論 文 審 査 の 要 旨

論 文 審 査 の 要 旨
報告番号
甲 第 2807 号
論文審査担当者
氏 名
主査
教授
馬場
一美
副査
教授
宮﨑
隆
副査
教授
桑田
啓貴
山田
純輝
(論文審査の要旨)
学位申請論文「 Removal of oral biofilm on an implant fixture by a cavitating jet 」
について,上記の主査1名,副査2名が個別に審査を行った.
【 目 的】 イン プラ ント周 囲炎 が進 行し フィ クス チャ ーが 露出 する と、 多孔 質に 加工 さ れ
た 表 面に バイ オフ ィルム が付 着 し 、除 去は 困難 とな る。 一方 、水 中で 水が ベン チュ リ ノ
ズ ル 内を 通過 する と急速 な減 圧に 伴い キャ ビテ ーシ ョン が発 生す る。 キャ ビテ ーシ ョ ン
気 泡 の崩 壊に よる 衝撃力 は金 属材 料の 表面 改質 や種 々の 洗浄 へ応 用さ れて いる 。そ こ で
今 回 キャ ビテ ーシ ョン噴 流を 用い て多 孔質 なフ ィク スチ ャー 表面 に形 成さ れた バイ オ フ
ィルムの除去効果を検討した。
【 方 法】 キャ ビテ ーショ ンノ ズル の出 口形 状( 出口 長さ : Ld 、出 口角 度: θd )、噴 射 条
件 (噴 射圧 力: p 、 対象ま での スタ ンド オフ 距離 : s )を 変動 させ 、それ ぞれ の組 み合 わ
せ の 条 件 に お い て PVDFセ ン サ ー を 用 い て 単 位 時 間 当 た り の 衝 撃 力 と そ の 頻 度 を 測 定 し
た 。 測定 され た衝 撃力と 頻度 を基 に衝 撃エ ネル ギー を算 出し 、最 も衝 撃エ ネル ギー の 大
きい組み合わせの条件でバイオフィルム除去実験を行った。4人の研究協力者の上顎臼歯
頬 側 部に レジ ンで 口腔内 ステ ント を作 製し た。 ステ ント 上に フィ クス チャ ーを 装着 し 、
72時 間後 に形 成さ れたバ イオ フィ ルム を実 験に 供し た。 フィ クス チャ ー上 に形 成し た バ
イ オ フィ ルム に対 して、 キャ ビテ ーシ ョン 噴流 とウ ォー ター ジェ ット で除 去効 果を 比 較
した。また、キャビテーション噴流の噴射時間( 30秒、60秒、180秒)による除去効果へ
の 影 響を 検討 した 。さら に、 フィ クス チャ ーの スレ ッド のね じ山 部と ねじ 谷部 での そ れ
ぞれの除去効果を比較した。除去効果は噴射前後の状態をデジタルマイクロスコープ
( VHX-2000, Keyence, Osaka, Japan ) と 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 ( VHX-D500/D510,Keyence,
Osaka, Japan)にて観察・評価した。
【 結 果】 キャ ビテ ーショ ン噴 流は ウォ ータ ージ ェッ トと 比較 して 有意 に高 いバ イオ フ ィ
ル ム 除去 効果 を示 した。 バイ オフ ィル ム残 存率 はキ ャビ テー ショ ン噴 流に より 、時 間 依
存的に減少した。60秒、180秒の噴射では、ねじ谷部においてねじ山部と比較して有意に
高い除去効果を示した。
【 結 論】 本研 究か ら、キ ャビ テー ショ ン噴 流は フィ クス チャ ー表 面か らバ イオ フィ ル ム
を除去するための有効な方法であることが示唆された。
本論文の審査にあたり副査から多くの質問があり,その一部と回答を以下に示す.
宮﨑委員の質問とそれに対する回答
1.本研究で用いた装置は今までに比べてどう実用的になったか。
(以前に報告したチタン試験片上のバイオフィルム除去試験に用いたノズルはガラス製であ
ったが、今回の実験で用いたノズルはアクリル製であり、寸法の再現性も良く、量産も容易で
ある。現状のノズルでは、実際の口腔内で用いるにはステントを併用するなどしてノズル周囲
に水中環境を作る必要がある。その欠点を改善したノズル内部に水中環境が作成しステントが
不要なノズルも開発中であり、今後それについてもバイオフィルムの除去効果を検討していき
たいと考えている。)
2.今回の実験では被験者の口腔内で形成したバイオフィルムを用いており、バラツキがあった
かと思われる。実験に用いるにあたってそれをどう取捨選択したか。
(噴射試験前に、ステントから撤去したフィクスチャーを歯垢染色液で染出しを行い、デジタ
ルマイクロスコープによる観察を行った。染色されたバイオフィルムが噴射する範囲を全て覆
っていないものは実験に用いなかった。)
桑田委員の質問とそれに対する回答
1.キャビテーションによってスレッドの谷部のバイオフィルムが効果的に除去されているが、
この結果は予想されうるものであったのか。
(超音波スケーラーや手用スケーラーといった機械的な清掃器具とは違い、谷部においても水
流やキャビテーション気泡が到達しやすいため、谷部においてもある程度除去はできるとは予
想していた。しかし、山部と比較して谷部において統計学的に有意に除去がされるとまでは予
想外であった。また、共同研究者であるキャビテーションの専門家の見地からしても予想外の
結果であった。この結果は、スレッドの谷部では水の流速が遅くなるため、キャビテーション
気泡が山部と比較して留まりやすく、谷部で気泡が崩壊する頻度が高くなったことによるもの
と考察している。)
2.キ ャ ビ テ ー シ ョ ン 噴 流 に よ る バ イ オ フ ィ ル ム 除 去 が 難 し く な る 小 窩 の サ イ ズ は ど の ぐ ら い
のサイズか。
(今回の研究で用いたフィクスチャーは現在主流である中等度粗面をもつものであり、その小
窩の大きさは 10~20μm である。キャビテーション噴流によるバイオフィルム除去は、キャ
ビテーション気泡が対象にぶつかることにより起こるのではなく、キャビテーション気泡の崩
壊時の衝撃力によるものであるため、小窩の大きさがより小さくなったとしても小窩内部にそ
の衝撃力は伝播され、バイオフィルムは除去されると考えられる。)
これらの試問に対する回答は,適切かつ明解であった.また,馬場委員は主査の立場から,両
副査の質問に対する回答の妥当性を確認した.
以上の審査結果から,本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判定した.