日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に

岩 間 陽一郎
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に
関するアンケートについて
~アセットマネジャーがスチュワードシップ責任を
果たすための取組みと今後の課題~ です。それから、アンケート等についての今日の
レジュメです。これに基づいてお話をさせていた
ドは英国のモデルででき上がっておりますので、
ご紹介いただいた岩間でございます。過分なご
紹介をいただき、この壇に登るのが恐ろしい気持
ご紹介いただきましたように、本日のテーマは
「日本版スチュワードシップ・コードへの対応等
その状況などにもちょっと言及させていただき、
だくつもりです。
に関するアンケートについて~アセットマネ
その後、協会での取組みについて、繋げてお話し
ちでございますけれども、今回お招きいただきま
ジャーがスチュワードシップ責任を果たすための
したいと存じます。
して大変光栄に存じております。
取 組 み と 今 後 の 課 題 ~」 と さ せ て い た だ き ま し
せっかくの機会ですので、投資家から見たコー
ポレートガバナンスの本質、それから我々のコー
た。お手元に資料をお渡ししてございます。一枚
もとより私はこの分野の専門家ではございませ
んし、私の属する組織は資産運用業に関する自主
紙のものはスチュワードシップ・コードそのもの
― ―
1
めお断りしておきたいと存じます。
容はあくまで私個人の見解であることをあらかじ
らのお話となると思いますが、本日お話しする内
規制団体でございますので、主にその立ち位置か
益力と成長力が長期にわたって低迷してしまった
この要因は一体何なのか、いろいろ考えられる
わけですが、何といいましても、日本の企業の収
ころまで落ち込んでおります。
ことが主因であろうと言われています。また、一
のような経緯で関心を持つに至ったかについて
のご紹介と、そもそも私がガバナンスの問題にど
それでは、資料一ページの目次に沿って進めさ
せていただきます。初めに、日本投資顧問業協会
実であろうと思います。
あったのではないかという指摘があったことも事
ポレートガバナンスのあり方そのものにも問題が
ご記憶の方も多いと存じますが、バブルのピー
ク時には、日本の株式市場の世界市場に占める割
投資家の我が国のコーポレートガバナンスに対す
はありますが、内外の中長期の時間軸で判断する
― ―
2
面で、日本企業のパフォーマンスの低下は、コー
も、若干触れさせていただきたいと思います。
取 り 上 げ ら れ、 ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ・ コ ー ド と
コーポレートガバナンス・コードが相次いで整備
合は瞬間的には四割というレベルに達していたと
る評価は、私の実感するところでは、様変わりに
された現在では、改革はまだ緒についたばかりで
記憶しておりますが、現状は、一割を相当切ると
一、はじめに
ただ、そうではありますが、日本再興戦略の大
きなテーマとしてコーポレートガバナンス改革が
証券レビュー 第56巻第7号
す。
行きを期待感を持って見つつあると感じておりま
良くなりつつあると思います。彼らは今後の成り
いと思っております。
在どのようになっているのか、さらには今後どの
来、スチュワードシップ・コードの定着状況が現
コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス の 意 味 を 考 え、 策 定 以
て関与させていただいてまいりました。そういっ
どもの協会も、いろいろな機会にこの問題につい
議」に参加する機会を与えられました。また、私
は、一九八七年に当時の投資顧問業法に基づいて
じます。ここにお示しするとおり、私どもの協会
じます。資料の二ページをご覧いただきたいと存
ここで、日本投資顧問業協会とはそもそも何で
あるかについて、簡単にご説明しておきたいと存
二、日本投資顧問業協会について
ような点に留意していくべきかという点に触れた
私は、ご紹介にもございましたように、二〇一
三年の一一月から金融庁と財務省の共催で開かれ
在も継続中の、金融庁と東京証券取引所との共催
である「スチュワードシップ・コード及びコーポ
たことでガバナンス改革検討の過程に身を置いた
設立され、現在では金融商品取引法第七八条に規
レ ー ト ガ バ ナ ン ス・ コ ー ド の フ ォ ロ ー ア ッ プ 会
者の一人としての経験を踏まえまして、今日のお
定される認定金融商品取引業協会、いわゆる資産
協会の目的は、会員の業務が公正かつ円滑に運
運用を行う投資顧問会社の自主規制団体です。
話をさせていただこうと思っております。
スチュワードシップ責任を果たすべき機関投資
家の一員であるアセットマネジャーの視点から
― ―
3
た「金融・資本市場活性化有識者会合」、及び現
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
社、投資助言・代理会員は四七六社、合計七四五
このページの最下段にお示しするとおり、現在
の会員数は本年三月末で投資運用会員が二六九
ことを促すことにございます。
を図ると同時に、資産運用業界が健全に発展する
営されることを確保することによる投資者の保護
セットオーナーの視点から見ますと、一部の短期
間軸で投資運用の成果を期待する顧客投資家、ア
併営している会社が多いわけですが、中長期の時
ナーから資金運用を受託し、あるいは個人投資家
ど の 基 金、 さ ら に は 金 融 機 関 等 の ア セ ッ ト オ ー
ジャー、投資顧問会社は、年金基金、学校法人な
の資産形成に寄与すべく、各種投資信託の運用を
社です。全体の運用資産残高は同じ時期の三月末
時間軸の運用を除き、投資先企業株式の持続的な
て、ロングターミズムを復活させることは、これ
― ―
4
時点で約二四〇兆円になっております。
価値向上が非常に大事であることは論をまたない
と思います。
(「責任ある機関投資家のあり方」の確立)
す。二〇一二年に英国で出され、我が国の伊藤レ
三、コーポレートガバナンスの本
質(機関投資家の役割)
それでは、機関投資家の立場から見た「攻めの
コーポレートガバナンス」ということで私見を述
ポートのモデルとなったと考えられているケイ・
世界的に現在、指摘されている株式市場におけ
るショートターミズムの行き過ぎの弊害を緩和し
べさせていただきます。
レ ビ ュ ー が 指 摘 し て い る の は、 ま さ に こ の 点 で
らの長期投資家にとって極めて望ましいことで
私 ど も の 会 員 会 社、 い わ ゆ る ア セ ッ ト マ ネ
証券レビュー 第56巻第7号
業価値の成長期待性の高い銘柄、あるいは企業価
り、株式投資に当たっては、中長期的時間軸で企
最善の運用を心がけなければならない立場にあ
一方、アセットオーナーから運用受託をするア
セットマネジャーは、顧客投資家の利益最優先で
になります。
デューティー)だけでは網羅できないということ
も あ り、 受 託 者 責 任( フ ィ デ ュ ー シ ャ リ ー・
ではなく、保険会社など契約責任に依拠する主体
どのアセットオーナーやアセットマネジャーだけ
す。
値評価が本質的価値を下回る銘柄に投資し、狙い
てにとって大いに歓迎すべきことです。いわゆる
とするならば、これは企業のステークホルダー全
価値そのものの拡大に寄与することがもしできる
成果の確実性向上に寄与する、言いかえれば企業
その際に、狙いどおりの成果をただ待つだけで
はなく、企業の経営に対し有効な働きかけをし、
ワードシップという、より広い概念に立って、責
ア ホ ル ダ ー・ コ ミ ッ テ ィ ー) を 結 成 し、 ス チ ュ
員会(ISC、インスティテューショナル・シェ
と言われる人たちが自主的に集まり、機関株主委
家(インスティテューショナル・インベスター)
運用協会、年金基金協会など、いわゆる機関投資
― ―
5
他人の資金を預かる立場にある主体は、厳格な
受託者責任を負うべき年金基金、学校法人基金な
どおりの成果を追求します。
我が国のモデルとなった英国では、一九九〇年
代の初めに既に保険業協会や投資会社協会、投資
エンゲージメント、投資家と企業経営者との効果
わ れ て お り ま す。 日 本 版 ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ・
任ある機関投資家のあり方を確立していったと言
す。
的な対話の重要性がここにあると言われておりま
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
トオーナーの署名、参画を奨励しているゆえんで
銘打ち、アセットマネジャーだけでなく、アセッ
コードも、「『責任ある機関投資家』の諸原則」と
立」として、スチュワードシップ・コードや適切
右側の「二〇二〇年の姿」では、「豊富な家計
資金と公的年金等が成長マネーに向う循環の確
おります。
な企業統治が明記されています。
もあるわけです。
(「金融・資本市場活性化に向けての提言」)
(スチュワードシップ・コードとコーポレートガ
融・資本市場活性化に向けての提言」の概要を示
た、現在開催されている「スチュワードシップ・
続いて、資料四ページと五ページをご覧いただ
き た い と 存 じ ま す。 こ ち ら は 先 ほ ど お 話 の あ っ
バナンス・コード)
しております。左下の枠で囲んだ部分と右側の枠
コ ー ド 及 び コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス・ コ ー ド の
融・資本市場活性化有識者会合」がまとめた「金
で囲んだ部分にご注目いただきたいと存じます。
強 化、 起 業 の 促 進 」 に お い て、「 企 業 の 新 陳 代
たす機関投資家の行動原則としてのスチュワード
四 ペ ー ジ で は、 資 金 の 最 終 的 出 し 手 で あ る 個
人、年金受給者、保険契約者等に対する責任を果
フォローアップ会議」の資料です。
謝・ ガ バ ナ ン ス 強 化 に 向 け た 取 組 」 と し て の ス
シップ・コードと、株主、ステークホルダーに対
左 下 の「 二 〇 一 四 年 か ら 直 ち に 着 手 す べ き 施
策」では、施策の一つである③「企業の競争力の
チュワードシップ・コードの導入等が挙げられて
― ―
6
ここで資料三ページをご覧いただきたいと存じ
ます。ここにお示しする図は、冒頭に述べた「金
証券レビュー 第56巻第7号
五 ペ ー ジ の 図 を ご 覧 い た だ き ま す と、 ス チ ュ
ワ ー ド シ ッ プ・ コ ー ド と コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン
とが示されております。
レートガバナンス・コードとが車の両輪であるこ
する責任を果たす企業の行動原則であるコーポ
迫ってみるのが私の立場です。
こ と に つ い て、 ア セ ッ ト マ ネ ジ ャ ー の 立 場 か ら
います。この構図を頭に置きながら、我が国にお
割が期待されているかがおわかりいただけると思
マネジャーの両方を指しますが、いかに重要な役
には、関係当事者がそれぞれの立場で粘り強く、
事はこの絵に描いたようにそう簡単ではないと
私も思いますが、この狙いどおりに事が運ぶため
おります。
点となって実現し、好循環となることが示されて
との間の建設的な対話(エンゲージメント)が起
中長期的リターン向上が、上場企業と機関投資家
シップ・コードの制定を促し、その実行を支援し
コーポレートガバナンス・コードとスチュワード
略の根幹に据え、企業と投資家の双方にそれぞれ
開企業の持続的企業価値の増殖なくして日本経済
日本再興戦略でコーポレートガバナンス改革が
取り上げられた観点は、ご高承のとおり、上場公
(日本のコーポレートガバナンスの動き)
いてなぜ今コーポレートガバナンスなのかという
ス・コードが車の両輪として機能することによっ
しつこくこれをやっていかなければいけないと
ようというものであると認識しております。
したがって、これは必ずしも企業と投資家との
再興はあり得ないというメッセージを強調して戦
思っております。この好循環を目指す中で、機関
投資家、これはアセットオーナー並びにアセット
― ―
7
て、中長期的な企業価値向上と投資家にとっての
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
は、ここにあると理解しております。
く、「 攻 め の ガ バ ナ ン ス 」 で あ る と 言 わ れ る の
止 す る と い う「 守 り の ガ バ ナ ン ス 」 だ け で は な
ようというものですので、経営を監視し暴走を防
ることを通じて、企業価値の健全な成長を実現し
投資家が建設的かつ緊張感を持った対話を実践す
判がないわけではないのですけれども、経営者と
ということは、実は海外からは手ぬるいという批
対決の構図ではありません。対決の構図ではない
件とされているのもご高承のとおりです。
いかんを問わず独立社外取締役を複数置くこと
わけですが、実効性を高めるために、組織形態の
おりです。いずれも取締役会の強化を図っている
委員会等設置会社が置かれているのはご存じのと
れ、現在では監査等委員会設置会社あるいは指名
ガバナンスの仕組みを改善する目的で、従来の
監査役会設置会社に加えて各種の手当てがなさ
おりです。
挙にいとまがないことは皆さんもよくご存じのと
かり発揮されないと経営が暴走することになりか
とを期待されている立場であり、この機能がしっ
である株主の利益を守るために経営を監視するこ
意味で受託者の立場にあります。取締役は委託者
の利益のために運用業務を遂行する立場にありま
のフィデューシャリーとして、アセットオーナー
繰 り 返 し に な り ま す け れ ど も、 ア セ ッ ト マ ネ
ジャーは、アセットオーナーの委託を受けて、そ
(アセットマネジャーの役割)
が、新しいコーポレートガバナンス・コードで要
ここで鍵を握るのは、企業と株主、投資家の間
の友好的かつ建設的な対話の実施になります。企
ねません。残念なことに、暴走した例は過去、枚
業経営者は株主から経営を委嘱されているという
証券レビュー 第56巻第7号
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に、むしろ企業価値の成長をいかにして確実にす
を阻害する可能性はできるだけ排除するととも
の委託に応えるためにも、持続的企業価値の成長
思います。個々の年金受給者やそのほかの受益者
このように株主の利益ということで考えます
と、かなり広い範囲の当事者の利益を意味すると
す。
受給者となる社員そのものと言ってもいいわけで
るとも言えます。企業年金基金で言えば、将来の
金を例にとれば、実際の株主は個々の受益者であ
ことになるわけです。さらに言いますと、年金基
することにおいては取締役と全く同じ立場にある
せん。これはとりもなおさず、株主の利益を代表
アセットオーナーの利益を代表しなければなりま
す。株式投資運用を行う際には、実質株主である
主が経営陣に全幅の信任を与えていることにほか
ことは、裏を返しますと、取締役会、すなわち株
て確立し、経営の監督の実効性が担保されている
す。コーポレートガバナンスの仕組みが会社とし
めて実現する裁量でなければならないと思いま
はしっかりしたガバナンスのもとで信任を得て初
とができることが望ましいと考えることは、ある
が、経営の裁量を可能な限り自由に幅広く持つこ
経営者の立場から言いますと、私もかつては保
険会社の経営に参画する立場であったわけです
と思います。
すと、社会全体にとって極めて重要なことになる
捉えがちですけれども、このような観点に立ちま
ております。単に株主利益の最大化ということと
はこのためにあると言っても過言ではないと思っ
ならないと思います。
意味、当然であるわけです。しかしながら、これ
ることができるかを大いに志向することが重要で
あり、「攻めのコーポレートガバナンス」の必要
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
― ―
9
のガバナンスが効果を発揮することが極めて重要
あると考えております。守りも必要ですが、攻め
コーポレートガバナンスの本質は、まさにここに
ジャーとして好循環の実現に向けて取り組むべき
の あ る 対 話 と 言 え ま す。 私 は、 ア セ ッ ト マ ネ
この実効性をさらに担保するのが、繰り返しに
なりますが、株主との緊張関係の上に立つ実効性
なら説明せよ(コンプライ・オア・エクスプレイ
厳格なルールベースではなく、いわゆるプリン
シプルベース、つまり遵守するか、遵守できない
と思っております。
を意識して変化している点も、大いに参考になる
の共創、経営者と株主が一緒につくるということ
英国におきましても、従来の企業経営者の暴走
阻止という観点から、最近では中長期的企業価値
ン)というベースのコードの元祖であり、この考
え方は我が国だけでなく、OECDやEU、最近
ではマレーシア等にも導入されていますので、モ
― ―
10
であると思います。
四、英国におけるコーポレートガ
バナンス
す。
デルとしての意味が大いにあると言われておりま
(概観)
(キャドバリー・レポート)
なっている英国について少し触れさせていただき
ます。
資料の七ページをご覧下さい。一九九二年一二
月に有名なキャドバリー・レポートが出されまし
こ こ で、 我 が 国 の コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス・
コードとスチュワードシップ・コードのモデルと
証券レビュー 第56巻第7号
レートガバナンスに関するレポートということ
た。 フ ィ ナ ン シ ャ ル ア ス ペ ク ツ・ オ ブ・ コ ー ポ
会長とCEOは別であるべきである。一人に権
限が集中することは好ましくない。
のような内容となっております。
ンブルグの銀行がある種、放漫経営の結果、破綻
高い事件があったことや、BCCIというルクセ
から、企業年金基金の資金を流用するという悪名
ルが、その経営するメディアグループの経営悪化
財政的利害関係を有しないことも条件である。
過半数が独立であることが必要である。企業との
独立して機能すべきである。非業務執行取締役の
非業務執行取締役は、戦略、パフォーマンス、
資源配分及び行動倫理の設計を判断するために、
ないようですが、当時、ロバート・マックスウェ
する事件など、経営者による暴走が問題視されて
非業務執行取締役が過半を占める報酬委員会が
業務執行役員の報酬を決定すべきである。
取締役の任期は、事前の株主の承認がない限り
三年を超えてはならない。
いた環境であり、コーポレートガバナンスの強化
が重要であるとするキャドバリー委員会の検討結
果報告は、極めてタイムリーなものであったと言
中 間 報 告 書 に、 監 査 人 の 承 認 を 得 た バ ラ ン ス
シートを載せる必要がある。
われております。これは四半世紀も前のことにな
ります。
外部監査人の報酬は公表しなければならない。
並びに外部監査人は定期的に変更することが必要
である。
この報告書の内容は主に、取締役会、会計監査
人のアカウンタビリティー強化等を勧告したもの
となっています。若干具体的に付言しますと、次
― ―
11
で、これは必ずしも直接結びついているわけでは
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
その会社そのもののビジネスが成長するもので
あるということが報告されなければならない。
(統合規範(
す。いかにも英国らしい感じです。
われていきました。
らコーポレートガバナンス改善の試みが次々と行
の右側にあるように、継続的にいろいろな角度か
シェアホルダーとなっていて、企業と機関投資家
し た。 そ の 内 容 は、 セ ク シ ョ ン 1 が カ ン パ ニ ー
ポーティング・カウンシル)によって策定されま
)
一九九八年には、統合規範( Combined Code
が財務報告評議会(FRC、フィナンシャル・レ
))
Combined Code
このようなことが書かれております。このキャ
ドバリー・レポートが契機となり、資料七ページ
このように企業側の規律を高める目的でコーポ
レートガバナンスが強化改良されていくわけです
の双方の規範を統合しました。
に、前述したISCの場での機関投資家の間の自
そ も そ も、 七 ペ ー ジ の 左 側 の 一 番 上 に 示 す よ う
七ページの左側に示された流れです。この動きは
を目指す動きが展開されていきます。これが資料
ジャーと企業との間のエンゲージメントの高質化
範もFRCが管掌することになり、従来のISC
レポートが出され、二〇一〇年に機関投資家の規
しかしながら、その後、資料八ページにあるよ
うに、金融危機の発生を契機としてウォーカー・
コード)
(ウォーカー・レポートとスチュワードシップ・
― ―
12
ズ、セクション2がインスティテューショナル・
が、一方、投資家側の観点から、株主への長期的
主的な検討に基づくコードが起源となっておりま
な リ タ ー ン の 向 上 を 志 向 し て、 ア セ ッ ト マ ネ
証券レビュー 第56巻第7号
に制定されました。
レートガバナンス・コードが、同じく二〇一〇年
い、 従 来 の 統 合 規 範 は 改 定 さ れ、 新 た に コ ー ポ
ド シ ッ プ・ コ ー ド が 制 定 さ れ ま し た。 こ れ に 伴
コードに基づき、二〇一〇年に英国のスチュワー
と投資家がどのように協調して努力すべきかを示
中長期的な視点で企業価値を高めるために、企業
行き過ぎを克服し、ロングターミズム、すなわち
る伊藤レポートと同様に、ショートターミズムの
ます。これは二〇一四年に報告された日本におけ
お、我が国の動きは資料六ページにお示ししてい
で、内容の大要は日本も引き継いでおります。な
当事者は、スチュワード、すなわち執事としての
を含めて第三者の資金を預かって株式投資をする
フィデューシャリーであるアセットオーナー、
アセットマネジャーのみならず、生命保険会社等
唆するものです。
ます。
英国においても、さまざまな要因から株式の平
均保有期間が短くなってきており、ショートター
(ケイ・レビュー)
可欠であると指摘しています。まさにこれは、我
果的対話、エンゲージメントを実行することが不
る責務を負うとされ、中長期的観点に立って企業
視点に立って委託された運用業務を忠実に実行す
ミ ズ ム の 行 き 過 ぎ が 懸 念 さ れ、 ビ ジ ネ ス・ イ ノ
が国のエンゲージメントを重視するスチュワード
シップ・コードの重要性を裏打ちしていると言え
の成長を実現するためには、緊張関係を持った効
ベーション・技能省、日本で言えば経産省の委嘱
で二〇一二年にケイ・レビューが報告されており
― ―
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このスチュワードシップ・コードは、日本版ス
チュワードシップ・コードのお手本となったもの
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
ます。
(FRCによる見直し)
会は、インベストメント・アソシエーションの報
告を見て、我が国のスチュワードシップ・コード
の定着を図る上で参考にしたいと考えておりま
に応じてコードの見直しをするとしております。
を管掌する当局であるFRCは二年に一度、必要
わけですが、アセットマネジャーはそもそも多く
ん。短期的に急な効果が出ることは期待できない
このような取組みは、継続的に粘り強く定着す
る努力なくして効果を期待することはできませ
す。
日本ではこれは三年を目途ということになってお
の 投 資 を 経 験 し、 蓄 積 さ れ た 知 見 か ら 経 営 者 に
み状況を調査し報告しております。この団体は自
ま た、 資 産 運 用 業 団 体 で あ る イ ン ベ ス ト メ ン
ト・アソシエーションは、毎年、会員各社の取組
(インベストメント・アソシエーションの報告)
す。
が協力して実現する共創効果が期待されるわけで
多く報告されております。伊藤レポートが指摘し
― ―
14
これらのコードの定着状況を見守って適宜改良
を加えることを継続的に実施するために、コード
ります。
主規制団体ではありませんが、業界団体としては
単に短期的視野での株主還元を迫るのではな
く、長期の投資時間軸を前提に株式投資を行う機
とっても有益な対話が実現するという好事例も数
当協会と同じような仕事をしておりまして、我々
関投資家が、数多くの投資事例に基づく知見を生
ている、企業価値の中長期的成長を株主と経営者
も情報交換を適時行っている先です。私どもの協
証券レビュー 第56巻第7号
に向かって力を合わせる、まさに共創そのものと
であると考えます。対立軸ではなくて共通の目的
重ねて成果に繋げることは、まさに合理的なもの
業経営の根幹となる事項につき、経営者と対話を
かし、戦略や適切なガバナンスのあり方などの企
特にアセットオーナーのより積極的な関与を期
待する趣旨が示され、この点は我が国にとっても
なものになったと言えます。
組みとの関係などがより詳細に規定され、実践的
応、企業のコーポレートガバナンス・コードの取
オーナーとアセットマネジャーのコードへの対
の改訂)
(二〇一二年の英国スチュワードシップ・コード
務とされていることにも、「攻めのガバナンス」
ているように、経営陣幹部による適切なリスクテ
レートガバナンス・コードの基本原則4に示され
大 い に 参 考 に な る と 思 い ま す。 我 が 国 の コ ー ポ
英国のスチュワードシップ・コードは、当初示
されたように二〇一二年九月に改訂が行われまし
の思想が強くあらわれております。
イクを支える環境整備を行うことが取締役等の責
た。しかしながら、その後、新たに改訂を要する
課題は出ていないようで、これ以降、改訂は行わ
れておりません。二〇一二年の改訂もコードその
ものは基本的に変わっておりませんが、ガイダン
スがより詳細に具体的にわかりやすくなっており
ま す。 目 的 と 定 義 が よ り 明 確 化 さ れ、 ア セ ッ ト
― ―
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言えます。
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
数々の企業経営上の失敗、スキャンダルは、ガ
バナンスの枠組みの欠陥によるとされるものが多
いと感じられます。これの防止策としてガバナン
の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な
に強調するのではなく、むしろ健全な起業家精神
の回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度
いて示されているように、「会社におけるリスク
コーポレートガバナンス・コード原案の序文にお
成長戦略の一環として策定されておりますので、
ドは、いずれも日本再興戦略に基づき、我が国の
繰り返しになりますが、我が国のスチュワード
シップ・コードとコーポレートガバナンス・コー
(中長期的な企業価値の向上)
も、会社にとって重要なパートナーとなり得る存
は、市場の短期主義化が懸念される昨今において
で き る 中 長 期 保 有 の 株 主 で あ り、 こ う し た 株 主
常、ガバナンスの改善が実を結ぶまで待つことが
バナンスの改善を最も強く期待しているのは、通
コーポレートガバナンス・コード原案の序文に
おいてはさらに、「市場においてコーポレートガ
しての認識が強くなってきていると思います。
的な企業価値向上を実現する上での有効な施策と
実ですが、英国における例もそうであるように、
五、「 攻めのガバナンス」が効果
を発揮することが重要
企業価値の向上を図ることに主眼を置いている」
在 で あ る 」 と 示 さ れ て お り ま し て、 こ の 二 つ の
スの改善が提唱されてきた歴史であったことも事
ことを、しっかり認識する必要があると考えてお
コードの車の両輪としての適切な実効性発揮が期
― ―
16
行き過ぎたショートターミズムを抑制し、中長期
ります。
証券レビュー 第56巻第7号
待されます。
(日本版スチュワードシップ・コード)
違ったコメントをされたことを覚えております。
これは、日本が変わることを期待したいという評
価に繋がっていることを象徴的にあらわしている
が検討過程に入ったことを示して、成長戦略の根
し か し な が ら、 翌 年、 で き 上 が っ た コ ー ド を
持って、さらにコーポレートガバナンス・コード
す。
げにすぎないだろうという声が多かったわけで
にできるわけがない、つくったとしてもでっち上
げてきたコードなので、日本で一年でそんな簡単
では一九九〇年代の初めから着実に営々と積み上
しました。その際に英国の人たちの反応は、英国
ドンに出張して、先方の関係者たちと対話をいた
(フォローアップ会議)
これは簡単になせるわけではありません。
ていると言っていいと思います。しかしながら、
合理的な狙いを持ったものであることが評価され
ているかどうかは別として、日本の施策が極めて
あるように感じております。効果が実際に上がっ
らも日本の例に後れをとりたくないということで
と香港が今、策定作業に入っているようです。彼
実 は 日 本 で ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ・ コ ー ド を つ
くって以来、マレーシアがつくり、シンガポール
のではないかと思っております。
底に据えられたことを説明しましたら、あに図ら
二つのコードがその目的とする効果を本当に発
揮できるかどうかは我々の努力次第であり、しっ
ん や、 彼 ら に「 日 本 は ク レ バ ー で あ る 」 と 全 く
― ―
17
私は、日本版スチュワードシップ・コードが検
討段階だった二〇一三年に情報交換のためにロン
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
せていただいておりますが、印象を申し上げます
議論しております。私も委員の一人として参加さ
つのコードの運用状況を振り返り、今後の課題を
者、機関投資家、学者、弁護士等の有識者が、二
ら 始 ま っ て 既 に 八 回 開 催 さ れ ま し た。 企 業 経 営
フォローアップ会議」です。これは昨年の九月か
一つは、先ほど述べた「スチュワードシップ・
コ ー ド 及 び コ ー ポ レ ー ト ガ バ ナ ン ス・ コ ー ド の
ために現在何をやっているかということです。
強くちゃんとやっていかなければいけない。その
かりしなければいけないと思っております。粘り
だければと存じます。
されておりますので、ご興味のある方はご覧いた
す。各回の議事録は金融庁のホームページに開示
の強まりは、顕著なものがあると実感しておりま
のコーポレートガバナンスをめぐる各方面の意識
アセットオーナーも参加されて、コード導入以後
して、実際に経営改革に当たられている経営者や
きているという実感です。ゲスト・スピーカーと
場から率直かつ活発な議論が展開されておりまし
されつつあることは心強いと思います。双方の立
力して当たらなければならないという合意が形成
(日本投資顧問業協会の取組み)
― ―
18
て、回を重ねるとともに議論の焦点もかみ合って
と、議論を重ねるにつれて内容が深まっていると
際に強く感じられるようになってきていると思い
ないという立場で取組みをいろいろやっておりま
ます。
当然のことですが、経営者と機関投資家は対立
するものではなく、中長期的企業価値の成長に協
次に、私ども日本投資顧問業協会としても、ス
チュワードシップ・コードを実践しなければいけ
思います。二つのコードの機能発揮の可能性が実
証券レビュー 第56巻第7号
チュワードシップ・コードの対応状況を加味して
に関するアンケートを毎年やっていて、それにス
も私どもの協会は従来、長年にわたり議決権行使
のを参考にして、過去二回実施しました。そもそ
ベストメント・アソシエーションが行っているも
す。これは先ほどもちょっと言及した英国のイン
るアンケート」を毎年実施することとしておりま
それから、今日のご報告になりますが、「日本
版スチュワードシップ・コードへの対応等に関す
一つは、スチュワードシップ・コードをつくる
際の有識者会議に積極的に参加しました。
す。
くことが協会に課せられた課題であろうと思って
思っております。この面で会員各社を支援してい
業界を挙げて取り組まなければならない課題だと
もう一つは、フィデューシャリーの徹底と運用
の高度化が金融行政方針に示されていて、これは
思います。
いますので、ご興味があればご覧いただければと
れも議事の要約を協会のホームページに開示して
のご意見もいただいて議論を深めております。こ
か、運用会社の経営の立場からの取組みを取り上
論をしております。コード制定以来、機関投資家
げ、さらに今年度はアセットオーナーの立場から
おります。
ご承知のように、日本には過去の蓄積によって
巨大な金融資産が存在しております。これをいか
に効果的に運用して果実を得るかがまさに国家的
― ―
19
としての立場からどのように対応していくべき
リバイズした形で二回やりました。
ナンスについて、投資顧問の立場から多面的な議
義塾大学教授の座長のもとで、コーポレートガバ
それから、平成二三年一〇月にコーポレートガ
バナンス研究会を協会の中に設け、池尾和人慶応
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
からも地道に粘り強く取り組まなければいけない
け責任が重いということであると思います。これ
存分に発揮できるよう期待されています。それだ
に求められ、投資顧問業はその果たすべき役割を
機関投資家と企業経営者の緊張感ある対話がこ
の課題に有効に働くように、共創への努力が非常
す。
全かつ持続的な成長が位置づけられると思いま
その中核に持続的企業価値の成長、株式市場の健
件の一つが金融証券市場の一層の活性化であり、
課題になっています。この実現のための重要な条
いうことも言えます。資料にはございませんが、
だし、会員の取組みには着実な前進が見られると
一言で申し上げますと、アセットマネジャーと
して今後取り組む課題は依然多くございます。た
⑴ アンケートの概要
がアンケート結果です。
いと思います。資料の九ページ以降にありますの
の結果について、概要をご報告させていただきた
シップ・コードへの対応等に関するアンケート」
業協会が実施しております「日本版スチュワード
下、先ほど触れさせていただいた、日本投資顧問
であるGPIFが、アセットマネジャーのスチュ
ております。これは世界最大のアセットオーナー
する上場企業向けアンケート集計結果」を公表し
も、「機関投資家のスチュワードシップ活動に関
年 金 積 立 金 管 理 運 用 独 立 行 政 法 人( G P I F )
と考えております。
六、日本投資顧問業協会のアン
ケート集計結果について
前 段 が 非 常 に 長 く な っ て し ま い ま し た が、 以
証券レビュー 第56巻第7号
― ―
20
参照いただくとよろしいかと存じます。
IFのホームページでご覧いただけますので、ご
ち二六〇社から回答を得た結果です。これもGP
クス400採用企業にアンケートを行い、そのう
対話の実態把握を目的とし、JPX日経インデッ
ワードシップ活動に関する評価と、目的を持った
料の三二ページに添付)のスチュワードシップ・
アンケートは、先ほど言及した一枚紙の資料(資
ぼ全社が方針を策定済みであると言えます。この
株の投資残高ベースでは約九八%をカバーし、ほ
割程度ですけれども、右側の円グラフで示す日本
もしくは策定中とした回答は、社数ベースでは六
コードの順番になっておりますので、コード自体
はこれをご参照いただければと思います。
会員のうちで日本株に投資している会社の大部
分が既にコードを受け入れています。「受入れ予
― ―
21
資料一〇ページにアンケートの概要を示してい
ます。平成二七年度は、計二〇六社の会員を対象
にアンケートを実施しました。
定なし」と回答したものは、そもそも日本株に投
資していないことが主な原因ですので、これでほ
とんど網羅されているということだと思います。
一二ページは、本コードの受入れを表明した機
関投資家の数及びそれらに占める当協会会員の数
状況を示しています。平成二七年にアンケートに
ご回答いただいた一八四社のうち一〇八社、約五
半分以上が当協会の会員です。
です。これは金融庁が出しておられます。全体の
すると約七%増加しております。方針を策定済み
九%が策定済みと回答し、その割合は前年と比較
一一ページには、会員各社の日本版スチュワー
ドシップ・コード(SSC)に関する方針の策定
⑵ 日本版SSC策定状況
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
して運用を任せています。運用会社は、専門家と
なわち、顧客が目指す方向と資産運用会社の経営
用会社における運用報酬の増加に繋がります。す
ばなりません。顧客の資産が増加することが、運
優先して、専ら顧客のために最善を尽くさなけれ
会社はどのような局面においても顧客の利益を最
一三ページは、原則2の利益相反防止に関する
方針の策定状況です。ご承知のように、資産運用
ワーキンググループにおいても、顧客本位の業務
討 は、 今 年 五 月 か ら 行 わ れ て い る 金 融 審 議 会 の
フィデューシャリー・デューティーについての検
められています。これは極めて大事なことです。
シャリー・デューティーを果たすことが完全に求
し 最 善 の 努 力 を す る こ と、 す な わ ち フ ィ デ ュ ー
から、顧客の利益のために専門能力を十分に発揮
⑶ 利益相反防止に関する方針の策定状況
が目指す方向は、完全に一致しなければならない
運営をフィデューシャリー・デューティーとして
称」と説明されておられます。資産運用業界に当
行する者が負うべき幅広い様々な役割・責任の総
れを、「他者の信任に応えるべく一定の任務を遂
るおそれのある局面とはどのようなもので、実際
が、資産運用会社が想定し得る、利益相反が生じ
と し た ら、 当 然 に 顧 客 の 利 益 を 優 先 す べ き で す
この義務を果たすべき資産運用会社が、顧客と
の利益相反が生じるおそれがある局面に直面した
― ―
22
して信頼に基づいて顧客から運用を任された立場
ということです。
てはめますと、顧客は、自らの資産を中長期的に
にそうした局面となったときにどう対処するの
議論が予定されております。
ふやすために、専門家である資産運用会社を信頼
昨今、金融庁が金融行政方針などでフィデュー
シャリー・デューティーの重要性を指摘され、こ
証券レビュー 第56巻第7号
策定と公表であるというのは疑問のないところで
スの要諦の一つが、利益相反の防止に係る方針の
も当然あります。資産運用会社におけるガバナン
ナンス体制はどうなっているのかと問われる場合
ていくわけですが、逆に、注文をつける側のガバ
ついてモニターし、必要に応じて注文などをつけ
資産運用会社は、スチュワードシップ・コード
に基づいて、投資先企業のガバナンス体制などに
必要があるとしておりますのが原則2です。
か。こういったことを方針として策定し公表する
としたもので、こちらも同様の結果となっており
右 側 の 円 グ ラ フ は、 日 本 版 ス チ ュ ワ ー ド シ ッ
プ・コードの受入れを表明している社数をベース
識はかなり高いことを示しております。
であり、当協会の会員の利益相反防止に関する意
会員が利益相反防止に関する方針を既に策定済み
す。これらを合計しますと、ともに九〇%以上の
が 三 九 %、 二 〇 一 五 年 が 四 三 % と な っ て お り ま
プ・コードに関する方針の中で、利益相反防止に
五 一 % で す。 縦 線 が、 日 本 版 ス チ ュ ワ ー ド シ ッ
象とした日本株式の資産運用残高ベースの回答結
況です。
一四ページは、策定した方針の開示状況につい
ての結果です。開示済みが八〇%を超えている状
― ―
23
係る方針を定めているとした会社で、二〇一四年
す。
果です。斜線の部分が、利益相反防止に関する方
ます。
針を独立した方針として策定済みとした回答で、
内側の二〇一四年が五四%、外側の二〇一五年が
一五ページをご覧いただきたいと思います。利
益相反防止に関する方針の策定と公表に係る質問
一三ページの向かって左側の円グラフは、回答
した会社のうち日本株式の運用残高がある社を対
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
とする回答がございました。
する議決権行使の方針に関し、詳細に記述」など
明確化を図った」「事業上の関係を有する先に対
それのある取引の類型と典型例の関連を整理し、
改訂状況については、改訂した会社が一一社ご
ざいます。改訂の内容としては、「利益相反のお
のかも尋ね、その結果を示しております。
効性を高めるためにどのような方策を講じている
場合は、その内容、あるいは改訂された方針の実
では、直近一年間に方針を改訂したか、改訂した
一つ目は、利益相反取引の主な類型を明示し、
その類型ごとに管理方針を公表している例。
この内容は大きく三つに分けることができま
す。
の結果です。
方針の内容について調査しております。これはそ
がホームページなどで開示している利益相反防止
程度ですが、これを対象として、それぞれの会社
一六ページをご覧下さい。アンケートを行った
協会事務局では、当協会の会員で日本株式の運用
ります。
合の管理・報告体制の構築」などが挙げられてお
行使時に、助言機関等第三者機関に判断を委任す
運用会社自身の主要株主等の株式における議決権
し、その中に利益相反防止方針、例えば関係会社
決権行使に関する方針やガイドラインを別途開示
二つ目は、主に関係会社の議決権行使に係る対
応に関する事項を公表している例。具体的には議
― ―
24
残高の上位二〇社程度、大きなところから二〇社
⑷ 利益相反防止方針の具体性
ること」「利益相反が疑われる、また発生した場
また、利益相反防止に関する具体的な施策を講
じている会社は五三社あり、その内容は、「資産
証券レビュー 第56巻第7号
ケースが多うございます。
の株式に係る議決権行使方針などが含まれている
続的成長を促す分野に軸足が置かれているという
業と議論をした事項も同様です。これから言える
す。右側のグラフにお示ししたように、実際に企
のは、会員によるエンゲージメントは、企業の持
三つ目は、企業グループとしての利益相反防止
方針を公表している例です。
には顧客に対する報告が極めて重要な課題であろ
公表、方針の実効性を担保する体制の整備、さら
針の策定と顧客などに対するわかりやすい形での
議論のテーマとなるような項目、例えばこれで見
と言えます。しかしながら、より深く突っ込んだ
プ・コードの目的に則った行動がなされつつある
このような結果から、当然ですが、企業の中長
期的な成長を促すという日本版スチュワードシッ
ことであろうと思います。
うと考えております。
ますと、経営陣の後継者問題はまだ非常に低うご
ざいます。これはまだまだ議題として対話の対象
いくかが、これからの実効性に関わってくるので
になっていない。ここら辺が具体的にどうなって
一七ページは、エンゲージメント活動の一環と
して行う企業との対話において何を重視するかを
はないかと思っております。この時点はコードが
⑸ エンゲージメントの状況
示しております。左側のグラフは、会員が重視す
でき上がってからまだ一年半であることから、こ
れはまだ進行途中で、これからいい方向に行くこ
る議題を三つ選んだ結果で、企業戦略、ガバナン
ス体制、株主還元策が上位三議題となっておりま
― ―
25
いずれにおいても、資産運用会社におけるガバ
ナンスの要諦の一つである利益相反の防止は、方
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
統合報告書等の開示資料が用意されていることが
な対話姿勢に加えて、わかりやすく説明力の高い
バナンス体制の確立、投資家との積極的、建設的
組み方針の開示と、社外取締役の選任を含めたガ
ポレートガバナンス・コードにおける具体的な取
効であったと判断される例を示しています。コー
常に有益だった、あるいはマネジャーから見て有
一八ページは、当協会会員におけるエンゲージ
メント活動において、対話先の企業側の対応が非
とを期待している次第です。
おり、建設的な対話を進める上での社内のプロセ
な努力としては、二〇ページにお示ししていると
高める努力をしていると言っております。具体的
これで見ますと、コードが策定されて以降、約
四〇%の会員がエンゲージメント活動の実効性を
努力をしているかが示されております。
その実力の具備に関して会員がどのような取組み
それによって実力が具備されるということです。
ントをしなさい、そのための努力が必要である、
ければいけない、つまらない話で経営者の時間を
一九ページから二二ページは、原則7で機関投
資家に求めている実力の具備についてです。この
す。コストをかけているということです。結果に
なりの資源とエネルギーを費やしていると言えま
― ―
26
煩わせてはいけない、実効性のあるエンゲージメ
非常に有益であったことが示されております。
スの整備、研修や社内勉強会で社員の実力養成を
行っているということです。基本的には、会員各
原 則 7 は 日 本 の コ ー ド に 特 殊 な コ ー ド で、 エ ン
ついての発信力を高めていくことも、これから望
社はかなり真剣に取り組んでいて、このためにか
ゲージメントするところもちゃんと実力をつけな
⑹ 実力の具備
証券レビュー 第56巻第7号
ている例があります。
本政策の具体化が対話によって実現したと評価し
そういうことが報告されています。それから、資
めったにあることではないと思いますけれども、
て、 企 業 側 の 資 本 効 率 が 向 上 し た と い う こ と は
す。 実 際 に エ ン ゲ ー ジ メ ン ト( 対 話 ) を し て み
ページから二二ページにかけて示されておりま
次に、エンゲージメントについて、会員が自分
自 身 を ど う 評 価 し て い る か と い う こ と が、 二 一
まれるところだと考えております。
より一層の充実を求める声が強うございます。
報開示内容が不十分であるということに対して、
ゲージメントの意識がまだ足りない、それから情
へ の 関 与 が ま だ 希 薄 で あ る、 企 業 と し て の エ ン
すが、当該企業の経営陣によるエンゲージメント
組み状況も改善しつつあると認識しているようで
ガバナンス・コードの制定を受けて、企業側の取
二三ページは、会員から見たエンゲージメント
対象企業側への改善要望事項です。コーポレート
⑺ 改善要望事項
二四ページは、議決権等行使判断基準体制の整
備状況をまとめたものです。日本版スチュワード
⑻ 議決権行使等
これは倦まず弛まず努力していかなければいけな
シップ・コードの受入れを表明している会員のう
課題があると認識している会員が多くあります。
いことで、双方ともさらなる努力が求められると
るとともに、意思決定プロセスを明確化し、議決
ち、八六%の会員が議決権等行使判断基準を設け
いくということであろうと思います。
思います。我々としては引き続き辛抱強くやって
一方で、二二ページで示されているように、企
業との対話の進展、内容等に関しては、まだまだ
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
― ―
27
七五%の会員が議決権等行使結果を公表している
プ・コードの受入れを表明している会員のうち、
て ま と め た も の で す。 日 本 版 ス チ ュ ワ ー ド シ ッ
二五ページは、議決権等行使に係る集計結果を
ウエブサイトなどに公表しているかどうかについ
です。
るところはほとんど全部整備しているということ
ていないということですので、整備する必要のあ
先が未上場企業であるなどの理由によって整備し
りの会員については、日本株残高が少ない、投資
す。これは今後どういう方向に行くのか注目され
としての傾向は把握できていると認識しておりま
ない現状ですが、ここにお示ししたように、全体
社の個別議題ごとの開示はまだ十分にはされてい
なります。そういう状況ですので、一般的には個
て対応することとなります。したがって、これに
セットマネジャーがエージェントとして受けとめ
ア セ ッ ト オ ー ナ ー の 開 示 に 対 す る 考 え 方 を、 ア
案ごとの開示については、投資一任契約元である
二八ページは、株主提案議題に対する賛否の推
移をお示ししております。なお、発行体個社の議
権等行使指図に関する体制を整備しています。残
か、あるいは公表していない場合にはその理由を
るところだと思います。
があります。
二九ページは、会員各社の日本版スチュワード
シップ・コードの方針及び議決権等行使結果に関
⑼ 顧客への説明状況等
― ―
28
は公開に関するアセットオーナーの了解が必要と
開示しております。残りの会員については、先ほ
次に二七ページです。これは会社提出議案に対
する賛否の推移を示しております。
どと同じように、日本株残高がないといった理由
証券レビュー 第56巻第7号
なっております。
説 明 し て い る と い う の が 六 二 % と、 ほ ぼ 同 様 に
関する回答でも、要請のあったお客様にのみ直接
右図の、議決権等行使結果の顧客への説明状況に
明しているというのが六〇%となっております。
関する回答で、要請のあったお客様にのみ直接説
アセットオーナーである顧客に対する説明状況に
版スチュワードシップ・コードへの対応方針の、
を示しております。左図に示すのは、会員の日本
して、顧客へどういうぐあいに説明しているのか
ンサルタントに、より積極的かつ実質的な評価を
とどまっているようです。我々としては、運用コ
んし、照会内容も極めて一般的、全般的なものに
低いです。問い合わせ状況も決して多くありませ
ントサイドのこの問題に対する関心度合いはまだ
三〇ページは、運用コンサルタントからの問い
合わせ状況を示しておりますが、実はコンサルタ
いく必要があるかと考えております。
活動における報告の質のさらなる向上を促進して
の程度なのかを把握したり、スチュワードシップ
トがかかることですので、その面の制約、あるい
〇%未満にすぎません。この背景としては、コス
の一部のみ」といったアクティブ運用のみを対象
ます。「全アクティブ商品のみ」「アクティブ商品
三一ページは、左側のグラフで、エンゲージメ
ント活動が反映される運用対象商品を示しており
期待したいと考えているところです。
は顧客であるアセットオーナーの意識と関心の度
運用商品を含む全商品」を対象としている、すな
とした運用会社が過半数を占め、「インデックス
す。今後の課題としては、要請のあった顧客がど
合いのばらつきがあるのではないかと考えられま
ともに全ての顧客に直接説明していると回答し
た運用会社は一定数存在しますけれども、まだ一
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
― ―
29
ういったことがこれからどうなっていくか、我々
で、前向きに検討しているところがあります。こ
ベータそのものを上げる効果があるという観点
しろ積極的にエンゲージメントをすべきである、
中でもパフォーマンスの悪い銘柄については、む
極方向への踏み込みをしており、パッシブ運用の
エルス・ファンドが、エンゲージメント活動の積
あるいはノルジェスバンクといったソブリン・ウ
ンダードライフ社といったアセットマネジャー、
極的な姿勢、海外では、ブラックロック社やスタ
いてあるように、昨今のGPIFのこの面での積
議論があります。しかしながら、資料の右側に書
エンゲージメント活動をパッシブ運用における
保有銘柄まで広めるかどうかについては、かなり
せん。
結果を反映している運用会社は、一六社にすぎま
わちパッシブ運用にまでエンゲージメント活動の
と考えております。
て、関係各位と共同して努力していく必要がある
実効的なコーポレートガバナンスの実現に向け
ナーとも共有し、ともに課題を克服して、日本の
加えてほかのアセットマネジャーやアセットオー
ておりますので、アンケート結果を当協会会員に
言えます。また、コードにおける課題も見えてき
ですけれども、前向きな姿勢で取り組んでいると
いて、我々の会員はその活動の緒についたばかり
アンケート結果のまとめとして申し上げます
と、まず日本版スチュワードシップ・コードにつ
⑽ まとめ
す。
るほうに力が働くのではないかと考えておりま
も、そういう方向に動いていくと、全体が良くな
と し て は 注 目 し た い と 思 い ま す し、 業 界 と し て
証券レビュー 第56巻第7号
― ―
30
な意識ではなかったかと思います。現に資産運用
に従事し、第三者の資金運用に当たる以前の私の
意識も、実はこれと余り変わらなかったことを白
としての取締役会のチェック機能の充実が図ら
た印象が強いと思います。そのために、監督機関
の暴走を抑止する仕組みとして組み立てられてき
し、強大な権限を有する企業経営者、特にCEO
特に英米で展開されてきたコーポレートガバナ
ン ス は、 数 々 の 企 業 ス キ ャ ン ダ ル の 発 生 を 反 省
従来、日本の仕組みは、監査役会設置会社しか
なく、監査役会の権限はそれなりに強いと言えま
だと言われても仕方がないと思います。
ければ安心できないと言えます。その上での中身
家にとっては、形として抑止力が働く仕組みがな
しまったわけですが、長期に株式投資をする投資
七、形だけではなく実効性のある
ガバナンスが重要
れ、独立社外取締役が大宗を占め、かつ指名委員
すが、取締役を罷免することは不可能に近い限定
状しなければなりません。確かに幾ら形を整えて
会、監査委員会等の権能を高め、形としての体制
的なもので、委員会設置会社の導入はこれへの考
― ―
31
もエンロンやリーマンのような不祥事が起こって
ありきということは否めない事実です。
三の仕組みとして監査等委員会設置会社が導入さ
状況であり、外から見れば甚だわかりにくいと言
慮だったわけですが、結果として定着を見ず、第
一 方、 我 が 国 で は、 形 と い う よ り は 中 身 で あ
る、しっかりやっているのだから安心して任せて
れました。三つの方式が併存するのは類いまれな
率性を阻害するというのが、一昔前の割に支配的
ほしい、厳格なガバナンス体制構築はかえって効
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
う批判はかなり弱まってきていると感じます。
態を前提にしているのですが、形がおかしいとい
行したことにより、ガバナンスコードは三つの形
ナンス改革を掲げて、二つのコードを相次いで施
う向きもありますが、成長戦略の一環としてガバ
いうことになってほしいと切に希望します。
企業経営者が確固たる信任を得て経営の手腕を存
えます。実効性のあるガバナンス体制のもとで、
着実に実行していくことが当面の課題であると言
せっかく評価されつつある今のコードをしっかり
う が 望 ま し い と 考 え ま す が、 と に も か く に も、
従来、余りまともに受けとめてもらえなかったと
重視しない国であると思われていた嫌いがあり、
し上げてまいったのですが、とかくガバナンスを
れるべきであると、かつてから海外の方々にも申
ろうと考えております。
れないという覚悟で取り組まなければならないだ
界中が注目しています。当事者全てが失敗は許さ
ところで、要は実行し成果に繋がるかどうか、世
日本のガバナンス改革への取組みは、内外から
広く好感を持って見られているのは間違いのない
分に振るい、企業価値の向上を不断に実現すると
私は、基本的な目的や考え方は通底するもので
あるべきだとは思いますが、文化や慣行の相違が
思います。
実にまとまりのない話になって申しわけござい
ま せ ん。 以 上 で 私 の 話 を 終 え さ せ て い た だ き ま
― ―
32
ある以上、それぞれ独自の考え方、方式が許容さ
しかし、現在、二つのコードができて運用が始
まったステージでは、海外の理解は、先ほども申
す。どうもありがとうございました。(拍手)
ます。できるだけコードの内容をそろえていくほ
し上げたように確実に高まっていると感じており
証券レビュー 第56巻第7号
も、全般にわたるお話をいただき、岩間会長、大
増井理事長 資産運用業との関係でこういうお話
を聞ける機会はなかなか少ないと思いますけれど
が と れ る だ ろ う か、 そ れ が 非 常 に 不 安 で あ る と
うになったときに、果たして我々は責任ある行動
も、いずれ我々がキャスティングボートを握るよ
て反映すればいいので、比較的簡単なのだけれど
変ありがとうございました。
き、ありがとうございました。
おります。本日のお話でも大変勉強させていただ
岩間会長のフォローアップ会議でのご発言をい
つも拝聴させていただき、勉強させていただいて
た。
は、現実には議案が通らないことはないという状
るようになることを、今から踏まえてやる必要が
を握った状態になったときに責任ある行動をとれ
であり、機関投資家としてキャスティングボート
今、スチュワードシップ・コードができた状況
のもとで考えると、これは恐らくコードの原則7
おっしゃっておられて、それが今でも非常に印象
深く残っています。
私、一〇年ほどでしょうか、ある資産運用会社
の議決権行使担当の方から、次のような非常に興
況のもとでのエンゲージメントや議決権行使と変
質 問 者 A 本 日 の お 話、 あ り が と う ご ざ い ま し
味深いお話をお伺いしました。安定株主でガチガ
わってこなければいけないとお考えか、それとも
そもそも今から、仮に通らない状態だとしても、
あ る と 思 う の で す け れ ど も、 そ の 行 動 と い う の
の実力をつけるというところにかかわってくる話
チに固められた上場会社さんについての議決権行
使は、我々は不満であるということを批判票とし
― ―
33
それでは、若干お時間がございますので、ご質
問等、いかがでしょうか。
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
うがいいという判断であるならば、そういう議決
ティングボートを握っていて、それを実行したほ
提がございます。その観点で見たときに、キャス
利益を最大限に実現しなければいけないという前
岩間 これは全く私の私見ですけれども、くどく
どと申し上げたように、運用会社は顧客投資家の
だきたいと思います。
見解で結構ですので、ご意見をお伺いさせていた
なければいけないとお考えか、会長の個人的なご
それに見合った力を持ってちゃんと対応していか
います。
て、それに則って行動するということだろうと思
で徹するならば、株主、投資家の利益を最優先し
私見で申し上げれば、もし資産運用業ということ
得ないというものも結構あり得ると思いますが、
で、それを貫けるかどうかが最大の問題だと思い
うかを逆にチェックされる立場だと思いますの
伝えして、その原則をちゃんと履行しているかど
ちゃんと基準をつくって、お客様にもちゃんとお
整理して対応するかということは、筋が通ってい
で、その利益相反が出たときにどういうぐあいに
す。 利 益 相 反 は い ろ い ろ な 局 面 で あ る の が 当 然
そこでいろいろ配慮しなければいけない問題が
出 る の は、 多 分 利 益 相 反 の 関 係 だ ろ う と 思 い ま
う い う こ と を 指 摘 す る 人 が 多 い わ け で、 そ こ が
はほとんどないのではないかと思います。現にそ
話ができれば、経営と株主が対立するということ
どうなのかということで、そこはちゃんとした対
思っております。基本的にはマクロで見たときに
― ―
34
ます。これは個別プレーヤーによって違わざるを
権行使をするのは当然であろうと思います。
エンゲージメントというのは、細かい、日常の
マイクロマネジメントに干渉するものではないと
ることが大事だと思うのです。それはそれぞれが
証券レビュー 第56巻第7号
す。
ろうじろということではないかと思っておりま
場だとも聞いておりますので、そこはこれからご
うやっていいかわからないというのがお互いの立
ではないか。ただ、緒についたばかりなので、ど
ちゃんと練れてくれば共生の環境が実現可能なの
二点目は、スチュワードシップ・コードを策定
する過程でちょっと論点になったのですけれど
えていただきたいのが一点です。
社はそこをどういうふうにやっておられるのか教
かの基準で選別してやるのか。アンケート対象会
れともちょっとしか投資していないところは何ら
きに全部の先にエンゲージメントをやるのか、そ
たらとんちんかんな質問になるかもしれないので
務をやったことがないものですから、ひょっとし
今日のお話は非常に参考になります。私はエン
ゲージメントについてお伺いします。私自身は実
りがとうございます。
質問者B 私は岩間会長には投資信託協会におり
ましたときからご指導いただいておりまして、あ
きにどこまで聞いていいのかヘジテイトしている
のアンケートの中で、エンゲージメントをすると
じを私は持っています。投資顧問業協会の会員へ
が、必ずしもすっきりしたものかどうかという感
イダーとの関係を危惧する声があって、これにつ
いろいろな情報を取得します。そのこととインサ
も、エンゲージメントをするときに相手の企業の
すけれども、まずエンゲージメントをするために
とか、そういう事例があるのかどうか。もしわか
れば教えていただければと思います。
いては途中で金融庁が一定の見解を示したのです
は、運用会社側、投資家側にそれなりのリソース
が必要だと思うのです。たくさん投資していると
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済みません、お答えになっているかどうか。
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
のではないかと思います。エンゲージメントをす
ないかという割り切り方をしているところもある
と思いますが、そんなに問題にはならないのでは
について言いますと、もちろん微妙な問題は残る
サイダーの問題は、こういったことが必要な投資
うことに徹していると思います。ですから、イン
て、パブリックになるまでトレードはしないとい
も、それはそういう情報としてちゃんと処理をし
うのが基本的な立場で、もしそれが入ったとして
報は聞く必要はない、言ってもらっても困るとい
岩間 インサイダーの問題で言いますと、中長期
的な視点での投資が軸であり、短期的な非公開情
会社の経営そのものが関与して、どういった形で
視点に欠けるところがあるとすれば、多分、運用
のエンゲージメントでは能力不足といいますか、
整理ができると思います。単なるアナリストだけ
で何がアジェンダのコアになるのか、おのずから
も、長期的な視点になったときに、その調査の中
それが短期的な観点に立つのか、長期的な観点
に立つのかによって視点は違うと思いますけれど
常に見ているわけです。
トムアップリサーチをやって、その会社の特性を
もともと基本的にはミクロのアナリストがいてボ
いう話はそう簡単ではないと思いますけれども、
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ンゲージメントの力がどういうぐあいにつくかと
ること自体については、それが阻害要因には必ず
エンゲージメントをするのがいいのか、検討して
私の個人的な経験で言いますと、日本で果たし
てそういうことが実効性を持つのかどうか、ある
動いているのではないかと思います。
しもならないと思っております。
すが、株式運用について言いますと、もちろんエ
もう一つの、エンゲージメントをする対象を選
別するのか、全部の先にやるのかというご質問で
証券レビュー 第56巻第7号
ただけるのか、私のもといた会社で三年間の実験
たりで本日の「資本市場を考える会」を終わらせ
増井理事長 そろそろお時間になりましたので、
もしどうしてもというご質問がなければ、このあ
いは投資先企業の経営にどういう反応を示してい
をしたことがございます。
最後に、本日お越しいただきました岩間会長に
皆様、拍手をお願いいたします。(拍手)
ていただきたいと思います。
門前払いでした。私も反対側にいたら多分そうい
一般社団法人
(いわま よういちろう・日
本投資顧問業協会会長)
(以上)
本稿は、平成二八年六月一〇日に開催した講演会での講演
)
の要旨を整理したものであり、文責は当研究所にある。
(
うことを言うのではないかと思います(笑)。と
ころが、だんだんやっていきますと、焦点が合っ
てきて、全部ではありませんけれども、「なかな
かいいことを言ってくれる」と言うところが出て
くるのです。そういうところでは実効性があらわ
れているところが出てきておりますので、そうい
う 意 味 で 言 い ま す と、 こ の 試 み は 時 間 は か か る
し、短期的な効果は絶対出ませんけれども、中長
期的にこれがちゃんと妥当すれば、いい方向に動
くモーメントになるのではないかと思っておりま
す。
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最初は、確かに「経営はこっちがやっている話
で、君らに言われる筋合いはない」ということで
日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートについて
証券レビュー 第56巻第7号
岩 間 陽一郎 氏
略 歴
1967年東京大学法学部卒業、同年4月、東京海上火災保険㈱(現東京海上日動火災
保険㈱)入社、取締役投資部長、常務取締役財務本部長、専務取締役、東京海上ア
セットマネジメント投信㈱(現東京海上アセットマネジメント㈱))代表取締役社
長を経て、2010年より現職。
金融・資本市場活性化有識者会合、スチュワードシップ・コードおよびコーポレー
トガバナンス・コードのフォローアップ会議、資産運用等に関するワーキング・グ
ループ各委員等。
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