巻頭言 建築用断熱材としての真空断熱材( VIP) 鹿児島大学 名誉教授 赤坂 裕 世界経済のグローバル化・ボーダレス化の進行により,国際標準化のニーズが増している。日本が加盟 している WTO/TBT( World Trade Organization/Technical Barriers to Trade)の規定により,JIS 改定の 際には国際規格である ISO,IEC 等の整合性を取らなければならず,新たな JIS 制定の際には関連する国際 規格に準拠しなければならない。 国際規格重視の流れは,このように JIS の改定や制定の手続きを複雑にしている。しかし,国際規格にお いてイニシアティブをとることは,国際取引における優位性につながるため,JIS を国際規格化するための 提案や,日本が蓄積してきた技術を国際規格に組み込むための行動が重要である。 真空断熱材( Vacuum Insulation Panel,VIP)は,従来,冷蔵庫等の製品に用いられてきたが,薄く断熱性 能が高いことから,今後建築用断熱材としてもその需要が高まると予想される。建築用 VIP の国際標準化 は ISO/TC163/SC3/WG11 が担当しているが,欧州規格でも CEN/TC88 が扱っている。 VIP においては特に断熱性能の長期的劣化の試験法やその予測法の標準化が重要な課題であり,これら に関する規格策定を建材試験センターは検討しているところである。 ところで,最初に VIP の国際標準化を提案したのは韓国である。2010 年 6 月に TC163 の全体会議がソウ ルで開催されたときに,開催国として提案したことが現在の国際標準化の流れにつながった。しかし,韓国 は建築用 VIP に関する技術力も,規格化への国内支援体制も弱く,欧州勢に攻められながら実質的に WG11 が動き始めたのは 2014 年以降である。それでも韓国は WG11 のコンビナー(議長国)であり,VIP 標準化に貢献した国として歴史に刻まれる。国際規格策定において口火を切ることの重要性を示す一例で ある。 建材試験情報 2016 年 7月号 1
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