論 文 審 査 の 要 旨

論 文 審 査 の 要 旨
報告番号
甲 第 2793 号
論文審査担当者
氏 名
主査
教授
宮﨑
隆
副査
教授
佐藤
裕二
副査
教授
弘中
祥司
西山
弘崇
(論文審査の要旨)
学位申請論文「Clinical evaluation of newly developed Zirconia framework for complete
denture fabrication」について,上記の主査 1 名,副査 2 名が個別に審査を行った.
Ceria stabilized zirconia/alumina (Ce-TZP/A) nanocomposite (Nano-Zirconia, Panasonic
Healthcare,Japan)は高い曲げ強さと破壊靱性値を有する.本研究では, Nano-Zirconia をフ
レ ー ム ワ ー ク に 用 い た 総 義 歯 を 開 発 , そ の 治 療 効 果 を 患 者 の 義 歯 満 足 度 お よ び 口 腔 関 連 QoL
を用いて評価,従来義歯と比較検討した.その結果,装着期間内でのジルコニア義歯の破損は
認められず,生存率は 100%であった.ジルコニア義歯装着後の義歯満足度は,装着前と比較
して有意な向上を認め,口腔関連 QoL に関してもすべての項 目において新義歯装着 後に改善傾
向を認めた.従来義歯と比較すると,義歯満足度,口腔関連 QoL のどちらにおいても 2 群間に
統計的な有意差は認めなかった.義歯満足度,口腔関連 QoL を指標とすると,CAD/CAM 製作に
よる Nano-Zirconia をフレームワークに用いたジルコニア義歯は従来義歯と同程度の治療効
果を示し,臨床的な有用性が示唆された.
本論文の審査において副査ならびに主査から多くの質問があり,その一部とそれらに対する
回答を以下に示す.
副査
佐藤委員の質問とそれらに対する回答:
(1)ジルコニ ア義歯と従来 義歯の 2 群間で術前診 査はどの程 度行ってい るのか .
患者除外基準として,(a)旧義歯による疼痛を有さない(b)下顎の治療を今後必要としない,と
いう点を挙げているものの,術前における旧義歯の質や顎堤および口腔乾燥状態等は評価でき
ていない.術前における患者満足度および口腔関連 QoL の評価値が 2 群間で大きな差異を認め
なかったため,これらの因子が術後アウトカムに与える影響は比較的少ないと考えている.
(2)長期経過 を考慮した際 にリライン 等の修理は 可能である のか.
先行研究により,ジルコ ニアフレームとアクリルレジンとの接着プロトコール(アルミナサ
ンドブラスト+トライボケミカル処理+MDP プライマー)が確立されており,従来義歯と同様
にリラインすることが可能となっている.
副査
弘中委員の質問とそれらに対する回答:
(1)従来型の 義歯と比較し て適合精度 は変化なか ったか .
鋳造収縮などを考慮するとジルコニア義歯の方が適合精度に優れると予想されるが,今後の
研究課題としておりまだ実証できていない.現在 VAS の質問項目に適合精度に関する項目を追
加しており,さらに今後は模型実験による適合精度の比較を in vitro で行っていく予定であ
る.
(2)ジルコニ ア義歯と従来 型義歯の製 作において,技工士の違 いが術後 アウトカム に与えた
影響 はなかった か.
ジルコニア義歯の技工士選択においては,従来型義歯製作と同様に行っているため,完成義
歯の質という観点では 2 群間に差異はないものと考えられる.また,ジルコニアフレームの設
計に関しては 1 人の術者が全症例のデザインを行っており,群間内における差異もないものと
考えられる.しかしながら,より研究の質を高めるためには,術者および技工士を 1 人あるい
は 2 人で統一するような研究プロトコールが必要である.
(3)Fig4 で口 腔機能と審 美性の評価 値が高い こ とは何を示 しているの か.
OHIP は,その評価値が高い方が口腔関連 QoL の障害度が高いことを示している.本研究で
用いた OHIP の 4 サブドメイン分類は,質問内容と強い相関を持つ患者の困りごとを医学的根
拠に基づき分類したものであり,無歯顎患者における患者の困りごとは口腔機能と審美性に集
約されることを示していると考えられる.
主査
宮﨑委員の質問とそれらに対する回答:
(1)本研究の 歯科補綴学に 対する意義 は何 か.
本研究ではジルコニア義歯の臨床評価に患者立脚型アウトカムを用い,従来義歯と同程度の
治療効果があることを示唆した.デジタル・ワークフロー製作によるジルコニア義歯は,煩雑
な技工操作からの脱却だけでなく,金属アレルギー患者へ応用可能であるという利点を有し ,
補綴治療への波及効果は大きいと考えられる.
(2)ジルコニ ア義歯の今後 の展望は何 か.
CAD/CAM シ ス テ ム を 用 い た 義 歯 床 用 フ レ ー ム ワ ー ク の デ ジ タ ル 製 作 の 可 能 性 を 本 研 究 で は
示した.今後は,光学印象を用いた欠損部顎堤の印象採得や義歯 床研磨面形態の決定や人工歯
排列に CAD/CAM システムを用い,義歯製作ワークフローのフルデジタル化を目指していく.
主査の宮﨑委員は,2 名の副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに,本論文の
主張をさらに確認するために上記の質問をしたところ,明確かつ適切な回答が得られた.以上
の審査結果から,本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した.