売れる! 事業アイデア発見法

起業家応援マガジンVOL.73(2016年7月27日)
売れる!
事業アイデア発見法
第1回
事業アイデアは小さくても強いビジネスを
創造するための生命線
一般社団法人起業支援ネットワーク NICe 代表理事
株式会社タンク
代表取締役
増田紀彦
はじめに
みなさん はじめまして!
一般社団法人起業支援ネットワーク NICe 代表理事
の増田紀彦と申します。起業・独立応援情報誌『アントレ』の創刊に携わって以来、
20 年間に及ぶ起業支援活動を通じて得たメソッドを、この機会を通じてみなさん
に提供できたらと意気込んでいます。選んだテーマは『売れる!
事業アイデア発
見法』。これから 6 回にわたって、起業のタネの見つけ方や、起業後、ライバルに
打ち勝つための視点や方法を具体的にお届けしていきます。たとえ規模は小さくて
も、強いビジネスを生み出すための要(かなめ)が、事業アイデアです。決して堅
苦しい話ではありません。最終回まで、楽しみながら、しっかり学んでくださいね。
さて、第 1 回のテーマは、「事業アイデアは、小さくても強いビジネスを創造す
るための生命線」です。そもそも、「小さくても強いビジネス」とは、どういうこ
とか。まずは、そこからお話しします。
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仮に資金があっても、スタートはできるだけ小規模で
まず、「小さい」とは、企業規模が小さいという意味です。資本金はいくらか?
従業員の人数は?
事業所や店舗の数、それらの立地や広さは?
そして売上高や
経常利益は?……。企業のサイズをはかるものさしはいろいろありますね。これら
のどの指標を取っても、業界平均より下回る場合、小さい企業ということになりま
す。
一般的に、起業当初は小さい企業になるはずです。最初は店 1 軒または無店舗。
あるいは小さな事務所 1 カ所またはレンタルオフィスや自宅を事務所代りに……、
というスタイルが普通です。起業にいたるまでの職歴や経験は人によって様々でし
ょうが、起業家(経営者)としては、誰もが最初は 1 年生です。仮に資金が豊富だ
としても、経験が圧倒的に足りません。実績も信頼もありません。そんな新人が、
大きなサイズのビジネスを動かし、責任を取るのは、容易ではないはずです。いわ
ゆる「身の丈にあったスタートを切ること」が大切です。
「小さかろう、弱かろう」ではダメ
一方で、小さいということは、経営資源に限りがあることを意味します。とくに
営業・販売の場面における選択肢は相当限られます。小さな企業では多額の宣伝費
を投入して広告を打つことはできませんし、何人もの営業担当者や販売担当者を雇
うことも難しいでしょう。仮に素晴らしい製品やサービスを用意していたとしても、
それらを広める手立てがなければ、どうにもこうにもなりません。つまり、営業や
販売に大きな労力を割く必要のあるビジネスモデルをつくってしまうと、「小さく
て弱い」ビジネスになりかねないのです。
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比較的小さな市場を見つけ出し、その市場が望む製品やサービスを探る
信頼と実績と知名度と資金力に勝る先輩企業に、新人のあなたが挑んでも、まず
勝ち目はありません。ただしそれは、先輩と同じことをするのならば、という話で
す。同業の先輩企業のビジネスモデルをよく観察してみてください。すべての人々
に対して、完璧なサービスを実施している企業などありません。必ずどこかに弱点
があります。あるいは、標的市場を大きな市場に設定しているため、営業対象から
外されている小さな市場を見つけられることもあります。
小さな市場とは、ある共通点を持つ、比較的少数派の個人の集団(層)、もしく
は企業や団体の集団(層)と考えてください。属性が共通する、行動が共通する、
目的が共通するなどいろいろありますが、こうした集団(層)はネットを活用する
ことで比較的容易に見つけ出すことができます。そして、その集団(層)が望む製
品やサービス、あるいは販売方法を、あなたが考えればいいのです。そうすれば、
「あの有名な会社ではやっていないサービスを、当社は提供している」と訴求する
ことが可能になります。つまり、あなたのビジネスは、顧客層から強い支持を受け
ることになるわけです。
少数派の市場を喜ばせる情報はどんどん拡散します。こうして、小さくても強い
ビジネスが誕生します。問題は、その市場を満足させるアイデアを、果たしてあな
たが見つけ出せるかどうかです。
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どんな人でも事業アイデアを発見・発想することは可能
アイデアと言っても、人がビックリするような話である必要はありません。むし
ろ、顧客がすぐに受け入れることが可能な製品やサービス、提供方法などを見つけ
たいのですから、既存のものより、「ほんの少し新しくて、いい感じ」であれば十
分です。
その「ほんの少し」を見つける有効な方法は、自分自身の実感です。前述したよ
うに、自分が始めたい事業に近い事業を実際に見て、「こうすれば、もっとよくな
るのに」という思いが浮かべば合格です。決して難しいことではありませんよね。
もう少し言うと、世間でよく見る商品というのは、市場に支持されているから見か
けるわけですし、よく見る販売方法も同じこと。ですから、全部を新しくしような
どと考えず、商品か販売方法か、どちらかを改善するだけで十分なのです。
まずは「自分だったら……」という視点で、改良案を考えてみること。これがア
イデアのタネになりますし、この視点なら誰でも発想に取り組むことが可能です。
商品ではなく、売り方を変えた東京の『原価バー』
東京都内に 4 店舗を有する『原価バー』という飲食店があります。バーですから、
ドリンクを中心にフードも揃える業態です。つまり、商品は先輩企業と変わりませ
ん。ところが、料金システムが既存店舗とは大きく異なるのです。同店のメニュー
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を覗くと、国産ウイスキー50 円~、カクテルが 90 円~、スコッチ 120 円~、など
と、本当に原価そのものの価格が並びます。では、どうやって利益を出しているの
でしょう? 答え。「客は入店時に 1600 円支払う」。この入場料がそのまま営業利
益になるわけです。つまり、商品を変えず、販売方法を変えるというアイデアです。
まとめ
多くの経営資源を持たない小さなビジネスや新人起業家が、先輩たちに伍して生
き延び、成長するためには、「他とは一味違う」魅力をビジネスに付加することが
不可欠です。その作業を怠ると、厳しい競争に巻き込まれ、消耗戦を強いられるこ
とになります。今回は、事業アイデアの発見がいかに起業準備にとって大切かとい
うことをお伝えしました。
次回は、「実現可能で模倣困難なアイデアが、いいアイデア」というテーマでお
話しさせていただきます。それではまた来月。
プロフィール
増田紀彦(ますだ・のりひこ)
◆一般社団法人 起業支援ネットワーク NICe
◆株式会社タンク
代表理事
代表取締役
地方新聞社、広告会社勤務を経て、87 年、株式会社タンク設立。97 年、起業・独
立・新規事業を応援する情報誌『アントレ』創刊に参加。2007 年、経済産業省『起
業支援ネットワーク NICe』チーフプロデューサー就任。同事業の民営化により現
職。著書に『起業・独立の強化書』、『正しく儲ける「起業術」』ほか共著も多数。
◆起業支援ネットワーク NICe サイト
http://www.nice.or.jp/