藤本昇特許事務所 山本 みどり◇弁理士 中国で特許権か実用新案権の取得を検討していますが、できれば、どちらを取得すべきか、 事業計画に沿って柔軟に選択したいと考えています。何かアドバイスをいただけないでしょ うか。 1.はじめに (兵庫県 I.S) 特実併願制度の利用により、出願人 したがって、併願による出願後、実 日本では、特許出願と実用新 は、特許権または実用新案権のどちら 用新案権が先に発生するため、特許権 案登録出願の間で出願形式の変更が可 で権利を取得するかを選択できます。 を取得するまでの期間、実用新案権に 能です(特許法46条、実用新案法10 本制度を利用する場合、出願人は下 条) 。例えば、特許出願後に実用新案 記の要件を満たす必要があります。 登録出願に変更して、実用新案権とし ①権 利化しようとする発明は、特許 て権利化することができます。 一方、中国においては、こうした変 更ができません。そのため、実用新案 出願を行った後、特許権として権利を 取得したほうがより事業計画に沿って いると考えても、特許権として権利化 を図ることはできません。 しかしながら、中国では、所定の要 よって発明を保護することができます。 例えば、先に実用新案権を取得して おくことで、特許権が成立するまでの 出願が可能であって、かつ、実用 期間も権利行使が可能です。 そのため、 新案出願が可能であること。 実用新案権によって他社の模倣を阻止 ②特 許出願と実用新案出願に同一の 技術的範囲の請求項があること。 ③同 一の出願人が同日に特許出願と 実用新案出願を行うこと。 ④出 願時に、それぞれの出願に対して 特実併願である旨を説明すること。 件を満たす出願について、特許権また ⑤特 許可能と判断された場合は、審 は実用新案権のいずれかを選択して権 査官が指定する期間内に、先に取 利を取得できる場合があります。 得した実用新案権を放棄すること。 できます。 また、実用新案権に基づいて権利行 使を行う際、日本のように技術評価書 を提示する義務はありません。 (2)権利の確保 特許出願に対して、不利な審査結果 (特許性なし) であっても、形式的には 実用新案権の維持が可能です。 4.おわりに 2.特実併願制度 3.特実併願制度のメリット PCT出願の国際段階においては、 日本では、同一の発明について特許 特実併願制度を利用した場合、特許 特許と実用新案の両方を指定すること 出願と実用新案登録出願を重複して出 権または実用新案権のどちらで権利化 ができません。したがって、特実併願 願することはできません(特許法39 を図るかを出願後に選択できるだけで 制度は、PCT出願の中国国内段階へ 条、実用新案法7条) 。 なく、以下のようなメリットもあります。 の移行時には適用されない点に留意し 一方、中国では、同一の発明につい (1)発明の保護の充実 てください。 て特許出願と実用新案出願の両方を同 実用新案出願に対しては実体審査が また、方法の発明等、実用新案制度 日に出願することが認められています 行われないことから、実用新案出願 で保護されない発明もありますので、保 〈中国特許法9条、実施細則41条(以 は、特許出願に比べて登録までの期間 護対象についても十分注意する必要が が短くなっています。 あります。 下、特実併願制度) 〉 。 2016 No.8 The lnvention 75
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