植物の「ストレス傷害」メカニズムを解明 〜環境ストレスに強い作物の開発指針となる新たな発見〜 山口大学 大学研究推進機構 教授 真野純一 鳥取大学大学院 連合農学研究科 Md. Sanaullah Biswas 植物細胞 環境ストレス 活性酸素 増加 脂質 酸化 活性カルボニル種 HNE, アクロレイン etc. R C3LP 活性化 O 日本学術振興会 科学研究費補助金(基盤研究(C))補助事業 細胞 傷害 研究の背景 ・ 植物の環境ストレスによる傷害は農業生産を大きく損ねる ・ 環境ストレス傷害の原因は活性酸素であるが,植物が傷害され るメカニズムはわかっていない 本研究の成果 ・ 活性酸素による植物細胞傷害の過程を詳しく解析 ・ 細胞傷害の主因は,活性酸素ではなく,活性酸素が脂質と反応 して生成する「活性カルボニル種」であることを発見 ・ 活性カルボニル種はタンパク質分解酵素(C3LP:カスパーゼ3様 プロテアーゼ)を活性化し,プログラム細胞死を開始させる ・ 植物の環境ストレス傷害の詳細なメカニズムが明らかになった 研究の詳細 1. 活性酸素は植物細胞で活性カルボニル 種を増大させる アクロレイン O 0.8 nmol g FW-1 nmol g FW-1 O 6 5 4 3 2 1 0 2. 活性カルボニル種は植物細胞のプロ グラム細胞死(PCD)を引起こす HNE OH 0.6 0.4 0.2 正常細胞 0 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 HNEを添加 するとDNA が断片化= PCD 細胞が傷害を受けるときだけ,アクロレインな どの活性カルボニル種が生成している HNEとカルボ ニル消去剤を 添加すると, PCDは起こら ない 植物細胞 環境ストレス 活性酸素 増加 脂質 酸化 活性カルボニル種 HNE, アクロレイン etc. R O C3LP 活性化 細胞 傷害 研究の詳細 2. 活性カルボニル種は植物細胞の プログラム細胞死(PCD)を引起こ す BY-2細胞 生存率(%) 3. 活性カルボニル種がプログラム細胞死 の引き金となるタンパク質分解酵素 (C3LP)を活性化する 3,500 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 アクロレイン (0.2 mM)添加 3,000 アクロレイン無添加 2,500 C3LP活性 2,000 (pmol/分/g) 1,500 アクロレイン (0.2 mM)添加 PCDが進行 アクロレイン無添加 1,000 500 0 0 1 2 3 4 5 0 6 20 40 60 経過時間(分) 経過時間 (時間) 植物細胞 環境ストレス 活性酸素 増加 脂質 酸化 活性カルボニル種 HNE, アクロレイン etc. R O C3LP 活性化 細胞 傷害 研究の詳細 4. 高塩分ストレスによる根の損傷は活性カルボニル種が原因である。 高塩分ストレスを受けた根では活 性カルボニル種が生成。試薬の発 色(赤紫)で検出した。 正常な根 正常な根では活性カルボニル 種は検出されない。 高塩分ストレスを 受けた根。明るく 光る点はプログ ラム死を起こした 細胞。 カルボニル消去 剤を与えると,高 塩分ストレスでも プログラム細胞 死は起こらない。 結論 活性酸素の傷害作用は,活性カルボニル種がC3LPを活性化して引き起 こすプログラム細胞死である。 「活性カルボニル種は植物においてカスパーゼ3様 プロテアーゼを活性化してプログラム細胞死を開始 させる」 著者 ・ Md. Sanaullah Biswas(鳥取大学大学院・連合農学研究科) ・ 真野 純一(山口大学・大学研究推進機構) 国際誌 Plant & Cell Physiology 2016年(第57巻)7月号に掲載 ← ハイライト記事として表紙に採用 本研究の意義 植物において活性酸素の傷害作用機構を初 めて明らかにした。 今後の展望,社会的意義 ・ 環境ストレスに耐性をもつ作物の新たな育種・開発の 可能性。 ・ 作物の環境ストレス耐性を高める薬剤・栽培法の開発 につながる。 食糧増産への貢献
© Copyright 2025 ExpyDoc