(報告様式4) 【15fk0108042h0003】 平成 28 年 5 月 10 日 平成27

(報告様式4)
【15fk0108042h0003】
平成 28 年 5 月 10 日
平成27年度 委託研究開発成果報告書
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 殿
(契約者)
事 業 名
研究開発課題名
研究開発担当者
所属 役職 氏名
機関名
: 国立大学法人三重大学
所属 役職
: 学長
氏 名
: 駒田 美弘
公印
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業
全国を対象とした抗菌薬使用動向調査システムの構築および感染対策防止
加算の評価
医学部附属病院 薬剤部 副薬剤部長 村木 優一
上記研究開発に関する成果の報告書を委託研究開発契約書第17条の規定に基づき別添の通り提出
します。
(報告様式4別添)
事業名
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業
研究開発課題名
全国を対象とした抗菌薬使用動向調査システムの構築および感染対
策防止加算の評価
機関名
国立大学法人三重大学
研究開発
所属 役職
医学部附属病院 薬剤部 副薬剤部長
担当者
氏名
村木 優一
実施期間
平成27年 4月 1日 ~ 平成28年 3月31日
Ⅰ.研究開発目的及び内容
抗菌薬耐性菌の増加は、公衆衛生上の世界的な問題であり、特に医療施設で懸念されている。なかで
も多剤耐性菌は、入院期間の延長や罹患率を上昇させるだけでなく、死亡率も上昇させる。そのため、
微生物の耐性率や抗菌薬使用量の継続したサーベイランスの重要性が認識され、諸外国では国家レベル
で実施されている。我が国においても、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業として耐性菌の感
染発生動向調査システムが構築され、経年的に実施されている。その一方で、我が国には抗菌薬使用量
の大規模なサーベイランスの仕組みがない。
2012 年 4 月に感染防止対策加算が新設されるなど、我が国における医療体制や各医療施設や地域で
取り組んでいる院内感染対策は経年的に評価すべきであり、得られた結果を国民や世界に発信しなけれ
ばならない。本研究で見出される我が国における抗菌薬の使用状況の掌握は、院内感染対策の客観的指
標としても応用可能である。さらに、既に実施されている耐性菌の感染発生動向調査と本研究から得ら
れる結果の経年的な蓄積は、他国と比較できる環境が構築可能となり、耐性菌と抗菌薬使用の関連を明
らかにする上でも有用な情報となる可能性がある。そこで、本研究の第一の目的は、全ての医療機関に
おいて抗菌薬の使用状況を簡便に把握できるシステムを開発し、感染防止対策加算をはじめとした抗菌
薬の適正使用策に及ぼす影響を明らかにすることとした。第二に、抗菌薬の使用状況を把握するために
必須となる算出方法を統一するため、参考となる資料を作成することとした。さらに、第三の目的とし
て日本全体の抗菌薬使用量を把握する新たな方法を検討することとした。
Ⅱ.実施内容
1.研究開発の概要
l
抗菌薬使用量サーベイランス(Japan Antimicrobial Consumption Surveillance: JACS, https://www.jacs.asia)
システムの開発
JACS システムは2つの要素(①耐性菌の分離頻度が増えない=感染対策、診療が適切に行われてい
る、②耐性化が進まない=選択圧がうまく制御されている)を評価するため、①各医療機関における耐
性菌患者に対する実際の投与状況を把握することを目的とした感染対策に関わる薬剤師によるオンライ
ンデータ収集、②卸業者からの販売データ等に基づくクリニックや外来診療を含めたデータ収集のアプ
ローチから成り立っている。即ち、①については各医療機関における注射用抗菌薬を Web 上における統
一フォーマットにて力価あるいは使用日数を入力し、WHO や CDC で推奨されている指標の AUD
(Antimicrobial Used Density)や DOT(Day of Therapy)として自動計算する仕様とした。②については
卸データを IMS ジャパン株式会社より購入し、経年的な抗菌薬使用量を集計後、WHO が定義する DDD
(Defined Daily Dose)と日本の人口で補正した DID(DDD/1,000 inhabitants/day)で算出した。
①に対する本年度の取り組みとして、入力者の負担を配慮し、データ登録専用のひな形ファイルを作
成し、自動取り込みが可能となるよう修正した。また、参加施設が入力データを日常の感染対策におけ
る資料として利用できるようにするため、自施設における使用動向の図式化および算出された AUD お
よび DOT をダウンロードできる機能を追加した。さらに、抗緑膿菌作用を有する①ピペラシリン/タゾ
バクタム、②第 4 世代セフェム(セフェピム、セフピロム、セフォゾプラン)
、③ニューキノロン(シプ
ロフロキサシン、パズフロキサシン、レボフロキサシン)
、④カルバペネム(メロペネム、ドリペネム、
ビアペネム、パニペネム/ベタミプロン、イミペネム/シラスタチン)の 4 系統の比率を求める Antimicrobial
heterogeneity(AHI)も自動計算し、表示できる機能を持たせた。今回、2015 年 11 月に 2014 年の使用量
について第 1 調査を実施し、2016 年 1 月に 2010 年から 2015 年の使用量について第 2 調査を実施した。
2016 年 3 月に入力されたデータを一旦抽出し、値を集計した後に加算別等に分類し解析を行った。
②に対する本年度の取り組みとして、IMS ジャパン株式会社より 2005、2007、2009、2011、2013 年
の抗菌薬使用量を入手した。また、得られたデータは WHO が推奨する AUD で換算し、2009、2011、
2013 年においては人口で補正した DID(DDD inhabitant-days)を算出した。各抗菌薬を ATC 分類により
レベル 3、レベル 4 で集計し、他国データと比較した。2009、2011、2013 年の使用量に対してピアソン
の相関分析により増減に対する相関を解析した。2013 年データは、動物用医薬品、医薬部外品および医
療機器製造販売高年報と合算し、我が国における抗菌薬使用量を調査した。
l
ガイドライン等の作成
昨年度までに WHO 監修の「Guidelines for ATC classification and DDD assignment 2014 47 頁」および
「Introduction to Drug Utilization Research 48 頁」の日本語訳を行い、本年度に意訳版としてホームペー
ジ上で公開した。
l
全国データ活用の検討
ナショナルデータベース(NDB)を利用した全国データを利用するための方法を検討した。具体的に
は NDB の抽出形式や抽出項目を決定し、決定した内容について抽出を依頼した。
2.成果(研究開発計画書のⅡ.2.担当別 研究開発概要に対応)
(1)研究開発代表者 所属 :三重大学医学部附属病院 薬剤部
研究開発代表者 役職 氏名:副薬剤部長 村木優一
分担研究開発課題名(実施内容)
:全国を対象とした抗菌薬使用動向調査システムの構築および
感染対策防止加算の評価
① 研究開発成果の内容
A.研究目的
近年、新たな抗菌薬耐性菌の増加が世界的な問題となっている。抗菌薬耐性(Antimicrobial resistance:
AMR)は世界的に進行する耐性菌問題を人間の問題としてだけでなく、共存する動物や生物が生息・定
住する環境を含めて地球規模の視点で考える“One Health”の概念が提唱されている。このような AMR
の脅威に対して、わが国でも直ちに対策を講じる必要があり、2016 年 4 月 5 日に行われた国際的に脅威
となる感染症対策関係閣僚会議において AMR 対策アクションプランが決定された。AMR と抗菌薬使用
量の間には何らかの関係があるとされ、政策立案者にとって抗菌薬使用量の把握は有用な指標の1つと
なっており、AMR 対策アクションプランの重要な柱の1つとしてあげられている。しかしながら、未
だに我が国における標準的な方法やシステムは確立されていなかった。一方、2012 年 4 月に感染防止対
策加算が新設されたことを受け、
個々の医療機関や地域で取り組んだ院内感染防止策を経年的に評価し、
得られた結果を国民に情報提供することが求められる。しかしながら、抗菌薬使用量がアウトカム指標
に直接関与するかは不明確である。そこで、本研究では抗菌薬使用動向を把握するシステムを構築し、
感染防止対策加算における客観的指標として抗菌薬使用量の有用性を調査した。
B.研究方法
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抗菌薬使用量サーベイランスシステムの開発および有用性の評価
① 各医療機関における注射用抗菌薬のオンラインデータ収集・解析
JACS システム(図 1)は、各医療機関における注射用抗菌薬を Web 上における統一フォーマットに
て力価あるいは使用日数を入力する。今回、入力者の負担を配慮し、データ登録専用のひな形ファイル
を作成し、自動取り込みが可能となるよう修正した。また、入力された値は WHO や CDC で推奨されて
いる指標の AUD(Antimicrobial Used Density)や DOT(Day of Therapy)として自動計算されるように設
計した。
参加施設が入力データを日常の感染対策における資料として利用できるようにするため、自施設にお
ける使用動向の図式化および算出された AUD および DOT をダウンロードできる機能を追加した。
また、
抗緑膿菌作用を有する①ピペラシリン/タゾバクタム、②第 4 世代セフェム(セフェピム、セフピロム、
セフォゾプラン)
、③ニューキノロン(シプロフロキサシン、パズフロキサシン、レボフロキサシン)
、
④カルバペネム(メロペネム、ドリペネム、ビアペネム、パニペネム/ベタミプロン、イミペネム/シラ
スタチン)の 4 系統の比率を求める Antimicrobial heterogeneity(AHI)も自動計算し、表示できる機能を
持たせた。また、2015 年 11 月に 2014 年の使用量について、第 1 調査を実施し、2016 年 1 月に第 2 調査
を実施した。2016 年 3 月に入力されたデータを一旦抽出し、値を集計した。さらに、2014 年における
AUD、DOT がデータ登録され、評価可能であった施設を対象として加算算定施設別に AUD と DOT ま
たは AUD/DOT を算出して比較した。
(参考)
AUD (DDD/ 100 bed-days) =
特定期間の抗菌薬使用量(g)
DDD×入院患者延べ日数
×100
DDD: Defined Daily Dose
DOT (DOT/ 100 patient-days) =
特定期間の抗菌薬使用日数(日)
×100
入院患者延べ日数
AHI=1-{n/[2×(n-1)]} × Σ |ai-bi|
n: 比較する系統数(ここでは 4)
、ai: 完全に均等に使用した際の比率(ここでは 0.25)
、bi: 実際の比率
図 1 オンライン登録システムの概要
トップページ
登録画面例
抗菌薬使用量推移画面例(AUD)
抗菌薬使用量推移画面例(DOT)
抗菌薬使用量推移画面例(AHI)
ファイルアップロード画面
使用量自動換算後のダウンロードファイル例
② 卸データを利用した日本における抗菌薬使用量調査の実施
IMS ジャパン株式会社より 2005、2007、2009、2011、2013 年の抗菌薬使用量を入手した。また、得
られたデータは WHO が推奨する AUD で換算し、2009、2011、2013 年においては人口で補正した DID
(DDD inhabitant-days)を算出した。各抗菌薬を ATC 分類によりレベル 3、レベル 4 で集計し、他国デ
ータと比較した。2009、2011、2013 年の使用量に対してピアソンの相関分析により増減に対する相関を
解析した。2013 年データは、動物用医薬品、医薬部外品および医療機器製造販売高年報と合算し、我が
国における抗菌薬使用量を調査した。
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倫理面への配慮
本研究は、抗菌薬の使用量調査を目的にしているため、直接的に患者情報を取り扱うものではない。
すなわち、データとしては、患者情報から切り離した使用量のみを取り扱った。病院名も番号などで匿
名化を図り、団体および個人の不利益に十分配慮した。
C.研究結果
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抗菌薬使用量サーベイランスシステムの開発および有用性の評価
① 各医療機関における注射用抗菌薬のオンラインデータ収集・解析
使用量動向調査の Web システム開発は 2013 年 4 月から開発会社と打ち合わせを重ね、2015 年 4 月に
公開した(https://www.jacs.asia)
。これまでに、既にいくつかの学会のシンポジウムを通じて広報を行っ
たが、さらに幅広く本システムを広報し、多施設からの参加を呼びかけた。2016 年 3 月 17 日時点の登
録施設数は 485 施設であり、県あたり7(2–42)中央値(最小値–最大値)施設、全国(47 都道府県)
からの登録があった。一方、2010 年から 2015 年までの施設背景の入力状況は 72、70、76、81、195、48
施設、AUD の入力状況は 74、76、87、94、221、53 施設、DOT の入力状況は 21、22、28、28、76、19
施設であった。
2014 年における使用量入力が最も多かったため、集計を行った(表 1)
。また、2014 年における施設
背景を加算別に調査した(表 2)
。さらに、2014 年の使用量において AUD および DOT の入力があった
68 施設を対象として AUD/DOT の比を比較した(図 2)
。
表 1 2014 年における注射用抗菌薬使用量
DDD/100 bed days, 中央値(範囲)
2010*(N = 193)
2014(2016 報告)(N = 221)
4.3 (0.3-18.4)
5.2 (0.00–23.6)
PIPC
0.12(0-1.2)
0.07 (0–2.5)
PIPC/TAZ
0.5 (0-3.7)
0.88 (0–4.1)
1.6 (0.1-5.7)
1.7 (0–8.7)
MEPM
0.9 (0-2.9)
1.2 (0–7.8)
DRPM
0.1 (0-1.4)
0.1 (0–3.1)
BIPM
0 (0-2.7)
0 (0–2.0)
PAPM/BP
0.02 (0-2.4)
0 (0–1.2)
IPM/CS
0.2 (0-1.4)
0.06 (0–0.9)
アミノグリコシド系薬
0.3 (0-4.4)
0.12 (0–3.5)
キノロン系薬
0.4 (0-4.7)
0.5 (0–2.5)
15.5 (0.8-46.4)
17.2 (0.05–44.7)
分類
ペニシリン系薬
カルバペネム系薬
総使用量
*Y Muraki et. al.: Infection 2013, 41(2):415-23.
表 2 2014 年における加算別施設背景の比較
図 2 2014 年における抗菌薬使用量の比較
② 卸データを利用した日本における抗菌薬使用量調査の実施
2009、2011、2013 年の注射薬・内服薬を含めた使用量を集計することができた。本結果より、経年
的に使用量は増加していることが明らかとなった。また、抗菌薬の使用は内服薬が 90%以上占めている
ことが明らかとなった。
(図 3, 4)
図 3 我が国における経口用・注射用抗菌薬の使用量推移
図 4 我が国における注射用抗菌薬の使用量推移(値は DDD/1,000 inhabitants/day)
2013 年の使用量データを EU 諸国から報告されているデータ(引用元:
http://ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/antimicrobial-consumption-europe-esac-net-2012.pdf)と比較し
た(図 5)
。その結果、我が国ではマクロライド系薬、第三世代セファロスポリン系薬、キノロン系薬な
ど広域な経口抗菌薬の使用が多いことが明らかとなった。また、動物用医薬品、医薬部外品及び医療機
器製造販売高年報と合算したことにより日本における“One Health”の概念に則った抗菌薬の使用状況
が明らかとなった(図 6)
。
図 5 我が国と他国との抗菌薬使用量の比較(値は DDD/1,000 inhabitants/day、日本:2013 年報告、他国:
2012 年報告)
図 6 ヒト用・動物用医薬品、飼料添加物を含めた日本の抗菌薬使用量
D.考察
医薬品はジェネリック医薬品や併売品など、同一成分のものが複数販売されており、規格も複数存在
する。また、個々の医薬品における維持量(力価)が異なる。そのため、医薬品の使用量を比較する場
合、これらの問題点を解決しなければならず、集計後に WHO や CDC が推奨する医薬品統計のための
AUD や DOT といった数値に変換するため、作業が繁雑であり、抗菌薬使用動向調査が普及しない原因
となっている。
本研究において開発したシステムは、集計後のデータを Web 上にアップロードして登録することで、
AUD や DOT といった指標が自動計算される。また、計算された結果はダウンロードもできる。さらに、
算出された値は図式化できるため、自施設における経年的なデータ資料として利用可能である。また、
このようなソフトウェアは市販されているが高額であり、中小規模の施設で導入することは難しい。し
たがって本システムを無償公開したことは施設規模を問わず感染対策を行う上で有用なツールの 1 つと
なることが考えられた。
今回、本システムを利用し、2014 年の使用量調査を実施したところ、全国からの施設登録があり、2010
年に我々が他の研究において報告した施設数以上の解析が実施できた。一方、調査期限が短かったこと
もあり、2010 年から 2015 年までの 5 年間におけるデータ入力施設数が少なかった。本システムは、継
続的に入力できる仕組みが整い、日本における感染対策の現状や使用動向が経年的に蓄積可能となるこ
とが示唆されたが、入力作業には一定期間が必要となるため、継続的な本システムの維持が望まれる。
今回、最もデータ登録が多かった 2014 年を対象として使用量を集計したところ、2010 年に報告した
使用量よりも増加しており、主にピペラシリン・タゾバクタムの使用が増加傾向であった(表 1)
。2010
年報告と同施設で比較していないため、今後本システムを通じた同一施設における使用量推移を評価す
る必要があるものの、本システムを通して使用量を示すことが可能となった。
本システムは表 2 に示すように施設背景も入力できることから、感染防止対策加算の算定施設別に経
年的な施設背景の比較も可能となった。2014 年の集計結果より、未算定施設では感染を専門とした医療
スタッフが少ないことが明らかとなった。またそれに伴い、感染対策や抗菌薬適正使用に必要とされる
介入やフィードバック、アンチバイオグラム等の環境も整っていないことが示された。さらに、図 2 に
示すように使用量(AUD)を使用日数(DOT)で除した比が未算定施設では、算定施設よりも低いこと
が明らかとなった。これらの結果は、1 日使用量が少ないことや、投与期間が長いことを示しているた
め、適正な使用がなされていない可能性が推察された。これらの結果は、本システムを利用した解析が
本研究の目的の 1 つである感染防止対策加算の有用性を示すことが可能であることを示唆するものであ
る。
抗菌薬が使用される機会は医療機関に入院する患者だけではない。日本では他国と比較して病床数が
非常に多く、診療所を含めて日本国民に抗菌薬が投与される機会が非常に多い。そこで、卸データに基
づき経口薬も含めた全ての抗菌薬使用量について調査した。その結果、2009 年から 2013 年にかけて抗
菌薬使用量は増加し、その 90%は経口薬であることが明らかとなった。また、経口薬の第 3 世代セファ
ロスポリン系、キノロン系、マクロライド系が 80%弱を占めていることが明らかとなり、安易に広域な
経口抗菌薬が使用されている可能性が推察された。一方、注射用抗菌薬においてもわずかながら増加傾
向であり、オンライン Web 登録で得られた結果と同様な傾向を示していた。また、我が国における抗菌
薬使用量を明らかにしたことにより、他国との比較が可能となった。我が国における抗菌薬使用量は欧
州における報告と比較するとドイツ等と同程度であったが、内訳は他国と比較してもペニシリン系が少
ないことが明らかとなった。また、動物用医薬品、飼料添加物に含まれる抗菌薬使用量と合算すること
も可能となったため、
我が国における One Health アプローチによる抗菌薬の使用状況も明らかとなった。
これらの結果は、今後我が国における抗菌薬の適正使用推進の基礎的データとなることが示唆された。
E.結論
本研究により、抗菌薬使用動向を把握できる仕組みが開発できた。本研究は我が国全体の感染制御を
質的に向上させ、抗菌薬の適正使用を促し、患者の予後だけでなく多剤耐性菌の抑止に繋がる可能性も
あり、非常に重要な成果となる。
② 研究開発項目の実施状況及びマイルストーンの達成状況
研究開発項目の実施状況
l
本システムを利用した使用動向調査を実施し、全国データの収集体制を構築した。また、抗菌薬使用量
の指標である AUD、DOT を組み合わせた比を用いたところ、適正使用における評価指標となる可能性
を見出した。
l
卸データを利用した使用量調査を実施し、経口薬を含めた全ての抗菌薬使用量を初めて明らかにした。
マイルストーンの達成状況
l
当該年度の中期に募集を行ったデータを集計したところ、以前研究代表者らが別の研究で報告した 2010
年の使用量よりも増加傾向を示していることが明らかとなった。一方、AUD、DOT を組み合わせた比
を用いたところ、感染防止対策加算の未算定施設では算定施設と比較して低値であったことから、1 日
使用量が少ない、あるいは投与期間が長い可能性を推察できた。
l
初めてヒトに対する全ての抗菌薬使用量が明らかとなり、我が国における使用の傾向が把握できた。ま
た、動物用医薬品、医薬部外品及び医療機器製造販売高年報と合算できたことにより日本における“One
Health”の概念に則った抗菌薬の使用状況が明らかとなった。なお、本研究の結果は 2016 年 4 月 5 日に
決定された国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議の AMR 対策アクションプランにも引用され、基
礎的知見に貢献することができた。
(2)研究開発分担者 所属 :富山大学大学院医学薬学研究部・薬物動態学
研究開発分担者 役職 氏名:准教授 辻 泰弘
分担研究開発課題名(実施内容)
:ガイドライン等の作成
① 研究開発成果の内容
A.研究目的
超高齢化社会を迎える本邦では、近年の優れた抗菌薬の開発にも関わらず、院内感染で問題となる薬
剤耐性菌に罹患した患者が増加している。このなかでも多剤耐性菌による入院期間の延長、合併症発生
率の増加に伴う死亡率の上昇も懸念されている。この背景には、抗菌薬の乱用および不適切な使用が主
要因と考えられている。そこで、医療機関における薬剤耐性菌対策の1つとして抗菌薬の使用量の把握
があげられる。しかしながら、抗菌薬の使用量といっても個々の抗菌薬の本数だけの集計では、力価の
違いや医療機関が受け入れる患者背景や病床数の影響を受けるため、施設間の比較が難しい。
WHO(World Health Organization)が提唱する ATC/DDD(Anatomical, Therapeutic and Chemical/Defined
Daily Dose)システムは、ATC と DDD の 2 つの要素からなり、医薬品の使用状況に関する統計調査に利
用されている。ヨーロッパでは、医薬品の使用量に対する関心が高く、ATC/DDD が使用実態の把握の
ために汎用されている。しかしながら、ATC/DDD ガイドラインはページ数も膨大であるうえ、英語表
記であり、ガイドラインの詳細が記載されている日本語版が存在しないため、各施設で基礎データ作成
時の解釈に差違が生じている。そこで、本研究課題では、ATC/DDD ガイドラインの日本語訳を試みた。
B.研究方法
l
【医薬品使用状況調査と ATC/DDD ガイドラインの精査】の翻訳および抗菌薬使用動向調査システム
(Japan Antimicrobial Consumption Surveillance: JACS)ホームページでの公開
WHO 監修の「Guidelines for ATC classification and DDD assignment 2014」および「Introduction to Drug
Utilization Research」の日本語訳を実施した。次に、WHO 担当者および関係各署と翻訳の正式許可取得
の依頼および公開に向けた会議を行った。
l
倫理面への配慮
本研究は、抗菌薬の使用量調査を目的にしているため、直接的に患者情報を取り扱うものではない。
C.研究結果
2015 年 3 月末までに WHO が認める正式な翻訳として許可を取得して公開するには、時間的に困難
と判断したため、意訳版として体裁を整え、
「ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン 2014」
および「医薬品使用状況調査概論」として翻訳(意訳版)を完了した。本成果は 2015 年 12 月 7 日付で、
オンライン報告用ホームページ「抗菌薬使用動向調査システム:Japan Antimicrobial Consumption
Surveillance (JACS) http://www.jacs.asia/dl.php」に公開した(図 7、別添)
。
図 7 ホームページ内のダウンロードページ概要
D.考察
「ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン 2014」および「医薬品使用状況調査概論」の日本
語訳(意訳版)を公開したことで、これを参考に抗菌薬使用量の基礎データ作成が容易となる。さらに、
今後は医療システムの電子化が進み、情報収集が簡素化されることが予測されるため、本研究課題の遂
行は他の疫学調査にも貢献することができる。
E.結論
日本国内の医療機関を対象とした抗菌薬使用動向を経年的に把握する仕組みを作成することは、極め
て重要な研究である。ATC/DDD システムでは、施設間で抗菌薬の選択圧を比較できるため感染対策の
客観的指標となる。さらに、これらガイドラインおよび概要の日本語版を作成したことで、抗菌薬使用
量調査の重要度が増すことが推察される。加えて、海外の使用状況との比較により、国内における耐性
菌の発生率との因果関係を明らかにできる可能性があるシステムを構築できた。今後は医療システムの
電子化が進み、情報収集が簡素化されることが予測されるため、本研究課題の遂行は他の疫学調査にも
貢献することができる。
② 研究開発項目の実施状況及びマイルストーンの達成状況
研究開発項目の実施状況
l
WHO の抗菌薬使用量調査に関するガイドラインおよび手引きを日本語の意訳物として作成し、ホーム
ページに掲載した。
マイルストーンの達成状況
l
時間的制限により WHO の許可を取得することが困難であったため、意訳物として作成した。また、作
成したものはホームページ上で公開することができた。
(3)研究開発分担者 所属 :三重大学医学部附属病院 医療安全・感染管理部
研究開発分担者 役職 氏名:准教授 田辺 正樹
分担研究開発課題名(実施内容)
:全国データ活用の検討
① 研究開発成果の内容
A.研究目的
現在、微生物の耐性率や抗菌薬使用量の継続したサーベイランスの重要性が認識され、諸外国では国
家レベルで実施されている。しかしながら、我が国では抗菌薬使用量の大規模なサーベイランスは実施
されていなかったため、本研究では無償で医療機関が利用できる「抗菌薬使用動向調査(JACS)システ
ム」を開発した。一方、日本全体を対象とした微生物の薬剤耐性を考慮する場合、日本国内で使用される
全ての抗菌薬を対象としなければならないが、本研究で開発したオンライン登録システムは各医療機関
からの登録に依存し、注射用抗菌薬の使用動向を主体としていることが課題となった。そこで、JACS
システムでは卸データを利用した経口薬を含めた使用状況把握を行うこととした。しかしながら、卸デ
ータは医薬品購入量であり、処方量を反映させるものではない。そのため、本研究では日本全体の抗菌
薬使用量を調査するためにナショナルデータベース(NDB)を利用した新たな方法について検討した。
B.研究方法
l
ナショナルデータベースを用いた抗菌薬使用動向調査
現在、NDB の二次利用として利用可能である「特別抽出」
「サンプリングデータセット」
「集計表情
報」の3種類のデータ提供方法(参考:厚生労働省レセプト情報・特定健診等情報提供に関するホーム
ページ)から本研究に最適なデータ提供方法を検討した。
2011 年1月~2013 年 12 月の3年間における医科入院・医科入院外・DPC・調剤レセプトを対象とし、
抽出するデータの項目、対象範囲、抽出フォーマットを検討した。
l
倫理面への配慮
本研究は、抗菌薬の使用量調査を目的にしているため、直接的に患者情報を取り扱うものではない。
すなわち、データとしては、患者情報から切り離した使用量のみを取り扱う。病院名も番号などで匿名
化を図り、団体および個人の不利益に十分配慮する。
C.研究結果
l
ナショナルデータベースを用いた抗菌薬使用動向調査
現在、NDB の二次利用として、
「特別抽出」
「サンプリングデータセット」
「集計表情報」の3種類
のデータ提供方法があり
(参考:厚生労働省レセプト情報・特定健診等情報提供に関するホームページ)
、
本分担研究においては、
「集計表情報」としてのデータ提供を申請することとした。
2011 年1月~2013 年 12 月の3年間の医科入院・医科入院外・DPC・調剤レセプトを対象とし、医薬
品データ(主として一般細菌に作用)を「入院・外来」
、
「都道府県別」および「年齢階級別」に年度毎
に抽出することにした。また、抽出された薬剤の総使用量を集計し、抗菌薬の系統別にまとめ、地域別、
年齢階級別の特性や年次推移を評価することとした。これらの検討結果より、NDB のデータ抽出に関し
て、2016 年1月に申請を行った。
D.考察
抗菌薬が使用される機会は医療機関に入院する患者だけではない。日本では他国と比較して病床数が
非常に多く、診療所を含めて日本国民に抗菌薬が投与される機会が非常に多い。本研究では、全国の医
療機関を対象としたレセプトデータ」を用いた網羅的な解析が可能か検討を行った。
現在、医科(病院)
・DPC レセプト、調剤レセプトの電子化率は 99.9%を越えており、レセプト情報・
特定健診等情報データベース(以下、NDB)にある医科・DPC・調剤レセプトを解析することで日本全
国の医療機関における抗菌薬使用状況を網羅的に把握することが可能である。データ利用のための手続
きやシステム構築費用等、
超えるべきハードルは高いが、
「各医療機関からの登録によるデータ集計方法」
に加えて、網羅的にデータ収集を行なう本研究の手法は、日本の抗菌薬使用の実態把握において有用な
情報を提供でき、また、抗菌薬適正使用推進への1つのステップになると考えられた。
E.結論
本研究は耐性菌蔓延が危惧される我が国における抗菌薬使用を網羅的に把握する上でも非常に重要
な成果と考えられる。
② 研究開発項目の実施状況及びマイルストーンの達成状況
研究開発項目の実施状況
l
NDB で抽出可能な項目を検討できた。
マイルストーンの達成状況
l
基本フォーマットを検討し、NDB のデータ抽出に関して 2016 年 1 月に申請を行った。
3.成果の外部への発表
(1)学会誌・雑誌等における論文一覧
掲載した論文(発表題目)
発表者氏名
Changes in the pharmacokinetics of
teicoplanin
hyperglycaemic
in
patients
with
hypoalbuminaemia:
Impact of albumin glycosylation on the
発表した場所(学会
発表した
国内・外
誌・雑誌等名)
時期
の別
Int
J
Antimicrob
Enokiya T, Muraki Y, Agents
pii:
S0924-8579(15)0015
Iwamoto T, Okuda M.
国外
2015
国外
2015
国外
2016
国内
2015
国内
2015
国内
2015
国内
5-7.
binding of teicoplanin to albumin
Hiraki
Y,
Tsuji
Y,
Urinary pH may inhibit elevation of Yasumori N, Nagano M, Int J Clin Pharmacol
vancomycin serum concentration
2015
Kamimura H, Karube Y, Ther 58, 987-996
Kawano F
Population pharmacokinetic approach for
low dose cyclosporine in patients with
connective tissue diseases
Tsuji Y, Iwanaga N,
Mizoguchi A, Sonemoto
E, Hiraki Y, Ota Y, Kasai
H, Yukawa E, Ueki Y, To
Biol Pharm Bull 38,
1265-1271
H
臨床材料から分離された耐性緑膿菌に
対するブレイクポイントチェッカーボ
ードプレートを用いた in vitro 併用効
果の検討
榎屋友幸、村木優一、
中村明子、田辺正樹、
兼児敏浩、奥田真弘
日本化学療法学会
雑誌.; 64:82-6.
長手俊樹、池村健治、
肝細胞がんに対するシスプラチン・リ 世古口典子、榎屋友幸、
ピオドール療法における嘔吐の危険因 村木優一、岩佐元雄、
子および制吐剤の予防効果の解析
岩本卓也、定金豊、奥
医 療 薬 学 ,
41,
768-775.
田真弘
浜田幸宏、丹羽隆、村
木優一、青山智、上田
秀親、奥平正美木村匡
日本人患者における Meropenem の高 男、小林義和、塩田有
用量投与の安全性および有効性に関す 史、平下智之、本田勝
る多施設共同後方視的研究
亮、間瀬広樹、松岡知
日本化学療法学会
雑誌.; 63:560-7.
子、望月敬浩、森章哉、
片山歳也、森健、三鴨
廣繁
日本人 MRSA およびグラム陽性菌感 辻 泰弘、太田幸雄、笠 TDM 研 究 32 、
染症を対象としたジェネリック・テイ 井英史、平木洋一、山 188-197
コプラニンの多施設共同母集団薬物動 田尚広、松永典子、大
態解析
石博史、矢口武廣、北
原隆志、内藤隆文、藤
秀人
(2)学会・シンポジウム等における口頭・ポスター発表
発表した成果(発表題目、
口頭・ポスター発表の別)
発表者氏名
発表した場所
(学会等名)
発表した時期
国内・外
の別
日本における経口剤、注射剤を含む 村木優一、田辺正樹、渡 第 31 回日本環
全抗菌薬の使用動向調査(2009~ 邉珠代、藤本修平、八木 境 感 染 学 会 総 2016
2013 年)
多剤耐性アシネトバクターに対する
環境除菌・洗浄剤の除菌効果に関す
る検討
哲也、村上啓雄
村木優一、中村明子、水
口恵理、新居晶恵、中川
裕司、森川祥彦、山崎大
輔、田辺正樹、兼児敏浩
国内
会・学術集会
第 31 回日本環
境 感 染 学 会 総 2016
国内
会・学術集会
第 90 回 日本
我が国における経口薬を含めた抗菌
感染症学会総
2016
国内
「ICT におけるスタッフ教育」,感染
本感染症学会
症診療・感染制御領域における薬剤 村木優一
中 日 本 地 方 会 2015
国内
師のキャリアデベロップメント
学術集会第 63
薬使用動向の現状
村木優一
会シンポジウ
ム8
第 85 回日本感
染症学会西日
本地方会学術
集会第 58 回日
回日本化学療
法学会西日本
支部総会シン
ポジウム 3
日病薬東海ブ
院外処方せんへの検査値表示とトレ
国内
川祥彦、水口恵理、中川 学 療 法 学 会 総 2015
国内
る利点と課題
バンコマイシン塩酸塩注(VCM)に
おける protocol based pharmacotherapy
management (PBPM)の開始前後の
変化
ロック第 31 回
2015
ーシングレポートを始めたことによ 村木優一
東海医療薬学
シンポジウム
村木優一、榎屋友幸、森 第 63 回日本化
裕司、田辺正樹
会
全国の国公立大学附属病院における
抗菌薬適正使用に対する介入の効果
村木優一、西村信弘、冨 第 63 回日本化
田隆志、丹羽隆、高山和 学 療 法 学 会 総 2015
郎、髙倉俊二、村上啓雄
国内
会
テ イ コ プ ラ ニ ン に お け る protocol 榎屋友幸、中川裕司、森 第 63 回日本化
based pharmacotherapy management 川祥彦、水口恵里、田辺 学 療 法 学 会 総 2015
(PBPM)の開始前後の変化
正樹、村木優一
三重大学医学部附属病院における 2
剤あるいは多剤耐性緑膿菌(MDRP) 中川裕司、榎屋友幸、村
の分離株に対するコリスチン感受性 木優一
および抗菌薬の 2 剤併用効果
バンコマイシン初回投与設計時にお
ける理想体重、血清クレアチニン及
びアルブミン濃度を用いた腎機能推
定式の評価-Cockcroft & Gault 式と
の比較-
ARCHITECT®アナライザーi1000 な
らびにTBATM-25FR を用いた血中メ
トトレキサート濃度測定法の精度評
価
肝細胞癌に対するシスプラチン・リ
ピオドール療法における嘔吐の危険
因子及び制吐剤の予防効果の解析
林雅彦、岩本卓也、山崎
大輔、松田紘子、川瀬亮
介、村木優一、八重徹司、
大井一弥、奥田真弘
小田都紀子、岩本卓也、
山田真帆、山本弥里、村
木優一、奥田真弘
的考察
精神科病棟において体験型実習を導
入したことによる実習生の精神科に
対する印象の変化
人工関節置換術後にエドキサバンを
使用した患者におけるヘモグロビン
低下に及ぼす危険因子の探索
学 療 法 学 会 総 2015
国内
会
第 32 回 日本
TDM 学会・学 2015
国内
術大会
医療薬学フォ
2015
国内
2015
国内
毒学会総会・学 2015
国内
ーラム 2015
木優一、岩佐元雄、岩本 ーラム 2015
卓也、定金豊、奥田真弘
本拓也、奥田真弘、今井
寛
れた重症筋無力症患者の経験と文献
第 63 回日本化
古口典子、榎屋友幸、村 医 療 薬 学 フ ォ
吸収過程が遷延した急性テオフィリ 木優一、増井亜紗実、平
シベンゾリンによる呼吸不全が疑わ
会
長手俊樹、池村健治、世
榎屋友幸、岩下義明、村
ン中毒の 1 症例
国内
第 37 回日本中
術集会
宮本明希、榎屋友幸、石
川英洋、島田拓弥、谷口 日 本 医 療 薬 学
彰、岡本隆二、村木優一、 会第 25 回年会
2015
国内
2015
国内
2015
国内
岩本卓也、奥田真弘
佐々木典子、池村健治、
三輪高市、河原佑樹、村 日 本 医 療 薬 学
木優一、岩本卓也、奥田 会第 25 回年会
真弘
森川祥彦、榎屋友幸、長
谷川正裕、宮本明希、村 日 本 医 療 薬 学
木優一、岩本卓也、須藤 会第 25 回年会
啓広、奥田真弘
須藤宏文、岡本明大、濱
甲状腺癌患者に対してソラフェニブ
を投与した 5 症例の副作用解析
口直美、佐々木典子、西
田幸平、竹内万彦、村木
優一、岩本卓也、奥田真
日本医療薬学
2015
国内
2015
国内
2015
国内
2015
国内
2015
国内
2015
国内
境 感 染 学 会 総 2015
国内
会第 25 回年会
弘
新規試薬を用いたディメンション 水谷栄梨、岩本卓也、小
Xpand Plus-HM の血中タクロリムス 田都紀子、村木優一、奥
濃度測定法の評価
田真弘
日本医療薬学
会第 25 回年会
畑中知笑美、村木優一、
トレーシングレポートの運用開始に
伴う患者アウトカムの現状調査
内田佳久、梅本彩加、草
川美乃、津幡理恵、末澤
千恵、須藤早百合、奥田
日本医療薬学
会第 25 回年会
真弘、野田明雄
西川晃平、加藤学、矢崎
タクロリムス徐放製剤・ミコフェノ
ール酸血中濃度測定における採血ポ
イント削減の試み
順二、吉尾裕子、長谷川
嘉弘、神田英輝、金井優 第 51 回日本移
博、有馬公伸、榎屋友幸、 植学会総会
村木優一、奥田真弘、杉
村芳樹
日本病院薬剤
問題解決を指向した実習課題が学生
の実習満足度に及ぼす影響
河原佑樹、池村健治、村
木優一、岩本卓也、奥田
真弘
師会東海ブロ
ック・日本薬学
会東海支部 合
同学術大会2
015
畑中知笑美、村木優一、
トレーシングレポートを活用した病
薬連携の実際
内田佳久、梅本彩加、草
川美乃、津幡理恵、末澤
千恵、須藤早百合、奥田
第 48 回東海薬
剤師学術大会
真弘、野田明雄
三重大学医学部附属病院における過
去 7 年間の C.difficile 陽性発生率の変
遷
安田和成、中村明子、新
居晶恵、山崎大輔、村木
優一、田辺正樹、兼児敏
浩
三重大学医学部附属病院における注 山崎大輔、村木優一、中
射用抗菌薬の使用動向と細菌検出率 村明子、中川裕司、森川
の推移の関係
祥彦、安田和成、新居晶
恵、田辺正樹、兼児敏浩、
第 31 回日本環
会
第 31 回日本環
境 感 染 学 会 総 2015
国内
会
多剤耐性アシネトバクター(MDRA) 新居晶恵、田辺正樹、山 第 31 回日本環 2015
国内
アウトブレイク発生時における環境 崎大輔、村木優一、安田 境 感 染 学 会 総
清掃について
和成、中村明子、兼児敏 会
浩
外来診療時の手指衛生実施率向上に
向けての取り組み―手指衛生モニタ
リングシステムを導入して―
新居晶恵、田辺正樹、山
崎大輔、村木優一、安田
和成、中村明子、兼児敏
浩
中村明子、新居晶恵、水
MDRA に対する蒸気化過酸化水素ガ 口絵里、安田和成、山崎
スの消毒効果
大輔、村木優一、田辺正
樹、兼児敏浩
ニューモシスチス肺炎に対するアト
バコンの安全性評価
血液透析患者におけるリネゾリド用
量調節の臨床的検討
慢性腎不全モデル動物を用いたリネ
ゾリド誘発血小板減少の検討
血液透析患者におけるダプトマイシ
ン用量調節の臨床的検討
血液透析患者におけるリネゾリド用
量調節の臨床的検討
常友盛勝、菅原隆文、壁
第 31 回日本環
境 感 染 学 会 総 2015
国内
会
第 31 回日本環
境 感 染 学 会 総 2015
国内
会
第 25 回日本医
2015
国内
2015
国内
信之、鳴河宗聡、山本善 学 療 法 学 会 総 2015
国内
村嘉恵、開浩一、辻泰弘、
神村英利
東祥嗣、芦澤信之、河合
暦美、鳴河宗聡、辻 泰
弘、山本善裕
療薬学年会
第 6 回 MRSA フ
ォーラム
西條尚、辻 泰弘、芦澤 第 63 回日本化
裕
会
山本善裕、河合暦美、芦 第 63 回日本化
澤信之、鳴河宗聡、辻
学 療 法 学 会 総 2015
泰弘
会
国内
芦澤信之、河合暦美、鳴 第 63 回日本化
河宗聡、辻 泰弘、山本 学 療 法 学 会 総 2015
善裕
国内
会
太田幸雄、辻 泰弘、笠
多施設共同研究による後発テイコプ 井英史、平木洋一、山田 第 32 回 日 本
ラニン「日医工」の母集団薬物動態 尚広、松永典子、大石博 TDM 学会・学 2015
解析
国内
史、矢口武廣、北原隆志、 術大会
内藤隆文、藤秀人
福森史郎、辻 泰弘、笠
異なる母集団薬物動態パラメータを 井英史、太田幸雄、浅野 第 32 回 日 本
用いたダプトマイシン血中濃度の予 雅俊、西條尚、芦澤信之、 TDM 学会・学 2015
測精度
鳴河宗聡、山本善裕、藤 術大会
秀人
国内
(3)
「国民との科学・技術対話社会」に対する取り組み
発表した演題等
発表者氏名
発表した場所(シンポ
ジウム名等)
発表した時期
国内・外
の別
なし
『
「国民との科学・技術対話」の推進について(基本的取組方針)』(平成 22 年 6 月 19 日科学技術政策担当大臣、総
合科学技術会議有識者議員)において、
「研究活動の内容や成果を社会・国民に対して分かりやすく説明する、未来
への希望を抱かせる心の通った双方向コミュニケーション活動」を「国民との科学・技術対話」と位置づけていま
す。1 件あたり年間 3,000 万円以上の公的研究費の配分を受ける場合には、
「国民との科学・技術対話」への積極的
な取組みが求められています。詳しくは以下をご参照ください。
http://www8.cao.go.jp/cstp/output/20100619taiwa.pdf
(4)特許出願一覧(発明の名称)
報告様式4別紙1の通り
Ⅲ.活動(運営委員会等の活動等)
・平成 27 年 5 月 22 日 八木班 班会議にて情報共有
・平成 27 年 11 月 20 日 健康局第 2 会議室 研究成果発表
・平成 27 年 12 月 8 日 第 2 回 厚生労働省薬剤耐性(AMR)タスクフォース 有識者ヒアリングに参
加
・平成 28 年 1 月 8 日 八木班 班会議にて情報共有
・平成 28 年 1 月〜4 月 薬剤耐性(AMR)対策アクションプランの作成について資料作成・提供
Ⅳ.実施体制
研究開発参加者リストの通り
別添
「ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン 2014:Guidelines for ATC
」
classification and DDD assignment 2014(意訳版)
「医薬品使用状況調査概論:Introduction to Drug Utilization Research(意訳版)
」
注意事項:翻訳の責任について
Below are things to be aware when using and reading this documents.
私たちは、
「ATC 分類と DDD の割り当て 2014 年のためのガイドライン」と「医薬品の使用状況調査の
概要」
(世界保健機関)の原稿の一部を翻訳しました。しかし、我々はまだ、当該管理部局より正式な許
可を受け取っていません。したがって、我々は任意の障害や、この翻訳された内容のアプリケーション
からのトラブルの場合は責任を負いかねます。本資料を使用したことによって生じたあらゆる結果、ま
たはいかなる損害に対して、製作者は一切の責任を負わない事とさせていただきます。使用者個人の責
任において使用してください。
村木優一
We had translated a part of an original manuscript where “Guidelines for ATC classification and DDD assignment
2014” and “Introduction to Drug Utilization Research". However, we still have not received permission from World
Health Organization. Therefore, we cannot take responsibility if any failure or troubles from application of this
translated contents. We make no warranties about troubles caused by the existence of this documents.
Yuichi Muraki PhD
ATC 分類および DDD 付与に関するガイド
ライン
第 17 版
注意事項:翻訳の責任について
本内容は WHO が公開している「医薬品の使用状況調査の概要」を一部翻訳しています。
しかしながら、本内容はまだ、当該管理部局より正式な許可を受け取っていません。したが
って、我々は任意の障害や、この翻訳された内容のアプリケーションからのトラブルの場合
は責任を負いかねます。本資料を使用したことによって生じたあらゆる結果、またはいかな
る損害に対して、製作者は一切の責任を負わない事とさせていただきます。使用者個人の責
任において使用してください。
また、本資料は新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業の支援のも
とに作成されています。
既版:
1990:ATC 分類に関するガイドライン 1)
1991:DDD に関するガイドライン 1)
1993:ATC 分類に関するガイドライン
1993:DDD に関するガイドライン
1996:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
1998:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
1996:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2000:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2001:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2002:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2003:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2004:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2005:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2006:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2007:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2008:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2009:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2010:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2011:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2012:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
2013:ATC 分類および DDD 付与に関するガイドライン
研究代表者:村木 優一
目次
Ⅰ.
緒言 .............................................................................................................................. 3
II.
解剖治療化学(ATC)分類システム .......................................................................... 7
III.
DDD(規定 1 日用量) ............................................................................................. 13
IV.
ATC/DDD システムの使用および誤用................................................................... 21
V.
ATC/DDD 付与および変更のための手順およびデータ要件 ..................................... 27
VI.
ACT index with DDDs の概要 ................................................................................. 32
VII.
その他の ATC 分類システム ..................................................................................... 33
VIII.
ATC/DDD の解釈に関するガイドライン ........................................................... 34
Ⅰ.
緒言
A.
ATC/DDD システムの歴史
医薬品使用状況調査の領域に対する関心は、それが 1960 年代に生まれて以降、年々高まっ
ている。先駆的な研究を行ったのは WHO 欧州事務局の 2 人のコンサルタント、Engel お
よび Siderius であった(医薬品の消費量:1966~1967 年の調査報告書。WHO 欧州事務
局、1968 年)
。彼らが実施した 1966~1967 年中の欧州 6 ヵ国における医薬品消費量の研究
から、医薬品の使用状況が国民間で大きく異なることが明らかとなった。この研究後、1969
年にオスロにおいて、
「医薬品の消費量」と題するシンポジウムが WHO 欧州事務局の主催
で開催された。このシンポジウムでは、医薬品使用状況調査のための、国際的に認められた
分類システムが必要であることで意見が一致した。医薬品使用状況調査グループ(DURG)
もこのシンポジウムにおいて設立され、医薬品使用状況調査の国際的に利用可能な方法の
開発を任せられた。ノルウェーの研究者グループは、欧州医薬品市場調査協会(EphMRA)
の分類システムを改変、拡大することによって、解剖治療化学(ATC)分類として知られる
システムを作成した。医薬品の使用量を測定するためには、分類システムと測定単位の両方
を持っていることが重要である。従来の測定単位に対する反論に対処するために、医薬品使
用状況調査に用いるための規定 1 日用量(DDD)と呼ばれる専門的測定単位が作成された。
1975 年に設立された北欧医療審議会(NLN)はノルウェーの研究者と協力し、さらに ATC
/DDD システムを開発した。NLN は ATC/DDD 法を用いた北欧医療統計(Nordic
Statistics on Medicines)を、1976 年に初めて発表した。それ以来、ATC/DDD システム
に対する関心は高まりつつある。
B.
現時点における各組織の ATC/DDD システムに対する責務
1.
WHO 医薬品統計法共同研究センター
1981 年、WHO 欧州事務局は、国際的な医薬品使用状況調査に対して ATC/DDD システ
ムを推奨した。このことに関連して、またこの手法の利用をさらに広げるために、ATC/
DDD システムの利用をコーディネートする中心組織が必要であった。そのため、WHO 医
薬品統計法共同研究センターが 1982 年、オスロにおいて設立された。センターは 2001 年
までは Norwegian Medicinal Depot(NMD)に位置していた。2002 年 1 月以降は、セン
ターはノルウェー公衆衛生研究所に所属している。ノルウェー政府がセンターに資金援助
を行っている。1996 年、WHO は ATC/DDD システムの使用を医薬品使用状況調査の国
際標準として発展させることの必要性を認識した。そのため、センターはコペンハーゲンの
WHO 欧州事務局ではなく、ジュネーブの WHO 本部に直接リンクされることとなった。こ
のことは、各国の医薬品使用状況調査を徹底的に統合し、また必要な医薬品への全世界的ア
クセスと、特に開発途上国における医薬品の合理的使用の達成を目指して WHO が主導権
を握るために、重要と見なされた。標準化され検証された医薬品の使用に関する情報へのア
クセスは、医薬品使用パターンの監査、問題の同定、教育またはそれ以外の介入ならびに介
入のアウトカムのモニタリングを可能とするためには不可欠である。1996 年、WHO 本部
とノルウェー政府の間で初めての協定が結ばれた。WHO 医薬品統計法共同研究センターと
してのノルウェー公衆衛生研究所、薬剤疫学部門の最新の指定変更は、2012 年 5 月に実施
された。この協定によって、ATC/DDD 分類法に関連した活動はすべて、WHO が決定し
た方針に従って実行することとなった。センターの主な活動は、次の項目を含めた ATC/
DDD システムの開発と維持である:
-
医薬品を ATC システムに従って分類する。
-
ATC コードが付与された医薬品について DDD を確立する。
-
ATC 分類システムおよび DDD を再検討し、必要に応じて改訂する。
-
医薬品使用状況分野の研究者と協力し、ATC システムの実用的な利用を促進し、
また利用に影響を及ぼす。
-
ATC/DDD 法の研修コースを企画し、そのようなコースや他者が企画したセミナ
ーを実施する。
-
各国に対し、国内の医薬品分類システムを設定し、医薬品消費の情報を利用する能
力の構築を技術的に援助する。
2.
WHO 医薬品統計法国際ワーキンググループ
ATC/DDD システムをグローバル化することが決定された 1996 年、WHO 医薬品管理・
政策部は WHO 医薬品統計法国際ワーキンググループを設立した。この国際ワーキンググ
ループは、WHO 医薬品評価および医薬品政策・管理のための専門家諮問委員会から引き抜
かれた 12 名のメンバーで構成されている。国際ワーキンググループのメンバーは WHO 本
部が、広範にわたる地理的背景、また臨床薬理学、臨床医学、国際公衆衛生、医薬品使用状
況および医薬品規制を含む専門分野を網羅するように選出されている。国際ワーキンググ
ループのメンバーは WHO の世界 6 地域を代表しており、ATC/DDD システムの様々なユ
ーザーおよび様々な国民性を表している。WHO 医薬品統計法共同研究センターはワーキン
ググループから専門的なアドバイスを受けている。ワーキンググループの付託条項は次の
通りである:
-
ATC/DDD システムの科学的な開発を続けること。
-
新たな ATC コード、DDD 付与および既存の ATC コードおよび DDD への変更の
すべてを検討し、承認すること。
-
ATC/DDD システムの医薬品使用状況調査の国際標準としての利用をさらに広
げること。
-
ATC コードおよび DDD の付与および変更に関するガイドラインを必要に応じて
改訂すること。
-
ATC コードおよび DDD を付与および変更するための申請に関する手順を必要に
応じて改訂し、それらの一貫性と透明性を確保すること。
-
国際的な医薬品の使用に関する統計の情報源および入手可能性を評価し、ATC/
DDD システムを国際標準として使用しているすべての国および地域において広範にわたる
医薬品使用統計の系統的な収集を助長する。
-
特に発展途上国において適用可能な、様々な設定における医薬品使用状況調査に
おける ATC/DDD システムの実用的な適用と適切な使用に関する方法、マニュアルおよび
ガイドラインを作成すること。
-
医薬品の合理的使用に取り組んでいる他のグループと協働し、医薬品使用の改善
を目指した介入の必要性とアウトカムを評価するために用いる医薬品使用量の測定方法を
一本化すること。
国際ワーキンググループは年 2 回、ミーティングを開いている。年 2 回のミーティングの
うち 1 回を、電話会議に替えることもある。国際ワーキンググループのミーティングは非
公開であり、
メンバーはミーティングの前に WHO 利害関係申告書への記入が求められる。
WHO 国際医薬品モニタリング共同研究センター、WHO 医薬品使用状況調査および臨床薬
理学サービス共同研究センターおよび国際製薬団体連合会からのオブザーバーも、国際ワ
ーキンググループのミーティングへの参加を要請される。いずれかのミーティングに先立
ってオープンセッションが開催され、関係者はミーティングに登録することができる。国際
ワーキンググループのミーティングの決議段階は、非公開で行われ続ける予定である。ATC
分類または DDD 付与に関する決定事項は WHO 医薬品統計法共同研究センターのウェブ
サイト上および刊行物 WHO 医薬品情報の中で公表される。新たなまたは改訂された ATC
分類または DDD 付与に関する決定事項は、初めは暫定決定事項として公表される。この決
定に異議を唱えることを望む関係者はその公表後、特定の期日までに意見を述べるように
要請される。一時的な決定に異議がなければ、それは最終決定事項として公表され、次の
ATC classification index with DDDs において実行される。異議がある場合には、決定事項
は国際ワーキンググループの次のミーティングで協議される。2 回目のミーディングで新た
な決定がなされた場合には、新たな決定事項が暫定決定事項として公表され、初回の決定時
と同様に意見が受付けられる。WHO はすべての決定について最終的な責任を負い、この作
業を進める中で生じた議論は、WHO に問い合わせて最終的な決議を求めなければならな
い。
オープンセッション
オープンセッションは、WHO 医薬品統計法国際ワーキンググル-プのミーティングに合わ
せて年 1 回開催される。オープンセッションは透明性を保つことを目的とし、非公開の決
議のための協議の前 1 時間半にわたり実施される。
このセッションには、解剖治療化学(ATC)
分類システムおよび規定 1 日用量(DDD)付与に正当な利益のあるすべての者が参加する
ことができる。それには規制当局、製薬会社、学界および非政府組織が含まれる。セッショ
ンでは、参加者は決議に役立つ補足情報を専門家へ提示する機会が与えられる。ワーキング
グループの各国のメンバーはこのセッションで、関係者とアイデアや意見を交換すること
ができる。セッションはワーキンググループの決定を批判するための仕組みとして利用す
ることを意図したものではない。ATC 分類または DDD 付与を申請する、またそれらに意
見を提出するための手順は、このガイドラインの中で概説されている。関係者はこのセッシ
ョンへの登録を、ミーティングの 14 日前までに WHO 本部へ申し出なければならず、また
参加する適切な理由を提示しなければならない。WHO 本部は、オープンセッションの長さ
を 1.5 時間以内に収めるために、各プレゼンテーションに許される時間を制限する。これら
のミーティングに関する情報は、WHO のウェブサイト(www.who.int/medicines)で入手
することができる。
C.
ATC/DDD システムの目的
ATC/DDD システムの目的は、医薬品使用の質を改善するための医薬品使用状況調査のた
めのツールとして役立てることである。このひとつのコンポーネントは国際的およびその
他のレベルで医薬品使用量の統計値を示し、比較することである。
センターとワーキンググループの主要な目的は、安定した ATC コードと DDD を長期間維
持し、システムの頻繁な変更の複雑さなしに、医薬品消費のトレンドを調査できるようにす
ることである。分類または DDD を変更することには、そのような変更が医薬品消費量の調
査に直接関与しない理由によるものである場合には、強い抵抗がある。このような理由から、
ATC/DDD システム自体は、報酬、価格決定および代替薬に関する決定の指針としては不
適切である。
ある物質が ATC/DDD システムで分類されていることは、その使用を推奨するものではな
く、また医薬品および医薬品グループの有効性または相対的有効性に関する判断を示すも
のでもない。
II.
解剖治療化学(ATC)分類システム
A.
構造および命名法
構造
ATC 分類システムでは、有効成分をそれが作用する臓器または系、治療的特性、薬理学的
特性および化学的特性に従って、異なるグループに分割する。医薬品は 5 つの異なるレベ
ルに分類される。医薬品は薬理学/治療法サブグループ(第 2 レベル)を持った、14 のメ
イングループ(第 1 レベル)に分類される。第 3 および第 4 レベルは化学/薬理学/治療
法サブグループであり、第 5 レベルは化学物質である。第 2、3 および 4 レベルは、薬理学
サブグループが治療法または化学サブグループより適切であると見なされた場合に、薬理
学サブグループを同定するためにしばしば利用される。メトホルミンの完全な分類は、この
コードの構造の良い例である:
A
消化管と代謝作用
(第 1 レベル、解剖学的部位に基づくメイングループ)
A10
糖尿病用薬
(第 2 レベル、治療法サブグループ)
A10B
血糖値降下薬、インスリンを除く
(第 3 レベル、薬理学サブグループ)
A10BA ビグアナイド
(第 4 レベル、化学サブグループ)
A10BA02
メトホルミン
(第 5 レベル、化学物質)
このように ATC システムでは、すべてのメトホルミンの単味製剤に A10BA02 というコー
ドが付与される。
命名法
-
国際一般名
(INN)
が好ましい。
INN 名が付与されていない場合には、
通常は USAN
(米国一般名)または BAN(英国一般名)名を選択する。
-
異なる ATC レベルを命名する際には、WHO の医薬品用語リスト(医薬品の薬理
活性および治療的使用-用語リスト)が使用される。
B.
組入れおよび除外基準
WHO 共同研究センターは、システムのユーザーからの要請に応じて、ATC 分類法に新た
な登録を実行する。ユーザーには製造業者、規制当局および研究者が含まれる。システムの
対象は広くない。ある物質がこのシステムに含まれていない場合、その主な理由は要請を受
けていないことである。以下の基準のいずれか 1 項目を満たす有効成分は、ATC システム
に組入られるのが普通である:
-
様々な国において認可申請が行われた新規の化学物質(有効成分)または生物学的
製剤である。新規化学物質は通常、1 ヵ国以上で市販認可の申請が出されるまでは ATC シ
ステムに組入れない。
-
様々な国で使用されている既存の明確に定義された化学物質である。有効成分に
ついては INN が決定されていることが好ましい。INN がない場合は、他の正式名、例えば
USAN または BAN 名が入手可能でなければならない。
-
有効性、安全性および品質に関するデータを含む資料を基に規制当局が評価し、承
認した漢方薬である。
C.
分類の原則
1.
一般的原則
医薬品は各投与経路に対してただ 1 つの ATC コードを付与することを原則として、主要有
効成分の主要治療用途に従って分類する(すなわち、成分と力価が同じ製剤は同じ ATC コ
ードを持つことになる)
。即放性および徐放性の錠剤は、通常は同じ ATC コードになる。明
らかに異なる治療用途で複数の力価または投与経路で市販されている場合には、1 つの医薬
品が複数の ATC コードを付与されることがある。以下にこの 2 つの例を示す:
-
ある剤型または力価の性ホルモンは、癌の治療にのみ用いられているため、L02-
内分泌療法に分類される。残りの剤型/力価は G03-性ホルモンと生殖器系モジュレータ
に分類される。
-
フィナステライドは 2 つの異なる力価で販売されている。男性型脱毛症を治療す
るための低力価錠は、D11AX-その他の皮膚科用製剤に分類される。良性前立腺肥大症
(BPH)の治療に用いられる高力価錠は、G04C-BPH 用薬として分類される。
局所および全身用の異なる剤型についても、別々の ATC コードが付与される。
例:
単味製剤のプレドニゾロンには、治療用途が様々であり、また国ごとに適用される処方が
様々であるために、複数の ATC コードが付与されている。
A07EA01
腸内抗炎症薬剤 (浣腸剤およびフォーム剤)
C05AA04
局所用抗痔疾薬 (坐薬)
D07AA03
皮膚科用製剤
H02AB06
全身用副腎皮質ステロイド
R01AD02
鼻充血除去薬
(鼻腔用スプレー/点鼻薬)
S01BA04
眼科用薬
(点眼薬)
(クリーム、軟膏およびローション)
(錠剤、注射剤)
S02BA03
耳科用薬
(点耳薬)
医薬品は複数の同等に重要な適応症に対して用いられることがあり、また 1 つの医薬品の
主要な治療用途が国によって異なることもある。そのために、しばしば分類に複数の選択肢
が生じることになる。そのような医薬品には、入手した文献を基に主要な適応症を決定し、
コードを 1 つだけ付与するのが普通である。問題は WHO 医薬品統計法国際ワーキンググ
ループが協議し、最終的な分類を決定する。そのような医薬品の様々な用途を示すために、
ガイドラインにクロスレファレンスを設定する。ATC システムは、厳密には治療法の分類
システムではない。医薬品の薬理学に従って、すべての ATC レベルで ATC コードを付与
することができる。しかし、作用機序の区分が細かすぎると 1 サブグループに 1 化学物質
のみという結果を招くため、それを可能な限り回避するために、作用機序に基づいた分割は
ある程度は幅が広いものになることが多い(例えば抗うつ薬)。いくつかの ATC グループ
は化学と薬理学の両方のグループに区分されている(例えば ATC グループ J05A-直接作
用型抗ウイルス薬)
。通常、立体異性体には別々の ATC コードが付与される。各 ATC グル
ープについて、例外がガイドライン中に記載されている。関連物質の既存の ATC 第 4 レベ
ルグループに属することが明らかではない新規医薬品は、原則として X グループ(「その他」
のグループ)に分類する。それぞれに化学物質が 1 つのみ属する第 4 レベルが複数あると
いう状況を避けるために、一般的原則として、新たな第 4 レベルは 2 種類以上の市販薬が
そのグループに適合する場合に限り作成する。さらに、新しい第 4 レベルは、医薬品使用状
況調査にとって有用と見なされるものでなければならない。したがって、新規の革新的な医
薬品はしばしば X グループに分類され、そのようなグループがただ 1 つの化学物質に対し
て作成されることがある。プロドラッグには、使用される用量および/または一般名がプロ
ドラッグと実薬との間で異なる場合には、別の ATC コードを付与するのが普通である。
例:
J01CA08
ピブメシリナム
J01CA11
メシリナム
2.
単味製剤の分類
単味製剤は、以下のように定義する:
-
1 種類の有効成分(立体異性体混合物)を含有する製剤
-
1 種類の有効成分に加えて、製剤の安定性を高めるため(例えば少量の抗菌剤を含
有するワクチン)
、作用期間を延長するため(例えばデポー製剤)および/または吸収率を
高めるため(様々な皮膚科用薬の異なる溶剤)の補助物質を含有する医薬品も、単味製剤と
見なす。
3.
配合剤の分類
複数の有効成分を含有する製剤は、配合剤と見なされる。配合剤は 3 つの主要原則に従っ
て分類される。
a)
同じ第 4 レベルに属する複数の有効成分を含有する配合剤は、通常は第 5 レベル
コード 20 または 30 を用いて分類する。
例:
N01BB02
リドカイン
N01BB04
プリロカイン
N01BB20
配合物(例えばリドカインとプリロカイン)
b)
同じ第 4 レベルに属さない複数の有効成分を含有する配合剤は、50 番台を用いて
分類する。
例:
R06AA02
ジフェンヒドラミン
R06AA52
ジフェンヒドラミン、配合
同じ主要有効成分を共有する異なる配合剤には、通常は同じ ATC コードが付与される。し
たがって、フェニルプロパノールアミン+ブロムフェニラミンを含有する製剤とフェニル
プロパノールアミン+シンナリジンを含有する製剤は、いずれもコード R01BA51 フェニ
ルプロパノールアミン、配合を付与される。一般的な製品名で市販されている複数の異なる
医薬品で構成されたパッケージも、配合剤と見なされる。例えば、ソタロール錠とアスピリ
ン錠の両方が入った配合パッケージは、C07AA57 ソタロール、配合に分類される。
c)
N05-精神安定薬または N06-精神賦活薬に分類されない精神安定薬を含む配合
剤は、70 番台を用いた、別の第 5 レベルで分類される。
例:
N02BA71-アセチルサリチル酸、精神安定薬配合(精神安定薬に加えて他の物質を含有す
る製剤も、ここに分類される)
。精神安定薬を含むいくつかの配合剤は、別の第 3 または第
4 レベルに分類されている(例えば A03C-鎮痙薬、精神安定薬配合)
。主要な規則にはいく
つかの例外があり、ガイドラインの中で説明されている。いくつかの重要な配合剤、例えば
β-遮断薬と利尿薬の配合剤には別の ATC 第 3 または第 4 レベルが付与されている。ある
種の配合剤をどこに分類するかを決定するのは難しいことがある。分類は主要な治療用途
によって決定する。鎮痛薬と鎮静薬を含有し、主に疼痛の緩和に用いられる医薬品は、鎮痛
薬として分類しなければならない。同様に、鎮痛薬と鎮痙薬の配合剤は、その製剤の鎮痙作
用がもっとも重要と見なされる場合には、A03-機能的胃腸疾患用薬に分類するものとする。
同様の例は、ガイドラインの中で、関連する医薬品グループについて詳述されている。いく
つかの ATC グループでは、配合剤を分類する一助としてランキングが導入されている(例
えば、異なる降圧薬の配合剤および異なる鎮痛薬の配合剤)
。このランキングには、分類を
決定する際にどの医薬品を他の医薬品に優先させるかが示されている。このランキングは
ガイドラインの中で、関連する医薬品グループについて詳述されている。
D.
ATC 分類の変更に関する原則
医薬品が市販されると、その用途は絶えず変化と拡大を続けることから、ATC システムの
定期的な改訂が常に必要となる。ATC 分類の変更は、最小限に留めるべきである。変更を
行う前に、ATC システムのユーザーが負う苦労を考慮し、その変更によって達成される利
益と関連づけて考えなければならない。ATC 分類の変更は、医薬品の主要な用途が明らか
に変わった場合、新規化学物質を受け入れるために新しいグループが必要な場合、またはグ
ループ分けの特異性を改善するために実行可能である。変更を決定した場合は、次の原則を
用いる:
-
将来起こりうる ATC グループの拡大のために余裕をもたせる。
-
配合剤に付与される ATC コードは、可能な限り問題となっている単独の物質の分
類に対応させなければならない。
-
削除した ATC コードは、新規化学物質に再利用しない。
-
もう使われていない、または市場から撤退した医薬品は、ATC システムから除外
するとシステムのユーザーが過去のデータを考慮する際に不便が生じる可能性があるため、
ATC システムに留めておく。
-
現時点で有効なコードの変更は最小限に留める。配列に隙間があることは、コード
を変更することよりも好ましい。
E.
EphMRA 分類システム
当初、ATP 分類システムは、欧州医薬品市場調査協会(EphMRA)および米国医薬品市場
調査団体(PBIRG)が作成した解剖分類(AC-システム)と同じ原則に基づいていた。
EphMRA システムでは、医薬品は 3 または 4 つの異なるレベルに分類される。ATC 分類シ
ステムは第 4 レベルとして治療法/薬理学/化学グループを、また第 5 レベルとして化学
物質を追加することによって、EphMRA を改変し、拡大したものである。1991 年以降、
EphMRA 分類委員会と WHO 医薬品統計法共同研究センターの間で、2 つのシステムのよ
り良好な調和を目指した協議が行われた。この調和化の目的は、可能な場合には ATC 第 3
レベルまで両システムを一致させ、調和化が達成されない場合には、グループの相違点(す
なわちブリッジを提示することによって違いを示す)と類似点を説明することであった。調
和化は、2 つのきわめて類似した分類システムの混同を最小限に抑えるために始められたも
のである。EphMRA 分類法と ATC 分類法の間には多くの相違点があることを重視しなけ
ればならない。このことは、ATC 分類法を用いて作成したデータを、EphMRA システムを
用いて作成したデータと直接比較できないことを意味している。残念なことに、EphMRA
分類法にも ATC という略語が用いられており、それが混乱を招くことがある。EphMRA 分
類システムは、IMS(Intercontinental Medical Statistics)が、医薬品業界向けの市場調査
統計を作成するために世界全域で利用している。
III.
DDD(規定 1 日用量)
A.
定義および一般的考慮事項
この単位の基本的定義:
DDD は、ある医薬品をその主要適応症のために成人において使用する場合に推定される、
1 日当たりの平均維持用量である。
DDD は、すでに ATC コードを有する医薬品に対してのみ付与される。規定 1 日用量は測
定単位であり、必ずしも推奨 1 日用量または処方 1 日用量(31 ページを参照)を示すもの
でないことを重視しなければならない。各患者および患者群のための投与量は DDD と異な
ることが多く、また必ず個々の特性(例えば年齢や体重)および薬物動態を基準としたもの
でなければならない。医薬品の最適利用のためには、民族の違いに起因する遺伝的多様性に
よって医薬品の体内動態に差が出る可能性があることの認識が重要である。しかし、1 つの
ATC コードおよび投与経路(例えば経口製剤)に対してただ 1 つの DDD が付与される。
DDD は遺伝的多様性と関わりなく、世界的に用いられている用量を反映したものでなけれ
ばならない。DDD で示した医薬品消費量のデータは消費量の概算に過ぎず、実際の使用量
を正確に示すものではない。DDD は研究者が医薬品消費量のトレンドを評価し、人口集団
間の比較を行うことを可能にする、価格、通貨、パッケージサイズおよび力価とは無関係の
固定された測定単位である。DDD は局所用製剤、血清、ワクチン、抗癌剤、アレルゲン抽
出物、全身および局所麻酔薬および造影剤については確立されていない。
B. DDD 付与の原則
基本的原則は、1 つの ATC コードの中では投与経路ごとにただ 1 つの DDD を付与するこ
とである。1 つの化学物質に対する DDD は、通常は単独療法に基づいている。この規則に
対する例外は、ガイドラインの中で説明されている。医薬品が 1 ヵ国以上で市販が承認さ
れるまでは、その化学物質に対して DDD は付与されないのが普通である。個別に用量が決
定される稀少疾患に適応の化学物質については、ワーキンググループは DDD を付与しない
判断をすることがある。漢方薬に対する DDD は、ATC index に含まれない。これらの DDD
は、ウェブサイト(www.whocc.no)上の ATC 分類リストの中で公表されている。
1.
単味製剤
単味製剤にはただ 1 つの有効成分(立体異性体の混合物を含む)が含まれている。18 ペー
ジを参照。新たに DDD を付与する際には、その化学物質の実際の、または予測される使用
量について概観を十分把握するために、様々な情報源を利用する。付与された DDD は、以
下の原則に基づいている:
-
ATC コードによって表された主要な適応症のために用いられる、成人の平均用量。
推奨用量が体重に照らしたものである場合は、成人は体重 70 kg と考える。小児を主な対象
とした特殊な剤型(例えば混合剤、坐薬)であっても、成人に対する DDD が付与されるこ
とを重視しなければならない。小児のみに用いられる医薬品、例えば成長ホルモンおよびフ
ッ化物の錠剤など、いつくかの医薬品は例外である。
-
DDD を確定する際には、維持用量(長期的治療用量)が優先されるのが普通であ
る。初期用量は維持用量と異なることがあるが、そのことは DDD には反映されない。承認
された投与量の推奨事項に維持用量に関する情報が少ない場合には、DDD は維持用量域の
平均値とするのが普通である。承認された投与量設定の推奨事項の解釈の例:
-
「認容性が認められれば高用量まで漸増する」:通常は高用量を DDD として選択
する。
-
「初期用量では効果が不十分な場合にのみ増量を考慮する」
:通常は初期用量を基
に DDD を決定する。
-
医薬品のいくつかのグループについては、DDD 付与のための特殊な原則が作成さ
れている(例えば片頭痛治療における選択的セロトニン作動薬の DDD は、承認された初期
用量に基づいている)
。このような原則はガイドラインの中で説明されている。
-
通常は投与量を用いる。ただし、予防が主要な適応症である場合、例えばフッ化物
の錠剤(A01AA01)および一部の抗マラリア薬については、その用量を用いる。
-
DDD は医薬品の申告された含有量(力価)に従って決定するのが普通である。1
つの物質の様々な塩には通常異なる DDD は付与されない。例外はガイドラインの中で、
様々な ATC グループについて説明されている。例えば、抗マラリア薬の DDD は、塩基と
して表示されている。
-
通常、異なる立体異性体には別々の DDD および ATC コードが付与される。立体
異性体の DDD は、それぞれの ATC グループの中で説明されている。
-
別の ATC コードを付与されていないプロドラッグは、別の DDD を付与されない
のが普通である。
-
DDD は、同じ医薬品の様々な剤型について同じであることが多い。様々な投与経
路でバイオアベイラビリティが大きく異なる場合(例えばモルヒネの経口投与および非経
口投与)
、または剤型が異なる適応症に用いられる場合には、異なる DDD が決定されるこ
とがある。非経口製剤の使用が特定の適応症に対する総使用量のごく一部に過ぎないので
あれば、バイオアベイラビリティが経口製剤と大きく異なる場合でも、そのような製剤に別
の DDD は付与しない。
-
る。
様々な投与経路(例えば静脈内および筋肉内)を持つ非経口製剤は同じ DDD とす
DDD はそのほぼ全てが、それが得られた時点での各国における投与量も含めた情報の審査
に基づく、妥協の産物である。DDD は一般に用いられている複数の用量の平均値であるた
め、処方されるとしても、それが極めて稀な用量となることがある。
2.
配合剤
配合剤に付与される DDD は、その配合剤中に含まれる有効成分の数に関わらず、配合剤を
1 つの 1 日用量としてカウントするという原則に基づいている。ある患者の投与スケジュー
ルに例えば 2 種類の単味製剤が含まれていれば、消費量は各単味製剤の DDD を別々にカウ
ントすることによって測定する。しかし、投与スケジュールに 2 種類の有効成分を含有す
る配合剤が含まれている場合には、配合剤の DDD がカウントされるため、DDD で測定さ
れる計算上の消費量は低い値となるのが普通である。
例 I:
それぞれ 1 種類の有効成分を含有する 2 つの製剤による治療:
製剤 A:20 mg の物質 X を含有する錠剤(DDD= 20 mg)
製剤 B:25 mg の物質 Y を含有する錠剤(DDD= 25 mg)
A を 1 錠+B を 1 錠を 1 日 1 回投与する投与スケジュールでは、消費量は 2DDD として算
出される。
例 II:
2 種類の有効成分を含有する配合剤による治療:
製剤 C:20 mg の物質 X と 12.5 mg の物質 Y を含有する錠剤。この配合剤の DDD は、1
UD= 1 錠として付与されている。
C を 1 日 1 回 1 錠投与する投与スケジュールは、
(単独の有効成分の 1.5 DDD に等しくな
るに関わらず)1DDD として算出される。
配合剤への DDD の付与については以下の原則が適用される:
1.
ATC コードで主成分が同定されている配合剤(すなわち 50 番台および 70 番台の
配合剤および一部の第 4 レベルの配合剤)については(高血圧における配合剤の使用を除
く、後述のポイント 2 を参照)
、配合剤の DDD は主要な有効成分の DDD と等しくなくて
はならない。
2.
高血圧の治療に用いられる配合剤(例えば ATC グループ C02、C03、C07、C08
および C09)については、DDD は 1 日当たりの平均投与回数を基に決定する。すなわち:
1 錠は 1 日 1 回投与される配合剤の DDD であるのに対し、2 錠は 1 日 2 回投与される配合
剤の DDD、また 3 錠は 1 日 3 回投与される配合剤の DDD となる。この原則は、付与され
た DDD が単独の有効成分に付与された DDD(ATC コードによる)と異なる可能性がある
ことを意味している。付与された DDD が上述の原則から逸脱したすべての配合剤につい
て、DDD のリストをセンターから入手することができる(ウェブサイト www.whocc.no 上
で公表されている)
。
3.
その他の要因
a)
固定用量群
製剤のいくつかの群、例えば ATC グループ R05 の咳抑制配合剤や ATC グループ A11 の総
合ビタミン剤については、各製剤について正確な用量を決定する代わりにグループ内での
製剤の平均使用量を推定するのがもっとも適切と考えられてきた。総合ビタミン剤につい
ては、様々な製剤で成分が異なる可能性があるが、平均推奨用量は通常は同じである。その
ような DDD は「固定用量」と呼ばれている。いくつかの ATC 群では、力価を問わず例え
ば錠剤数で投与されるすべての配合剤について固定 DDD を用いることが決定されている。
これらの規則は、本刊行物中の各 ATC レベルの章の中で明確に説明されている(例えば
ATC グループ A02AD、A02BD および A02BX)
。緑内障の治療に用いられる点眼薬(S01E)
は様々なサブグループにおいて、力価を問わず固定用量が決定されている。このことは、力
価を問わず、1 回の点眼で各眼に 1 滴のみ投与されるという前提に基づいている。固定用量
を付与する場合には、様々な ATC グループに関するガイドラインの中で詳しく説明するも
のとする。
b)
デポー製剤
デポー製剤(例えば徐放製剤)は、通常の剤型と同じ DDD を付与されるのが普通である。
この主要原則の例外は、様々な ATC グループに関するガイドラインの中で詳しく説明され
ている。
c)
間欠投与
ある種の治療薬群、例えばホルモン剤では、製剤の多くが間欠投与される。そのような場合、
投与された量を投与間隔の日数で除し、平均の 1 日用量を算出する。これは、治療コース間
の休薬期間が、投与期間に含まれることを示している。このことは間欠的に投与される、例
えば抗精神病薬(N05A)のデポー製剤および経口避妊薬(G03A)に当てはまる。
d)
投与期間
投与期間は、医薬品が主に短期間使用されるものであっても、DDD を付与する際には考慮
しないのが普通である。
この主要規則の例外は、各 ATC グループにおいて説明されている。
4.
単位の選択
単味製剤については、DDD は可能な限り有効成分の量で、次の単位を用いて付与される:
g(グラム)
、mg(ミリグラム)
、mcg(マイクログラム)、mmol(ミリモル)、U(単位)、
TU(1000 単位)および MU(100 万単位)。他と同様、単位については国際的に略語 U を
用いる。配合剤または種々の理由から DDD を有効成分の量で付与できない医薬品について
は、単位として UD(単位用量)を用いる:
-
錠剤、坐薬、ペッサリーなど:
1 UD は 1 錠、坐薬 1 本、ペッサリー1 枚などに等しい。
-
経口用パウダー:
1 UD はパウダー1 グラムに等しい。経口パウダーの DDD がグラム数で示されている場合
は、それは有効成分の量を示している。
-
経口用の単容量型パウダー:
1 UD は 1 単位用量のパウダーに等しい。
-
注射用パウダー:
1 UD はパウダー1 グラムに等しい。注射用パウダーの DDD がグラム数で示されている場
合は、それは有効成分の量を示している。
-
吸入用パウダー:
1 UD は 1 単位用量、例えば 1 カプセルのパウダーに等しい。
-
経口用の液体製剤(混合液、シロップなど)
:
1 UD は 5 ml の製剤に等しい。
-
非経口用の液体製剤(注射剤)
:
1 UD は 1 ml の製剤に等しい。
-
直腸用の液体製剤:
1 UD は 1 ml の製剤に等しい。
-
吸入用の液体製剤:
1 UD は 1 ml の製剤に等しい。
-
吸入用の単位用量型液体製剤(単位用量):
1 UD は 1 単位用量の吸入溶液に等しい。
-
浣腸:
1 UD は浣腸 1 本に等しい。
-
経皮投与用の貼付剤:
1 UD は貼付剤 1 枚に等しい。
-
膣用クリーム:
1 UD は 1 回用量、1 回貼布量に等しい。
投与経路
投与経路は以下のコードによって示される:
Inhal
=吸入
R
=直腸
N
=経鼻
SL
=舌下/口腔/口腔粘膜
O
=経口
TD
=経皮
P
=非経口
V
=膣
C. 小児の DDD
DDD は、通常は成人における使用量を基に付与されている(22 ページを参照)。小児への
使用が承認された医薬品に関しては、用量に関する推奨事項は年齢および体重によって異
なるものになる。小児に用いられている医薬品はそのような使用法さえ承認されていない
ものが多く、投与法に関する報告は得られていない。したがって、WHO 医薬品統計法国際
ワーキンググループは小児の DDD を付与することは不可能であり、小児における医薬品使
用状況調査に関連した問題はこの方法では解決できないと結論した。小児における医薬品
の使用の普及率を、DDD で示されたおおまかな売上データから推定することは不可能であ
る。入手可能であれば小児群における処方 1 日用量および適応症を用い、DDD 値と比較す
るべきである。小児のサブグループの同定が難しい場合には、全体を比較する替わりに一般
的 DDD を測定手段として利用しなければならない。
D.
DDD の再検討および変更に関する原則
使用される用量は時間とともに変化する可能性があるため、若干の変更は常に必要となる。
医薬品統計法国際ワーキンググループは、それが適切と判明する毎に DDD を再検討するこ
とができる。DDD の変更は最小限に留め、可能な限り避けるべきである。変更が多すぎる
ことは、医薬品使用状況の長期的調査のためには必ず有害である。変更を実行する前に、ユ
ーザーが負うことになる不便さを、変更によって達成される利益と比較検討しなければな
らない。
-
DDD を再検討する際には、新しい DDD の付与時と同じ原則を用いる。
-
一般に、DDD の差が 50%以上に達しない限り、変更は実行しない。この規則は小
規模の変更が許される DDD の 3 年時点の再検討には用いない。また、頻繁に使用される重
要な医薬品については、小規模な変更が許される。
3 年後の DDD の再検討
新たに付与された DDD すべてを、ATC index with DDDs への組入れ後 3 年目の間に再検
討する。DDD は最初に行われる半期に 1 度の医薬品統計法国際ワーキンググループのミー
ティングで再検討する。以下の点を考慮する:
-
様々な国の医薬品カタログの中に記載されたおよび/または論文審査のある科学
雑誌もしくは主要な国際的テキストブックの中で公表された推奨用量。
-
様々な国から入手した処方 1 日用量(PDD)に関するデータ。付与された DDD を
再検討する際には、処方 1 日用量(PDD)を示す数値が重要である。市販開始時よりもそ
の 3 年後のほうが、PDD に関してより多くのデータが得られるのが普通である。
-
確立された主要な適応症および製剤の治療プロファイル(すなわち、主要な適応症
に変更はあったか?)
。
-
ATC グループにおける既存の DDD。
-
受領した DDD に対する異議申し立て書。
配合剤を再検討する際には、様々な有効成分に対する DDD の変更が重要な考慮事項であ
る。
DDD の更なる検討
最初の 3 年が経過後、
WHO ワーキンググループが ATC グループに付与された全ての DDD
を全面的に再検討する決断をしない限り、DDD は 5 年間以上不変であり続けるのが普通で
ある。システムのユーザーから新たな情報を基に提案された DDD の変更は必ず、ただし 3
年目の再検討の実施後に考慮する。
E.
その他の医薬品使用状況評価基準の概要
コスト
医薬品の使用量は、コスト(例えば国の通貨)を単位として表すことができる。コストの数
値は、薬剤費の総合的なコスト分析に適している。コストパラメータを基準とした国内およ
び国家間の比較は誤解を招くことが多く、医薬品使用量の評価においては価値が低い。代替
製剤間の価格の差および国による価格水準の差が、評価を難しくする。通貨変動および価格
の変更のために、長期的な調査も困難である。コストのデータを利用する際には、より安価
な医薬品の使用量の増加は全体の水準にほとんど影響を及ぼさないと考えられるのに対し、
より高価な医薬品への移行は容易に顕在化する。一般的な物理単位(例えばグラム、キロ、
リットル)
、パッケージまたは錠剤の数および処方件数も、医薬品消費量の定量に利用され
る。これらの単位は 1 種類の医薬品または明確な医薬品を評価する場合にのみ適用するこ
とができる。ただし、医薬品のグループ全体の消費量を考慮する場合には問題が生じる。消
費量が有効成分のグラム数で示されている場合、低力価の医薬品が全体に占める割合は、高
力価の医薬品よりも大きくなる。配合剤には単味製剤とは異なる量の有効成分が含まれて
いることもあるが、それは数値には表れない。錠剤数の計測にも短所がある。錠剤の力価は
様々であり、低力価の製剤が相対的に高力価の製剤よりも大きな割合を占めているからで
ある。また、短時間作用型の製剤は、長時間作用型の製剤よりも大きな割合を占めることが
多い。処方 1 件当たりの医薬品の総量も考慮しない限り、処方件数は総使用量を正しく表
わさない。ただし、処方件数は処方頻度の測定および医薬品の臨床での使用状況(例えば診
断および投与量)の評価にはきわめて有用である。
処方 1 日用量
処方 1 日用量(PDD)は処方せんの調査、カルテまたは薬局の記録および患者への聞き取
りから決定することができる。PDD を投与量の基準となった診断と関連付けて考えること
が重要である。PDD は実際に処方された平均の 1 日量を示すものである。PDD と規定 1 日
用量(DDD)との間に大きな不一致がある場合には、医薬品消費量の数値を評価し読み取
る際にその点を考慮することが重要である。推奨用量が適応症によって異なる医薬品(例え
ば抗精神病薬)については、診断を示された処方 1 日用量と結び付けて考えることが重要
である。PDD を解釈するためには、薬剤疫学に関する情報(例えば性別、年齢および単独
/併用療法)も重要である。PDD は治療する疾患および国の治療慣習によって異なること
がある。例えば抗感染症薬については、PDD は感染症の重症度によって異なる。PDD は
様々な国によっても異なり、その差は 4~5 倍の範囲に達する。東洋人における PDD は、
白人の PDD よりも低値であることが多い。国家間で比較を行う際には、PDD が国によっ
て異なり得るという事実を常に考慮しなければならない。処方 1 日用量が、実際に消費さ
れた用量を示すとは限らないことに注意しなければならない。
IV.
ATC/DDD システムの使用および誤用
ATC/DDD システムの主要な目的は、医薬品使用の改善を目的とした医薬品使用状況統計
を提示するためのツールとすることである。これがシステムを作成した目的であり、この目
的をふまえて ATC/DDD 分類に関するすべての決定が行われている。したがって、システ
ムを他の目的に用いることは不適切と考えられる。このシステムは 1970 年代の初期から医
薬品使用状況調査に利用されてきたが、その中で医薬品使用状況の国内および国家間の比
較、医薬品使用の長期的トレンドの評価、ある種のイベントが医薬品の使用に及ぼす影響の
評価および医薬品の安全性の調査における母集団データの提供に適していることが実証さ
れている。
ATC/DDD 法の国内での実施
医薬品の使用量を国家間でモニタリングし、比較するためには、捕捉されたデータが比較可
能であることの確認が重要である。データ収集を促進するために、全国医薬品レジストリを
確立することが推奨される。このようなレジストリは共通の構造を有することが好ましい。
ATC コードおよび DDD を、各医薬品にパッケージレベルでリンクするべきである。全国
レジストリには、少なくとも以下の変数を含めるべきである:
・固有の識別子(登録番号)
・医薬品名(製品名/商標)
・剤型
・力価
・パッケージサイズ
・ATC コード
・有効成分
・DDD
・投与経路
・1 パック中の DDD 数
ATC コードを各医薬品パッケージに正確にリンクすることがきわめて重要である。1 パッ
ケージ当たりの DDD 数を、各医薬品パッケージについて算出しなければならない。全国レ
ジストリを新しい ATC コード/DDD および代替薬で更新するための優れた手順を確立し
なければならない。全国レジストリの品質保証および検証の責務は、各国の国家機関が担当
することが推奨される。この作業は、ATC/DDD 法に精通した有能な人物が実行するべき
である。ATC/DDD Index の最新版は、毎年 1 月に発行される。様々な国からの、また様々
な期間に得られた医薬品使用状況に関するデータを比較できるためには、どの ATC コード
および DDD が使用されているかを知ることがきわめて重要である。ATC コードおよび
DDD には毎年、最小限の変更が施される。したがって、医薬品消費量の数値を示す際には、
使用された ATC/DDD のバージョンを正しく参照することが重要である。
A.
医薬品の使用状況
ATC/DDD システムは、様々な設定で様々な情報源から医薬品使用状況統計を収集するた
めに利用することができる。例を挙げると:
-
全国、地域または地方レベルでの卸売データなどの、売上データ
-
全体またはサンプルによる調剤データ。コンピュータ化した薬局では、調剤した医
薬品に関するデータを容易に収集することができる。これに替わる方法として、サンプルデ
ータを手動で収集することができる。多くの国において全国レベルで実行されている医療
費償還制度は、償還のためにすべての処方が提出され、記録されているため、広範にわたる
調剤データを個別の処方レベルまで掘り下げて提供する。これは、一般に「請求」データと
呼ばれている。健康保険または健康維持機関を通じて類似のデータを入手できることが多
い。これらのデータベースでは、患者についての人口統計学的情報、また投与量、投与期間
および同時処方に関する情報の収集が可能なことがある。頻度は低いが、病院および医学デ
ータベースとのつながりによって適応症、また入院、特殊な医療サービスの利用および副作
用などのアウトカムに関する情報が得られることがある。
-
患者とのやりとりに基づくデータ。これは、市場調査団体によって実施されるよう
な特別にデザインされたサンプリング調査によって収集されるのが普通である。しかし、診
療レベルでの情報技術の利用の増加によって、近い将来にそのようなデータがより広く利
用可能となるであろう。これらの方法には、処方 1 日用量、患者の人口統計学、治療期間、
同時処方、適応症、有病率ならびに随伴疾患、また時としてアウトカムに関する正確な情報
が提示され得るという利点がある。
-
患者を対象とした調査のデータ。患者レベルでのデータ収集によって、実際の医薬
品消費量に関する情報が得られ、また処方せんの保存と処方通りの服薬に関するコンプラ
イアンスを検討することができる。また、処方、信念および医薬品の使用に対する姿勢に関
する質的情報も得られる、
-
医療機関のデータ。上記のすべてのレベルでの医薬品の使用に関するデータが、病
院および地方、地区または群落レベルの医療センターにおいて入手可能であることが多い。
ATC/DDD システムの使用は医薬品のグループ分けの標準化を可能とし、また安定した医
薬品使用状況評価基準による医薬品使用の国家間、地域間および他の医療環境間での比較、
ならびに長期的および様々な設定での医薬品使用のトレンドの評価を可能とする。医薬品
消費量の数値は、可能であれば DDD/住民 1000 人/日の値、または病院内での医薬品の使用
について考える場合は、DDD/100 床・日として表すことが好ましい。DDD/住民 1000 人/
日で示された売上高または処方のデータは、規定された地域内の住民中の、特定の医薬品を
毎日投与されている患者の割合の推定値を提供する。例えば、10 DDD/住民 1000 人/日とい
う値は、平均で住民の 1%が特定の投薬を毎日受けていることを示している。このことは、
処方された用量が DDD に対応している場合にのみ当てはまる。抗感染薬(または通常短期
間使用される他の医薬品)については、数値を各住民が 1 年の間に投薬される平均の日数
の推定値を示す、DDD/住民/年で表すのが適切と見なされることが多い。例えば、5 DDD/
住民/年は消費量が、すべての住民に対して 1 年の間に 5 日間投薬した量に等しいことを示
している。これに替わる方法として、標準的な治療期間が既知であれば、DDD の総数を治
療コースの回数として算出し、治療コースの回数を総人口に関連付けることが可能である。
DDD が確立されていないいくつかの医薬品グループについては、それに替わるデータの表
示法が推奨される。例えば、皮膚科用製剤の消費量は軟膏やクリームなどのグラム数として、
また ATC グループ L01 に属する抗癌剤は有効成分のグラム数で表すことができる。処方 1
日用量(PDD)と DDD との間に既知の不一致がある場合には、医薬品消費量の数値を解釈
する際にこの点を考慮しなければならない。推奨用量が適応症によって(例えば抗精神病
薬)
、また疾患が重症か軽度かによって(例えば抗菌薬)異なる状況下、および PDD が集
団間で(例えば性別、年齢、民族または地理的な位置によって)異なる場合には、注意が必
要である。最後に、処方された医薬品の中には調剤されないものがあること、また患者が調
剤されたすべての医薬品を服用するとは限らないことも考慮しなければならない。患者レ
ベルで実際の医薬品服用量を測定するためには、特別にデザインされた調査が必要である。
ATC/DDD には変更が発生するため、特に長期的なデータを比較する場合および国家間で
比較を行う場合には、どの版の ATC index が用いられたかを知っておくことが重要である。
最新版の ATC index を用いて、データを更新(再計算)することが推奨される。
B.
医薬品使用の改善
医薬品使用状況統計の収集および公表は、医薬品の処方および調剤を改善するプロセスの
中できわめて重要な要素である。医薬品使用状況統計が医薬品の使用に対して最良の影響
を及ぼすためには、それらが重点を絞った積極的な方法で用いられることが必要である。
ATC および DDD に基づいた医薬品使用状況統計が用いられてきた、また医薬品の使用を
改善するために用いることができる方法には以下のものが含まれる:
-
臨床医、薬剤師およびその他の人物にその国の医薬品消費量のプロファイルを提
示する(国家間または国内の地域間の比較を含む、または含まない)
、全国的な刊行物。
-
個人的な医療施設、医療サービス機関または個人的な医療従事者に健康サービス
内のフィードバックを提示する刊行物。
-
起こりうる各医薬品または治療薬グループの過剰使用、過少使用または誤用の同
定を目的とした、全国的健康システム、大学、医薬品情報センターなどによる医薬品使用状
況統計の利用。状況に応じ、この情報を用いて特殊な調査または特殊な教育的介入を開始す
ることができる。教育的介入には医薬品に関する広報、科学雑誌の論文、臨床医宛てのレタ
ーなどが含まれる。
C.
医薬品安全性評価
特定の集団について有害反応が疑われた症例の自発的報告頻度のトレンドの推定値は、
ATC/DDD システムを用いて医薬品消費量のトレンドと結び付けることができる。医薬品
使用状況の基準としての DDD/住民 1000 人/日を分母として使用し、有害反応の頻度を分子
とすれば、有害反応の報告頻度のトレンドを、医薬品使用状況のトレンドと比較検討するこ
とができる。医薬品間の比較には、PDD による検証が必要となる。スウェーデンの WHO
国際医薬品モニタリング共同研究センター(ウプサラ・モニタリング・センター)は、国営
のセンター(このプログラムには 111 の正式加盟国が含まれている、2012 年 10 月)から
有害反応が疑われる症例の自発的報告を受付けている。これらの報告に記載されているす
べての医薬品に関する情報を医薬品登録リストに保存し、報告データベースにリンクする。
すべての単味および配合製剤に化学物質レベルで ATC コードが付与されており、それによ
って様々な医薬品カテゴリーまたは医薬品グループを含めた柔軟な研究が可能となってい
る。ATC システムは、生産量記録中の医薬品のグループ分けにも利用されている。
D.
「重複投薬」および「偽重複投薬」
ATC 分類法は、
「重複投薬」および「偽重複投薬」のスクリーニングのためのツールとして
用いることができる。「重複投薬」は、2 つの同じ医薬品を同時に用いることとして定義さ
れるのに対し(例えば 2 つの異なるジアゼパム製剤)、「偽重複投薬」は化学的には異なる
が、同じ薬力学的特性を持つ 2 つの医薬品を同時に用いること(例えばジアゼパム製剤+
オキサゼパム製剤)として定義することができる。医師または薬局の患者のコンピュータ記
録を用いてこのような状況を確認する目的は、副作用のリスクを高め得る、不必要な投薬を
防止することである。単味製剤の場合、ATC 第 5 レベルのコードを用いることができる;
ただし、モニタリングをどのレベルで行う必要があるかは、問題となっている ATC グルー
プによって異なる。配合剤については、ATC 第 5 レベルのコードがすべての有効成分を同
定するために十分であるとは限らない。したがって、有効成分それぞれに対して付与された
すべての ATC コードを、各配合剤に結び付けることが好ましい。
E.
医薬品カタログ
ATC コードは、いくつかの国際的な医薬品カタログ(例えば Martindale)および複数の国
内医薬品カタログに含まれている。ATC コードは WHO 必須医薬品リストにも含まれてい
る。
F.
医療費、価格決定ならびに償還および費用抑制
付与された ATC および DDD を基準とした詳細な償還、治療薬グループの参考価格決定お
よびその他の特殊な価格決定は、システムの誤った利用法である。それは ATC および DDD
の付与が、医薬品使用状況のトレンドを追跡し、治療薬グループ内およびグループ間で比較
することが可能な、安定した医薬品消費量測定システムの維持のみを目的としてデザイン
されているためである。それにも関わらず、医薬品使用状況のデータはケアサイクルの質に
おいて中心的な役割を果たしており、ATC および DDD の方法はコストのトレンドを追跡
し比較するためには有用と考えられるが、慎重に使用することが必要である。DDD は、技
術的な医薬品使用量の測定基準である。DDD は様々な医薬品の治療上同等な用量を表すと
は限らないため、同じ ATC カテゴリー内のすべての医薬品について同様の治療アウトカム
をもたらす 1 日用量を示すと考えることはできない。そのような治療的同等性の推定値を、
特に価格設定に通常必要な精度で確立することはきわめて難しい。DDD は、注意して用い
れば、例えば同じ医薬品の 2 つの製剤のコストの比較に用いることができる。しかし、この
測定基準を異なる医薬品または医薬品グループのコストの比較に用いることは適切でない
のが普通である。治療上同等の用量、実際の処方1日用量(PDD)および DDD の間の関係
は医薬品間で異なること、また同じ医薬品については国家間で異なることが普通である。更
に、PDD は一般に時間と共に変化するが、DDD の変更は医薬品使用状況調査を複雑なも
のとするため、DDD の変更については抵抗がある。PDD の変化が大きいというエビデン
ス、または主要な適応症の変更のような特別な理由がない限り、DDD の変更は行わない。
このような理由から DDD は医薬品を特殊な細かい価格、償還および費用抑制を決定するた
めの医薬品の比較には不適切である。同様に、償還および価格決定の比較を ATC グループ
への医薬品の組入れに基づいて実行することは推奨されない。医薬品の主要な適応症(ATC
付与の基準となる)は国家間で大きく異なることが多く、また PDD と同様、時間とともに
変化することが考えられる。しかし、ATC 分類は、例えばある治療薬グループの長期的な
使用量の増加が、コストの増加にどの程度寄与しているかを明らかにするために、コストを
医薬品グループまたは治療領域に集約する必要がある場合には有用と考えられる。
G.
医薬品マーケティング目的
ATC 分類が、あらゆる点で推奨される治療薬の使用を示すとは限らないことを重視するこ
とが重要である。したがって、有効性、作用機序または治療薬プロファイルの他の医薬品と
の比較に関しては、ATC システムをマーケティング目的のツールとして用いるべきではな
い。異なる ATC グループへ割付けられていることが、治療効果の違いを意味するものでは
ないこと、また同じ ATC グループに割付けられていることが、治療効果が等しいことを示
すものでないことを重視しなければならない。マーケティング目的での価格の比較の利用
については、上述のポイント F を参照。
V.
ATC/DDD 付与および変更のための手順およびデータ要件
A.
ATC 分類の申請
1.
手順および時期
ATC 分類システムへの新たな登録はすべて、ユーザーからの申請を受けて実施する。医薬
品の ATC 分類の申請は、WHO 医薬品統計法共同研究センター宛てに提出しなければなら
ない。新しい ATC コード付与のための申請用紙を付録 I に示すが、ウェブサイト
www.whocc.no 上でも入手可能である。ATC/DDD の申請は無料である。センターの公式
言語は英語である。したがって、申請書および資料は英語で提出しなければならない。ある
国で市販されている医薬品が年1回更新される ATC classification index の最新版に含まれ
ていない場合は、原則としてシステムのいずれのユーザーでも ATC コードの申請を提出す
ることができる(例えば規制当局、製造業者、研究者およびその他のユーザー)。通常は、
申請に必要な情報をもっとも入手しやすいのは製造業者である。製造業者は、特にそれが新
規医薬品である場合には、自社製品の ATC 分類および/または DDD 付与の申請について
知り、または関わることを望むのが普通である。したがって、システムの他のユーザーは製
造業者を通じて申請書の提出を行うことが勧められる。可能であれば、各国内で市販されて
いる国内製品への ATC コード付与を担当する国立のセンターを設立するべきである。
新規化学物質は、市販承認の申請が1ヵ国以上で提出されるまでは、ATC システムに組入
れられないのが普通である。一部のケースでは、新規医薬品が1ヵ国以上で承認されるまで
待つことが必要となる(特に新しい第 5 レベルの作成が困難と考えられる化学物質)。この
ような条件は、市販に至ることのない多くの化学物質を ATC システムに組入れることを避
けるために設定されている。配合剤をこれらのガイドラインに示された原則に基づいて分
類する作業は、国内の ATC システムのユーザーに任されている。ガイドラインはこの作業
を助長し、ATC システムの異なるユーザーが確実に一貫した方法で分類を行うことを目的
として作成されている。ガイドラインの内容が特殊な配合剤の分類を決定するために不十
分な場合、または新しい ATC 項目が必要な場合には、そのような問題をオスロの WHO セ
ンターに通知しなければならない。センターは、それらの作業を国内レベルのシステムで実
行する一助として、定期的な研修コースも提供している。WHO 医薬品統計法国際ワーキン
ググループが、すべての新規 ATC コードを正式に承認する。このグループは年 2 回、通常
は 3 月と 10 月にミーティングを開催している。新規 ATC コードの承認手順の各段階は、
通常は以下の通りである:
-
申請の受領を確認する標準のレターを、センターから申請者へ返送する。
-
新しいコードの付与が容易な場合は、センターが付与した予備的な ATC コードを
6~8 週以内に申請者へ返送し、ATC コードは次のミーティングでワーキンググループから
正式承認されなければならないことを伝える。
-
複数の代替分類法を持つ物質および既存の分類法での分類が難しい物質について
は、暫定的な ATC コードを付与する前にワーキンググループで申請について協議する。申
請者は申請受領後 6~8 週間以内にこの情報を受け取る。ワーキンググループのミーティン
グの議事録が承認された後、各 ATC コードに関する決定がセンターから申請者へ送付され
る。
-
ワーキンググループのミーティングの議事録が承認された後、ミーティングで承
認された新しい ATC コードがウェブサイト www.whocc.no 上および刊行物 WHO Drug
Infromation の次号の中で公表される。関係者の決定に対する意見または異議を受け付ける
期限を設定する。
-
提出されたエビデンスによって正当化される異議を受け取った場合には、ワーキ
ンググループの次のミーティングで ATC 分類を再度協議する。決定が維持されれば、決定
はそのミ-ティング後は確定したものと見なす。ワーキンググループによって新たな決定
が下された場合は、その新しい ATC がウェブサイト www.whocc.no 上および刊行物 WHO
Drug Infromation の次号の中で公表される。関係者の決定に対する意見または異議を受け
付ける期限を設定する。
-
異議を受領しなかった場合には、新しい ATC コードは確定したものと見なし ATC
classification index の次号に掲載する。確定した新しい ATC コードのリストも年に 2 回、
ウェブサイト www.whocc.no 上および WHO Drug Information の中で公表される。
2.
提出のためのデータの要件
化学物質に対して ATC コードを申請する際には、
以下のデータを提出しなければならない:
-
化学構造および類似の医薬品との関係
-
受容体結合プロファイルおよび類似の医薬品との関係も含めた薬理学および作用
機序
-
承認済みまたは承認申請中の主要国において製品情報に示された主要な適応症
-
承認済みまたは今後承認が申請されるその他の適応症
-
提出したエビデンスによって正当化される、ATC 分類の案
-
市販認可に関する状況
-
あれば、治療用途に関する情報
これらのデータの有用な情報源となるのは、主要な規制国に由来する承認済みの製品情報
資料、もしくはまだ承認されていないことを記載した、製品情報資料の草案である。上記物
質に関する主要な規制当局への提出物または規制当局からの評価の概要は、主要適応症に
対する使用比率を示した市場調査データと同様に有用である。
B.
ATC 分類の変更のための要件
1.
手順および時期
ATC 分類の変更は書面で提案および説明し、WHO 医薬品統計法共同研究センターに提出
しなければならない。原則として、すべてのユーザーが ATC 分類の変更を提案することが
できる。ATC の変更については、申請用紙はない。変更の提案はすべて WHO 医薬品統計
法国際ワーキンググループが協議する。ATC 分類の変更に関する評価手順の各段階は、以
下の通りである:
-
センターが変更の提案を受領し、ワーキンググループのミーティングでの協議の
スケジュールについての情報を提示する。
-
ワーキンググループのミーティングの議事録の承認後、提案された変更に関する
ミーティングの決定をセンターから変更を申請した人物(申請者)へ送付する。変更の是非
に関わらず、申請者の決定に対する意見または異議を受け付ける期限を設定する。
-
変更が決定された場合には、この変更の通知をウェブサイト www.whocc.no 上お
よび WHO Drug Information の次号の中で公表する。関係者の変更に対する意見または異
議を受け付ける期限を設定する。
-
提出されたエビデンスによって正当化される異議を受け取った場合には、ワーキ
ンググループの次のミーティングで ATC の変更を再度協議し、最終的な決定を下す。
-
異議を受領しなかった場合には ATC 分類の変更を ATC classification index の次
号で実行する。
2.
提出のためのデータの要件
ATC 分類の変更を申請する際のデータの要件は、新しい ATC コードを申請する場合と同じ
である。ATC/DDD システムにとって重要な原則は、医薬品消費量調査のために安定した
データベースを維持することである。この理由から、ATC コードの変更には説得力のある
根拠が必要である。そのため、提案した変更を正当化するデータを提出することが重要であ
る。主要治療用途の変更が提案された変更の理由であれば、提出されたデータには、その変
更が明確に示されていなければならない(例えば、様々な国における様々な適応症での使用
比率を示した市場調査のデータ)
。薬理学または作用機序の新たな知見が提案された変更の
理由であれば、適切なエビデンスを提出しなければならない。提案された変更が既に別のグ
ループ(通常は種々のグループ)に分類されている 1 種類以上の物質について特異的 ATC
群を作成するためのものであれば、変更が有益であり、また医薬品消費量統計のための ATC
分類の改善を示すものであることを証明するデータを提出しなければならない。償還、価格
設定またはマーケティングに関する理由に基づいた正当化は考慮されない。
C.
DDD 付与の申請
1.
手順および時期
新しい DDD の付与はすべて、ユーザーからの申請を受けて実施する。新しい DDD の申請
は、WHO 医薬品統計法共同研究センター宛てに提出しなければならない。新しい DDD 付
与のための申請用紙を付録 I に示すが、センター(www.whocc.no)からコピーが入手可能で
ある。原則としていずれのユーザーでも新しい DDD の申請を提出することができる(例え
ば規制当局、製造業者、研究者およびその他のユーザー)。しかし、ATC コードの付与と同
様、新規医薬品に必要な情報をもっとも入手しやすいのは製造業者である。DDD は ATC コ
ードを付与されている化学物質、または ATC が DDD と関連づけて付与可能な場合にのみ
付与される。DDD は、1 ヵ国以上で市販が承認されるまでは付与されない。WHO 医薬品
統計法国際ワーキンググループがすべての新しい DDD について協議し、承認する。
-
センターが新しい DDD の申請を受領し、次のワーキンググループのミーティング
での協議のスケジュールについての情報を、DDD を申請した人物(申請者)に提供する。
-
ワーキンググループのミーティングの議事録の承認後、DDD に関するミーティン
グの決定をセンターから申請者へ送付する。
-
新しい DDD はウェブサイト www.whocc.no 上および WHO 刊行物:WHO Drug
Information の次号の中で公表する。関係者の新しい DDD に対する意見または異議を受け
付ける期限を設定する。
-
提出されたエビデンスによって正当化される異議を受け取った場合には、ワーキ
ンググループの次のミーティングで DDD を再度協議する。決定が維持されれば、決定はそ
のミ-ティング後は確定したものと見なす。ワーキンググループによって新たな決定が下
された場合は、その新しい DDD の通知がウェブサイト www.whocc.no 上および刊行物
WHO Drug Information の次号の中で公表される。関係者の決定に対する意見または異議
を受け付ける期限を設定する。
-
異議を受領しなかった場合には、新しい DDD は確定したものと見なし ATC
classification index の次号に掲載する(41 ページを参照)
。確定した新しい DDD のリスト
も年に 2 回、ウェブサイト www.whocc.no 上および WHO Drug Information の中で公表さ
れる。
2.
提出のためのデータの要件
新しい DDD を申請する際には、以下の情報を提出しなければならない:
-
1 ヵ国以上の主要な規制当局によって承認された製品情報に記載された各適応症
についての用量範囲および投与方法
-
市販化を裏付けるための臨床試験で用いられた用量
-
様々な国において診療に用いられている用量に関する市場調査データ(可能であ
れば先進国および開発途上国)
。平均の使用量を明記しなければならない。
-
医薬品が既存の ATC 分類に適合する場合は、可能であれば投与量の比較に関する
情報を提示しなければならない。しばしば求められる精度で治療上同等の用量を決定する
ことは困難であるため、その治療薬グループ内の DDD が治療上同等な用量を示していると
は限らない。
-
提出されたデータによって正当化される DDD 提案
-
市販承認に関する状況
D.
DDD 変更の申請
1.
手順および時期
DDD の変更は書面で提案および説明し、WHO 医薬品統計法共同研究センターに提出しな
ければならない。原則として、すべてのユーザーが DDD の変更を提案することができる。
変更の提案はすべて WHO 医薬品統計法国際ワーキンググループが協議する。
2.
提出のためのデータの要件
DDD の変更を申請する際のデータの要件は、新しい DDD を申請するためのデータの要件
と同じである。ATC/DDD システムにとって重要な原則は、医薬品消費量調査のために安
定したシステムを維持することである。この理由から、DDD の変更には説得力のある根拠
が必要である。決定的な根拠は:
-
主要な適応症の変更によって、用いられる平均用量が変化した。
-
使用される平均用量に大きな変化(50%台の変化)があった(23 ページも参照)。
このことは、開発途上国も含めた様々な国における詳細な市場調査データによって裏付け
られなければならない。しかし、3 年目の再検討においては、小さい変更は容認される(29
ページを参照)
。
償還、価格決定またはマーケティングを目的とした DDD の小さい変更は考慮しないことと
する。
VI.
ACT index with DDDs の概要
WHO 医薬品統計法共同研究センターは年に 1 回、完全な ACT index with DDDs の最新版
を発行している。完全な ATC index は、ATC コードにしたがって分類され、単味製剤に対
して確立されたすべての ATC コードおよび DDD を含む 1 つのリストと、一般医薬品名に
従ってアルファベット順に分類され、すべての ATC 第 5 レベルを含む 1 つのリストで構成
されている。この index の検索可能なバージョンは、ウェブサイト www.whocc.no 上で閲
覧可能である。検索オプションによって、ユーザーは物質名または ATC レベルから ATC コ
ードおよび DDD を見出すことができる。ATC レベルにリンクした ATC 分類および DDD
付与に関するガイドラインの本文も閲覧可能である。この本文には ATC および DDD 付与
の背景に関する情報が記載されている。完全な ATC index もハードコピーとして、または
電子版で、センターから取り寄せることができる。ガイドラインの pdf 版は当方のウェブサ
イトで閲覧することができる。ATC index では、年内に再審査される DDD に星印が付けら
れている。年 1 回の ATC/DDD 変更および新しい ATC/DDD に関するリストは、毎年
12 月に、ウェブサイト www.whocc.no 上で閲覧可能である。リストはセンターのメーリン
グリストに登録している ATC/DDD システムのユーザーには、電子メールで無料配布され
る 。 1982 年 以 来 作 成 さ れ て い る ATC / DDD 変 更 の 累 積 リ ス ト は 、 ウ ェ ブ サ イ ト
www.whocc.no 上で閲覧可能である。付与された DDD が一般原則から逸脱した複合製剤の
DDD リストは、ウェブサイト www.whocc.no 上で閲覧可能である。
VII.
その他の ATC 分類システム
A.
ATCVet 分類
動物用薬のための解剖治療法化学分類である ATCvet は人用医薬品のための ATC システム
と同じ主要原則に基づいている。ATCVet 分類は可能な限り人用のシステムに近いものに維
持されているが、動物用薬に適したものとするための特別な調節が施されている。ATCVet
分類は北欧医療協議会が作成し、WHO 医薬品統計法共同研究センターが 2001 年 1 月に引
き継いだものである。ATCVet 分類に関する詳しい情報は、ウェブサイト www.whocc.no 上
で閲覧することができる。
B.
ATC 漢方薬分類
漢方薬の ATC 分類の枠組みは、オランダの Dr. Peter De Smet が 1998 年に作成した。こ
の分類法は構造的には正式な ATC システムと同じであるが、漢方薬の分類は WHO によっ
て採用されていない。ウプサラ・モニタリング・センターが ATC 漢方薬分類を担当し、薬
物辞典の中で利用している。ウプサラ・モニタリング・センターは漢方薬 ATC(HATC)分
類に関するガイドラインと Herbal ATC index を発行した。Herbal ATC index には承認さ
れた学名と HATC コードのリストが含まれているのに対し、ガイドラインは漢方薬に
HATC コードを付与する一助となることを目的としている。
VIII.
ATC/DDD の解釈に関するガイドライン
ATC/DDD システムを医薬品使用状況調査に用いる際には、必ず解釈に関するガイドライ
ンを参照するべきである。ガイドラインには ATC/DDD の作成を計画中にワーキンググル
ープが協議し、合意によって解決した特別な問題が説明されている。そのプロセス中に特別
な困難や問題が起こらなかった場合は、コメントは記載されていない。
医薬品使用状況調査概論
注意事項:翻訳の責任について
本内容は WHO が公開している「医薬品の使用状況調査の概要」を一部翻訳しています。しか
しながら、本内容はまだ、当該管理部局より正式な許可を受け取っていません。したがって、
我々は任意の障害や、この翻訳された内容のアプリケーションからのトラブルの場合は責任を
負いかねます。本資料を使用したことによって生じたあらゆる結果、またはいかなる損害に対
して、製作者は一切の責任を負わない事とさせていただきます。使用者個人の責任において使
用してください。
また、本資料は新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業の支援のもとに作
成されています。
研究代表者:村木 優一
目次
序文: 医薬品使用状況調査-初期の取り組み................................................................................. 4
第 1 章:医薬品使用状況調査とは何か、また何故必要なのか....................................................... 7
1.1 定義およびドメイン .................................................................................................................. 7
1.2 なぜ医薬品使用状況調査なのか? .......................................................................................... 8
1.2.1 医薬品の使用パターンの説明 ........................................................................................... 8
1.2.2 医薬品の不合理な使用の初期兆候 ................................................................................... 9
1.2.3 医薬品の使用を改善するための介入-追跡調査 ........................................................... 9
1.2.4 医薬品使用の品質管理 ....................................................................................................... 9
1.3 医薬品使用状況調査および医薬品政策の決定 .................................................................... 10
1.4 一般書........................................................................................................................................ 11
第 2 章:医薬品の使用に関する情報のタイプ................................................................................. 13
2.1 医薬品ベースの情報 ................................................................................................................ 13
2.1.1 医薬品使用に関するデータ収集のレベル ..................................................................... 13
2.1.2 適応症................................................................................................................................. 13
2.1.3 処方 1 日用量..................................................................................................................... 15
2.2 問題またはエンカウンタベースの情報 ................................................................................ 16
2.3 患者の情報................................................................................................................................... 17
2.4 処方者の情報............................................................................................................................ 17
2.5 医薬品使用状況調査のタイプ ................................................................................................ 18
2.6 薬剤費........................................................................................................................................ 18
2.7 一般書........................................................................................................................................ 19
第 3 章:医薬品使用状況に関するデータの情報源 ..................................................................... 20
3.1 大規模データベース ................................................................................................................ 20
3.2 医薬品規制当局由来のデータ ................................................................................................ 20
3.3 供給業者(流通)のデータ .................................................................................................... 20
3.4 診療の設定に関するデータ ...................................................................................................... 21
3.4.1 処方に関するデータ ......................................................................................................... 21
3.4.2 調剤に関するデータ ......................................................................................................... 22
3.4.3 集計データ......................................................................................................................... 22
3.4.4 大衆薬およびその他の医薬品(処方せん指示医薬品でない) ................................. 22
3.4.5 電話およびインターネットによる処方 ......................................................................... 22
3.5 コミュニティー設定のデータ ................................................................................................ 23
3.6 医薬品使用評価........................................................................................................................ 23
3.7 一般書........................................................................................................................................ 25
4.1 緒言............................................................................................................................................ 26
4.2 費用最小化分析........................................................................................................................ 26
4.3 費用・効果分析........................................................................................................................ 26
4.4 費用・効用分析........................................................................................................................ 27
4.5 費用・便益分析........................................................................................................................ 27
4.6 一般書........................................................................................................................................ 28
5.1 様々な分類システム ................................................................................................................ 29
5.2 ATC 分類システム ................................................................................................................... 29
5.3 国際的分類システムに対する両面性 .................................................................................... 31
5.4 ATC/DDD システムの実行................................................................................................... 32
5.5 一般書........................................................................................................................................ 32
第 6 章:医薬品使用状況の尺度およびその適用............................................................................. 34
6.1 規定 1 日用量(DDD)の概念 ............................................................................................... 34
6.2 処方 1 日用量および消費 1 日用量 ........................................................................................ 35
6.3 量を表すためのその他の単位 ................................................................................................ 35
6.4 コスト........................................................................................................................................ 35
6.5 一般書........................................................................................................................................ 36
略語表 .................................................................................................................................................... 38
序文:
医薬品使用状況調査-初期の取り組み
医薬品使用状況調査の開発は 1960 年代半ばに、北欧と英国における新たな取り組みから広
がったものである(1、2)
。スウェーデンの Arthur Engel およびオランダの Pieter Siderius の先
駆的研究(3)は、多くの研究者に対し、様々な国および地域間で医薬品使用状況を比較評価
することの重要性を警告した。彼らが 1966 年~1967 年における抗生物質の売上高が欧州の
6 ヵ国間で著しく異なることを実証したことを受けて、WHO は 1969 年、オスロにおいて“医
薬品の消費量”に関する第 1 回会議を計画した(4)
。これは、WHO 欧州医薬品使用状況調査グ
ループ(DURG)の設立につながった。
この調査の先駆者たちは、医薬品の使用状況に関するデータを正確に読み取るためには、患
者レベルでの調査が必要であることを理解していた。次の疑問に対する答えを知る必要がある
ことが明らかとなった:
・医薬品が処方された理由;
・処方を担当したのは誰か;
・誰のために処方されたのか;
・患者は処方された医薬品を正しく服用したか;
・医薬品の利益とリスクは何か。
医薬品使用状況調査の最終目標は、薬物療法が合理的か否かの評価でなければならない。この
目標に到達するためには、合理性を目指した薬物療法の監査法が必要である。
初期の取り組みでは、異なる国から得られた医薬品使用状況に関するデータは、情報源や情
報の形式が国によって異なっていたため、詳しく比較することができなかった。
インスリン
入院患者 1000 人/日当たりの DDD
スウェーデン
フィンランド
チェコスロバキア
ノルウェー
デンマーク
北アイルランド
アイスランド
入院患者 1000 人/日当たりの DDD
経口抗糖尿病薬
フィンランド
スウェーデン
チェコスロバキア
デンマーク
ノルウェー
北アイルランド
アイスランド
図 1 住民 1000 人の 1 日当たりの規定 1 日用量(DDD)で表した、1971~1980 年の欧州 7 ヵ
国におけるインスリンおよび経口抗糖尿病薬の使用量。比較のために、1980 年の北アイルラ
4
ンド(英国)およびスウェーデンにおける住民 1000 人の1日当たりの処方 1 日用量(PDD)
を示す(星印)。
5
この問題を克服するために、北アイルランド(英国)、ノルウェーおよびスウェーデンの研究
者が、当初は合意された 1 日用量と呼ばれ(5)
、後に規定 1 日用量(DDD)
(6)と呼ばれるよ
うになった、新しい測定単位を開発した。この単位は、成人において、医薬品を主要な適応症
に対して用いる場合の平均維持用量として定義された。最初の研究では、例として抗糖尿病薬
が用いられた:インスリンと経口抗糖尿病薬の DDD の合計値(おおよそ 20 DDD/住民 1000 人
/日)は、食事療法のみで治療した患者数について補正後、糖尿病の有病率におおむね対応し
ていた。DDD 法を最初に導入した国は旧チェコスロバキア(7)であり、DDD の初めての総
合的な全国リストがノルウェーにおいて、1975 年に発行された(8)
。それ以外の重要な手法
の進歩は、統一された医薬品の解剖治療化学(ATC)分類法の導入であった(第 5.2 節を参照)。
標準化された手法の利用によって、異なる国で用いられている医薬品の有意義な比較が可能と
なった(図 1)
。
医薬品使用状況調査はその後 30 年の間に急速に発展し、間もなく薬理学、調剤学および疫
学分野の国際会議におけるれっきとした検討事項となった。特に進展が速かったのはオースト
ラリア(9)および南米(10)であった。Cumulative index medicus(年間累計索引)に掲載され
たこの事項に関する英語論文の数は、1973 年(
「医薬品使用状況」という用語が初めて出現し
た年)の 20 編から 1980 年には 87 編、1990 年には 167 編、また 2000 年には 486 編へと増加
した。
医薬品の使用状況調査を成功させるためには臨床医、臨床薬理学者、薬剤師および疫学者間
の学際的な協力が必要であることを、その歴史は物語っている。処方者の支援なしには、この
調査努力によって医薬品の合理的使用の促進という目標を達成することはできないであろう。
参考文献
1.
Wade O. 医薬品使用状況調査-初めての試み。総会講演。収載:Sjöqvist F, Agenäs I.編。医
薬品使用状況調査:医療との関係。Acta Medica Scandinavica, 1984, Suppl. 683:7-9.
2.
Dukes MNG. Crooks から 90 年代への発展 収載:薬物療法の監査
合理的費用での合理性を目指したアプローチ。 ストックホルム Swedish Pharmaceutical
Press, 1992.
3.
Engel A, Siderius P. 医薬品の消費。1966~1967 年の調査の報告。コペンハーゲン、WHO
欧州事務局、1968 年(EURO 3101)
。
4.
医薬品の消費。オスロにおけるシンポジウムの報告、1969 年。コペンハーゲン。WHO 欧
州事務局、1970 年(EURO 3102)
。
5.
Bergman U ら。医薬品消費量の測定。北アイルランド、ノルウェーおよびスウェーデンに
おける糖尿病治療薬。European Journal of Clinical Pharmacology, 1975,8:83-89.
6.
Bergman U ら編。医薬品使用状況の調査。手順および適用。コペンハーゲン。WHO 欧州
事務局、1979 年(WHO Regional Publications, European Series No.8)
。
7.
Stika L ら。チェコスロバキアにおけるデータ収集の組織化。収載:Bergman U ら編。医薬
品使用状況の調査。方法および適用。コペンハーゲン。WHO 欧州事務局、1979 年(WHO
Regional Publications, European Series No.8)pp.125-136.
8.
Baksaas Aasen I ら。医薬品投与量の統計値。ノルウェーで登録済みの医薬品の規定 1 日用
量の一覧。ノルウェー、オスロ。Norsk Medicinal Depot, 1975.
9.
Hall RC。オーストラリアにおける医薬品の使用。収載;Sjüqvist F, Agenäs I 編。医薬品使
用状況調査:医療との関係、Acta Medica Scandinavian, 1983, Suppl. XXX:79-80.
10. 医薬品使用状況研究グループ、南米。南米 6 ヵ国における自己治療および自己処方に関す
る多施設共同試験。Clinical Pharmacology and Therapeutics, 1997, 61:488-493.
11. Bergman U, Sjöqvist F. スウェーデンにおける医薬品使用状況の評価:方法論的および臨
床的関係。Acta Medica Scandinavica, 1984, Suppl 683:15-22.
6
第 1 章:医薬品使用状況調査とは何か、また何故必要なのか
1.1 定義およびドメイン
[医薬品使用状況:薬剤疫学;医薬品安全性サーベイランス;医薬品安全性監視]
・医薬品使用状況調査は 1977 年、WHO によって「社会における医薬品の市販、流通、処方お
よび使用であり、特にその結果としての医学的、社会的および経済学的結果を重視したもの」
として定義された。それ以降、他の用語が数多く利用されるようになったため、様々なドメイ
ンの相互関係を理解することが重要である。
・疫学は、
「集団における健康に関連した状況およびイベントの分布と決定因子に関する研究
であり、研究が健康問題の管理に適用されるもの」として定義されている。
・薬剤疫学では、集団における医薬品の臨床使用を研究するために、疫学的手法を用いる。薬
剤疫学の現在の定義は、「大集団における医薬品の使用および効果/副作用の研究であり、集
団における医薬品の合理的かつ費用効率の良い利用を支持し、健康転帰を改善するもの」であ
る。
・医薬品安全性サーベイランスおよび医薬品安全性監視は、例えば自発的副作用報告システ
ム、ケースコントロールおよびコホート試験による、医薬品の安全性のモニタリングを示すた
めに用いられる用語である。
薬剤疫学は、各医薬品または医薬品のグループの安全性と有効性を重視した医薬品志向の場合
も、教育(啓発)的介入による薬物療法の質の改善を目的とした活用志向の場合もある。医薬
品使用状況調査も、記述的研究と分析的研究に分けることができる。記述的研究では、医薬品
使用のパターンを説明し、より詳しい研究を必要とする問題の同定に重点が置かれてきた。分
析的研究は、医薬品の使用状況に関するデータを有病率、治療転帰および看護の質と結びつけ
ようとするものであり、薬物療法が合理的か否かの評価を最終目標とする。洗練された活用志
向型の薬剤疫学では、医薬品(例えば用量-効果および濃度-効果)、処方者または患者(医
薬品および用量の選択、腎機能の比較、薬物代謝表現型/遺伝子型、年齢など)を重視すると
考えられる。
したがって、医薬品使用状況調査は医薬品への曝露の大きさ、本質および決定要因を説明す
るものであるため、薬剤疫学の不可欠な要素である。これら 2 つの用語の区別は、時間ととも
に曖昧さを増し、時として同じ意味で使用されている。しかし、医薬品使用状況調査では医薬
品を重視した様々な情報源(例えば卸売および処方一覧からの集計データ)がしばしば用いら
れるのに対し、疫学という用語は、医薬品の使用が発病率および患者数の形で表現される、限
定された集団を表すものである(第 1.2.1 項を参照)。
以上のことから、医薬品使用状況調査および薬剤疫学は、医薬品の使用と処方の次の局面を
理解する上での手がかりになると考えられる。
・使用のパターン:これには医薬品使用の範囲とプロファイルならびに医薬品使用のトレンド
と長期的コストが含まれる。
・使用の質:これは、実際の使用量を各国の処方ガイドラインまたは国内の処方集と比較する
ための監査を利用して判断する。1 医薬品使用の品質指数には、医薬品の選択(推奨された組
み合わせの遵守)
、薬剤費(予算に関する勧告の遵守)
、医薬品の用量(所要量の患者間変動お
よび年齢依存性の認識)
、薬物相互作用と副作用の認識および治療のコスト・ベネフィットを
意識しているまたは意識していない患者の比率などが含まれることがある。
・使用の決定因子:これには使用者の特性(例えば社会人口学的パラメータおよび医薬品に対
する姿勢)
、処方者の特性(例えば社会性、教育および治療法の決定に影響する要因)および
医薬品の特性(例えば治療薬の性質および値ごろ感)が含まれる。
1
医薬品使用状況の監査は Crooks(1979)によって、一般に容認されている処方の基準を維持するために十分な頻度で行
われる、医薬品が臨床診療において使用されている方法の調査として定義された。
7
・使用の結果:これらは健康アウトカム(すなわち利益と有害作用)および経済的影響である。
薬剤疫学が当初注目していたのは、個々の医薬品の安全性(医薬品安全性監視)であったが、
現在では医薬品の有益作用の研究も注目されている。この開発を推進したのは、無作為化臨床
試験の厳密な規定下で用いられた医薬品の健康アウトカムが、日々の診療で用いられる医薬品
の健康アウトカムと必ずしも一致しないという認識の高まりであった。新規医薬品が市販承認
を取得するために必要な臨床試験には、慎重に選出された少数の患者が組み入れられ、厳しく
管理された条件下で比較的短期間の投与と追跡調査が行われる。結果的に、そのような試験で
は医薬品の用い方が通常の条件下で行われる日々の診療における健康アウトカムを正確に反
映するものとならない。製剤疫学的研究は、臨床試験とは異なり、医薬品の効果を大規模な不
均一の患者集団において、長期間にわたり評価するものであるため、有効性および安全性に関
する我々の知見に大きく貢献することが多い。
医薬品使用状況調査はまた、医薬品の使用の効率性、すなわち、ある薬物療法がその値段に
値するか否かを知る上での手掛かりとなり、そのような調査の結果は医療関連予算を合理的に
配分するための優先順位設定の一助として利用することができる。
1.2 なぜ医薬品使用状況調査なのか?
[医薬品の使用パターンの説明;医薬品の不合理な使用の初期シグナル;医薬品の使用法を改
善するための介入;長期的な品質改善]
医薬品使用状況調査の主な目的は、集団における医薬品の合理的な使用を促進することであ
る。個々の患者についての医薬品の合理的使用とは、十分に裏付けられた医薬品を、正確な情
報とともに手頃な値段で、最適用量で処方することを意味する。医薬品がどのように処方され、
用いられているかを知っていなければ、合理的な医薬品の議論を開始すること、あるいは処方
の慣習を改善するための手段を提案することは難しい。処方者の過去の能力に関する情報は、
あらゆる監査システムの要である。
医薬品使用状況調査は、それ自体が答えをもたらすとは限らないが、後述のような重要な方
法での合理的な医薬品の使用に貢献する。
1.2.1 医薬品の使用パターンの説明
医薬品使用状況調査は、次のように医薬品がどのように用いられるかの理解を高めることがで
きる。
・それは、特定の期間内に特定の医薬品に曝露した患者数を推定するために利用することがで
きる。そのような推定では、医薬品の使用を開始した時期を問わず、すべての医薬品使用者を
指す場合(有病率)
、または特定の期間中にその医薬品の使用を開始した患者に注目する場合
(発生率)が考えられる。
・医薬品使用状況調査は、ある時点/またはある地域(例えば国、地域、コミュニティーまた
は病院)での使用の程度を示すこともできる。そのような説明は、それらが長期的な評価シス
テムの一部となっている場合、すなわちパターンが長期間追跡され、医薬品使用のトレンドが
理解されている場合にはきわめて有意義である。
・研究者は(例えば、ある疾患に関する疫学的データを基に)医薬品がどの程度正しく、過量
に、または過少に用いられているかを推定することができる。
・医薬品使用状況調査によって、医薬品の使用のパターンまたはプロファイルを、また特定の
病態を治療するために代替薬がどの程度使用されているかを明らかにすることが可能である。
・特定の疾患の治療を目的とした医薬品の使用パターンを、現行の勧告またはガイドラインと
比較するために利用することが可能である。
・医薬品使用状況のパターンに品質指標を当てはめる際に利用することができる。その 1 例
は、
「トップ 10」リストを発展させた、いわゆる DU90%(医薬品使用率 90%)である。
8
DU90%セグメントは、医薬品の処方の 90%を占める医薬品の数と、このセグメントにおける
地域または国の処方ガイドラインの遵守を反映したものである。この一般的なインディケータ
は、処方の質をおおまかに推定するために、様々なレベル(例えば、個々の処方者、処方者の
グループ、病院、地域または国)で適用することができる。
・医薬品使用状況のデータは、処方者にフィードバックすることができる。これは、特定の個
人による医薬品の処方と、何らかの形の「第一選択」または最良の診療と、また関連する国、
地方または地域の平均的な処方との比較が可能である場合に、特に有用である。
・医薬品の問題または有害作用に関する症例報告の数をその医薬品に曝露した患者数に関連
づけ、問題の潜在的な重大さを評価することができる。反応がある年齢群、然るべき条件また
は特定の用量段階においてより多く発生することを検知できれば、適応症に関する情報、禁忌
および適切な用量を改良することのみで安全な使用が保証され、医薬品の市場からの撤退は回
避可能である。
1.2.2 医薬品の不合理な使用の初期兆候
医薬品使用状況調査から、以下で概説するような今後の調査のための計略を設定するための仮
説を作成することができる。
・医薬品使用のパターンおよびコストを、異なる地方または異なる時点の間で比較することが
できる。仮説は明らかとなった差の原因、および健康への影響を調査するための基盤の構築を
目的として作成されることがある。人口統計学的な差、また医薬品使用の経時的な変化も、
個々の患者ならびに社会の両方に対して医学的、社会的および経済的影響を及ぼす可能性があ
るため、同定し、説明し、必要があれば修正しなければならない。
・医薬品の使用に認められたパターンを、特定の疾患を治療するための現行の勧告およびガイ
ドラインと比較することが可能である。次いで、不一致は診療が最適に達していないことを示
すものであるか否か、教学的介入(教育)が必要か否か、あるいはガイドラインを実際の診療
に照らして再検討するべきか否かを判断するために、仮説を作成することができる。これらの
仮説は、医薬品の過少使用および過剰使用の両方に当てはまるものでなければならない。
1.2.3 医薬品の使用を改善するための介入-追跡調査
次の方法で実施される医薬品使用状況調査によって、医薬品使用の改善を目指した介入が、望
ましい影響をもたらしたか否かの評価が可能となる。
・医薬品使用の好ましくないパターン(例えば地方または国内の処方、情報キャンペーンおよ
び規制方針)を改善するためにとられた手段をモニターし、評価する。調査担当者は、処方者
が同等に好ましくない他の医薬品へ切り替えた可能性があることを心に留めておくべきであ
る。このような使用した可能性がある代替薬は、手段の全体の影響を評価するために、調査に
組み入れなければならない。
・規制の変更または保険もしくは診療報酬制度の変更は、広範にわたる調査で評価しなければ
ならない。このような評価は、代替薬としてより高価な医薬品が用いられた場合には、社会が
負担する総コストは同じか、場合によっては増加する可能性があるという理由から必要であ
る。
・製薬会社の宣伝活動と社会の教育活動が医薬品の使用パターンに及ぼす影響の大きさを、評
価しなければならない。
1.2.4 医薬品使用の品質管理
医薬品の使用は、継続的な品質改善のための系統的な枠組みを提供する、品質管理サイクルに
従って管理されなければならない。そのようなサイクルの構成要素を、次のページに示す。
ステップ 4 の後、新しい分析法、新しい標的の設定などを用いてサイクルを再度開始する。
9
ステップ 1. 計画。現在の状況を分析し、改善
のための計画を確立する(例えば個々の処方
者、処方者のグループまたは医療機関の現在の
処方パターンを分析する)
。
ステップ 2. 実行。計画を小規模で実行する
(例えば個々の医薬品または治療群単位にお
ける過量使用、過少使用または誤用の可能性を
フィードバックする)
。
ステップ 4. 行動。計画を改定する、または計
画を大規模で実行する(例えば計画の全国規模
の実施を先導する)
。
ステップ 3. 確認。予測通りの結果が得られた
か否かを確認する(例えば処方のパターンが実
際に改善されたか否かを評価する)
。
品質管理サイクルは、医師、臨床薬理学者または薬剤師からなる国内または地域のディス
カッショングループから全国的もしくは国際的戦略まで、多くのレベルに適用することができ
る。このサイクルに組み合わせて利用できる重要なテクニックはベンチマーキングである。
様々な地域からの医薬品使用に関するデータを比較することによって、詳しい評価を要する重
大な差を検出し、それによって最良の診療を確認し、促進できることが多い。そのような比較
は、データが標準化された均一の方法で収集された場合には、正確かつ真実を語るものとなる
(第 5 章を参照)
。
1.3 医薬品使用状況調査および医薬品政策の決定
医薬品使用状況調査において問われる質問および得られる答えの多くが、国と地方、両レベル
での合理的医薬品政策の開始および変更にとって重要である。そのような調査の 2 つの成功
例を、以下に述べる。
エストニアにおける医薬品の使用
独立後のエストニアにおける医薬品の使用状況調査を理解することが重要である理由は、医薬
品政策についての決断が必要であったためである。当時は、どの医薬品が使用されて(販売さ
れて)いるかに関する、あるいは使用量に関する情報が国内で入手できず、そのため医薬品市
場を統制するための論理的根拠が存在していなかった。さらに、フィードバックシステムがな
いため、将来起こりうる介入の影響を評価することは不可能であった。エストニアのための全
国的な医薬品分類システムが開発され、この分類に基づく卸売業者からの報告システムが、
1992~1994 年にわたり実行され、チェックされ、検証された。それ以来、医薬品使用状況の年
1 回の審査が、エストニアにおける規制政策および診療報酬制度の決定に関する背景情報を提
供するために利用されてきた;2 つの例を以下に示す。
医師が高率で不適切な処方を行っている場合は、医薬品規制当局は教学的介入を求めるか、
または特定の医薬品または診療医に対して制約を課することができる。エストニアでは、医薬
品規制当局が国内のすべての処方者に無料で配布する国の医薬品安全性広報誌の中でその理
由を明記し、説明した後、フェナセチン、古いタイプのスルホンアミド剤およびピラゾロン誘
導体など、一部の危険な医薬品の輸入禁止を決定した。
診療報酬方針の計画では、DDD で示した医薬品の総使用量を慎重にモニターした。1990 年
代は、1 人当たりの DDD 数として表した医療用医薬品の使用量が、北欧諸国の報告値の 3 分
の 1 未満であった。これは特定の慢性疾患(すなわち高血圧および統合失調症)の治療が不十
分な結果であることが判明したため、心血管系薬および神経弛緩薬の入手と使用を助長するこ
とが決定された。このように、エストニアにおける全国的医薬品使用状況調査は、薬剤費の増
加の追跡と同時に、医薬品規制活動の影響のモニタリングにも利用されてきた。医薬品の使用
に関するデータは(地方レベル、全国レベルのいずれも)治療戦略についての協議と決定に関
わる背景資料の一部に過ぎないため、医薬品使用状況調査が医薬品政策の開発に及ぼす特定の
影響を評価することは難しい。
10
しかしながら、そのような研究は、エストニアにおける医薬品のより合理的な使用に貢献した
と考えるのが妥当である。 1
南米における医薬品の使用
第 2 の例は、南米 DURG がスペイン、バルセロナ市の WHO 薬剤疫学共同研究センターと共
同で実施し、成功を収めた研究である。
1991 年 9 月、スペインと南米 8 ヵ国の医療従事者がバルセロナに会し、
「南米薬剤疫学グ
ループ第 1 回会議」が開催された。参加したほとんどの国で、医薬品の使用状況に関するデー
タがきわめて少なく、また断片的であることが明らかとなった。数カ国の医薬品規制当局は医
薬品の消費に関する定量的、定性的いずれのデータにもアクセス手段を持たず、医薬品政策や
医薬品に関する教育プログラムをデザインするためには医薬品の使用パターンに関わる情報
が有用と認識していた。
この会議では南米ネットワーク(後に DURG-LA と呼ばれた)を次の目的で設立することが
合意された:
- 南米諸国において医薬品使用状況調査を促進すること;
- 参加グループの間で経験と情報を交換すること;
- 生み出された知見を利用して医薬品規制当局に技術的助言を提供し、薬理学の教育を指導
すること;
- 医薬品の使用を改善するための情報を書面に示し、発信すること;
- 薬剤疫学および治療の分野における医療従事者の教育に参加すること。
その後 10 年の間に、医薬品使用状況調査の促進を目指してさらに 7 回の DURG-LA 会議が開
催された。当初の中核グループの一部は、南米 6 ヵ国における初めての自己治療および自己処
方に関する多施設共同試験に参加した。この試験は、11 の医療機関の管轄区域内の様々な社
会階級地域から選出した薬局をサンプルとして実施された。1
1.4 一般書
Bergman U ら。90%医薬品利用率-医薬品の処方量の簡単な評価法。Europen Journal of Clinical
Pharmacology, 1998, 54:113-118.
Crooks J. 医薬品使用状況の監査方法。収載:Duchene-Marulla ZP 編。薬理学と治療薬の進
歩。国際薬理学会第 7 回会議の議事録、パリ、1978 年、Oxford, Pergamon Press, 1979:189-195.
Diogéne E ら。国民の健康を目指した薬務政策におけるキューバの経験:全国薬剤疫学ネッ
トワークの初期成績(1996~2001 年)
。European Journal of Clinical Pharmacology, 2002, 近
刊。
南米医薬品使用状況調査グループ。南米 6 ヵ国における自己治療および自己処方に関する
多施設共同試験。Clinical Pharmacology and Therapeutics, 1997, 61:488-493.
Dukes MNG 編。医薬品使用状況調査:方法および用途。コペンハーゲン、WHO 欧州事務
局、1993 年(WHO Regional Publications European Series No. 45)
Einarson TR, Bergman U, Wiholm BE. 薬剤疫学の原理と実際。収載:Avery 薬物治療 第 4
版 Adis International:371-392.
Figueras A ら。発展途上国における医療ニーズ、医薬品の登録および管理-ペルー人の
例。Pharmacoepidemiology and Drug Safety; 2001,10:1-2.
Laporte JR, Porta M, Capella D. 医薬品使用状況調査:医薬品使用の有効性を判断するための
ツール。British Journal of Clinical Pharmacology, 1983, 16:31-304.
McGavock H. 医薬品使用状況調査実施のためのハンドブック第 1 版。ニューカッスルアポ
ンタイン。英国医薬品使用状況調査グループ、2000 年。
1 DURG-LA に関する情報は、Dr. Albert Figueras および Professor Joan-Ramon Laporte(スペイン、バルセロナ市)からの私
信の中で提供されたものである。
11
Strom BL. 薬剤疫学、第 3 版。ニューヨーク、 J Wikey, 2000.
12
第 2 章:医薬品の使用に関する情報のタイプ
検討している問題によって、医薬品の使用に関する様々なタイプの情報が必要となる。それに
は医薬品全体、医薬品グループ、個々のジェネリック化合物または特定の医薬品の使用に関す
る情報が含まれる。治療されている病態、患者および処方者に関する情報も必要となることが
多い。さらに、薬剤費に関するデータは、医薬品が効率的かつ経済的に使用されていることの
確認において重要である。医薬品に関するこれらのタイプの情報について、医薬品の合理的使
用を促進するための情報の利用法を概説した例とともに、以下に詳しく説明する。
2.1 医薬品ベースの情報
医薬品の総使用量のトレンドに関する情報は有用と考えられるが、臨床上重要な疑問に答える
ためには、様々なレベルでの医薬品使用に関するデータの収集を含めたより詳しい情報、また
適応症、用量および投与法に関する情報が必要となるのが普通である。
2.1.1 医薬品使用に関するデータ収集のレベル
医薬品の使用に関するデータを収集するレベルは、問われている疑問によって決定される。例
えば、疑問が高血圧の治療における医薬品グループの相対的な使用に関するものであるとす
る。その場合には、利尿薬、β-遮断薬およびアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬などに
関するデータを収集するのが適切と考えられる。しかし、疑問が高血圧における β-遮断薬の使
用率に関するものであれば、物質(ジェネリック医薬品)レベルのデータが必要となるであろ
う。個々の医薬品の使用量の相対的尺度に関する情報、例えば売上 1 位の医薬品を明らかにす
ること、またはジェネリック医薬品とブランド医薬品または先発医薬品の使用率の比較評価
が、時として必要である。より高い力価の抗菌薬の使用に向かうトレンドの有無を判断するた
め、抗うつ薬の複数の力価の使用率を明らかにし、それが効率的な用量で用いられているか否
かを評価するためには、力価レベルまで引き下げた情報が必要となる。
2.1.2 適応症
複数の適応症を有する医薬品については、適応症によって使用状況のデータを分割し、全体の
トレンドを正しく読み取ることが重要である。その 1 例は、高血圧治療における医薬品グルー
プの使用率である。全体のデータは利尿薬の使用率が ACE 阻害剤に匹敵し、カルシウムチャ
ネル遮断薬よりも高いことを示唆していると考えられる(表 1 の A 列)
。しかし、適応症に照
らしたデータの分析によって、ACE 阻害剤の 75%は高血圧の治療に用いられていたのに対し、
この適応症に対して用いられている利尿薬は 43%に過ぎないことが明らかとなった(強力利
尿薬のほとんどは心不全の治療に用いられていた)。心不全の治療における 2 つの医薬品グ
ループの使用状況は、適応症に従って考えると著しく変化する(表 1 の B 列)
。
表 1 1998 年のオーストラリアにおける高血圧治療のための医薬品グループの相対的利用率
a
Ab
Bc
Cd
医薬品グループ
ACE 阻害剤(C09A) 31.80 36.6 34.8
カルシウムチャネ
26.7
ル ブ ロ ッ カ ー 24.50 28
(C08C)
29.60 19.4 15.9
利尿薬(C03)
β-遮断薬
(C07AA、C07AB) 11.20 11.5 15.7
ATII 拮抗薬
3.00 4.6 6.9
(C07CA)
出典:オーストラリア医薬品使用状況調査会および BEACH 調査、1998 年 4 月~12 月。シド
ニー大学、GPSCU 1999。
13
a 数値はこれらの医薬品群の総使用量に対するパーセンテージとして示す。
総使用量に基づく。
高血圧治療のための各グループの総使用量に対するパーセンテージとして示す。
d 高血圧地域医療において患者が遭遇する医薬品グループの処方率。
b
c
14
適応症が重要となる状況のもう 1 つの例は、抗生物質の使用である。特定の抗生物質、例えば
アモキシシリンの使用が合理的か否かを判断する場合には、通常はその抗生物質がどの感染症
または問題の治療のために使用されているのかを知ることが必要である。したがって、アモキ
シシリンの使用に関するデータを適応症別に分け、それらの使用状況を適切なガイドラインと
比較する必要がある。例えば、急性咽頭炎の治療に相当量のアモキシシリンが使用されていた
ことが明らかになれば、この所見は急性咽頭炎が取り組むべき問題であることを示している。
なぜなら、咽頭炎の治療にはスペクトルが狭い薬物(または医薬品を用いないこと)が適切で
あり、もしアモキシシリンを咽頭炎として発症する単核症に用いると、高い確率で発疹が発現
するためである。
2.1.3 処方 1 日用量
処方 1 日用量(PDD)とは、処方の代表例から導出した、処方されている 1 日の用量の平均値
である。住民 1000 人の 1 日当たりの DDD を用いることによって、医薬品グループ全体のデー
タを集計し、国、地域および医療機関の間で比較することが可能となる。しかし、DDD 尺度
は実際の PDD を反映したものではない可能性があるので、それらを比較する場合には考慮が
必要である。PDD は国および民族間で、また同じ国でも地域または医療機関の間で異なる。
PDD は同じ医薬品でも異なる適応症の間で異なることが多いため、総使用量のデータは、時
としてこのレベルまで詳しく読み取らなければならない。
オーストラリアにおける三環系抗うつ薬および選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
の使用に関するデータを、DDD および処方量の両方について、表 2 に示す。
PDD と DDD の関係が 2 つのグループの抗うつ薬では異なるため、2 つの尺度はこれら 2 つ
のグループの使用率について、異なる結果を示した。概して、三環系抗うつ薬の PDD は DDD
より低値であり、SSRI の PDD は DDD よりも高値である。この場合、データを臨床的に読み
取るためには PDD について知っておくことが必要である。
DDD/住民 1000 人/日は、検討中の集団における使用率の概算値を導出するためにしばしば
利用され、また慢性疾患については、医薬品がただ 1 つの既往症に対して処方されている場合
に罹患率の評価にも利用されることがある。そのような推定値は、DDD と PDD が同じである
場合にのみ有効である。
表 2 1998 年、オーストラリアにおける抗うつ薬の使用率
処方量(100
万)a
総処方量に対す DDD/1000
る%
人/日
総 DDD/1000 人/日
に対する%
三環系
(N06AA)
3.53
48.82
8.40
28.09
SSRI
(N06AB)
3.09
42.74
17.20
57.53
モクロベミド
(N06AG02)
0.61
8.44
4.30
14.38
合計
7.23
100.00
29.90
100.00
出典:オーストラリア医薬品使用状況調査会、オーストラリア連邦、保健高齢省。
http://www.health.gov.au:80/haf/docs/asm.htm
15
2.2 問題またはエンカウンタベースの情報
[エンカウンタの原因(問題)
;薬物療法対非薬物療法;管理されたその他の問題;管理された
問題の重症度;新しいまたは継続的な症状;協議の期間;問題に対して処方された医薬品;医
薬品の供給方法;処方されたその他の医薬品]
特定のグループの医薬品がどのように用いられているかを問うよりも、特定の問題(例えば咽
頭炎、高血圧または胃潰瘍)がどのように管理されているかという疑問に取り組むことが有用
と考えられる。
1 例として、高血圧の管理に関する問題に基づいた情報が、どのように用いられるかを考
える。最初に、血圧の薬物療法または非薬物療法に関するガイドラインとの一致性ならびに
他のリスク因子を評価する。薬物療法を用いる場合は、それぞれの医薬品グループで治療を
受けた患者の割合が、管理の全体像を示す(表 1 の C 列)
。この情報は、上述のような種々
の医薬品グループの総使用量の評価から得られる結果よりも直接的な、高血圧の管理法に関
する情報である。表 1 に示した例では、B および C 列のデータは概ね一致している。2 つの
異なるアプローチ(すなわち医薬品ベースおよび疾患ベース)を用いたデータ間のこのよう
な一致性は、結果に確信を与えるものである。
疾患ベースのアプローチを用いて検討し得るそれ以外の疑問には、次のものが含まれる:
・高血圧の重症度は単独療法または併用療法の選択に影響を及ぼすか?
・新たに発症した患者の管理法は、すでに治療を受けている患者と異なるか?
・同時に処方されている治療薬との間に薬物相互作用が起こる可能性はあるか?
・医薬品の選択は、エビデンスに基づいたアウトカムのデータによって左右されるのか?
いくつかの疾患については、薬物療法およびその他の治療法の使用率を検討し、薬物療法の慣
習とその他の治療法を明らかにし、理解することが重要である。例えば、エストニアの医薬品
使用状況調査では、1989 年~1997 年のホルモン避妊薬と妊娠中絶率との間に相互作用がある
ことが示されている(図 2)
。
もう 1 つの例は、ソビエト時代のエストニアにおける潰瘍手術の実施数が、スウェーデンより
も多かったことである。その理由は、当時のエストニアでは最新の抗潰瘍薬を入手できなかっ
たことであった(図 3)
。
妊娠中絶数
(10,000 人
当たり)
ホルモン避妊
薬の使用
(DDD/
1000 人/
日)
妊娠中絶率
ホルモン避妊薬
図 2 1989 年~1997 年のエストニアにおける妊娠中絶率およびホルモン避妊薬の使用。
出典:Kiivet R. エストニアにおける医薬品政策決定の裏付けとしての医薬品使用状況調査。
[博士論文]、ストックホルム、カロリンスカ研究所、1999 年。
16
潰瘍性疾患に対
する外科手術
(100,000 人当
たり)
抗潰瘍薬の使用
(DDD/1000 人/
日)
抗潰瘍薬、エストニア
抗潰瘍薬、ストックホルム
外科手術、エストニア
外科手術、ストックホルム
図 3 1993 年~1995 年のエストニアおよびストックホルム郡における潰瘍性疾患の治療。
出典:Kiivet R. エストニアにおける医薬品政策決定の裏付けとしての医薬品使用状況調査。
[博士論文]、ストックホルム、カロリンスカ研究所、1999 年。
2.3 患者の情報
[年齢;性別;民族;随伴疾患;知識;信念および見識]
人口統計学的要因に関する情報およびその他の患者に関する詳細は、有用であることが多い。
例えば、患者の年齢分布は非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)に伴う重症副作用の発生率を評
価するため、あるいは臨床試験が実施された患者とは異なる年齢群の患者を治療するためにき
わめて重要と考えられる。患者群の随伴疾患は、治療法を選択するため、また起こりうる副作
用を予測するために重要と考えられる。例えば、高血圧の管理では、喘息患者の治療に β-遮断
薬を用いてはならず、心不全の患者には ACE 阻害剤が好ましい治療法である。
患者の知識、信念および見識ならびに医薬品に対する姿勢に関連した質的情報は、いくつか
の状況、例えば主治医に抗生物質の処方を求める患者からの圧力の評価、または消費者向けの
情報および教育プログラムの設計において重要となる。
2.4 処方者の情報
[人口統計的情報-年齢、性別、出身医学校、診療年数;診療のタイプ(例えば専門医または家
庭医;へき地または都会)
;診療の規模;患者群;医薬品に関する知識;処方に導く要因]
処方者は、医薬品の使用を決定する上できわめて重要な役割を担っている。医師間の差が患者
間の差よりも大きいこと、また医薬品の処方の仕方にしばしば合理的説明が行われていないこ
とが指摘されてきた。処方の仕方を決定する要因の詳細な分析は、医薬品が処方された方法お
よび理由を理解するために中心的役割を果たすものである。処方者の情報を用いて検討可能な
いくつかの疑問として、次のものが挙げられる:
・ 処方プロファイルは処方者の医学的教育の影響を受けたか?
・ 専門医の処方プロファイルは家庭医の処方プロファイルと異なるか?
・ 処方者の年齢または性別は処方プロファイルに影響を及ぼすか?
・ 処方の仕方は都会とへき地の医療機関の間、または小規模と大規模な医療機関の間で異な
るか?そのようなばらつきは教育の目標を特定の部門にしぼる必要性を示しているのか?
・ 最近になって販売が開始された医薬品に速やかに適応する処方者はだれか?
・ 医師による医薬品の合理的使用の評価において、患者群は考慮されてきたか?
・ 処方の仕方を決定し変更させる要因は同定が可能か?
17
2.5 医薬品使用状況調査のタイプ
医薬品使用状況調査では、医薬品使用の流れにおける以下の構成要素のいずれかを標的とする
ことができる:
-医薬品の使用を取り巻くシステムおよび構造(例えば、病院または看護施設において医
薬品がどのように発注され、配達され、また投与されたか)
-医薬品使用のプロセス(例えば、どの医薬品がどのように用いられたか、またそれらの
使用法は該当する基準、ガイドラインまたは制約条件に準拠していたか)
-医薬品を使用した結果(例えば、有効性、副作用、および医薬品、臨床検査、病院のベッ
ドまたは治療等の資源の利用)
横断的研究
横断的データは、ある特定の時点(例えば、1 年、1 ヵ月または 1 日)での医薬品使用の断片
を提供するものである。このような研究は、異なる国、医療機関または病棟において同じ期間
中に集められた同じデータの比較に利用することができ、医薬品、適応症、処方者または患者
ベースの場合がある。あるいは、横断的研究は教育的またはその他の介入の前後に実施するこ
とも可能である。研究は単に医薬品の使用量を測定するものでも、ガイドラインまたは規制条
件に照らして医薬品の使用を評価するための基準をベースとしたものでも良い。
縦断的研究
公衆衛生規制当局は、医薬品使用のトレンドに注目することが多いが、そのためには縦断的研
究が必要である。医薬品ベースの縦断的データは医療費請求データベースを通じて得られた医
薬品の総使用量に関するもの、または統計学的に有効な薬局もしくは診療のサンプルに基づく
ものの場合がある。縦断的データは、繰り返し実施された横断的調査から得られることが多い
(例えば、IMS(Intercontinental Medical Statistics、IMS 統計)による調査で得られたデータは
このタイプに属する)
。データの収集は継続的であるが、調査対象となる診療医、またそれ故
に患者は、絶えず変化している。このようなデータは全体のトレンドに関する情報を提供する
が、個々の診療医または治療についての処方のトレンドに関する情報は得られない。
長期的な縦断的研究
一部のケースでは、個々の診療医および患者レベルでの長期的な縦断的データが得られる。医
療費請求データベースでは、独自の(匿名性の)識別情報を用いて個々の患者を追跡できるこ
とが多い。これらのデータは処方の間隔、同時処方、投与期間、PDD などを基に、治療の遵守
に関する情報を提供することができる。電子的処方箋の普及に伴い、個別の患者レベルですべ
ての医学および処方に関する情報を包含した、長期の縦断的データを提供するためのデータ
ベースが作成されつつある。そのようなデータベースはきわめて有用であり、治療法の変更理
由、副作用および健康アウトカムなど、様々な問題への対処が可能である。
2.6 薬剤費
[総薬剤費;処方 1 回当たりのコスト;治療 1 日、1 ヵ月または 1 年当たりのコスト;規定 1 日
用量(DDD)のコスト;処方 1 日用量(PDD)のコスト;国民総生産に対する割合で示したコ
スト;総医療費に対する割合で示したコスト;平均収入に対する割合で示したコスト;健康ア
ウトカム別の正味コスト(費用効率)
;質調整生存年当たりの正味コスト(費用・効用率)]
薬剤費に関するデータは、医薬品の供給、価格決定および使用に関わる方針の管理において常
に重要となる。数多くのコスト尺度が利用可能であり、その一部を上のボックスに示した。例
えば、DDD 当たりのコストは通常、同じ医薬品の 2 つの製剤のコストを比較するために用い
18
ることができる。しかし、この尺度を異なる薬物間または薬物グループ間のコストの比較に用
いることは、DDD と PDD の関係は多様と考えられため、通常は不適切である。
置かれた状況および用いた見解によって、様々なレベルでのコストの推定値および様々な
方法で収集されたデータの利用が必要となる。政府側に立てば政府負担額およびコストオフ
セットに関する情報の収集が必要と考えられるのに対し、社会的見地からは政府および非政
府(民間)部門のコストおよびコストオフセットを明らかにする必要があると考えられる。
患者視点のデータ収集は、値ごろ感および入手可能性に関する問題が問われている場合には
適切と考えられる。コストは政府、医療機関、病院、健康維持施設または保健部門のその他
のレベルで決定されることがある。
例えば薬剤費増加の理由を明らかにするためには、コストを医薬品群または治療領域に
よって分割することがしばしば必要となる。例として、新しい高価な抗癌剤の導入は、病院
の薬剤費の増加につながることがある。薬剤費の変化は処方量、処方 1 回当たりの医薬品の
量または処方 1 回当たりの平均コストに起因する可能性がある。例えば、ほとんどの国が、
過去 5~10 年の間に抗精神病薬のコストの著しい増加を経験している:オーストラリアにお
ける抗精神病薬の使用量およびコストに関するデータを、図 4 に示す。
オーストラリアでは抗精神病薬の総使用量はほとんど増加しておらず、コストの増加は安価で
「古典的」な医薬品から高価な「非定型」医薬品、例えばクロザピン、オランザピンおよびリス
ペリドンへの切り替えによる、処方 1 回当たりの平均コストの増加に起因していた。これに対
し、抗うつ薬の処方量および処方 1 回当たりの平均コストはいずれも、より高価な SSRI の「追
加」処方の影響で同期間中に増加していた。
2.7 一般書
Einarsson TR, Bergman U, Wiholm BE. 薬剤疫学の原理と実際。
掲載:Speight TM, Holford NH 編 Avery 薬剤治療、
(場所)、 Adis International, 1999:371-392.
Lee D, Bergman U. 医薬品使用状況に関する研究。
掲載:Strom B.編 薬剤疫学 第 3 版、チチェスター、 J Wiley, 2000:463-481.
市中での使用量
クロザピンの政府負担費
DD/
1000 人
/日
100 万ドル
使用量
コスト
図 4 抗精神病薬-オーストラリアにおける使用量とコストのトレンド
19
第 3 章:医薬品使用状況に関するデータの情報源
[医薬品使用の流れ;大規模データベース;その他の情報源;医薬品使用量の評価;薬剤経済
学]
医薬品使用の流れには、医薬品の取得、保管、配布、処方、患者の服薬遵守および投与のアウ
トカムの審査というプロセスが含まれている。これらの各イベントが、医薬品の使用状況にお
ける重要な局面であり、ほとんどの国でこれらの局面を網羅した規則が定められている。デー
タは国、地方および地域の医療機関または家庭のレベルで収集または入手可能であり、また定
量的もしくは定性的研究から導出することができる。定量的データは、医療システムの様々な
レベルでの医薬品の処方と医薬品使用量の現状およびトレンドを示すために利用することが
できる。
定量的データは日常的に収集されたデータでも、調査で得られたデータでも良い。定性的研究
では、医薬品使用状況の適切性を評価し、処方に関するデータを処方した理由(適応症)に関
連づけるのが普通である。そのような分析は、
「医薬品使用状況審査」または「医薬品使用状
況評価」と呼ばれている。このプロセスは、規定された基準に基づいた「治療薬の監査」であ
り、治療の質の改善を目指すものである。臨床でのケアおよび治療技術が及ぼす経済的影響の
評価に対する関心が高まりつつある。この関心は、薬剤経済学として知られる、薬物療法の方
法が医療財源の利用にどのように影響するかの研究に注目した領域へと発展した(第 4 章を
参照)
。
医薬品の使用状況に関するデータの供給源は、記録の保管、データ収集、分析および報
告、また医療システムの操作上の配慮のレベルの高さによって、国ごとに異なる。
3.1 大規模データベース
医療財源の効率的な利用に対する関心が高まった結果、医薬品の使用状況に関する調査のため
のコンピュータ・データベースが確立された。いくつかのデータベースでは、医薬品の使用状
況および副作用に関する統計値を算出することが可能である。データは販売、医薬品流通網の
様々なレベルでの移動、薬剤費および医療費請求または処方せんのサンプルについて収集され
ることがある。データベースの範囲は国際的、全国的、また地域的な場合がある。データベー
スは診断に関連している場合、またはしていない場合がある。診断に関連したデータは、医薬
品の使用状況を患者特性、治療群、疾患または病態、また最善のケースでは臨床的アウトカム
に応じて分析することを可能にする。有用な分析のためには、データの供給源と構成を理解す
ることが必要である。
3.2 医薬品規制当局由来のデータ
[医薬品登録;医薬品の輸入]
医薬品規制当局は、安全、有効かつ良質の医薬品を自国で確実に利用できるようにする法的責
務を負っている。したがって、当局は国内でどの医薬品が市販登録、撤退または市販禁止され
たかに関するデータを大量に保存している。規制当局は査察および執行機能も有しており、医
薬品の輸入の監督および医薬品の登録承認の発行を責務としている。
したがって、国内で登録されている数多くの医薬品についてのデータを、規制当局から入
手することが可能である。当局が輸入許可書を発行し、医薬品の輸入を監督している場合
は、医薬品のタイプ(すなわち、ジェネリック医薬品またはブランド医薬品)、容量、輸入
元、製造業者の国、バッチ番号および使用期限に関するデータの収集が可能である。データ
が国全体の輸入を反映している場合は、特定の期間および様々な治療群について、流通網内
の医薬品の推定量を知ることができる。
報告が不完全で全ての取引が記録されていない場合には、真の推定値を得ることは難し
い。密輸された商品または不法ルートで国内に入った商品に関する情報は、これらのデータ
からは得られない。
3.3 供給業者(流通)のデータ
[医薬品の輸入;国内製造業者;税関]
20
供給者に関するデータは医薬品輸入業者、卸売業者または国内の製造業者から得られることが
ある。医薬品を輸入する前に医薬品規制当局および保健省から市販承認または認可を要求され
る国においては、データはこれらの情報源から入手することができる。
税関は、通関手続き地から輸入品を放出するプロセスの中で、医薬品に関する情報を収集する
ことができる。しかし、税関が用いるコードは、すべての関連情報を捕捉できるほど詳しいも
のではない。物品税の徴収を担う国の当局も、国内の製造業者の医薬品の製造量と出荷量に関
する情報を提供することが可能である。
これらの情報源からのデータは一般に、特定の医薬品または医薬品グループの供給元およびタ
イプ(すなわちブランド医薬品かジェネリック医薬品か)を示すために利用することができる。
医薬品の製造または輸入に関するデータを直接捕捉するための国家機構がないため、卸売
業者が医薬品の獲得に関する情報の重要な供給源となっている。そのようなデータは、卸売
業者が医薬品を輸入できる唯一の法人組織である限りは信頼することができる。国によって
は、医師、歯科医師および獣医師および薬剤師が、医薬品を輸入することができる。そのよ
うな情報源から広範にわたるデータを収集することは、報告書の提出が法的に定められてい
る国であってもきわめて難しい。公営企業の購入手順では、適切な記録は残されているもの
の、得られるのはその部門に関するデータのみである。
3.4 診療の設定に関するデータ
[処方に関するデータ;調剤に関するデータ;医薬品使用の指標;施設に関するデータ(総計)]
医療サービスと医薬品使用の特定の局面を評価し、処方の慣習と患者看護の状況に関する情報
をもたらす指標を作成するためには、医療機関からのデータを利用することが可能である。こ
のような指標は、医薬品使用のどこが問題なのかを明らかにし、モニタリングと監視のための
メカニズムを提供し、また医療従事者に確立された医療基準の遵守を促すものである。
3.4.1 処方に関するデータ
処方に関するデータは、外来および入院患者の処方せんから抽出するのが普通である。そのよ
うなデータは、記録がコンピュータ化されていれば容易に検索することができ、またコン
ピュータ処理されたデータを用いれば、トレンド分析は容易である。電子化データベースがな
い場合は、処方に関するデータは患者のカルテまたは患者を対象とした抜き打ち調査から抽出
するか、もしくは調剤の段階で読み出す。
処方せんから入手可能な情報には、患者の人口統計学的背景、医薬品名、剤型、力価、用量、
投与頻度および投与期間などが含まれる。診断名が処方せん、特に入院患者の処方せんに記載
されていれば、医薬品の使用を適応症に関連づけることが可能である。特定の医薬品を特定の
疾患に用いるトレンドも確認することができる。例えば、入院患者のデータから、微生物学的
評価に基づいた治療とは反対の、感染症の経験的治療との関連が明らかになる可能性がある。
このことは、患者のカルテから関連データを抽出することによって達成されるが、記録の質の
良さが求められる。
処方せんは、次のような WHO 推奨の医薬品使用に関する指標のいくつかを決定するため
の、優れた情報源である:
-処方せん 1 枚当たりの平均の医薬品数(エンカウンタ)
;
-一般名で処方された医薬品の割合;
-抗生物質の処方につながったエンカウンタの割合;
-注射薬の処方につながったエンカウンタの割合;
-必須医薬品リストまたは処方集から処方された医薬品の割合;
-エンカウンタ当たりの平均の薬剤費。
処方に関するデータから、DDD とは異なる可能性のある PDD を決定することができる。DDD
は比較臨床試験で得られた臨床アウトカムのデータとともに標準製品特性において承認され
た投与量に基づくものであるのに対し、PDD は変動的であり、疾患の重症度、体重、民族間の
薬物代謝の差および医療従事者の処方様式などの要因に依存している。DDD を用いれば、処
21
方様式と使用可能な力価の影響を排除できるため、医薬品グループ間の比較が可能となる。
国によっては、薬局およびドラッグストアで調剤された処方せんを、一定期間以上保管した
後に廃棄することが法的に定められている。そのような規則が遵守された場合には、処方に関
するデータは薬局から入手することができる。しかし、多くの開発途上国では、規則は概して
守られていない。処方データのコンピュータ化された記録が保存されている国では、データ
ベースの複雑さにもよるが、容易に検索することが可能である。
3.4.2 調剤に関するデータ
医薬品の調剤は、顧客が規定量の医薬品と、それらの使用説明書を持ってドラッグストアを出
た時点で終了するプロセスである。調剤される医薬品の量は、その入手可能性に依存している。
したがって、調剤者から入手可能な情報として、次のものが考えられる:
-処方された医薬品;
-処方された用量;
-処方せん 1 件当たりの平均項目数;
-処方された項目のうち、実際に供給された物の割合(入手可能性の指標)
;
-正しくラベル表示された医薬品の割合;
-調剤された治療薬の量;
-各項目または各処方せんの費用。
これらのデータはドラッグストアで、電子的または手書きの様式に保存された記録から入手す
ることができる。
3.4.3 集計データ
医療機関または病院内の多くのデータ供給源から、医薬品の使用状況に関する集計データを得
ることが可能である。そのような情報源には購入記録、倉庫の在庫目録、薬局の在庫および調
剤記録、投薬ミス記録、副作用記録および患者のカルテが含まれる。このようなデータ供給源
は次のような、医薬品の種々の局面に関する情報を得るために利用することができる:
-個々の医薬品および医薬品のクラスのコスト;
-使用頻度が最も高い、または最も低い医薬品;
-最も高価な医薬品;
-特定の医薬品の 1 人当たりの消費量;
-同じ適応症に用いられる 2 種類以上の医薬品の比較;
-副作用の発生率;
-投薬ミスの発生率;
-特定の医薬品または特定の医薬品クラスに費やされた予算の割合。
集計データは、特定の医薬品の使用状況を他の医薬品の使用状況と比較するために、また他の
病院、地域または国における使用状況と比較するために有用であることが多い。
3.4.4 大衆薬およびその他の医薬品(処方せん指示医薬品でない)
薬剤師およびその他のドラッグストア管理者は、大衆薬または医師が作成した処方せんなしに
薬剤師が調剤可能な医薬品を、調剤することができる。そのような医薬品に関するデータを入
手することは、医薬品の規制が弱く、記録の保存が乏しい環境下では特に難しい。しかし、そ
のような情報が在庫または調剤記録から入手できる場合には、それは医薬品使用状況のパター
ンの理解の幅を広げる。
3.4.5 電話およびインターネットによる処方
一部の国では、医師が電話を通じて処方を行うことがある。インターネットを用いた処方と調
剤も、特に先進国で実施されている。インターネットを用いた処方のほとんどが、栄養補給お
よび漢方薬に対するものである。しかし、シルデナフィル(バイアグラ®)のような、それ以
外の医薬品のインターネット販売も増えつつある。このタイプの取引に関する情報を収集する
ために、新しい手段を考案しなければならない。
22
3.5 コミュニティー設定のデータ
[家庭調査;コンプライアンス(服薬遵守);医薬品の使用状況]
家庭で使用可能な医薬品は、医療機関で処方または調剤されたもの、(処方せんを用いて、ま
たは処方せんなしで)薬局で購入されたもの、または大衆薬である。医薬品はその時点での疾
患を治療するためのものか、または過去の疾患を引き継いだものある。患者が調剤された医薬
品の服用について与えられた指示を良く守らないことは珍しくない。したがって、調剤のデー
タと使用状況のデータは、ノンコンプライアンスについて補正されていないため、等しくない
可能性がある。
外来患者による医薬品の使用状況は、残った錠剤を数える、または特定の医薬品が投与され
た回数を電子的に数えることのできる特別なデバイスを用いた家庭調査の実施によって、最も
正確に評価することができる。入院患者による医薬品の使用状況は、投与記録シートまたは発
注書の精査によって明らかにすることができる。
外来患者および入院患者のいずれについても、特定の医薬品の使用状況に関するデータを、
規定された集団について、DDD で集計することができる。DDD の利用には、例えば入院患者
と外来患者を比較できるという利点がある。同じ医薬品について、様々な剤型および同等の
ジェネリック医薬品に関するデータも集計することができる。
3.6 医薬品使用評価
[医薬品・治療法委員会;前方視的評価;後方視的評価;評価基準の設定]
ときに医薬品使用状況分析とも呼ばれる医薬品使用評価は、長期的、系統的な評価基準に基づ
いた医薬品の評価システムであり、医薬品の適正な使用を確認するものである。これは医薬品
の使用に関連した問題を同定するための情報を得る手段であるが、正しく作成された場合には
問題を補正する手段を提供し、合理的な薬物療法のためにも役立つ。
医薬品使用評価では、医薬品が投与または調剤される実際のプロセス(適切な適応症、医薬
品の選択、投与量、投与経路、投与期間および薬物相互作用を含む)、また投与のアウトカム
(例えば治癒した病状または臨床的パラメータのレベル低下)を評価することができる。医薬
品使用評価の目的には次の事項が含まれる:
-薬物療法が現行の標準治療に一致していることの確認;
-薬剤費の管理;
-医薬品に関連した問題の予防;
-薬物療法の有効性の評価;
-診療医のさらなる教育を要する診療分野の同定。
医薬品使用評価によって検討するべき問題は、第 3.4 節に記載されたいずれのデータ(処方の
指標、調剤データおよび集計データなど)からも同定可能である。医薬品使用評価に用いる
データの主な供給源はカルテである。通常は、医薬品・治療法委員会のような、特定可能で権
威のある委員会が、病院または医療機関における医薬品使用状況の審査を実行する。このグ
ループには、評価のためのガイドライン、評価基準、指標および閾値を作成する責務がある。
医薬品使用評価は、前方視的(医薬品の調剤または投与が実施中であるため)または後方視的
(カルテの審査またはその他のデータ源に基づくため)に収集したデータに基づくことがあ
る。
・前方視的調査で検討される典型的な評価基準には、次のものが含まれる:
-適応症;
-医薬品の選択;
-処方された投与量;
-剤型および投与経路;
-治療期間;
-コスト;
-治療の重複;
-調剤量;
-禁忌;
-治療アウトカム;
-副作用;および
23
-薬物相互作用。
24
・後方視的調査で検討される評価基準には、次のものが含まれる:
-適応症の評価;
-高価な医薬品の使用に関するモニタリング;
-処方についての医師間の比較;
-患者が負担するコスト;
-副作用;および
-薬物相互作用。
上述の評価基準のいくつかをデータベースに組み込めば、医薬品分野の専門家は確立された評
価基準に合わない項目を評価することができる。医薬品使用評価から有意義な結果を得るため
には、十分な数の記録を評価する必要がある。それには 1 医療機関当たり 50~75 件以上を評
価すれば十分と考えられる。しかし、抽出される記録の数は、施設の規模や処方者の数に依存
している。
3.7 一般書
医療機関における医薬品使用状況の調査法;厳選された医薬品使用指標。ジュネーブ、
世界保健機関、1993 年(未発表報告 WHO/DAP/93.1;請求先、Department of Essential Drugs and
Medicines Policy, World Health Organization, 1211 Geneva, 27, Switzerland)。
25
第 4 章:医薬品使用の経済的局面(薬剤経済学)
[薬剤経済学;費用のタイプ;費用最小化分析;費用・効果分析;費用・便益分析;費用・効用
分析]
4.1 緒言
薬剤費は医療費全体の大きな部分を占めているため(通常、発展途上国で 10~15%、一部の先
進国で 30~40%)
、それ自体が重要である。しかし、薬剤費は通常、医療制度にかかる総(正
味)費用に照らして読み取る必要がある。医薬品の購入には費用がかかるが、医薬品の使用に
よって他の領域での費用削減が可能である。例えば、ある特定のタイプの医薬品の購入は、以
下の削減につながると考えられる:
- 他の医薬品の使用;
- 入院を要する患者の数または入院期間;
- 必要な受診回数;
- 同じ病態の治療のために別の医薬品を用いた場合に発生する費用と比較した場合の管理費
と検査費。
このように、ある特定の医薬品を用いた場合に医療制度にかかる真の費用を評価するために
は、医薬品を獲得するために要した費用から、その医薬品の使用に起因する費用の減少分と、
それによって得られる健康上の付加的便益分の両方を差し引く必要がある。一方、短期的およ
び特に長期的副作用によって、費用が増加する可能性がある。
医薬品使用のコストパフォーマンスの評価には、正味費用の増加を、達成された健康上の便益
と比較検討することが必要である。この比較は通常、他の治療に優る健康上の利益を得るため
の正味増分費用(費用から相殺された費用を差し引いたもの)である、増分費用対効果比(ICER)
として表される。
概して医療費、特に医薬品に関する懸念は、現在すべての医療制度から表明されている。限
られた財源の中で質の高いケアを提供することが、一般的な目標である。意思決定者は方針を
構築し実行するよりどころとして、臨床経済学的データへの依存度を強めつつある。そのよう
な決断に用いられる概念として費用最小化、費用・効果、費用・便益およびコスト・効用が挙
げられる。
4.2 費用最小化分析
費用最小化分析は、費用が最小となる医薬品または治療法を予測するために薬剤費を算出する
方法である。費用の最小化には、医薬品の調製や投与にかかる費用も反映される。この費用評
価法は、特定の医薬品にかかる費用の評価にもっとも多く利用されている。費用最小化は、投
与量と治療効果が等しいことの示された 2 つの医薬品を比較する場合にのみ利用可能である。
したがって、この方法はジェネリックで治療効果が同等の医薬品または「改良型」医薬品の比
較にもっとも有用である。多くの場合、2 つの医薬品の間に信頼できる同等性は存在せず、治
療効果の同等性が証明されなければ、費用最小化分析は不適切である。
新しい治療法が既存の治療法に比べて安全性が高くないまたは効果が高くない(すなわち利益
の上乗せがない)場合には、通常は既存の治療法と同じ価格であることが妥当である。その 1
例は、同クラスの既存のメンバーと本質的に同じ特性を有する新規 ACE 阻害剤の導入である;
価格は既存の医薬品と同等である。同等の効力を得るために必要な 2 つの医薬品の用量に関
して厳正な試験に基づく情報が必要であるため、分析は考えるほど単純ではないことが多い。
これに代わる方法は、市販されている 2 つの医薬品について PDD を用い、相対的な価格を決
定することである。これは実用的なアプローチであるが、2 つの医薬品が実際に等しい有効量
で用いられているとの前提に立つものであり、また必ずそうであるとは限らない。
4.3 費用・効果分析
費用・効果分析には、薬剤費のより包括的な検討が関与する。コストは金銭価値で評価される
のに対して、効果はそれとは別に判断され、例えば救われた患者数、予防された合併症または
治癒した疾患など、臨床アウトカムの形で評価することができる。
このように費用・効果分析では、医薬品の適応症によって異なる特定の健康アウトカムとし
て表される増分健康を達成するための、増分費用を測定する。このアプローチを用いた ICER
の例は:
26
-血圧の 10 mmHg の低下を達成した患者を 1 例増やすために必要なコスト;
-経口コルチコステロイドの使用が減少した喘息患者を 1 例増やすために必要なコスト;
-発熱性好中球減少症の発生防止を 1 件増やすために必要なコスト;または
-腎臓移植患者において急性拒絶反応の発生防止を 1 件増やすために必要なコスト。
様々な範囲の医薬品グループにわたる相対的なコストパフォーマンス、また上述の例のような
健康アウトカムを判断することは、困難であることが多い。
4.4 費用・効用分析
費用・効用分析は効用、特に生存期間と生活の質の観点からコストを判断するものである。
様々な個人または社会によって認識された健康状態または健康状態の改善に値を付けること
は難しいため、このタイプの分析に対する見解は一致していない。費用・効用分析は費用・便
益分析とは異なり、利益に差があると考えられる 2 つの異なる医薬品または治療法を比較す
るために利用される。
費用・効用分析ではコストパフォーマンスを、1 つの健康アウトカムのタイプで表す。こ
の場合、ICER は質調整生存年(QALY)を 1 増やすために要する増分コストとして示され
る。このアプローチでは、生存期間(QALY)と(生存率の上昇を含めた、および含まな
い)生活の質の両方が、1 つの尺度に組み込まれている。生活の質の向上は、0(死亡)~1
(最良の生活の質)の、効用値で示される。生存期間が 1 年延長(生活の質の変化は伴わな
い)するか、または生活の質が 5 年にわたり効用値で 0.5 から 0.7 に上昇すれば、QALY は 1
増加する。この尺度を用いれば異なるタイプの健康アウトカム間の比較が容易であるが、尚
も様々な健康アウトカムに関連した生活の質の向上(効用)に関する価値判断が必要であ
る。増分費用効用比を用いれば、薬物療法によって健康上の利益を得るために要するコスト
を、他の治療行為(例えば外科手術やマンモグラフィーによるスクリーニング検査)につい
て算出した同様の値に照らして評価することができる。このように、費用・効用分析は特定
の医薬品に対する投資のコストパフォーマンスを判断するための、より明白な根拠を提示す
る。
4.5 費用・便益分析
費用・便益分析は、増分費用とアウトカムの両方を金銭価値で評価するために用いられ、健康
アウトカムを達成するために必要な、正味の費用を直接算出することができる。生存年(生存
率)における利益は、その生存年を用いている社会に対する収益価値、例えば平均賃金と見な
すことができる。生活の質における利益の評価法には、支払い意思額(個々の患者が生活の質
の向上のために払おうとする金額の量を評価)などの手法が含まれる。しかし、金銭価値で健
康アウトカムの価値を評価するために用いられる手法については見解に若干の不一致が残っ
ているため、費用・便益分析は、現時点では薬剤経済学分析に広く利用されていない。
上述のような経済分析は、試験に基づくもの、またはモデル化されたものの場合がある。試
験に基づく分析では、増分利益と臨床試験における資源の使用から ICER を算出するが、この
ことは、実業界におけるほどは、医薬品の使用にとって重要ではないと思われる。モデル化に
よる分析は、利益と資源の利用を国内の臨床状況に当てはめ、時間枠を臨床試験の期間を超え
て延長するために利用されている。この分析法は、治療の利益が将来のある時点まで理解され
ない可能性がある場合には、特に重要である。その 2 つの例は、C 型肝炎患者の肝臓癌または
肝臓移植の回避と、高血圧患者の延命である。臨床試験では短期的な代用アウトカム尺度(そ
れぞれ、ウイルスのクリアランスおよび血圧低下)が使用されているため、それらをモデル化
することによって、患者および方針作成者にとって重要性が高い、長期的なアウトカムに変換
することが必要である。
27
4.6 一般書
医療機関における医薬品使用の調査方法:選り抜きの医薬品使用指標。ジュネーブ、世界保健
機関、1993 年(未発表報告 WHO/DAP/93.1;請求先、Department of Essential Drugs and Medicines
Policy, World Health Organization, 1211 Geneva, 27, Switzerland)
。
Sculman KA ら。薬剤経済学:医薬品の経済的評価。掲載:Strom B 編。薬剤経済学、第 3 版。
チチェスター、 J Wiley, 2000。
28
第 5 章:医薬品分類システム
医薬品分類システムは、国または地域における医薬品の分類法を表すための共通語であり、統
一された方法で収集され、集計されなければならない医薬品使用状況データを、国内または多
国間で比較するために必要不可欠なものである。医薬品使用状況のパターンの監査、医薬品使
用の問題の同定、教学的またはその他の介入の開始、およびそのような介入の結果のモニタリ
ングが可能であるためには、医薬品についての標準化され検証が行われた情報が必須である。
国際的標準を設定する主要な目的は、データを国の間で比較できるようにすることである。最
近の例として、抗生物質の使用状況のパターンを複数の国の間でモニターし、薬物耐性を防ぐ
研究を助長するための包括的な比較システムの構築が、国際的に注目されている。
5.1 様々な分類システム
[ATC 分類;AT 分類;EPhMRA;IMS;WHO 医薬品統計法共同研究センター]
医薬品は、次の項目に従い、様々な方法で分類することができる:
-作用機序;
-適応症;または
-化学構造。
それぞれの分類システムに長所と短所があり、その有用性は目的、用いられる設定およびユー
ザーの方法論に対する知識に依存する。国間の比較には、国内での比較(例えば病院の異なる
病棟間の比較)に用いるものとは異なる分類システムが必要である。長年にわたり様々なシス
テムが提案されてきたが、存続し、医薬品使用状況調査において世界的に揺るぎない地位を獲
得したのは、わずかに 2 つのシステムであった。欧州医薬品市場調査協会(EPhMRA)が開発
した「解剖治療」
(AT)分類法およびノルウェーの研究者が開発した「解剖治療化学」
(ATC)
分類法である。これらのシステムは、当初は同じ主要原則に基づくものであった。EPhMRA シ
ステムでは、医薬品は 3 もしくは 4 段階の異なるレベルでグループ分けされる。ATC 分類シ
ステムは EPhMRA を改変して拡大し、
第 4 レベルとして治療法/薬学/化学サブグループを、
また第 5 レベルとして化学構造を含めたものである(例として、下のボックスにグリベンクラ
ミドの分類を示す)
。
ATC 分類は、スウェーデン、ウプサラの WHO 国際医薬品モニタリング共同研究センター
(www.who-umc.org)が使用している有害事象の分類法の基盤にもなっている。
ATC 分類の主な目的は、医薬品使用状況の統計値を示すツールとすることであり、国家間の比
較に用いることが WHO によって推奨されている。EPhMRA 分類システムは IMS によって、
製薬会社に市場調査の統計値を提供するために全世界で利用されている。EPhMRA 分類シス
テムと ATC 分類法との間には数多くの技術的な違いがあるため、2 つの分類システムを用い
て作成したデータを直接比較することはできない。
1996 年、WHO は ATC/DDD システムを医薬品使用状況調査における欧州基準から国際的標
準へと発展させる必要性を認識した。統計法の調整を担当していたノルウェー、オスロの欧州
WHO 医薬品統計法共同研究センターは、ジュネーブの WHO 本部に連絡をとった。その目的
は、必須医薬品への確実なアクセスを世界中で可能にし、特に発展途上国において医薬品の合
理的使用を助長することであった。
5.2
ATC 分類システム
[化学構造;コード化原則;治療法;製剤;力価]
29
ATC 分類システムでは、医薬品をそれが作用する器官または系、またその化学的、薬学的およ
び治療上の特性に従って異なるグループに分類する。
医薬品は 5 段階の異なるレベルに分類される。医薬品は 14 のメイングループ(第 1 レベ
ル)
、また 2 つの治療法/薬学サブグループ(第 2 および 3 レベル)に分けられる。第 4 レベ
ルは治療法/薬学/化学サブグループ、第 5 レベルは化学構造サブグループである。第 2、3
および 4 レベルは、薬学サブグループが治療法または化学サブグループよりも適切と考えら
れる場合に用いられることが多い。
グリベンクラミドの詳しい分類(下のボックスを参照)に、コードの構造を示す。
A
A10
A10B
A10B B
A10B B01
消化管および代謝(第 1 レベル、メイン解剖グループ)
糖尿病薬(第 2 レベル、メイン治療法グループ)
血糖値降下薬(第 3 レベル、治療法/薬学サブグループ)
スルホンアミド、尿素誘導体(第 4 レベル、化学/治療法/薬学サブ
グループ)
グリベンクラミド(第 5 レベル、化学構造サブグループ)
このように、ATC システムではすべての単味グリベンクラミドにコード A10B B01 が付与され
ている。医薬品は、それぞれの医薬品(すなわち同じ成分、力価および剤型)に対して ATC
コードを 1 つだけ付与されるという基本原則に基づき、その主要有効成分の主要な治療目的
に従って分類される。
医薬品が、明らかに異なる治療用途で複数の力価または処方で市販されている場合には、複
数の ATC コードが付与されることがある。その 2 つの例を、下に示す:
・ある剤型または力価の性ホルモンは癌の治療のみに用いられおり、L02-内分泌療法という
コードで分類されている。別の剤型および力価は、G03-性ホルモンおよび生殖器系モジュレー
ターに分類されている。
・ブロモクリプチンは様々な力価で市販されている。低用量錠はプロラクチン阻害剤として用
いられ、G02-その他の婦人科用薬に分類されている。高用量のブロモクリプチン錠はパーキン
ソン病の治療に用いられ、N04-抗パーキンソン薬に分類されている。
様々な適応症を有する様々な製剤にも、別々に ATC コードが付与されている。例えば、プレ
ドニゾロンは様々な製剤、様々な用途を有するため、複数の ATC コードが付与されている(下
のボックスを参照)
。
A07E A01
C05A A04
D07A A03
H02A B06
R01A D02
S01B A04
S02B A03
腸内抗炎症薬(浣腸剤および注腸フォーム剤)
痔核と裂肛の局所用治療薬(坐薬)
皮膚科用製剤(クリーム、軟膏、ローション)
全身用副腎皮質ステロイド(錠剤、注射剤)
局所用鼻閉除去剤(鼻腔用スプレー、点鼻剤)
眼科用薬(点眼剤)
耳鼻科用薬(点耳剤)
ATC システムは、厳密には治療薬の分類システムではない。すべての ATC レベルで、ATC コー
ドを医薬品の薬理学的特性に従って付与することができる。作用機序に基づく細分化は、この
種の分類を細かく行うと、1 つのサブグループに 1 つの医薬品しかなくなり、それは回避する
べきであるため(例えば抗うつ薬)
、当然ながら幅が広い。ATC グループでは、化学グループ
および薬学グループの両方に細分されている(例えば、ATC グループ J05A-直接作用型抗ウイ
ルス薬)
。新しい医薬品が第 4 レベルの化学および薬学グループの両方に当てはまる場合は、
薬学グループを選ぶのが普通である。
30
同じ ATC 第 4 レベルに分類された医薬品は、作用機序、治療効果、薬物相互作用および副
作用が異なる可能性があるため、薬物療法上同等とは考えられない。
市販された医薬品およびその使用法は変化と拡大を続けるため、ATC システムの定期的な
再検討が必要である。重要な原則は、代替品の数を最小限に維持することである。代替薬を設
定する前に、ATC システムのユーザーが被りうる苦労を考慮し、また代替薬がもたらすと思わ
れる利益と結びつけて評価しなければならない。ATC 分類の変更は、医薬品の主な用途が明ら
かに変わった場合、また新規医薬品の承認またはグループ分けの特異性改善のために新しいグ
ループが必要な場合に実施される。
ATC システムは医薬品を 5 つのレベルでグループ分けするため(上述)、医薬品の使用状況
に関する統計値は、5 つの異なるレベルに分けて提示することができる。得られる情報は、例
えばメイングループ C-循環器系(第 1 レベル)に分類されたすべての医薬品の総使用量を示
す数値から、様々なサブグループ(すなわち第 2、3 および 4 レベル)
、それぞれの医薬品の使
用を示す数値に及んでいる。
より低い(すなわち第 4 および 5)レベルでは、さらに詳しい情報を得ることができる。医薬
品グループ間の比較が調査の目的であれば、高いレベルを利用する(図 5 を参照)。それによっ
て、様々な治療分野に関連した医薬品使用の概要とトレンドを、容易に明らかにすることがで
きる。
5.3 国際的分類システムに対する両面性
すべての国際基準には妥協が求められるが、医薬品分類システムもその例外ではない。医薬品
は等しく重要な、複数の適応症に用いられることがあり、1 つの医薬品の主要な治療用途は国
ごとに異なる可能性がある。その結果として分類に複数の選択肢が生じることがあるため、主
要な用途を決定しなければならない。ATC 分類に示されたものとは異なる方法で医薬品を使
用している国は、ATC 分類の導入を望まず、その国の分類システムの開発を好むかも知れな
い。
ACE 阻害剤+アンジオテンシン
II アンタゴニスト(C09)
血清脂質降下剤(C10)
DDD/
入院 1000 日
カルシウムチャンネル遮断薬
(C08)
利尿薬(C03)
β-遮断薬(C07)
図 5. ノルウェーにおいて心血管疾患に用いられた医薬品の総売上高、1990~2001 年。2002
年版の ATC/DDD
31
しかし、国の伝統が持つ価値を、医薬品の使用状況の他国との有用な比較が可能な分類法
を導入する機会と秤にかけて考えなければならない。実際、ATC/DDD 分類法の積極的な適
用が、医薬品使用状況の全国調査を助長する上で、また効率的な医薬品管理システムを開発
する上で有益であることを示す、多くの事例が存在する。
5.4 ATC/DDD システムの実行
[全国医薬品リスト;動的システム;様々なバージョン]
ATC/DDD システムの導入が決まれば、その適切な使用には重要かつ時間を要する第 1 段階
があることを、速やかに認識することが大切である。各医薬品を適切な ATC コードと DDD に
結びつけなければならない(第 6 章を参照)
。全国医薬品リストと ATC/DDD との間の関連性
は、このシステムについて十分な知識を有する人物によって確認されなければならない。多く
の国では、保健医療当局、医療政策立案者および研究者がこの重要な最初の段階で十分な資源
を配置していないことが、経験上明らかとなっている。もうひとつの問題は、一部のユーザー
は ATC/DDD システムが動的なものであり、変化を続けていることに気づいていないと思わ
れることである。その結果として、同じ国の中でさえ、複数の異なるバージョンの ATC/DDD
システムが同時に利用されている。
医薬品の ATC/DDD 分類法を適用するためには、資源と、医薬品に ATC コードを付与する
作業の実施に求められる能力が必要であることを認識することが大切である。可能であれば、
システムが国内で一貫した使われ方をするように、この作業は全国規模で行うべきである。序
論の中で説明したように、同じ医薬品が剤型、場合によっては力価によって、複数の異なる
ATC コードを有する可能性がある。配合剤については、ATC コードの付与について特別なガ
イドラインが確立されている。医薬品への DDD の付与には、ATC コードの付与時と同じ考慮
事項の多くが伴う。しかし、医薬品リストを売上高または処方数に結びつけて医薬品の使用状
況の統計値を得るためには、
医薬品 1 包装当たりの DDD 数などの、正確な計算が必要である。
最後に、ある国には ATC コードまたは DDD がない医薬品または配合剤が常に存在する。こ
のような場合は、オスロの WHO 医薬品統計法共同研究センターに相談し、新しい ATC コー
ドおよび DDD を請求することが大切である。ATC コードおよび DDD と全国医薬品リストが
ひとたび繋がれば、ATC/DDD システムの年次更新に従って、医薬品リストを定期的に更新
する必要がある。
刊行物、ATC 分類および DDD 割付けのためのガイドライン(一般書を参照)には、全国また
は地域レベルでの ATC コードおよび DDD の付与に必要な情報が記載されている。公式に付
与されたすべての ATC コードと DDD が、電子フォーマットとしても入手でき、毎年更新され
る、DDD 併載の ATC インデックス(一般書を参照)に掲載されている。ATC/DDD システム
の練習コースがノルウェーでは年 1 回、他の国では時々実施されている。詳しい情報は WHO
医薬品統計法共同研究センターのウェブサイト(http://www.whocc.no)で入手可能である。
5.5 一般書
ATC 分類および DDD 割付けのためのガイドライン。ノルウェー、オスロ、WHO 医薬品統計
法共同研究センター。2003 年。
DDD 併載の ATC インデックス。ノルウェー、オスロ、WHO 医薬品統計法共同研究センター。
2003 年。
32
Capellá D. 説明ツールと分析。掲載:Dukes MNG 編。医薬品使用状況調査、方法と用途。
コペンハーゲン、WHO 欧州事務局、1993 年(WHO Regional Publications, European Series, No.
45)
、55-78。
Rønning M ら。様々なバージョンの解剖治療化学分類システムおよび規定された 1 日量-医薬
品使用状況のデータは比較可能か?European Journal of Clinical Pharmacology, 2000, 56:723-727.
Rágo L.
エストニアの規制当局。Regulatory Affairs Journal. 1996, 7:567-573.
33
第 6 章:医薬品使用状況の尺度およびその適用
6.1 規定 1 日用量(DDD)の概念
[定義;DDD/住民 1000 人/日;DDD/100 入院日数;DDD/住民/年]
規定 1 日用量(DDD)の開発の歴史と初期の適用については、序論の中で説明した。
DDD とは、医薬品の主要な適応症に対する成人の仮想平均維持日量である。
DDD は測定単位であり、推奨 1 日量または処方 1 日用量(PDD)に相当するとは限らないこ
とに注意が必要である。個々の患者および患者群に対する用量は、それぞれの特性(年齢、体
重など)や薬物動態への配慮に基づくものであるため、DDD とは異なることも多い。
DDD は、様々な国で用いられている用量に関する情報の審査に基づいた、妥協の産物であ
ることが多い。DDD は一般に用いられている複数の用量の平均値であるため、ほとんど処方
されることのないものである可能性がある。
医薬品の使用状況の数値は、理想的には DDD/住民 1000 人 /日の値、または入院患者につい
て考える場合は、DDD/100 入院日数として表すのが理想的である。抗感染薬(または、通常は
短期間使用されるその他の医薬品)については、数値を DDD/住民/年で示すのが適切と見なさ
れることが多い。
これらの用語を下で説明する。
DDD 住民/1000 人/日
DDD/住民 1000 人/日で表された売上高または処方のデータから、被験集団の中で特定の医薬
品または医薬品のグループを毎日投与されている被験者の割合をおおまかに推定することが
できる。例えば、10 DDD/住民 1000 人/日は、被験者の平均 1%が特定の医薬品または医薬品の
グループを毎日使用していることを表している。この推定値は、1 日処方用量(後述)と DDD
が良く一致する、使用期間の長い医薬品に対してもっとも有用である。母数として用いる集団
のサイズに考慮することも必要である。通常はすべての年齢群を含めた集団全体についての一
般的な使用状況を算出するが、一部の医薬品グループは、年齢 45 歳未満の患者にはほとんど
用いられない。年齢構成の違いに起因する国間の使用の差を補正するためには、該当する年齢
群の人数を分母とすることによって、簡単な年齢調整を行うことができる。
DDD/100 入院日数
DDD/100 入院日数は、入院患者による医薬品の使用を考える際に適用することができる。入
院日数の定義は病院間または国家間で異なる可能性があり、入院日数はベッドの利用率につい
て補正が必要である。比較研究を行う場合は、同じ定義を用いなければならない。例えば、催
眠薬が 70 DDD/100 入院日数であれば、それは治療の強さを予測するものであり、入院患者の
70%が DDD の睡眠薬を毎日使用することを示唆している。この単位は病院における指標の設
定にきわめて有用である。
DDD/住民/年
各住民が 1 年間に受ける投与の平均日数を推定することができる。
例えば、
DDD/住民/年から、
5 DDD/住民/年という推定値は、使用量が、1 年の間に各住民に対して 5 日間投与を行った場
合に等しいことを示している。これに代わり、標準的な投与期間が分かっていれば、DDD の
総数は治療コースの数として算出可能であり、次いで治療コースの数を総人口に関連付けるこ
とができる。
34
6.2 処方 1 日用量および消費 1 日用量
処方 1 日用量(PDD)は、代表的な処方せんの例に従って処方された平均用量として定義され
る。PDD は処方せん、カルテまたは調剤記録を検討することによって明らかにできる。PDD
をその用量の根拠となった診断と関連づけることが重要である。PDD から、実際に処方され
た医薬品の平均 1 日用量が判明する。PDD と規定された 1 日用量(DDD)との間に大きな不
一致がある場合は、医薬品使用状況を示す数値、特に有病率に関連した数値を評価し解釈する
際に、この点を考慮することが重要である。
推奨用量が適応症によって異なる医薬品(例えば抗精神病薬)については、診断を PDD と
結びつけて考えることが重要である。薬剤疫学的情報(例えば性別、年齢、単独療法かまたは
併用療法か)もまた、PDD の解釈には重要である。
PDD は、治療する疾患およびその国の治療慣習のいずれによっても変わる可能性がある。
PDD は国家間でも大きく異なる。例えば、東洋人の PDD は、白人集団よりも低値であること
が多い。国家間の比較を行う際には、PDD が国ごとに異なるという事実を常に考慮しなけれ
ばならない。
PDD が医薬品の実際の使用状況を反映したものとは限らないことに、注意しなければなら
ない。処方された医薬品に調剤されないものがあり、また患者が調剤された医薬品をすべて服
用するとは限らない。患者レベルで実際の服薬量(すなわち消費 1 日用量)を評価するために
は、患者へのインタビューを組み込んだ特別なデザインの試験が必要である。
6.3 量を表すためのその他の単位
一般的な物理単位(例えばグラム、キログラムおよびリットル)、包装または錠剤の数もしく
は処方件数も、医薬品の使用状況の定量に用いられるが、然るべき短所がある(後述)。これ
らの単位は、単独の医薬品または特定の医薬品を用いる場合にのみ適用可能である。しかし、
医薬品グループ全体の使用状況を考える場合には、問題が生じる。
有効成分のグラム数
使用量が有効成分のグラム数で示される場合、低力価の医薬品が全体に占める割合は高力価の
医薬品よりも大きくなる。また、配合剤には単味医薬品とは異なる量の有効成分が含まれてい
る可能性があるが、数値のこの差は反映されない。
錠剤の数
錠剤の数を数えても、錠剤の力価の違いは反映されないため、低力価の製剤の数が全体に占め
る割合は、高力価の製剤よりも大きくなる。また、短時間作用型の製剤の錠数は、長時間作用
型の製剤よりも多くなることが多い。
処方の件数
処方の件数は、処方 1 件当たりの医薬品の合計量も考慮しない限りは、全体の使用量を正確に
は反映しない。しかし、処方の件数は処方頻度の測定また医薬品の臨床での使用状況の評価に
は有用である(例えば診断、使用された用量)。
上述の量を表す単位は、国内での比較には有用であるが、1969 年、オスロで開催された WHO
シンポジウムで指摘されたように、いずれも国家間の比較には適用できないことに注意しなけ
ればならない。
6.4 コスト
医薬品の使用量は、コスト(例えば国内通貨)の形で表すことができる。価格は、医薬品にか
かる費用を総合的に分析するために適している。コストのパラメータに基づく国家間の比較は
誤解を招く可能性があり、医薬品の使用状況の評価に対する価値は限定的である。代替え製剤
との間の価格の差、また価格水準が国によって様々であることが、評価を難しくしている。通
35
貨価値の変動や価格の変更のために長期的研究の実施も難しい。コストのデータを用いる際、
より安価な医薬品の使用量の増加は、薬剤にかかる費用全体のレベルにはほとんど影響を及ぼ
さないのに対し、より高価な医薬品へのシフトは容易に検知される。
コストを用いて評価した医薬品使用のトレンドは、DDD を尺度とした同じ医薬品の使用状況
とは大きく異なって見える可能性がある。例として、コスト(ユーロ)で表した 1987~1999
年のノルウェーにおける医薬品の総使用量を図 6 および 7 に示す。
6.5 一般書
医薬品の比較。オスロにおけるシンポジウムの報告。1969 年、コペンハーゲン。WHO 欧州事
務局、1970 年(EURO 3102)
。
医薬品使用状況の調査:手順および適用。 コペンハーゲン、WHO 欧州事務局、1979 年
(Regional Publications, Euroean Series, No. 8)
。
Bergman U ら。規定 1 日用量/入院日数を用いた病院の医薬品使用状況の監査。方法論的研
究。European Journal of Clinical Pharmacology, 1980, 17:183-187.
薬局の
売上高
(100 万
ユーロ)
図 6 100 万ユーロで示したノルウェーにおける 1987~1999 年の医薬品の総売上高
DDD
(100 万)
図 7 100 万 DDD で示したノルウェーにおける 1987~1999 年の医薬品の総売上高
36
Baksaas I. 医薬品使用のパターン-国内のおよび国際的な局面:抗高血圧薬。Acta Medica
Scandinavica, 1984, suppl.683:59-66.
Lee D, Bergman U. 医薬品使用状況の調査。掲載:Strom B 編。薬剤疫学第 3 版。チチェスター、
J Wiley, 2000:463-481.
37
略語表
ACE 阻害剤:アンジオテンシン変換酵素阻害剤
AT:解剖治療(分類)
ATC:解剖治療化学(分類)
CEA:費用・効果分析
CMA:費用最小化分析 ICER:増分費用対効果比
CUA:費用・効用分析 DURG:WHO 欧州医薬品使用状況調査グループ
DDD:規定 1 日用量
DU90%:医薬品使用率 90%
EPhMRA:欧州医薬品市場調査協会
IMS:IMS 統計
MAO:モノアミンオキシダーゼ
NSAID:非ステロイド性抗炎症薬
QUALY:質調整生存年
SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬
TCA:三環系抗うつ薬
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