別紙2(論文) 海洋博公園における設備整備事例とその効果 伊良部 1沖縄総合事務局 国営沖縄記念公園事務所 哲1・石垣 工務課 太士1 (〒905-0206 沖縄県国頭郡本部町字石川424番地). 国営沖縄記念公園海洋博覧会地区(以下,海洋博公園という)の主たる設備である,空気調 和設備の経年劣化に伴う更新にあたって,メンテナンス費や光熱費の高額化等,海洋博公園の 維持管理上の課題を併せて解決するため,受変電設備や発電設備等を含む既存設備構成を一新 する整備(以下,設備リニューアルという)を行った. 本論文ではその設備リニューアルの事例とそれによって得られた効果,および設備リニュー アル後に生じた課題と対応状況について報告する. キーワード 常用発電機の非常用化,設備エネルギー源の転換,受電電圧の特別高圧化 劣化が進んでいる状況であった.空気調和設備の故障等 が発生すると,施設利用者の快適性等,施設としてのサ ービス性能が著しく損なわれることから,早急に設備を (1) 海洋博公園の概要 更新する必要があった. 海洋博公園は,昭和50年度(1975年)に開催された沖 また一方で,以下に示す維持管理上の課題もあった. 縄国際海洋博覧会を記念して,昭和51年8月に博覧会跡 a) 高稼働機器のメンテナンス費の高額化 地に設置された国営公園であり,年間400万人以上が訪 常時稼働させていた常用発電機について,高稼働機器 れる沖縄県の観光振興の中核施設である. であることから,年1 回の分解点検や部品交換・修繕等 海洋博公園の主要施設として,図-1に示す沖縄美ら海 が必要となり,そのメンテナンス費が高額化していた. 水族館,美ら海プラザ,海洋文化館,熱帯ドリームセン b) 原油価格の高騰による光熱費の高額化 ター等があり,それらの施設運営を円滑に行うためには, 海洋博公園全体のエネルギー使用量のうち,約64%を A重油からまかなっていたため,原油価格の高騰により, 設備機能の維持が必要不可欠である. 光熱費が高額化していた. 1. はじめに 沖縄美ら海水族館 海洋文化館 美ら海プラザ 熱帯ドリームセンター 図-1 海洋博公園主要施設 (2) 従前の状況と課題 海洋博公園の主たる設備のうち,空気調和設備につい ては,設置後約20年経過しており,経年による機器等の (3) 課題解決のための対策 従前の課題に対して,既存同様の設備構成のまま空気 調和設備の更新をするだけでは,前記(2) a) , b) に示す課 題の解決にはならないため,以下の対策を併せて実施す ることとした。 a) 常用発電機の非常用化 年1回の分解点検や部品交換・修繕等が必要なくなる よう,常時稼働させていた常用発電機を,停電時のみ稼 働する非常用発電機に用途変更(以下、非常用化とい う)する. b) 設備エネルギー源の転換 A重油をエネルギー源として稼働していた冷水プラン トの空気調和設備の主要機器を,電気をエネルギー源と する機器に更新する. また常用発電所の空気調和設備については,常用発電 機からの排熱を利用するコージェネレーションシステム としていたため,前記(3) a) の対策で発電機を常時稼働 させないことになれば,エネルギー源の転換は必要不可 欠となる. c) 受電電圧の特別高圧化 前記(3) a) , b) の対策を実施する場合,契約電力が 2,000 kWを大幅に超えるため,電気事業者(以下,沖縄 電力という)の供給約款上定められている,受電電圧を 高圧から特別高圧に変更する(以下,特別高圧化とい う)ことが必要不可欠となる. 図-2に課題と対策の相関図を示す. (2) 発電設備の改修 常用発電機の非常用化のため,停電時の自動起動およ び復電時の自動停止等,非常用発電機として動作させる よう制御回路の改修を行う.また,今回更新する常用発 電所の空気調和設備にて既存の海水冷却器を使用するた め,発電機用の冷却塔を新設する. 表-2に設備仕様比較表,図-4に整備状況写真を示す. 表-2 発電設備仕様比較表 施設名称 項目 リニューアル前 常用発電所 形式 屋内オープン形 原動機 ディーゼル機関 エネルギー源 A 重油 発電出力 1,960 kW リニューアル後 既存設備利用 用途 常用 非常用 冷却方式 海水冷却 冷却塔 発電機 備考 制御回路改修 冷却塔 図-2 課題と対策相関図 図-4 発電設備整備状況写真 2. 設備リニューアルの概要 (1) 空気調和設備の更新 設備エネルギー源の転換のため,冷水プラントの直だ き吸収式冷凍機および常用発電所の吸収式冷凍機を,圧 縮式冷凍機に更新する. 表-1に設備仕様比較表,図-3に整備状況写真を示す. 表-1 空気調和設備仕様比較表 施設名称 冷水プラント 項目 リニューアル前 リニューアル後 主要機器 直だき吸収式冷凍機 圧縮式冷凍機 エネルギー源 A 重油 電気 冷却方式 冷却塔 冷却塔 冷凍能力 3,516 kW 214 kW 2,814 kW 814 kW 圧縮式冷凍機 電気出力 常用発電所 主要機器 吸収式冷凍機 エネルギー源 常用発電機排熱 電気 冷却方式 海水冷却 海水冷却 冷凍能力 738 kW 417 kW 120 kW 1,406 kW 417 kW 375 kW 蓄熱利用能力 電気出力 備考 (3) 特別高圧受変電設備の新設 受電電圧の特別高圧化のため,特高変電所を新築し, その建物内に特別高圧受変電設備を新設する. 表-3に設備仕様比較表,図-5に整備状況写真を示す. 表-3 高圧受電・特別高圧受変電設備仕様比較表 施設名称 項目 リニューアル前 中央開閉所 受電電圧 6,000 V 契約電力 2,100 kW リニューアル後 特高変電所 受電電圧 20,000 V (新築) 変圧器容量 7,500 kVA 契約電力 4,060 kW 特高変電所 備考 現在 3,850kW 特別高圧受変電設備 関連機器含む 水蓄熱 関連機器含む 図-5 特別高圧受変電設備整備状況写真 圧縮式冷凍機 (冷水プラント) 圧縮式冷凍機 (常用発電所) 図-3 空気調和設備整備状況写真 (4) 受変電・動力設備の増設 前記(1) の空気調和設備の更新による電気出力の増加 に伴い,電源送り等に必要となる変圧器および制御盤の 増設を行う. 表-4に設備仕様の比較表,図-6に整備状況写真を示す. 表-4 受変電・動力設備仕様比較表 施設名称 項目 リニューアル前 リニューアル後 冷水プラント 受変電盤面数 10面 12面 変圧器容量 725 kVA 2面 17面 1,225 kVA 5面 18 面 350 kVA 1面 850 kVA 4面 制御盤面数 常用発電所 受変電盤面数 変圧器容量 制御盤面数 増設受変電盤 (冷水プラント) 増設受変電盤 (常用発電所) 備考 増設制御盤 (冷水プラント) 増設制御盤 (常用発電所) 図-6 受変電・動力設備整備状況写真 (5) 設備構成 前記(1) , (2) , (3) , (4) に示す設備リニューアルの全体像 把握のため,図-7,図-8にリニューアル前とリニューア ル後の設備構成図を示す. 図-8 設備構成図(リニューアル後) 公園内の電力系統と冷水系統の変更内容を以下に示す. a) 電力系統の変更 今回非常用化した発電機の発電電力を有効活用できる よう,常用発電所から中央開閉所までケーブルを新設し, 停電時に,発電した電力を必要箇所へ供給できるように した. b) 冷水系統の変更 従前は常用発電所の冷凍機の冷凍能力が不足していた ため,夏季には冷水プラントの空気調和設備で不足冷水 を供給していたが,冷凍能力の見直しを行い,更新後は 常用発電所の空気調和設備だけで美ら海水族館の冷水を まかなえるようにした. 3. 設備リニューアルの効果 図-7 設備構成図(リニューアル前) (1) メンテナンス費・光熱費の削減 従前まで必要だった年1回の分解点検や部品交換・修 繕等に加え,排気ガスのばい煙量等測定やボイラーの性 能検査等の法定点検が必要なくなったため,日常の保守 点検を除く発電機のメンテナンス費が年間約 4,500万円, 率にして約 98%削減できた. また,従前まで海洋博公園全体のエネルギー使用量の 約 64%をまかなっていたA重油の使用比率が約 3%まで 下がったことにより,光熱費が年間約 5,200万円,率に して約 12%削減できた. なお,既存同様の設備構成のまま空気調和設備更新だ けを行った場合と今回の設備リニューアルの整備費の差 額は約 4億5,000万円であるが,年間約 9,700万円の維持管 理費削減ができ,今後も同様の削減が見込まれるため, 約 4年 7ヶ月で償却できる予定である. 図-9に年間費用の比較グラフ,図-10に経年費用の比 較グラフを示す. 図-9 メンテナンス費・光熱費比較グラフ 4. 設備リニューアル後に生じた課題と対応状況 (1) 設備リニューアル後に生じた課題 従前は中央開閉所まで地中線で電力引込をしていたが, 受電電圧の特別高圧化にあたって,沖縄電力から海洋博 公園に専用で電力引込をするための特別高圧の地中線が 無かったことから,電力引込の系統を伊江島に至る架空 線の伊江線1号と共用することになった. 伊江線1号が停電した場合には,伊是名島に至る伊是 名線1号に沖縄電力側で手動で切替えができるようにな っていたが,両方とも長距離にわたる架空線であったた め,台風等自然災害等の影響を受けやすい状況であった. そういった状況の中,近年台風の影響で伊江線1号が 停電し,屋外作業である伊是名線1号への切替作業が暴 風のため遅れたことで,海洋博公園の全体停電が長期化 したことがあったことから,早急に電力引込の信頼性を 向上させる必要があった. (2) 対応状況 前記(1)に示す課題の解決のため,沖縄電力と協議を 重ねた結果,負担金工事として沖縄電力側で海洋博公園 専用の地中線を新設することとした.これにより台風等 自然災害等の影響を受けづらくなり,電力引込の信頼性 が格段に向上すると考える. 図-12に電力引込の現状と将来像を示す. 図-10 整備費・維持管理費経年比較グラフ (2) 一次エネルギー・CO2排出量の削減 常用発電機を非常用化したことにより,夜間等電力需 要が少ない時間帯の発電電力のロスが無くなったため, 海洋博公園全体で消費する一次エネルギーは年間約 16,000GJ,率にして約 6.9%削減できた.また,CO2排出 量は年間約 178 t-CO2,率にして約 1.0%削減できた. 図-11に年間量の比較グラフを示す. 図-12 電力引込の現状と将来像 5. おわりに 図-11 一次エネルギー・CO2排出量比較グラフ 今回の設備リニューアルにより,目的であった維持管 理費削減のほか,海洋博公園の整備に係る重点項目であ る,「老朽化施設の更新による利用者の利便性・快適性 の向上」や「省エネルギー化による環境保全性の向上」 にも寄与できたと考える.今後も引き続き施設機能の維 持・向上を図り,魅力ある公園づくりを進めていきたい.
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