平成26年 - JA全農

グリーンレポートNo.548(2015年2月号)
こちら営農・技術センター
残留農薬検査室
より実効性のある残留農薬検査をめざして
∼「JAグループ残留農薬分析研究会」
を開催∼
「日本生活協同組合連合会での残留農薬検査について」
、
残留農薬の自主検査の意義
意見交換「より実効性のある自主検査について」などを
農薬は農産物に被害をあたえる病気、害虫、雑草を防
テーマに、全農 営農・技術センターで平成26年10月 2
除する目的で用いられ、これまで農産物の安定生産に大
∼ 3 日に開催した(写真− 1 、 2 )
。
きく貢献してきた。しかし、輸入品を含む食品の残留農
残留農薬検査における外部技能試験とは、所定量の農
薬基準違反や冷凍食品への農薬の混入などの事件が発生
薬を添加した検査試料を検査機関に送付し、この検査結
し、消費者の多くは農薬の安全性や危険性といった「食
果を科学的な基準を用いて総合的に評価することをいう。
の安全・安心」に高い関心を持っている。
これにより、検査機関は自機関の技能レベルを客観的に
消費者が食品を「安全で安心」と感じるためのアプロ
確認できる。JAグループでは、平成23年から外部技能
ーチはさまざまだが、科学的視点に立った「検証」とそ
試験を継続して実施し、本研究会で講評を行っている。
「過去の結果と比べて参加機関のレ
の「結果」を正確に、かつ、わかりやすく消費者に伝え、 今回の結果について、
消費者が正しく理解・納得し、
「安全性を信頼する」こ
ベルのばらつきが小さくなり、検査精度の向上がうかが
とで「安心」できるといった考え方もできる。
える」
(図− 1 )と一般財団法人日本食品分析センター
私たちが行っている「残留農薬の自主検査」は、まさ
の岩田氏から講評をいただき、参加機関の技能水準が
に科学的視点に立った「検証」である。た
だ、やみくもに検査をすればよいのではな
く、検査方法、その検査方法自体の妥当性
の確認、検査点数、検査品目などを効率的
に組み上げて検査すべきと考える。今回、
このような観点に立って、
『実効性のある
自主検査』とは何かをテーマとして「JA
表−1 これまでの「JAグループ残留農薬分析研究会」のテーマ
年度
平成14年
講演「全農 農薬研究室における残留農薬分析のとりくみ」
総合討論「分析実施上の問題点・課題」
ほか
平成15年
講演「食品中の残留農薬規制に関する法律の最新動向」
講演「残留農薬分析における精度管理」
ほか
平成16年
講演「コープネット商品検査センターにおける残留農薬検査のとりくみ」
分科会「機器測定における問題について」
ほか
平成17年
講演「ポジティブリスト制への対応と多成分一斉分析」
分科会「残留農薬分析上の諸問題について」
ほか
平成18年
講演「残留農薬分析の現状と課題」
分科会「ポジティブリスト制にかかわる各県の取り組みの実態報告」
ほか
平成19年
基調講演「ルーチン分析における精度管理について」
各分析機関の検討課題発表・意見交換 ほか
平成20年
講演「青果物の品質管理について」
各分析機関からの課題発表・意見交換 ほか
平成21年
基調講演「残留農薬検査の実施と精度管理について」
各分析機関からの課題発表・意見交換 ほか
平成22年
講演「民間分析機関の運営管理−信頼性向上の取り組みと課題」
講演「分析の信頼性確保について−全農残留農薬検査室の取り組み−」
ほか
平成23年
講演「外部技能試験の概要と講評」
各分析機関からの課題発表・意見交換 ほか
グループ残留農薬分析研究会」で意見交換
を行った。
有識者の講演や
参加機関との意見交換
JAグループは、全国に数十ヵ所の残留
農薬検査機関を持ち、全農では、この検査
機関の技術者を対象とした研究会「JAグ
ループ残留農薬分析研究会」を平成13年
から毎年開催している(表− 1 )
。この研
究会では、ポジティブリスト制度が施行さ
れた平成18年度には参加機関から本制度に
かかわる実態について意見交換を行うなど、
その時々に応じたテーマを設定し、有識者
の講演や参加機関との意見交換を行ってき
ている。平成26年度は、概要と講評「ばれ
いしょを用いた外部技能試験」
、基調講演
テーマ
講演「農産物・食品検査室におけるISO/IEC17025の取り組み」
平成13年
総合討論「分析実施上の問題点・課題」
ほか
概要と講評「大豆とトマトを用いた外部技能試験」
平成24年 講演「青果物流通における自主回収等の対応の実際と課題」
検討課題「自主検査の目的と方向性について」
ほか
概要と講評「メロンを用いた外部技能試験」
平成25年 講演「測定機器導入時に関わる留意点」
講演「分析技術者育成の留意点」
ほか
概要と講評「ばれいしょを用いた外部技能試験」
平成26年 基調講演「日本生活協同組合連合会での残留農薬検査について」
意見交換「より実効性のある自主検査について」
ほか
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グリーンレポートNo.548(2015年2月号)
写真−1 講演に耳を傾ける参加者
写真−2 実効性のある自主検査について熱心に意見を交わす
0.14
ですか?」という設問に対しては「検査能力を考えると
付与値
0.12
すべての農産物、農薬を検査することは困難」
「一部の抜
作成濃度
き取り検査では、これ自体に問題のある農産物の流通を
μg 0.08
完全になくすことは期待できない」
「どれだけ多くの農薬
0.06
や農産物を検査しても、食品の安全を担保することはで
︵
0.1
/g ︶
きない」との回答があり、参加機関が「消費者に安全・
0.04
安心な農産物を提供できていることを示せる検査」に対
0.02
0
し、どのように検査計画を策定すればよいのか苦慮して
2011
2012
年度
2013
2014
いることがうかがえた。
一方で同じ設問に対して「検査する農産物の選択が明
図−1 2011年度から2014年度までの同一農薬の
外部技能試験の結果
確になっており、消費者を納得させられるものであるこ
付与値は参加機関の平均値、作成濃度は理論濃度を示す。これらの値が近い
ほど参加機関全体として正確な測定ができたことになる。また、付与値の上
下に記載されたT字の範囲は参加機関間の結果のバラつきを示し、これが
年々小さくなっていることが確認できる。
と」
「問題があれば原因を追究し、その後の営農指導につ
なげていく」
「前提として生産者に適正防除の知識と遵守、
防除日誌の記帳が徹底していること」
「JAグループが行
年々向上していることを確認できた。
う『自主検査』は農家の農薬適正使用の指導などに役立
基調講演では、日本生活協同組合連合会商品検査セン
てることが重要」という回答もあった。自主検査を営農
ターの中川氏から、同連合会における検査計画、検査の
指導に結びつけることを重視しているのは、JAグルー
迅速化・効率化などの実例を紹介いただき、JAグルー
プ検査機関の取り組みの特徴といえる。また、検査計画
プにおける自主検査にも大変参考となる内容であった。
で重視していることとして「生産者の営農指導に結びつ
参加機関との意見交換では、円滑な討論を進めるため
けられる検査計画」との回答も多数を占めており、JA
に事前アンケートをとり、当日はその結果をもとに意見
グループ特有の目的や意識を再確認できるアンケート結
交換を行った。
果となった。
自主検査の方法や取り組みは検査機関で異なるものの、
自主検査を営農指導に結びつける
「管内の農産物の安全検査」であることは共通の認識であ
「
『実効性のある自主検査』とはどのような検査だと思
り、参加機関によっては「営農指導」に結びつけ、JA
いますか?」という設問に対しては「より早く検査でき
グループの特徴を活かした取り組みを重視していること
る」との回答が最も多く、次いで「より多くの農薬を検
が確認できた。講師の中川氏からは「点ではなく線、線
査できる」
「より多くの農産物を検査できる」との回答が
より面での検査が重要」とのアドバイスも受けた。
続いた。また、
「検査計画を立てるときに一番重視してい
JAグループとして自主検査をどのように捉え、自主
ることは何ですか?」という設問に対しては「基準値超
検査の結果を「正確に、かつ、わかりやすく伝える」た
過など違反件数を減らす、もしくは違反を事前確認する
め、どのように検査計画を構築していくかについて、今
ことができるような検査計画」との回答が最も多かった。
後も引き続き関係機関からの協力を得て検討を進める。
しかし、
「理想とする『実効性のある自主検査』とは何
【全農 営農・技術センター 残留農薬検査室】
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