基 調 講 演 - 長崎県病院企業団

基
調
講
演
「長崎県病院企業団の近未来について」
講演者
米 倉
正 大(長崎県病院企業団企業長)
基 調 講
演
「長崎県病院企業団の近未来について」
講演者
米倉
正大(長崎県病院企業団企業長)
皆さん、こんにちは。今日の演題の近未来といいますと、5 年から 10 年以内のことだろうと思うんで
すが、このことについてお話をさせていただきます。
今、日本の医療体系、あるいは医療が激変していると思っております。ここに幾つか述べましたが、
先ほど伊藤部長も言われましたように、2025 年問題に対するための地域医療構想を早急に策定する。
それから、新専門医制度が導入される。そして、31 兆円を超そうかという、増加する医療費の抑制を国
がやり始めたということです。それから、医学進歩による高度医療の推進。これは、皆さんご存じのよ
うに内視鏡、あるいはがん治療、IPS細胞治療、ハイブリット治療等々、さらに医療・医学が進歩し
ております。これに対して私たちは対処していかなければならない。そして、公立病院改革推進。これ
は、前矢野企業長のときに、病院企業団は日本で最も進んだと言っていいくらい進んでおります。長崎
県の離島・僻地は、それぞれの地域に拠点病院がつくられて、そこを中核として医療が提供されるとい
うシステムが出来上がりました。今年、第二弾を総務省が行おうとしておりますが、他県ではほとんど
進んでいないというのが実情であります。
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さて、先ほど言いましたように、きょうは公立病院改革策定、地域医療構想策定という大きな 2 つの
ことに対して、国が進めている医療政策に企業団もがっちりと取り組まなければならないということを
お話ししていきたいと思います。
第一弾で長崎県病院企業団はほとんど大きな柱はできております。第二弾でさらに、地域でまだ済ん
でいないところが幾つかありますので、それに向けてどういうふうに対処していくかということは、こ
こでは話す時間もありませんので省略いたしますが、残されたことについて今から数年で考えていくこ
とになると思います。
2009 年に企業団が設立されて、有川病院、奈良尾病院がそれぞれ無床診療所、上対馬病院の療養病床
24 床が廃止されました。奈良尾医療センターが奈良尾診療所、奈留病院が 19 の有床診療所になりまし
た。壱岐病院、対馬病院が開院。地域における拠点病院が出来上がって、その周囲を附属の診療所化し
たという形になったかと思います。
私たちが医療を提供するときどうしても考えなければいけないのが、人口減少、高齢化、少子化の問
題を避けては通れないということであります。黄色が高齢者です。黄緑が子ども、赤ん坊、就労年齢が
茶色です。2015 年の状況では、どこも就労人口が上回っているわけですが、10 年後はどの地域も、島
原半島は出しておりませんが同様のことが起きております。65 歳以上の高齢者と就労、私たちが医療を
提供する現場の年齢層が同じ数になるということです。こういう状況でどういうふうな医療が提供でき
るかということを考えないといけません。
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これは長崎市の人口ですが、最近 2 年間の人口減ですが、長崎市もこういうふうに減っております。
くぼみがあるところは 3 月、若い人が都会に出ていって、そして 4 月にどれだけ若い人が戻ってくるか
ということです。長崎市であっても、なかなか減った分は戻ってきていない。若い人が減っているとい
うことを示しています。
佐世保市でも同様です。だけど、それなりに戻ってきています。
諫早市でもそうです。
大村市は逆に増加しています。
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これは、企業団病院のある市ですが、島原 3 市、4 月の上がりがほとんどないというのは、若い人が
戻ってきていない、4 月から働く人口が減っているということを示しております。五島市も同様です。
3 月にはがくんと減っていますが、4 月にはなかなか若い人が戻ってきていない。
壱岐市もそうです。
対馬市も同様です。
新上五島町に至っては、減るだけでそのままの状況になっております。
こういう状況の地域で、これから医療を提供していかないといけないということで、当然考えられる
のは、高齢者を診ていく医療人が不足するということが予測されるわけです。
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こういう中で、企業団の最近の患者さんの動向を見てみますと、病院の活動とか経営で一番影響する
のは新入院患者数であります。各病院、離島で統計をとっておりますが、数年前に比べて新入院患者全
体が約 10%少なくなっています。こういう状況で医療を提供しなければならない。
そういう中でも、小児外来は 10%以上低下しています。3 病院まとめたものです。
分娩に至っては、200 件以上減っています。こういう状況で、小児医療を縮小していいか、あるいは
周産期医療を縮小していいかというと、そうではない。今までどおりの医療の提供をやらないといけな
い。こういうところに、これから企業団がますます経営が困難になってくる要因があるかと思います。
次に、地域医療構想の策定。今、県は来年 8 月に向けて、長崎県下全体の地域医療構想の策定を迫ら
れております。もちろん離島も同様のことが求められているわけであります。離島ではほぼ全地域にお
いて、島原半島でもそうですが、企業団の拠点病院がその大きな役割を担っていく、地域を引っ張って
いく、地域医療の頼れる病院になるということが、公立病院改革で下地ができたわけです。自分の役割
をしっかり定着させ、それを実行させるということに今から専念していただくということになります。
日本全国、電子カルテを導入した病院がDPCを導入して、患者の出入りが一目瞭然になっておりま
す。企業団でもすべての拠点病院に電子カルテが今年ようやく入りました。数年後にはDPCのデータ
がきちっと出されてくると思います。
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25 年度の 1 年間のデータ、今年 9 月に長崎県から出されたわけですが、1 日に対馬の 87 名の方が福
岡に入院されている。こういうデータが出てくるようになったわけです。壱岐も 87 名。五島は 1 日 64
名の方が長崎市に入院されている。佐世保地域は 56 名が佐賀、または福岡に行っている。こういうふ
うに患者さんが住んでいる地域からどこの病院にどういう疾患で入院したか、ここは疾患別になってお
りませんが、疾患が出てくるようになりました。
これが悪性腫瘍、がんの患者さんがどこに行ったか。例えば、上五島病院のがんの患者さんは 27.5%
が長崎市に行ってる、55%が上五島で治療されているということ、こういうことが一目瞭然になってき
たということであります。
虚血性心疾患に対するカテーテル治療です。これは、壱岐病院は 100%福岡に行っているということ
を示しております。対馬病院は 71.9%が対馬でやられていますが、28%は福岡に行っています。
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そして、高血圧の患者さんもかなりの患者さんが地域外に行かれています。
糖尿病の患者さんに至ってもそうです。
高コレステロールその他の脂質異常も、かなりの患者さんが地域外に出られているというデータが出
ております。
こういうことから見ますと、企業団の拠点病院がどういうふうな自分たちの役割をこれからやってい
かないといけないかということが見えてくるかと思います。各病院でこれをしっかりとデータを分析し
て、自分の病院がどこまでの治療ができるのか。自分の病院でできる治療が外に行っているというのは、
やはり病院に対する住民の信頼度をもう少し上げてもらわないといけないということも言えるんじゃ
ないかと思います。
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そしてもう一つ、実は、平成 23 年のデータですが、人口 10 万人当たりでがんにかかる患者さんです
が、五島、上五島、県南、壱岐、対馬、すべて日本の平均より 2、30%罹患率が高い。長崎県の平均を
高くしているのは、離島・僻地の罹患率が高いためだというふうに言われております。
虚血性心疾患にしても、5 割も高くなっています。これは、離島・僻地が高齢者が多いということを
加味しても非常に高い状況になっています。
脳血管障害についてもしかりであります。糖尿病についてもしかりであります。
そして、これは平成 37 年、どういうふうになっているかということを予測したデータも出ておりま
す。やはり悪性新生物、虚血性心疾患、脳血管疾患が非常に高い。
こういうふうに非常に高い状況。これを私たちの病院は、疾患だけでなく予防医学にも取り組まない
といけないということで、早速今年から上五島で健診率をもっと高めようということを、行政と一緒に
なって病院企業団も取り組もうということでやっております。
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これから将来に備えての準備でありますが、人材確保、教育体制であります。
医学修学資金、これまでもやってこられましたけれども、今、長崎大学に地域枠をいただいて、たく
さんの修学生を教育していただいております。今、1 年生は自治医科大学を含めて今までの 2 倍以上の
医師が育ってくるようなシステムを作り上げております。
実は離島の高校を卒業する人は年間 1,000 人ぐらいに減ってきたんですが、それでも看護学校、ある
いは看護大学に行かれる方は 10%前後でずっと変わっていないということで、それなりの方が地域の
方が看護師さんになられている。こういう方をいかに戻ってきてもらうかということも、私たちが努力
しないといけないことだろうと思います。
看護師確保対策は、いろんな対策をしております。アイランドナース事業は 5 年目になりました。最
近では、きょう吉岡理事長に来ていただいておりますが、ジャパンハートとの協定による派遣というこ
とで、15、6 名の看護師さんに来ていただいております。そのほかいろんなことを私たちはやって人材
の確保に努めないといけないということであります。
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人材育成の課題ですが、こういうふうにたくさんのことがあります。これを一つ一つ今から着実にやっ
ていかないといけないということであります。
そして、病院運営資金の確保。長崎県病院企業団は、それぞれの市・町・県から約 50 億円の繰入金
をいただいております。ところが、最近では地域の財政が非常に厳しいということで、数年前に比べた
ら繰入金が約 5、6 億円減額になっております。こういう中で患者さんが減る。しかし、医療の提供体
系はそれほど崩すわけにはいかないという状況で病院を運営していかないといけないということで、幾
つかの課題をこれからも着実に解決していかないといけないという状況があります。
ネットワーク化促進。企業団には電子カルテが入りましたので、これから地域でいかに先頭となって
ネットワーク化、全国、本土とのネットワーク化をさらに進めていかないといけないということが私た
ちに課せられた課題かなと思っております。
多くの課題を抱えておりますが、最後はやはり人であります。地域医療は自分たちが守り抜くという
決意こそが将来を決めるということで、私のお話とさせていただきます。
ご清聴、どうもありがとうございました。
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