株式会社メディカ出版 INFECTION CONTROL 編集室 「医療関連感染に関する行政関連トピックス」 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン (その 1) ▽ (1) 「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」の重要性と影響の大きさについて 政府の国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議は、2016(平成28)年4月5日に新たに 「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020」を策定しました。この件については インフェクションコントロール誌2016年7月号の「速報TOPIC」で田辺正樹先生(三重大学 病院医療安全・感染管理部副部長)が紹介されていますが、ここでは、このアクションプ ▽ ランの重要性と今後に及ぼす影響の大きさについて考えてみたいと思います。 まず「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」策定に至るまでの主な経緯を簡 単に紹介します。 2012 年 5 月 WHO が「抗菌薬耐性拡大の脅威:行動の選択」をまとめる (※WHO の世界行動計画採択のベースになったものと考えられます) 2015 年 5 月 WHO が「薬剤耐性に関する世界行動計画」を採択 (※加盟国に対して 2 年以内での国家行動計画の策定・実行を要求) 2015 年 9 月 政府が「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本方針」を まとめる (※2016 年 2 月に一部改定) 2016 年 2 月 政府が「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本計画」を まとめる ▽ 2016 年 4 月 政府が「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」を策定 薬剤耐性(Antimicrobial Resistance:AMR)対策を推進することを目標として、WHO から の要請を受ける形で、わが国独自に包括的な政府の行動計画としてまとめられたのが「薬 剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」ということになります。このアクション プランには各種の具体的な対策及び実施すべき事項が明示されていますが、インフェクシ ョンコントロール誌読者の皆さんにとっては、極めて重要なポイントが列記されていると 思われます。では、このアクションプランはなぜそんなに重要といえるのでしょうか。 〈理由 1〉 わが国における薬剤耐性(AMR)対策を推進するにあたっての今後 5 年間 (2016-2020)で実施すべき事項が提示されていること。 〈理由 2〉 戦略、アクションの達成状況、プロセス指標は、国際的に脅威となる感染症対策 関係閣僚会議の枠組みの下で毎年評価されること。 〈理由 3〉 アウトカム指標の評価として「ワンヘルス・サーベイランス(仮称)年次報告」 がまとめられること。 〈理由 4〉 5 年後に今回のアクションプランの改定版となる「第 2 次アクションプラン (2021-2025) 」(仮)が策定される可能性が高いこと。 〈理由 5〉 今夏に予定されている 2017(平成 29)年度予算(概算要求)にも薬剤耐性対策関 -1- 株式会社メディカ出版 INFECTION CONTROL 編集室 「医療関連感染に関する行政関連トピックス」 連事業予算として大きな影響を与える可能性が高いこと。 〈理由 6〉 2018(平成 30)年度に予定されている「診療報酬」 「介護報酬」の同時改定にも 大きな影響を与える可能性が高いこと。 〈理由 7〉 2016(平成 28)年度以降の「厚生労働科学研究」にも大きな影響を与える可能性 ▽ が高いこと。 ざっと考えただけでも上記のような理由が考えられます。ところで、読者の皆さんは、こ の「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」にもう目を通されたでしょうか。 アクションプランには以下の 6 分野と分野毎の目標が設定されています。 〈分野〉 〈目標〉 ①普及啓発・教育 国民の薬剤耐性に関する知識や理解を深め、専門職等への教育・ 研修を推進する。 ②サーベイランス・ 薬剤耐性及び抗微生物剤の使用量を継続的に監視し、薬剤耐性の モニタリング ③感染予防・管理 変化や拡大の予兆を適確に把握する。 適切な感染予防・管理の実践により、薬剤耐性微生物の拡大を阻 止する。 ④抗微生物剤の 適正使用 ⑤研究開発・創薬 医療、畜水産等の分野における抗微生物剤の適正な使用を推進す る。 薬剤耐性の研究や、薬剤耐性微生物に対する予防・診断・治療手 段を確保するための研究開発を推進する。 ▽ ⑥国際協力 国際的視野で多分野と協働し、薬剤耐性対策を推進する。 上記 6 つの目標は「インフェクションコントロール」誌読者の皆さんとはいずれも関わり の深いものばかりであり、今回のアクションプランを避けて通ることはできません。かな ▽ りヘビーな内容ではありますが、ぜひ早めに目を通しておかれることをおすすめします。 「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」には、6 つの分野に関わる目標が大 項目として、各目標を実現させるための戦略が中項目として、そして、各戦略を実行する ための具体的なアクションが小項目として提示されています。なお、各戦略には①背景、 ②方針、③アクション、④関係府省庁・機関、⑤評価指標、⑥出典・脚注、がそれぞれ細 ▽ かく記載されています。 従って、 「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」は、いわば各論にあたるも のであり、既に各目標ごとの戦略が細かく定められていることから、かなりなボリューム の具体策を内包した各論となっています。レストランでいえば、既に料理のメニューまで が提示されているといっても過言ではありません。ただし、メニューに記された各料理が 果たしてどのように調理されるかについては、このアクションプランでは十分推し測るこ とはできません。つまり、各論の一部が示されているものの、まだ漠然としたものでしか なく、本格的な具体策はこれから明らかにされることになります。そのために、今後の動 -2- 株式会社メディカ出版 INFECTION CONTROL 編集室 「医療関連感染に関する行政関連トピックス」 ▽ 向等には十分に注視していく必要があろうかと考えます。 例えば、アクションプランに盛り込まれており、今後設置されるであろう新たな組織やシ ステムの主なものを拾い出してみると、その数は驚くほど多いことがわかります。 ①AMR 対策推進国民会議(仮称)の設置 ②情報提供プラットホーム(Web サイト)の開設・運営 ③感染症教育コンソーシアム(仮称)設立の検討 ④薬剤耐性対策情報室(仮称)の創設検討 ⑤地域感染症対策ネットワーク(仮称)の構築 ⑥薬剤耐性感染症制御研究センター(仮称)の設置 ⑦AMR ワンヘルス・サーベイランス会議(仮称)の設置 ⑧AMR ワンヘルス・サーベイランスネットワーク(仮称)の構築 ⑨薬剤耐性(AMR)対策推進専門家会議(仮称)の設置 ⑩抗菌化学療法レジメン登録システム(仮称)の開発 ▽ ⑪産学官連携推進会議の設置 これらが、どの部署が主体となって、どこが(誰が)、どのように関わっていくことになる のか等の詳細はまだ不明です。不明ではありますが、各目標ごとに示されている関係府省 庁・機関名をみてみると、当然のことながら厚生労働省がその中心になっていることがわ かります。別表はアクションプランの目標・戦略ごとに示されている関係府省庁・機関名 を 6 つの目標ごとに一覧表の形にまとめたものです。関わりのある部分は〇、関わりのな い部分は×で表示しています。厚生労働省は 6 つの目標すべてに関わっていることがわか ▽ ります。 では、厚生労働省では今後どのような薬剤耐性(AMR)に関する検討体制がとられること になるのでしょうか。その概要が 2016(平成 28)年 6 月 10 日に開催された「第 17 回厚生 科学審議会感染症部会」に示されましたので紹介します。 厚生科学審議会感染症部会 〈健康局結核感染症課〉 〈連携〉 薬剤耐性(AMR)に関する小委員会 新 院内感染対策中央会議 〈医政局地域医療計画課〉 抗微生物薬の適正使用に関する作業部会(仮) 新 薬剤耐性に関するワンヘルス・サーベイランス作業部会(仮) 新 別図 厚生労働省における薬剤耐性(AMR)に関する検討体制 -3- ▽ 株式会社メディカ出版 INFECTION CONTROL 編集室 「医療関連感染に関する行政関連トピックス」 上記の図をみた限りでは、厚生労働省における薬剤耐性(AMR)対策の中心は「健康局結 核感染症課」が担うということになります。その上で「医政局地域医療計画課」が連携を 図る体制がとられることになるものと思われます。新設される小委員会と 2 つの作業部会 の今後の動向が注目されます。 〈メディカル ドゥ編集部 平野泰弘〉 別表 「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」における各目標ごとの関係府省庁・ 機関名一覧 関係府省庁・機関名 目標① 目標② 目標③ 目標④ 目標⑤ 目標⑥ 厚生労働省 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 国立感染症研究所 ○ ○ ○ × ○ ○ 国立国際医療研究センター ○ ○ ○ ○ ○ ○ 保健所 × ○ ○ × × × 地方衛生研究所 × ○ ○ × × × 日本医療研究開発機構 × × × × ○ ○ 医薬品医療機器総合機構 × × × × × ○ 日本医療機能評価機構 × × ○ × × × 内閣官房国際感染症対策調整室 ○ × × × × ○ 内閣官房健康・医療戦略室 × × × × ○ ○ 農林水産省 ○ ○ × ○ ○ ○ 動物医薬品検査所 ○ ○ × ○ ○ ○ 農業・食品産業技術総合研究機構 ○ ○ × × ○ ○ 農林水産消費安全技術センター ○ ○ × ○ ○ ○ 水産研究・教育機構 × ○ × × × × 家畜保健衛生所 × ○ × ○ × × 水産試験場 × ○ × ○ × × 外務省 ○ × × × ○ ○ 文部科学省 ○ × × × ○ × 環境省 × ○ × × × × 国際協力機構 × × × × × ○ 内閣府食品安全委員会 × ○ × ○ × × 〈出典〉 「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」における各目標ごとに示され ている関係府省庁・機関をもとに一覧表の形にしたものです。 -4- 株式会社メディカ出版 INFECTION CONTROL 編集室 「医療関連感染に関する行政関連トピックス」 ◎出典 WHO「薬剤耐性に関する世界行動計画」 https://ncgmimcj.ec-net.jp/HP/library/others/who68.pdf 「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本方針」 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusai_kansen/ 「国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本計画」 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusai_kansen/ 「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020」 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusai_kansen/ 第 17 回厚生科学審議会感染症部会(平成 28 年 6 月 10 日開催)資料 1 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000128666.html -5-
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