エクソソームによる新たながん診断法の開発を目指して

要
旨
1980 年代に発見されたエクソソームは、
30 年間の研究成果によって様々な生命現象への関与が明
らかとなった。そして、現在では、リキッドバイオプシーなどの診断分野をはじめ、創薬研究での
エクソソームの利用が期待されている。組織生検を行わずして、体液を用いて病態の情報を多く引
き出すことが可能とされるリキッドバイオプシーであるが、従来、リキッドバイオプシーの解析対
象は転移過程で血管内に浸潤し、血中を循環するがん細胞 (Circulating tumor cell)や、がん細胞
に由来し血中に存在する無細胞性 DNA (Cell free DNA)が主であった。これら解析対象に加えて、
リキッドバイオプシーの開発を加速させる新たなリソースとして細胞外小胞エクソソームが現在注
目されている。エクソソームに内包される分子は由来する細胞や、その細胞が存在する環境や状態
によって異なることが報告されており、がん細胞を含む腫瘍組織関連細胞が分泌するエクソソーム
は特異的な分子を含むことが知られている。これら特異的な分子を標的としてリキッドバイオプシ
ーが行われる。しかし、体液中には、腫瘍特異的なエクソソームのみならず、正常細胞が分泌した
エクソソームも循環していることから両者を区別し、検出する技術が必要となる。われわれは体液
中のエクソソームを簡便かつ高感度に検出する ExoScreen 法を開発し、新たながん診断法および治
療効果モニタリングへの応用を目指している。その一例として、従来使用されている腫瘍マーカー
である CA19-9 や CEA では検出が難しい早期大腸がん患者の血清中に CD147 と CD9 共陽性エクソソー
ムが多く存在することを明らかにし、早期診断への可能性を示した。また、有用な診断マーカーが
存在しない膵臓がんにおけるバイオマーカーの開発や尿中エクソソームを用いたリキッドバイオプ
シーにも取り組んでおり、エクソソームによるリキッドバイオプシーの現状と臨床応用への可能性
を紹介する。
参考文献
1. Yoshioka Y, Kosaka N, Konishi Y, Ohta H, Okamoto H, Sonoda H, Nonaka R, Yamamoto H, Ishii H,
Mori M, Furuta K, Nakajima T, Hayashi H, Sugisaki H, Higashimoto H, Kato T, Takeshita F, Ochiya
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3. Yoshioka Y, Konishi Y, Kosaka N, Katsuda T, Kato T, Ochiya T. Comparative marker analysis of
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