報告 ブリーディング性状を考慮したコンクリート床スラブの真空脱水処 理の開始時期判定方法の検討 和藤 浩*1・畑中 重光*2・三島 直生*3・村松 功朗*4・筒井 文康*5・山口 武志*6 要旨:真空脱水処理を行った床スラブコンクリートが最も良好な強度性状を発揮する処理開始時期は,通常 の場合,ほぼブリーディング終了時であることが筆者らにより確認されている。しかし,コンクリートのブ リーディング現象は,諸要因の影響を受けること,たとえ同じブリーディング終了時であってもコンクリー トの軟度は必ずしも同等ではないことなどのため,真空脱水処理の適切な開始時期も複雑に変化する。本研 究の結果,調合や現場条件が変化しても,本実験で試作された平板付き貫入試験器を用い,本報で提示した 判断条件を考慮すれば,真空脱水処理の適切な開始時期をおおよそ判定できることが示された。 キーワード:真空脱水処理,開始時期判定用貫入試験,ブリーディング,試験法 1. はじめに そこで筆者らは,図-2 に示すプロクター貫入抵抗試 筆者らは,これまでに真空脱水工法によるコンクリー 験器を改造した平板付き貫入試験器を考案し,これを用 ト床スラブの品質改善効果に関し,一連の検討を行って いた真空脱水処理開始時期の簡易判定手法(以下,開始時 きた。その結果,図-1 に示すように,真空脱水処理を 期判定用貫入試験と称する)を提案した。既報 2)では,コ 行うことにより,床スラブ表面付近の強度性状が大幅に ンクリートの調合要因(スランプ,水セメント比,細骨材 改善されること,およびこの改善効果を最も発揮する脱 率)に関して実験的な検討を行い,本手法の妥当性を検証 水処理の開始時期はコンクリートの強度レベルやスラン した。 プを問わず,ほぼブリーディング終了時であることが確 1) 本報告では,まずスラブ厚さ,外気温といった現場の 認されている 。しかし,コンクリートのブリーディン 条件が真空脱水開始時期の判定に及ぼす影響を明らかに グ現象は,調合や材料の性質,型枠,気温などの諸要因 する 3)。次に,現場条件に関する本報の実験結果に加え, の影響を受けるため,真空脱水処理の適切な開始時期も 調合の影響に関する既報 2)の実験結果も考慮したうえで, 複雑に変化する。また,実際の施工現場では,作業者の 真空脱水処理の適切な開始時期の判定条件を提示する。 経験則によってスラブ上で作業を開始する時期が判断さ れ,その基準は曖昧である。このため,明確な施工時期 2. 開始時期判定用の貫入試験器 の判定基準の提案が切望されてきた。 本研究では,真空脱水処理の適切な開始時期の判定手 (0mm:表層) JISブリーディング終了時 φ50mm 上層 上層 中層 180mm (60mm) (処理開始時期) 0分後 30分後 60分後 120分後 240分後 無処理 (120mm) 下層 (180mm) 20 25 30 35 40 50mmコアの圧縮強度 (N/mm2) 中層 下層 <コア試験体> 45 図-1 処理開始時期が圧縮強度分布に及ぼす影響 1) *1 *2 *3 *4 *5 *6 三重大学技術専門員 工学研究科建築学専攻(正会員) 三重大学教授 工学研究科建築学専攻 工博(正会員) 三重大学准教授 工学研究科建築学専攻 博士(工学)(正会員) 建和 取締役(正会員) 建和 技術部長 山口技研 代表 図-2 平板付き貫入試験器 2) 表-1 ブリーディングに関する予備的実験の要因と水準 要因 水準 気温(室内) (℃) 断面寸法 (cm) 型枠 形状 深さ(h) (cm) 10,20,30 表-2 使用骨材 材料名 種類 備考 セメント 普通ポルトランドセメント 密度:3.15(g/cm2) φ10,φ15,φ25*,φ27,30×46 10,18,25,28.5* 細骨材 粗骨材 三重県町屋川産川砂 三重県志摩産砕石 混和剤 高性能 AE 減水剤 密度:2.59(g/cm2) 密度:2.66(g/cm2) 最大寸法 13mm ポリカルボン酸系 〔注〕*:JIS A 1123(20℃) 、 _:基準となる水準 表-4 表-3 コンクリートの調合表 Fc W/C (N/mm2) (%) 20 s/a (%) φa (mm) 単位質量(kg/m3) W C S G SP/C (%) SL (cm) 56 13 185 285 995 801 0.7 (30℃:0.8) 18 65 ブリーディング試験時におけるコ ンクリートの性状など 気温(室内) コンクリート SL Air (℃) 温度(℃) (cm) (%) 〔注〕Fc:目標圧縮強度,W/C:水セメント比,s/a:細骨材率,φa:粗骨材最大寸 法,W:単位水量,C:セメント,S:細骨材,G:粗骨材,SP/C:高性能 AE 減水剤添 加率(コンクリート温度により変化),SL:設計スランプ 30 31 15.5 2.8 20 22 12.5 2.8 10 15 17.0 4.1 法として,コンクリートの凝結試験 として採用されているプロクター貫 試験であるため,フレッシュコンク リート上に乗る作業者の体重と網下 駄の面積を考慮して試験器の貫入針 の部分を図-2 に示すようなφ50 mm の貫入プレート(平板)に変更した。 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 3. ブリーディング試験方法に関す 3) リートのブリーディング挙動に及ぼ す気温および試験体寸法の影響に関 する基礎的実験を行った。 3.1 実験概要 表-1 に実験の要因と水準を,表 -2 に使用骨材を,表-3 にコンクリ ートの調合表を,表-4 に予備試験 時のコンクリ一トの性状を示す。 100 200 経過時間(分) (a)気温の影響 0.30 0.25 グ量およびブリーディング率の経時 0.20 0.15 0.10 0.05 0.15 0.10 0.05 0.00 0 100 200 経過時間(分) 0 100 200 300 経過時間(分) (b)コンクリート表面積の影響 0.20 3.2 実験結果とその考察 図-3 に経過時間とブリーディン 0.25 300 φ 15×h10 φ 15×h18 φ 15×h25 JIS(φ 25×h28.5) 0.35 ブリーディング量(cm3/cm2) 貫入抵抗試験に先駆けて,コンク 0.30 0.00 0 る予備的実験 0.35 ブリーディング量(cm3/cm2) クリーニングモルタルを対象とした 0.30 ブリーディング率(%) 方法は凝結の開始前後のウエットス 気温10℃ 気温20℃ 気温30℃ JIS(φ 25×h28.5) 0.35 ブリーディング量(cm3/cm2) 入試験に着目した。ただし,同試験 φ 10×h18 φ 15×h18 φ 27×h18 JIS(φ 25×h28.5) 30×46×h18 300 φ 15×h10 φ 15×h18 φ 15×h25 JIS(φ 25×h28.5) 9.0 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 0 100 200 経過時間(分) 300 (c)コンクリート深さの影響 図-3 ブリーディング量およびブリーディング率の経時変化 変化,図-4 に最終ブリーディング グ終了時間が長くなる傾向がある。図-3(b),4(b)によ 量および最終ブリーディング率に及ぼす各種要因の影響 れば,多少の誤差はあるもののコンクリート表面積が大 を示す。図-3(a),4(a)によれば,気温の影響について きくなるにつれて,ブリーディング量が多くなるだけで は,コンクリート温度以外の要因が変化したこともあり はなく,ブリーディング終了時間が遅くなる傾向がある。 (表-4 参照),明確な傾向は見られない。ただし,スラ ここで,型枠表面積がそれぞれφ10,φ15,φ27,30× ンプ値(表-4 参照)が大きくなるに従い,ブリーディン 46 におけるコンクリート単位容積当りの型枠面の割合 は 0.40,0.27,0.15,0.11 である。コンクリートの表面 る貫入抵抗値との関係を示した。 積が大きいほど,この型枠面の影響,すなわち,型枠と 図-5(a)によると,気温が高くなるほど,経過時間に コンクリートの間に生じる摩擦により沈下が抑制される 伴う貫入抵抗値の増加勾配が急になっているのがわかる。 効果を相対的に受けにくいことが主な原因と推測される。 これは気温が高くなることで水和反応が促進され,コン 図-3(c) ,4(c)によれば,ブリーディング終了時間は 試 クリートの硬化(凝結)が早まったものと推測される。ま 験体深さにほぼ比例 4) して大きくなっている。また,当 た,炎天下における貫入抵抗値は同 30 度気温下のそれの 然ながら深さが増すにつれて最終ブリーディング量は多 倍の勾配をもつ変化が見られた。図-6(a)によると,比 くなるが,最終ブリーディング率は小さくなっている。 率 9O%時における貫入抵抗値は,炎天下環境を除き,気 これは,コンクリートの上層と下層と比べると,下層か 温によってあまり変化しないと言える。 ら表面に到達する水量,すなわちブリーディング水量が 図-5(b)によると,スラブ厚さが増すに従い,時間経 5) 少なくなるためと考えられる 。 過に伴う貫入抵抗値の増加勾配は緩くなっているのがわ かる。これは,スラブ厚さが増すに従い,その分ブリー 4.真空脱水処理開始時期の簡易判定手法に関する実験 3) ディング時間が長くなることで,コンクリートの硬化が 4.1 実験概要 遅延されていることも一因と考えられる。図-6(b)によ 表-5 に,貫入抵抗試験の要因と水準を示す。実験要 れば,比率 9O%時 において, スラブ厚さが増すに従い 因として気温,スラブ厚さを取り上げた。コンクリート 貫入抵抗値は小さくなるといえる。 試験は,全て実験室内で行った。 4.2 試験方法 本実験では,図-2 に示す平板付き貫入 試験器を用いている。型枠形状寸法 51(縦) ×82(横)×10,15,20(高さ)cm の試験体に 型枠の縁から 10cm 離れたところで 30 分お 0.30 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 0 20 30 気温(℃) (a)気温の影響 きに 3 回ずつ貫入抵抗の測定を行った。そ 容器をブリーディング測定用として用いた。 4.3 実験結果とその考察 図-5 に,貫入抵抗値と打込み後の経過 時間およびブリーディング比率との関係を 示す。ブリーディング比率とは,各時刻に おけるブリーディング水量の累計をブリー ディング全水量で除した値の百分率で,以 下,単に「比率」と記す。また, 図-6 に, 最終ブリーディング量(cm3/cm2) の際,予備実験の結果を踏まえてφ27cm の 10 終了したと考えられる比率 9O%お 0.35 0.30 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 0 500 1000 面積(cm2) 10.0 0.30 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 0 図-4 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 20 30 0 10 20 30 深さ(cm) 深さ(cm) (c)コンクリート深さの影響 最終ブリーディング量および最終ブリーディング率 10 表-6 プロクター貫入抵抗試験時のコンクリートの性状など よび最終段階である 100%時におけ 表-5 貫入抵抗試験の要因と水準 要因 水準 気温(℃) 10,20,30,炎天下 スラブ厚さ (cm) 10,15,20 〔注〕_:基準となる水準を示す。 1500 (b)コンクリート表面積の影響 0.35 貫入抵抗値とブリーディング現象との関係 を検討するために,ブリーディングがほぼ 40 最終ブリーディング量(cm3/cm2) 囲気を示す。ここで,炎天下の水準以外の 0.35 最終ブリーディング率(%) -6 に貫入抵抗試験時のコンクリートの雰 最終ブリーディング量(cm3/cm2) の調合表は予備実験と同様としている。表 気温 10 度 (室内) 気温 スラブ厚 10cm 20 度 スラブ厚 15cm (室内) スラブ厚 20cm 気温 室内 30 度 炎天下 気温 (℃) 湿度 (%) SL (cm) SP (%) Air (%) 10 50 20 60 27 31 55 50 15.5 18.5 17 18 16 17.5 0.85 1.0 1.0 1.0 0.9 11.4 3.2 3.3 3.2 2.7 4.6 2.6 練り上が り時コン クリート 温度(℃) 15.5 21.0 21.0 21.5 27.0 32.0 なお, 平板付き貫入試験器は,測定範囲が 600N まで (W/C),細骨材率(s/a),粗骨材最大寸法(φa)といった各 であり,貫入抵抗値が 600N を超える場合は測定できなな 種調合要因が変化する場合について,比率 90%時の貫入 いため,図-6 において 600N を超えるものは,外挿によ 抵抗値を検討した。ここで,現場条件の影響に関する本 る推定値である。比率 90%であれば,いずれの場合も, 実験の結果を加味して検討するにあたり,留意する事項 スラブ上で作業がほぼ可能になると言える。 をまとめておく。 1)スラブ厚さはブリーディング終了時刻に影響を与える ことが確認された。ここで,既報 2)では,ブリーディ 5. 開始時期判定用の貫入試験装置を用いた現場実験 本実験では,4.の実験室実験の結果を踏まえ,平板付 ング試験には JIS A 1123 の容器(深さが 28.5cm)を用 き貫入試験器の適用性を調べるこ 700 測定を行った。ブリーディング試 600 600 験は,荷下ろし時に採取したコン 500 500 クリートを用い,現場と同一雰囲 気で行った。また,実際の施工現 場においてコンクリートを打設し た場合,余剰水はブリーディング 400 300 30度 20度 10度 炎天下 200 100 水としてスラブ表面に浮き上がる 0 だけでなく,型枠面や接合部から 0 100 も抜けるものがある。この脱水の 200 700 200 0 0 300 20 40 60 80 100 ブリーディング比率(%) 貫入抵抗値(N) 500 300 200 100 と,若干ではあるが型枠端に近い 0 ブの場合には周囲に水がたまり, 500 400 300 200 100 0 100 200 300 0 0 20 経過時間(分) (b)スラブ厚さの影響 がある。また,現場②の降雨の時 の測定結果の様に,傾斜したスラ 10cm 15cm 20cm 600 400 定位置の影響を示す。同図による ほど貫入抵抗値が大きくなる傾向 700 10cm 15cm 20cm 600 から 50cm,200cm,400cm の位置で 図-7 に貫入抵抗値に及ぼす測 300 100 貫入抵抗値(N) と考えられる。そこで,型枠の縁 の変化についても調べた。 400 (a)気温の影響 の増加速度が速まる可能性がある 測定位置の違いによる貫入抵抗値 30度 20度 10度 炎天下 経過時間(分) 影響により,型枠近傍では貫入値 それぞれ 3 点ずつ貫入試験を行い, 貫入抵抗値(N) 700 貫入抵抗値(N) とを目的に 3 回に渡って現場での 40 60 80 100 ブリーディング比率(%) 図-5 貫入抵抗値と経過時間及びブリーディング比率との関係 (■:ブリーディング比率が 90~100%の領域を示す。) 貫入抵抗値が影響を受けることも 比率100% 1000 降雨などによる水溜りが出来た場所での貫入抵 800 抗試験は避ける等の注意が必要である。 現場①~③の真空脱水処理は,いずれの現場 においても図-7 のデータの測定以前の,真空 脱水処理は貫入抵抗値がおおよそ 300N 前後の 時点で行われた。この判断基準は,作業者が網 貫入抵抗値(N) の境界から 2m 程度入った位置で測定し,また, 既報 2) では,スランプ値(SL),水セメント比 炎天下 400 200 0 20 30 40 気温(℃) (a)気温の影響 (スラブ厚さ 15cm) 図-6 800 600 400 200 0 0 ることである。 作業困難な場合がある範囲 1000 600 下駄を履いてコンクリート上に乗ることが出来 6. 調合要因と現場条件を考慮した検討 比率90% 貫入抵抗値(N) 考えられる。正確な測定を行うためには,型枠 10 5 10 15 20 25 スラブ厚さ(cm) (b)スラブ厚さの影響 (気温約 20℃) ブリーディング比率 90%および 100%時における貫入 抵抗値 比率90%時経過時間(分) 400 現場① 現場② 現場③ 200 0 0 200 100 (15) (28.5) 10 20 200 0 10 15 20 600 400 200 0 35 25 45 55 65 水セメント比(%) (b)水セメント比(%) スランプ値(SL.) (a)スランプ値(cm) 0 100 200 300 比率90%時経過時間(分) (b)ステップ 2(貫入抵抗値の補正) 800 90%貫入抵抗値(N) 90%貫入抵抗値(N) 400 0 作業困難な場合がある範囲 800 600 200 図-8 貫入抵抗値の補正方法(スラブ厚さ 28.5cm から 15cm への補正) ●補正後(深さ15cm) 800 400 30 スラブ厚さ(cm) (a)ステップ 1(経過時間の補正) 図-7 貫入抵抗値による測定結果 (施工現場) 600 76% 0 型枠端からの距離(cm) 90%貫入抵抗値(N) 76% 0 400 ○補正前(28.5cm)2) 200 800 90%貫入抵抗値(N) 貫入抵抗値(N) 降雨の影響 600 800 貫入抵抗値(N) 300 800 600 400 200 0 600 400 200 0 30 35 40 45 50 55 細骨材率(%) (c)細骨材率(%) 図-9 ブリーディング比率 90%時における貫入抵抗値の補正 (コンクリート深さ 28.5cm のデータ 2)から 15cm 値を推定) 10 15 20 25 粗骨材最大寸法(mm) (d)粗骨材最大寸法 (mm) い,一方,開始時期判定用貫入試験にはスラブ厚さ よってブリーディングが早まる比率が一定であると仮定 15cm で行った。 して,既報 2)既報 2) では,作業に必要な貫入抵抗値として安全を見 て 550N を提案した。しかし,この値は,上記 1)の JIS 2) の試料厚さ 28.5cm のコンクリートで測定 した比率 90%時刻を補正し、これを用いて比率 90%時に おける貫入抵抗値を算定した(図-8(b))。 の試験(深さ 28.5cm)に基づいている。本実験の結果に 図-9 に,各種調合要因が異なる場合の比率 90%時に よれば,現場で比率 90%の時点に相当する 300N 前後か おける貫入抵抗値を示す。図によれば,スランプ値およ ら作業者がスラブの上に乗って作業を開始しても問 び水セメント比の条件によっては貫入抵抗値が 300N に 題なさそうである。なお,前報 2) の現場実験のスラブ 厚さは 6.5cm であった。 達した後もブリーディング水が上昇するため,真空脱水 処理の開始時期を遅らせる必要があることが分かる。 以上より,ブリーディング試験の試料厚さを考慮し, 本実験結果と既報 2)の結果を総合して判定条件をまとめ る。 7. 新たな真空脱水処理の開始時期判定条件 以上の結果を概念図に表せば,図-10 のようになる。 図-8(a)は,本実験で得られた比率 90%時の経過時間 すなわち,真空脱水処理の適切な開始時期は,比率が とスラブ厚さの関係を示したものである。なお,図中に 90%以上で,かつ貫入抵抗値が 300N 程度になった時点で は,本実験で同時に行った JIS ブリーディング試験(深さ あると考える。具体的には,スラブ厚さが 15cm 以上,ス 28.5cm)の結果も併示した。これによると,比率 90%時 ランプ値が 18cm 以上,水セメント比が 50%以上,細骨材 の経過時間は,スラブ厚さに対して線形な関係にあるこ 率が 50%以下のコンクリートであれば,真空脱水処理の とが解る。また,スラブ厚さが 15cm の場合,経過時間は, 適切な開始時期は,貫入抵抗値がおおよそ 300N となる時 JIS のブリーディング試験容器の深さである 28.5cm の場 点と出来そうである。しかし,これらの諸要因の影響が 合の 76%程度となっており,ブリーディングの終了が早 上記の範囲を逸脱すると,その増減に伴い,貫入抵抗値 くなっている。 を若干引き上げる必要がある。すなわち,貫入抵抗値 このことから,本試験では,他の場合もスラブ厚さに 300N 程度で管理しても,その後もブリーディングが継続 ブリーディング比率 90%以上 作業に必要な硬さの条件 300N スラブ厚さ d:15cm スランプ値 SL:18cm 水セメント比 W/C:50% 小 大 (a)スラブ厚さ(d),スランプ値(SL),水セメント比(W/C) 貫入抵抗値(N) 貫入抵抗値(N) ブリーディング比率 90%以上 作業に必要な硬さの条件 300N 細骨材率 s/a:50% 小 大 (b)細骨材率(s/a) 図-10 真空脱水の処理開始時期の判定(■部分が適切な処理開始時期) することになる。 かった。すなわち,貫入抵抗値 300N 前後で管理して 1) 既往の研究(図-1) より,真空脱水処理の開始が極端 も,その後もブリーディングが継続することになる。 に遅れると改善効果が低下するため,上記条件を満たす したがって,この条件の場合には,真空脱水処理の開 なるべく早い時期に真空脱水処理を行う必要がある。ま 始時期を若干遅らせ,貫入抵抗値を大きく設定するこ た,炎天下や降雨などによる水溜りが出来た場所での貫 とが望ましい。 入抵抗試験は避ける等の注意が必要である。 参考文献 8. まとめ 1)和藤浩,畑中重光,山本晃司,村松昭夫:床スラブコ 以下に,本研究で得られた知見を示す。 1)ブリーディングに関する実験から,型枠のサイズがブ リーディング挙動に及ぼす影響が明らかになった。 ンクリートの真空脱水締固め工法における諸要因の 影響,コンクリート工学年次論文報告集,Vol.23, No.2, pp.391-394, 2001. 2)実験室における貫入抵抗試験結果によれば,ブリーデ 2)和藤浩,畑中重光,三島直生,村松昭夫:真空脱水締 ィング比率 90%時の貫入抵抗値は,スラブが厚いほど 固め工法の処理開始時期の簡易判定手法に関する実 小さくなる傾向がある。 験的研究,コンクリート工学年次論文報告集, 3)現場での測定結果によれば,作業可能となる貫入抵抗 Vol.24,No.1,pp.1079-1084,2003. 値は 300N 程度である。また,正確な測定を行うため 3)三島直生, 増田卓也, 和藤浩, 村松昭夫, 山口武志, には,型枠より 200cm 程度入った位置で測定し,降雨 畑中重光:コンクリート床スラブの真空脱水締固め工 などによる水溜りが出来た場所での貫入抵抗試験は 法の改善-貫入抵抗試験による処理開始時期判定に 避ける等の注意が必要である。 及ぼす外部環境条件の影響-,日本建築学会東海支部 4)調合要因の影響を取り扱った既報 2) の結果を補正した 研究報告集,Vol.43, pp.97-100, 2005. 結果,スランプ値(13~22cm),水セメント比(40%~ 4)大岸佐吉,棚橋勇,小野博宣:コンクリートの強度に 60%),細骨材率(36%~51%),粗骨材最大寸法 (13~ 及ぼす打ち込み高さ及び振動時間の影響,セメント技 20mm)の範囲内では,気温が 10~30 度でスラブ厚さを 術年報 35,pp.105-108, 1981. 15cm と仮定した場合,スランプ値が 18cm 以下および 5)神田衛,吉田八郎:コンクリート打込み後のスラブ断 水セメント比が 50%以下になるとブリーディング比 面における水セメント比の分布性状,セメント・コン 率 90%時点で貫入抵抗値が 300N 程度を超えることが分 クリート,No.332,pp.8-12,1974.
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