発表 9 特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター http://www.jvc-ngo.net 助成テーマ カンボジアにおける森林再生・保護活動による自然資源管理プロジェクト (平成 26 年度助成) プロフィール 日本国際ボランティアセンター(JVC)は、インドシナ難民の大量流出をきっかけに、1980 年 にタイのバンコクで主に日本の市民により設立された国際協力団体である。地球上の全ての人々 が自然と共存し、共に生きられる社会を築くために、世界の様々な場所での国際協力活動を通して、 社会的に強いられた困難な状況を、自ら改善しようとする人々を支援し、地球環境の保全を図る 活動並びに、社会教育活動を通して、新しい生き方と人間関係を創りだすことを目的として活動 している。現在は、タイ、ラオス、ベトナム、カンボジア、パレスチナ、南アフリカ、スーダン、 アフガニスタン、イラク、コリアで、環境破壊、戦争、貧困、人権抑圧などに苦しむ人々を支援 するため、農村開発、環境保全、緊急支援などの協力活動を実践している。また、他団体とのネッ トワークを通じて、日本の ODA 政策への提言や対人地雷禁止運動などにも取り組んでいる。 ■□■助成事業報告■□■ 1. 活動の背景 経済発展が進むカンボジアでは、農村部での大規模な農地開発や人口増加に伴う住民の過度な自然 資源の利用により、伝統的に地域住民が利用していた森林が失われている。2013 年に発表されたアメ リカの大学の調査によると、この 12 年間で国土の 7.1%の森林が消失し、活動対象地域であるカンボ ジア王国シェムリアップ県チークラエン郡でも、住民が利用できる森林資源が減少している。その結 果、木材のほか、食糧、薪等の林産物が十分に採取できなくなり、森林と共生していた地域住民の生 活状況は悪化している。また、森林の減少に伴い、地下水が低下していると指摘する住民もいる。そ こで、伝統的に人びとの暮らしを支えてきた森林を地域住民と共に再生し、適切に利用、管理するこ とで、将来にわたり住民がこの地で暮らしていけることを目的として本事業を実施する。 2. 活動計画の概要 本提案事業では、カンボジア王国シェムリアップ県チークラエン郡サンバイ集合村とその近隣集合 村において、地域の住民約 500 世帯、住民森林管理委員 8 名、小学校児童 200 名と共に、以下の活動 を実施する。 ■ 森林調査の実施(現状の把握) 対象地域の共有林では、近隣住民などによる過度な利用や無許可伐採などによって、森林資源が急 速に減少している。そこで、森林の生態や植生を調査し森林の現状を把握するほか、地域の人びとが それらの樹木をどのように育て、活用してきたのかを記録することで、森林再生に役立てる。 - 32 - ■ 森林管理委員会の組織強化支援(森を守る活動) 共有林の境界線を明確にするための目印の設置や意識啓発のための看板の設置を森林管理委員会と 共に進める。また、森林管理委員会の能力強化を目的に、他地域の成功事例から学ぶためのスタディー ツアーを行う。さらに、森林管理委員会と行政の連携を強化し、森林パトロール等を実施ための協議 の場を持てるように支援する。 ■ 苗木育苗活動と植林キャンペーンの実施(森を再生する活動) 森林の大切さについて住民と共に考えるため、森林委員会と協力して植林キャンペーンや環境イベ ントを開催する。また、地域の住民と協力して苗木を生産し、村の共有地などでの植林活動を行い、 地域の自然資源回復に努める。 3. 活動の成果 ■ 森林調査の実施(現状の把握) 地域の人びとと森や集落を歩き、伝統的に地域で利用されてきた植物の植生と地域住民による利用 法についての調査を行った。それらの調査結果をもとに 51 種類の植物について図鑑を作成した。図 鑑には植物の特徴や育て方の他、それぞれの部位の利用方法が記載されており、地域の人びとが利用 できるようにした。完成した図鑑は、地域の農家や小学校に配布した。 ■ 森林管理委員会の組織強化支援(森を守る活動) 住民の代表からなる森林管理委員会メンバーの能力強化活動の一環として、ウッドメンチェイン県 の共有林管理の事例を学ぶためのスタディーツアーを実施し、森林管理委員会メンバー、郡長、村長、 住民、森林局スタッフが参加した。訪問した共有林は約 1800 ヘクタールで、1 人の僧侶が地域の森林 を守るために森林管理の活動を開始し、その後、この僧侶が中心となって周辺にある 6 村の村から森 林管理委員会メンバーを選出し、活動を継続している。 これまで森林管理委員会は、無許可伐採を続けている村人の取り締まりについて有効な手段を見い だせていないことを課題として抱えていたが、このスタディーツアーを通して住民森林委員会メン バーの意識が高まり、共有林内のパトロールの回数や住民森林委員会内のミーティングの回数が増 え、年 1 回程度だったミーティングは、この 1 年間で 20 回以上開催された。また、住民への意識啓 発を行うため、住民森林委員会と地域住民が協力し、共有林の境界に 400 本のバンブー(株立ちし横 に広がらない上、利用価値が高い)を植栽したほか、共有林にある貴重な樹木に意識啓発のための看 板 400 枚設置し、無許可伐採者から森を守るための活動を行った。 その結果、無許可伐採の件数は以前に比べて激減し、ほとんどみられなくなった。加えて、行政と の協力関係を強化するために、村での会議やイベントに郡長や村長を招聘するように心がけた結果、 郡行政も協力的な姿勢を示すようになり、郡での会議に森林委員会メンバーが招かれたり、郡の役人 が植林キャンペーンなどにも積極的に参加するようになった。 ■ 苗木育苗活動と植林キャンペーンの実施(森を再生する活動) 調査を通してメンガやシンドラなどの絶滅危惧種を含む 12 種類の木の種を採取し、8905 本の苗木 を育苗した。苗木の生産に関しては地域の農家や小学校と協力し、当団体による技術支援のもとで取 り組んだ。苗木を育てた農家からは、今回の取り組みを通して苗木の生産方法を学び、自ら上記の 12 種類以外の種を採取し自主的に苗木作りをしている、という農家も見られた。 また、それらの苗木を用いて地域での植林キャンペーンを 6 回実施し、地域住民、教員、児童、行 - 33 - 政職員などのべ 625 名が参加し、計 4100 本の苗木を植林した。この植林キャンペーンの実施にあたっ ては、事前に森林保護の啓発を目的としたビデオ上映会を 2 回実施し、約 300 名の村人が参加した。 これらの活動を通して、木がなぜ必要なのか、樹木の減少によりどのような環境問題が発生するのか を住民と共に考える機会を設けた。後日、植林キャンペーンに参加した村人、教員、児童に対するイ ンタビューを実施したところ、回答した 120 名全員が木の大切さについて 7 個以上理由をあげること ができたなど、これらの活動が意識啓発につながった。 4. 今後の見通し これまでの活動の結果、森林委員会をはじめとする地域の住民、環境教育を通して植林活動を行っ てきた小学校の教員や児童などが、森林の保護や再生の重要性について理解し、積極的に植林活動や 森林保護活動に取り組むようになってきた。その一方で、共有林では、依然として無許可伐採を行う 住民が数名おり、こうした人びとへの理解を促進するため、村長、郡森林局などとのネットワークを より強化していく必要がある。 また、将来に渡って地域の自然資源が持続的に管理、利用されるよう、小学校での環境教育を通し て次世代の育成活動を継続することも重要である。そこで、今後は森林委員会などと協力して、共有 林を活用した環境教育なども実施していきたい。 5. 活動写真 ■ 苗木作りの様子 ■ 森林スタディツアー 2014 年 6 月から地域の農家と共に苗木作りを実施し た。写真は、苗木の世話をする農家の様子。初めて苗木 作りに取り組んだ。 2014 年 7 月、共有林の管理方法について学ぶため、ウッ ドメンチェイン県の森林を訪問した。写真は、キーパー ソンである僧侶から話を聞く住民森林管理委員会の様子。 ■ サインボードの設置 無許可伐採から共有林を守るため、住民森林委員会や村 長、地域住民が協力して、伐採を警告するサインボード を設置した。 - 34 -
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