グローバルコミュニケーション力の鍛え方

グローバルコミュニケーション力の鍛え方
―国際競争を勝ち抜くための必須条件
株式会社グローコム 代表取締役社長
コミュニケーションストラテジスト 岡本純子
Junko Okamoto
自らの良さを伝える発信力の欠如
世界の舞台で飛躍を狙う日本企業にとって最
ローバルコミュニケーション力とは何か。デリ
バリー力、コンテンツ力(ロジック)、英語力、
大の課題といえば、グローバル人材の育成であ
そして情熱・思い・志といったエモーションの
ろう。英語を社内公用語にする、留学制度を設
4つの要素の総合力だと考えている。英語力だ
ける、など企業も様々な施策に取り組んでいる
けでは不十分なのである。
ようだが、まだまだ真のグローバル人材は質、
量ともに十分とはいえない。
「日本の商品をもっと買えるようになればい
「謙虚さ」の壁をどう乗り越えるか
さらにグローバル人材に絶対的に必要なも
いのに」
。昨年まで住んでいたニューヨークで、
の、それは国際人としてのグラビタス(gravitas:
このような声をよく聞いた。ニューヨークは空
尊厳、重み、風格)だ。堂々とした振る舞い、
前の日本ブーム。日本の食や文化に多くの人々
カリスマ性、たたずまい、これは一朝一夕に醸
がむさぼるような強い興味を持っていた。その
し出せるものではないが、コミュニケーション
他の国の人と話していても、日本の製品・サー
力の鍛錬によって養成できるものでもある。
ビスの質を称賛する声を多く聞く。つまり、グ
グローバルコミュニケーションの障害になる
ローバルの舞台で日本の企業や組織が市場を広
のが、日本人としての過度なまでの慎み深さ、
げる素地はあるが、まだまだそのチャンスを活
謙虚さだ。もちろんこれは美徳ではあるが、世
かしきれていないのが実情だろう。
界の舞台では時にハンディとなることもある。
日本の製品・サービスの質はお墨付きだ。一
口角泡を飛ばす議論や白熱した交渉の場で、人
方でその素晴らしさを世界に伝え、説得し、売
の気持ちをおもんばかっているばかりでは、会
り込んでいく人材が圧倒的に少ない。モノ(コ
社の利益を損ねることにもなりかねない。日本
ンテンツ)は良いのに伝え方(デリバリー)のス
人が日本人的価値観だけに縛られず、真の国際
キル、つまり発信力が不足し、その魅力が伝え
人としてのグラビタスを発揮するのは容易では
きれないのだ。
ない。ニューヨークで様々なコミュニケーショ
このコンテンツとデリバリーの
「スキル格差」
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世界進出の命運を分けるカギといえる。ではグ
ントレーニングを経験した筆者が、「日本人の
を解消し、
日本人や日本の企業・組織の「グロー
殻」を破るのに最も効果があると感じたのが、
バルコミュケーション力」
を強化することこそ、
俳優の所作である「アクティング」の手法だ。
2016年7/8月合併号