エクソソームによる細胞間コミュニケーションの実態解明とがん治療への

要
旨
体液中を循環する核酸物質の存在はすでに1948年にMandel and Métaisによって報告されていた。
それから 68 年を経た現在、
人類はこの体液中の核酸の一種であるマイクロ RNA をがん等の疾患を発
見する新しいバイオマーカーとして開発しようとしている。そもそもこうした体液中のマイクロ
RNA などの核酸情報伝達物質は、エクソソームと呼ばれる直径 100 ナノメーター前後の細胞外小胞
(EV) に運ばれて細胞間のコミュニケーションツールとして利用されている事が次々と明らかにな
り、がん等の疾患に重要な機能を果たしている様が広く知られる様になった。がんの転移という現
象においても、エクソソームの存在は極めて重要であり、がん細胞は宿主、つまり患者の体内での
生き残りをかけて、がんの微少環境において、このエクソソームを駆使した情報伝達機構を発達さ
せてきたとも考えることができる。
過去の報告を紐解くと、
このがんの転移の古典的な説の中には、
Gene transfer 説といって、がん細胞の体細胞変異を受け継ぐ遺伝子断片が血流を介して遠隔臓器
に飛び、そこで正常組織の幹細胞等に取り込まれ、その細胞を活性化することで二次的ながんを生
ずるのが転移であるとする見解も見つかる。この説はもちろん現時点では否定的ではあるが、エク
ソソームによって運ばれたがん細胞の指令する遺伝情報が、遠隔臓器の特定の細胞に取り込まれ、
その細胞の2次的な変化が炎症などを起点とする前転移ニッチの形成に繋がるのであれば、まさし
くエクソソームの生物学的特性の解明が、
新たながん転移のメカニズムの理解に貢献するとともに、
こうした経路を遮断することが新しいがん転移治療薬の創薬の礎となる。本講演では、こうしたエ
クソソームの実態解明がもたらす新規がん医療の創生についても言及する。
参考文献
1. Kosaka N et al., Versatile roles of extracellular vesicles in cancer. J Clin Invest, 2016
2. Fujita et al., Extracellular vesicle transfer of cancer pathogenic components. Cancer Sci, 2016
3. Takahashi RU et al., Loss of microRNA-27b contributes to breast cancer stem cell generation by
activating ENPP1. Nat Commun, 2015
4. Tominaga N et al., Brain metastatic cancer cells release microRNA-181c-containing extracellular
vesicles capable of destructing blood-brain barrier. Nat Commun, 2016
5. Ono M et al., Exosomes from bone marrow mesenchymal stem cells contain a microRNA that
promotes dormancy in metastatic breast cancer cells. Sci Signal, 2015. (2015 Signaling
Breakthrough of the Year)
6. Yoshioka Y et al., Ultra-sensitive liquid biopsy of circulating extracellular vesicles using ExoScreen.
Nat Commun, 2014