入門講義配付物5 入門講義配付物5 一. 抵当権 1. 抵当権総説 債権者A

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一. 抵当権
1. 抵当権総説
債権者A抵当権者
被担保債権
債務者B
A
抵当権
□抵当権設定者
物上保証人
B
C□
ポイント 抵当権は,①目的物の使用収益を設定者に留めつつ,②目的物の交換価値を
把握する権利である。
なお,物上保証人が弁済したときは,債務者に対して,弁済した額を返せといえる。こ
れを「求償」という(372 条,351 条)。
2. 抵当権の実行
抵当権者が抵当権を実行する→競売が行われる。
競売代金をまず,一番はじめに登記をした抵当権者(一番抵当権者)がとり,次に,二番
目に登記をした抵当権者(二番抵当権者)がとる。そして,最後に残った代金を,一
般債権者がとる。それでも残ったら,抵当権設定者がとる。
競売代金
①一番抵当権者
②二番抵当権者…
③一般債権者
④抵当権設定者
3. 被担保債権の範囲
利息については最後の二年分に限る。
趣旨 後順位抵当権者,一般債権者の保護
4. 目的物の範囲(370 条,付加一体物の解釈)
(1) 土地に抵当権を設定しても,建物には及ばない(別の不動産)
(2) 附合物(樹木など,242 条)は,目的物の一部(構成部分)なので及ぶと解する。
(3) 従物(石灯ろう(土地),クーラー(建物)等)
① 問題の所在
従物=物理的には,目的物と別
経済的には,目的物と一体
② 通説
付加一体物にあたる
R 抵当権は,目的物の交換価値を把握する価値権なので,「付加一体」といえるか
についても価値的,経済的に判断すべき
5. 物上代位
(1) 法的性質
価値権たる抵当権の本質から当然のこと(価値権説)
(2) 手続=差し押さえ
価値権説から,特定性維持が趣旨
(3) 価値権説の帰結
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① 物上代位は,価値権たる抵当権の本質から当然のことであり,差押は,特定性を
維持するという意義を有するにすぎない。したがって,抵当権者は,自ら差し押さ
える必要はないと解する。
② 物上代位は,価値権たる抵当権の本質から当然のことだから,抵当権の登記さえ
あればよいはずである。したがって,質権との優先順位は,対抗要件(登記)具備
の前後によると解する。
6. 法定地上権(388 条)
(1) 趣旨
① 建物の取り壊しという社会経済上の不利益を回避
② 自己借地権制度があればこれを利用したであろう当事者の意思
(2) 要件
① 抵当権設定時に土地上に建物が存在
② 抵当権設定時に土地・建物が同一人所有(約定利用権設定不可)
③ 競売により別人所有
(3) 基礎知識・ポイント
(1)
ポイント ① 抵当権者がいくらと評価したのか
② 一番抵当権者の利益(二番が登場した場合)
③ 共有の場合,他の共有者の利益
(2) 基礎知識
建物
建物
更地
地上権付 1千万
賃借権付 1千万
1億円
地上権7千万
賃借権6千万
底地 2500 万
底地 3500 万
* 地上権は,賃借権より強い(物権なので)。
鑑定評価各論第一一(一)3(ニ)b参照(1733 頁)
* なお,地上権+底地(地上権の負担の付いた所有権)は一億円にならない。
7. 賃貸借
AがBのために抵当権設定した後,Cに賃貸した。その後Bが抵当権を実行し,D
が買い受けた場合,Cは賃借権を対抗してDの明渡請求拒めるか。
A
C賃借権 登記
B抵当権 登記
① 賃借人Cが先に登記
CはBに対抗できる。Bは賃借権のついた不動産の抵当権を取得
② 抵当権者が先に登記
買受人に対抗できないので、不動産を明渡さなければならない。しかし借主保護
の見地から、
買受人が買い受けてから、
6 ヶ月は、
不動産を明け渡さなくてよい(395
条)。
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8. 抵当権消滅請求
第三取得者が、抵当権者に請求。抵当権者は、競売の申立てができる。
9. 転抵当
抵当権を抵当に入れること
10. 抵当権・順位の譲渡・放棄
一般債権者に対する抵当権の
後順位抵当権者に対する抵当権の順位の
譲 譲渡された者が優先し,抵当権者になる。 譲渡された者が優先し,先順位抵当権者に
なる。譲渡した者は後順位抵当権者に
渡 譲渡した者は一般債権者になる
放 放棄した者,された者は同位。両方抵当権 放棄した者,された者は同位。両方同じ優
先順位の抵当権者に
棄 を準共有
11. 根抵当
附従性・随伴性のない抵当権。頻繁に取り引きする当時者間で設定されることが多い
12. 譲渡担保
慣習法上認められた担保物権。
実質 担保
形式 所有権の移転
その本質は実質を重視して担保であるというのが通説の見解である。
二 債務不履行
Aは,Bに甲建物を売却し,代金を受け取ったが,①約束の期日になっても,甲土地を
引き渡さない(遅滞)②Aのたばこの火の不始末で,甲建物が焼失してしまった(不能)。
履行遅滞(遅れた)
なお,遅滞の場合も,①415 条後段との均
履行不能(できなくなった)
衡②過失責任主義から,債務者の帰責事由が
(1) 遅滞と不能の共通の要件
必要である。
① 債務者に帰責事由があること(故意・過失) なお,通説は,履行補助者(従
② 違法であること(同時履行の抗弁ないこと) 業員)の故意・過失でもよい
(2) 債務不履行の効果
としている。
① 強制執行(414 条) 直接強制・間接強制・代替執行
② 損害賠償
③ 解除
1. 損害賠償
金銭賠償の原則
相当因果関係にある損害に限ると解する(416 条)。
2. 解除
契約をなかったことにする。
趣旨…契約締結前の状態を回復
三 その他
1. 手附
EX AはBに甲土地を 2000 万円で売却する契約を締結する際,Bから手付金 200
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万円を受け取った。
特約なければ「解約手附」と推定される。
解約手附…債務不履行がなくても,①買主は手附金を放棄して,売主は手付金の倍額
を償還(返す)して,解除できる。もっとも,相手方が履行に着手したらだめ。
2. 受領遅滞
EX 売主Aは,買主B宅にビールを持参したが,Bは受け取りを拒否した。
この場合,Aは,このビールを善良な管理者の注意義務をもって管理する義務(400
条)を負っている。しかし,Aは一度,B宅にビールを届けたのだから(弁済の提供),
Aのこの義務は軽くなり,重過失によってビールを壊さない限り責任を負わない。
3. 債権者代位権(423 条,責任財産の保全が趣旨)
EX AはBに 100 万円を貸している。Bは一文無しであり,他からも借金がある
が(無資力),Cに対して 100 万円の代金債権を持っている。しかし,Bは「Cから取り
立ててもどうせAらにとられるのだから」といって,Cから取り立てようとしない。
この場合,AはBのCに対する債権をBの代わりに行使できる。
4. 債権者取消権(424 条,責任財産の保全が趣旨)
EX AはBに 100 万円貸している。Bは一文無しであり,他からも借金がある(無
資力)が,Bは唯一の財産である甲土地を愛人Cに贈与してしまった。
この場合,AはBC間の贈与契約を取り消すことができる。
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