Book Review [ 書 評 ] エコまち塾 評者 溝越 祐輔 一般社団法人不動産証券化協会 企画広報部 部長代理 ( ARES マスター M0701244 ) 本書は、平成 26 年度に実際に開講された連続セミ ナー「エコまち塾」の講演録をまとめたものである。地 球温暖化やエネルギー政策から持続可能な都市づくり の実践に向けた政策やケーススタティまでを様々な視 点から幅広く扱っており、環境と経済が共生するまちづ くりという本書のテーマが複雑かつ複合的で、取り組 みに際しては様々な分野における知見の連携が必要で あることを改めて感じさせる。 本書全体は大きく4つに分けられており、エコなまち づくりを考える上で知っておくべき「背景」、課題解決す るための「方策」と「政策」、そして最後に「TOKYO 2020」と題して東京を例とした将来像のアイディアが示 されている。 著 者 伊藤 滋 尾島 俊雄 中上 英俊 末吉 竹二郎 村上 公哉 高口 洋人 小林 光 小澤 一郎 編 者 エコまちフォーラム 発 行 所 鹿島出版会 発 行 日 2016 年 5 月 定 価 2,000 円(税別) 江守 正多 佐土原 聡 川瀬 貴晴 吉見 俊哉 「背景」については、温暖化の現状と予測に関する最 新の情報を、国立環境研究所の江守氏が分かりやすく 解説するところから始まり、総合資源エネルギー調査 時間、サプライチェーンといった3つの側面からの協力 会の委員である中上氏が日本のエネルギー政策の現状 の必要性、都市づくりパブリックデザインセンターの小 を、そして国連環境計画 金融イニシアティブ 特別顧問 澤氏は自治体の役割と地域エネルギー計画の重要性を である末吉氏が世界で起きているグリーン経済の潮流 論じており、何れも長い政策立案経験に裏付けられた を紹介している。 見方が興味深い。 「方策」では、横浜国立大学の佐土原氏が欧州の事 最後の「TOKYO 2020」では、まず、尾島氏が東京 例を踏まえてエネルギーの面的利用の重要性を説いて の防災とエネルギーに事情に関する現状の課題、伊藤 おり、続く芝浦工業大学の村上氏もそのためのハード 氏が「東京文化資源区」構想についてそれぞれ触れた なネットワークとソフト面でのコミュニティの大切さなど 後、伊藤氏、尾島氏、吉見氏という各界を代表する3 名 を江戸の町を例に論じている。早稲田大学の高口氏 がこれらを起点として対談している。対談では、 「リサ は、環境不動産を普及させるためには技術のみならず、 イクル」をキーワードに、 20 世紀型のシステムを転換し、 社会や経済との組み合わせが必要であるという視点 エネルギーや文化という「資源」を再生・循環させてい で、グリーンリースや顕彰制度を紹介している。さらに くための方策として、建築基準法や大都市政策につい 建築技術的視点から、欧州を中心とした最新の低炭素 ても抜本的な転換の必要性を提示している。 ビルの事例を千葉大学の川瀬氏が解説している。 112 「政策」においては、慶應義塾大学の小林氏が地理、 ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.32
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