論文題名:酸化ストレス感受性チャネル TRPM2 はブレオマイシン誘発

論文内容要旨(甲)
論文題名:酸化ストレス感受性チャネル TRPM2 はブレオマイシン誘発
肺炎症の増悪に関与する
病態生理学部門
米澤
龍
TRPM2 チャネルは、酸化ストレス感受性 Ca2+ 透過チャネルであり、
肺や単球・マクロファージなどの炎症性細胞に発現している。単球・マ
クロファージにおける TRPM2 活性化は、サイトカイン分泌を促進し、
潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患の増悪に関与していることが示されてい
る。しかし、肺における TRPM2 の役割には不明な点が多い。例えば、
LPS 投与による気道や肺の炎症には、TRPM2 が関与しないとの報告が
ある。Bleomycin (BLM) は、活性酸素の産生を介した DNA 傷害によ
り活性を示す抗悪性腫瘍薬であり、重篤な副作用に肺炎症及び肺線維症
がある。BLM は、LPS とは異なった機構で肺炎症を誘発することから、
BLM 誘発肺炎症の発症・増悪に TRPM2 活性化が関与している可能性
がある。そこで、本研究は BLM 誘発肺炎症への TRPM2 の関与を明
らかにすることを目的とした。
BLM の経気管的投与により、野生型 (WT) マウスでは、肺組織にお
ける多型核白血球 (PMNs) 及び macrophage inflammatory protein-2
(MIP-2) を含む炎症性サイトカインの増加が認められた。一方、Trpm2
KO マウスでは、これら炎症マーカーの増加が抑制されていた。これら
の結果は、TRPM2 が BLM 誘発肺炎症の増悪に関与していることを示
している。また、TRPM2 は肺胞上皮細胞 (AECs) に発現が認められ、
WT マウス由来の AECs へ BLM 処置後 H2O2 刺激を行うと細胞内
Ca2+ の増加が認められ、MIP-2 分泌が増加した。AECs に発現する
TRPM2 活性化を介した MIP-2 分泌が BLM 誘発肺炎症の増悪に関与
すると考えられた。
さらに、本研究では janus kinase 2 (JAK2) 阻害剤である AG490 が
H2O2 による TRPM2 活性化を阻害することを見出した。機構を解析し
たところ、AG490 は 細胞内の hydroxyl radical 消去により、H2O2 に
よる TRPM2 活性化を阻害することを明らかにした。そこで、WT マウ
スの BLM 誘発肺炎症モデルに対して AG490 を投与した結果、肺炎症
の抑制が認められた。一方、Trpm2 KO マウスへの AG490 投与による
肺炎症の更なる抑制は認められなかった。従って、AG490 の BLM 誘
発肺炎症の抑制作用は、TRPM2 阻害作用によると考えられた。
本研究により、AECs における TRPM2 活性化が起点となって BLM
誘発肺炎症の増悪が起こることが明らかとなった。また、AG490 は、
H2O2 誘発 TRPM2 活性化に対して阻害作用を有し、その TRPM2 阻害
作用により BLM 誘発肺炎症を抑制することが認められた。以上のこと
から、TRPM2 は BLM 誘発肺炎症の治療薬開発のための候補分子と考
えられ、AG490 はその治療薬開発のシーズ化合物として期待できると考
える。