提言 事業創造のリアリティ 想いから創造へ 日本企業に求められる改革の方向性として、企業白書*1 では、「グローバル化による成長の機会 を掴み、地域や社会のサスティナビリティにも貢献する」ことを挙げています。国内・海外市場に 関わらず世界の企業との競争にさらされるなかで、「独自性の高い製品サービスの創出」を追求す ることは、持続可能な経営の必要条件であり、いかに新たな価値を見出し、新たな事業として実現 していくかが問われています。 今号では、新たな事業の創造に挑戦し、その困難を乗り越えて成長を続ける組織には、どのよう な特性があるのか。また、どのような人材がそれを可能にしているのかについて、個と組織の観点 から考えることを試みました。 実践コーナーの富士フイルムの事例では、「やれそう」「やるべき」「やりたい」の3条件がそ ろい三位一体でまわっていったことが組織としてのパラダイムシフトを可能にしたと語られていま す。「やれそう」は優れた技術力、シーズがあること、「やるべき」は市場で勝てること、「やり たい」は粘り強くやりぬくための、正義感や使命感からやってくる強い情熱で、これが最も重要 だったと振り返られています。冷静で客観的な戦略やロジックももちろん必要ですが、「こういう ものがあったら面白いな、誰かのためになるな」という素直な想い、それを実現したいという挑戦 を楽しむ心がなかったら何も生まれない。想いをリアリティのある事業にしようと、ひたすらに取 り組むことが創造の原点ではないでしょうか。「想なくして創なし」*2 と言われるように、組織と して、未来を良くするためにどのような価値を提供できるのか、樹木の枝葉が見えている価値だと すると、幹や根、土壌にあたる、組織を支えている大切な価値観を豊かにし、熱い想いが生まれる ようにすることを考えなくてはなりません。 新規事業に関わらず、ビジネスは新たな課題発見、解決の繰り返しで、一人ひとりが創造的に考 え行動することが必要です。複雑な事象の本質に迫るには、日頃から問題意識を持って考え続ける ことや、新たな兆しに敏感であることも重要でしょう。また、探求コーナーで紹介している「創造 する組織人」となるために、自らの職域に拘らず周囲の人と協力、連携して課題解決に向けて行動 し続けることは、一人の力ではできない何かを成し遂げたいという想いにつながるのではないで しょうか。そして、既成概念を打ち破るような創造的な活動の芽を育み、支援し推進するマネジメ ントの意識変革が求められています。 編集長 西山 裕子 *1 経済同友会「第17回企業白書」2013 *2 岩倉信弥「創造する喜び―本田宗一郎流社員満足マネジメント―」講演録、2006 3
© Copyright 2024 ExpyDoc