方法 上記の問題をふまえ、実際の生産年齢人口の社会負担をより正確に反映する人口構造指
数を提案するために、以下の 2 つの分析をおこなった。
1.年齢階級別医療コストを考慮した人口構造指数の算出
医療コストの年齢階級別の違いを算出するにあたり、『国民医療費』(厚生労働省)より入手した人
口一人当たり国民医療費(年齢階級別)を元に 1977-2011 年の値を用いた。年齢階級は『国民医
療費』で扱われている年齢区分を使用し、年齢階級ごとの人口一人あたりの重み付けを行った。
2.平均余命等価年齢を用いた高齢者の年齢区分の再定義
平均余命等価年齢(Sanderson & Scherbov, 2010)は、特定の基準年における年齢と平均余命が
同じとなる年齢を,目的となる年次について算出したものである。本研究では都道府県別の平均余
命等価年齢を国民皆保険制度が実現された 1961 年の全国の平均余命を基準年として算出した。
結果 1.医療コストを考慮した人口構造指数によって従来の人口構造指数を用いて評価した生産
年齢人口の負担の経年的増傾向は過小評価されていることがわかった。また 2.平均余命等価年
齢を用いると、1961 年の 65 歳は男女とも 2008-2011 年の 75 歳前後に相当し、また平均余命等
価年齢の時系列変化には地域差が存在した。発表では医療コストの年齢パターンと平均余命等
価年齢を組み合わせた新たな人口構造指数を都道府県別に算出する。本研究で提案する調整
人口構造指数は、平均余命延長と社会保障サービスの負担増大というトレードオフの関係にある
事柄を同時に評価できる指標として、将来の人口政策の新たな評価項目となりうると考えている。