EX-16601 (京都大学学術情報メディアセンター推薦課題) 群馬大学大学院理工学府 環境創生部門 准教授 斎藤隆泰 種々の波動問題に対する積分核に依存しない 演算子積分時間領域高速多重極境界要素法の開発 1.研究の背景と目的 3.演算子積分法(CQM:Convolution Quadrature Method) 境界要素法は,波動解析に有効な数値解析手法a)として知られている.近年,従来の時間領域境界要素法 が持ついくつかの欠点を克服した新しい時間領域境界要素法(演算子積分時間領域境界要素法)が開発さ れ,さらに高速多重極法やACA(Adaptive Cross Approximation)を適用することで,大規模波動問題に対して も一定の成果を得た.しかしながら,改善すべきいくつかの課題も残されている.それらを解決する方法の 1つとして,本研究では種々の波動問題に対する積分核に依存しない高速多重極法の開発を目指す.以下 では,従来の時間領域境界要素法,演算子積分法,演算子積分時間領域境界要素法,演算子積分時間領域 境界要素法に対する特徴や,それらを用いた最新の数値解析例を紹介した後,本研究課題の取り組みについ て紹介する. 演算子積分法(CQM)は,畳込み積分 を のLaplace変換を用いて b) 離散化近似する手法 である.一般に,畳込み積分は次式で表される. 時間 を時間増分 でNステップに分割すれば, 演算子積分法による畳込み積分の離散近似表現は次式で表される. 重み関数 は のLaplace変換 を用いて次式で表される. 2.従来の時間領域境界要素法 極座標系への変換 時間領域境界要素法は,次のような利点を持つが,それ以上に欠点が問題となり,つい10年程前までは,大規模 な波動問題を解析することは難しいとされていた.従来の時間領域境界要素法の利点と欠点を以下に示す. 台形公式による離散化 円周上をL(=N)等分する 欠点 利点 解析対象の表面の離散化のみ必要 ( が存在するためには の実部が正 )でなければならない. 計算時間・記憶容量が膨大 (係数行列は密行列のため,反復計算多い,記憶容量膨大) 数学的に難解 (時間領域境界要素法の汎用コードすらほとんど見当たらない) (波動問題に適している.吸収境界等不用) (特異性の計算が難しい) 計算精度が高い 基本解(グリーン関数)を求める必要がある クラックも厳密に扱える (基本解が求まらない,粘弾性や飽和多孔質弾性波動問題は 近年,これらの欠点を克服した 演算子積分時間領域境界要素法, 解析できない) 演算子積分時間領域高速多重極法が開発 時間増分が小さい場合,数値解が不安定 され,様々な波動問題に適用されている 生成多項式 :線形多段法おける生成多項式 の商で,k次の後退差分を用いて次式で表される. ただし, は目標精度 により で決定される. (境界要素の生成が容易) 無限・半無限領域を容易に扱える 4.高速多重極法(FMM:Fast Multipole Method) 高速多重極法c)は,大規模多体問題に対する高速アルゴリズムとして知られ,SIAM Newsでは,FFT等と共に20世紀 トップ10アルゴリズムに選ばれている.高速多重極法の概念を2次元問題を例に取り以下に示す. 要素節点 遠方からの影響は セル FMMで計算 近傍からの影響は 直接計算を行う 階層構造により 多重極・局所展開 を効率的に計算 多重極点 局所展開点 5.演算子積分時間領域境界要素法(CQBEM) 時間領域境界要素法に演算子積分法を適用することで,従来の時間領域境界要素法の安定性を改善する 時間領域境界積分方程式 時間領域基本解 時間領域第二基本解 入射波 解析モデルの一例 境界要素計算概念図 階層構造計算概念図 CQBEMの計算効率を改善するために,FMMを適用する.遠方からの影響は多重極展開で,近傍からの影響は通常通り計算する 影響関数の計算概念 影響関数 ラプラス変換域基本解(面外波動問題の場合) 遅延ポテンシャルの計算にFMMを適用 ただし, FMM計算概念図 6.演算子積分時間領域高速多重極境界要素法(CQFMBEM) 畳込み積分 畳込み積分を演算子積分法を用いて離散化 影響関数 の軌跡 Fig.3 は 通常のCQBEM同様直接計算 多重極展開により計算 FMMで計算 次の修正ベッセル関数 行列表記 演算子積分時間領域境界要素法の特徴 畳込み積分の計算に演算子積分法を用いたため,時間増分が小さい場合でも安定に計算可能 この部分の行列ベクトル積は t1が求まればFFTにより一度 に処理することができる FMMの計算結果にFFTを施すことでさらに計算を高速化できる 改善すべき課題や残された問題 熱弾性問題(飽和多孔質弾性波動問題を拡張できる)への適用の検討 (弾性波速度が異なる媒質中の波動散乱解析等,従来法では不安定になりがちな問題も安定に解析可能) 時間領域解法でありながら,ラプラス変換域基本解を用いるため,時間領域境界要素法の汎用性増加 高速多重極法は空間方向に対する高速化のため,時間方向高速化も必要 (粘弾性波動問題や飽和多孔質弾性波動問題にも適用可能) 数学的困難さを緩和(解法の手順は周波数領域境界要素法に類似しているため,既存の 境界要素コードを利用できる.周波数領域では高速多重極法の適用例も多いため, 周波数領域とほぼ同様の手順で高速多重極法を実行できる) これらの行列ベクトル積はFMMで計算 7.数値解析例(CQBEM,CQFMBEM利用) (ただし,時間方向高速化もスカラー波動問題で既に一定の成果を得た) 複雑な特殊関数使用の回避.FMMでは多重極展開に伴い,複雑な 特殊関数を使用する機会が多い.汎用性を高めるためにも検討が必要 基本解が複雑な問題に対しては多重極展開自体を求めることが困難 なため,そのような問題に対応する方法を検討する必要がある 積分核に依存しない高速多重極境界要素法を開発し,複雑な特殊関数の使用をなくし,複雑な基本解を有する弾性波動問題に 対しても, 高速多重極法を実行する方法について検討する 入射波 入射波 散乱qS1波 散乱S波 55step 55step 3次元飽和多孔質弾性体中の大規模波動解析 等方生(左)異方性(右)弾性体中のき裂 による入射波の散乱問題(CQBEM利用) (左)固体変位(右)流体圧力(CQBEM+MPI) 2次元面外波動問題における 空洞群による大規模多重散乱解析 (CQFMBEM+MPI) 等方性(左)粘弾性体(右)中の空洞群による 3次元等方弾性体中の による入射波の散乱問題(CQFMBEM利用) 空洞群による入射波の 散乱問題(CQFMBEM) 8.積分核に依存しない高速多重極法(KIFMM:Kernel Independent Fast Multipole Method) 9. まとめと今後の課題 ソース点が作る場 Cus 円周で定義した擬似多重極展開 擬似多重極係数 両者の場を参照円Cuc上で近似的に満足させれば右の 決定方程式を得ることができる.このように基本解の 多重極展開を直接に必要としない これまで行って来た波動問題に対する時間領域境界要素法の成果の一部を示した.3次元スカラー波動問題や, 弾性波動問題,異方性弾性波動問題を中心に,引き続き積分核に依存しない高速多重極法の開発を行う予定である. また関連するACA(Adaptive Cross Aproximation) 等を使った高速解法の利用についても検討していきたい. 要素数が大きい場合は KIFMMが高速である 多重極係数の決定方程式 この決定方程式を解くことで,擬似多重極係数 を求めることができる 積分核に依存しない高速多重極法(KIFMM)は,ポテンシャル問題に対してYingd)らにより提案された. 本研究では,YingらによるKIFMMを種々の 波動問題に拡張し,CQBEMに適用する 方法について検討する.2次元スカラー 波動問題に適用しe),一定の成果を得た ソース点 Cus: p個の点に等分割 Cuc: q個の点に等分割 コンクリート イメージベースFEMと CQBEMの結合解法 同様に擬似局所展開を構成し,2次元スカラー波動問題に対する CQBEMに適用し,計算時間をCQBEMと比較した結果を右に示す KIFMMとCQBEMの計算時間の比較 参考文献 a)小林昭一編著:波動解析と境界要素法,京都大学学術出版会,(2000) b)C. Lubich, Convolution quadrature and discretized operational calculus I, Numer. Math. 52, (1998), pp. 129-148 c)L. Greengard and V. Rokhlin, A fast algorithm for particle simulations, Journal of Computational Physics, 73, (1987), pp.325-348 d)L. Ying, et al.: A kernel-independent adaptive fast multipole algorithm in two and three dimensions ,J. Comput Ptysics(2004), pp. 591-626 e)斎藤隆泰・増村佳大・廣瀬壮一:2次元波動伝搬問題に対する積分核に依存しない演算子積分時間領域高速多重極境界要素法, 計算数理工学論文集,pp.121-126,(2013)
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