プレスリリース本文

国立大学法人熊本大学
平成28年7月12日
報道機関
各位
熊本大学
新しい「壺型」ナノ炭素物質を開発
(A IE 社 が 注目 すべ き 論 文と して 紹 介 )
(概要説明)
・ 熊 本 大 学 大 学 院 先 端 科 学 研 究 部 の 横 井 裕 之 准 教 授 ら の 研 究 グ ル ー プ が 、壺
の 形 状 を も つ 新 規 の ナ ノ 炭 素 物 質( ※ 1 )「 カ ー ボ ン ナ ノ ポ ッ ト 」を 開 発 し
ま し た 。こ の 物 質 に は 、従 来 の ナ ノ 炭 素 物 質 よ り 数 倍 奥 深 い 中 空 の 微 小 な 穴
が 開 い て い て 、中 に 入 り 込 ん だ 物 質 を 徐 々 に 放 出 す る よ う な 特 性 が 格 段 に 優
れ て い る と 考 え ら れ る た め 、ド ラ ッ グ デ リ バ リ ー シ ス テ ム と い っ た 薬 剤 効 果
調 節 へ の 応 用 が 期 待 さ れ ま す 。ま た 、部 分 的 に 親 水 性 を も つ こ と が 示 唆 さ れ
て い て 、新 し い ナ ノ 材 料 プ ロ セ ス の 開 発 に つ な が る 可 能 性 が あ り ま す 。本 研
究 成 果 は 、 本 年 1 月 に 米 国 材 料 学 会 ジ ャ ー ナ ル 誌 に Invited Feature Paper
と し て 掲 載 さ れ 、 6 月 9 日 に は カ ナ ダ の 研 究 成 果 リ サ ー チ 会 社 Advances in
Engineering( AIE) か ら Key Scientific Articleに 選 ば れ て AIE社 の Webサ イ
トに掲載されました。
(説明)
炭素は軽くて結合力が強く、どこにでも豊富に存在して、環境にも優しい
元素です。そのため、炭素系材料の活躍の場は今後の環境調和型社会におい
てますます広がっていくと期待されます。近年ナノ炭素物質の開発が精力的
に進められて、フラーレン(※2)やカーボンナノチューブ(※3)、グラ
フェン(※4)などに代表されるように、構造がバラエティーに富んでいる
だ け で な く 、特 性 も 既 存 物 質 を 凌 駕 す る ナ ノ 構 造 物 質 が 見 出 さ れ て き ま し た 。
容器型のナノ炭素物質としてはナノベルという物質が開発されましたが、
穴のアスペクト比(奥行き/直径)はせいぜい3程度の深さに留まっていま
した。今回、横井准教授らは、液面下化学気相析出法(※5、図1)という
独自開発の合成法を用いて、アスペクト比が10程度の奥深い穴を持つ容器
型ナノ炭素物質の開発に成功しました。このアスペクト比を高めたことによ
り 、ド ラ ッ グ デ リ バ リ の 担 体( 薬 剤 な ど を 吸 着 さ せ て 体 内 に 運 ぶ た め の 土 台 )
などへの実用性向上が期待されます。また、開発された物質は、単に奥深い
穴を持つだけでなく、「壺」の底部、胴部、首部に相当する部分でグラフェ
ンの積層構造が異なっている複雑な形態をしていて、胴部の外表面にはグラ
フェンの端が密集していることが分かりました(図2)。これらの特徴は既
存物質に見られないものであるため、横井准教授らはこの物質をカーボンナ
ノポットと命名しました。
カ ー ボ ン ナ ノ ポ ッ ト の 典 型 的 な 寸 法 は 、外 径 が 20~ 40 nm、内 径 が 5~ 30 nm、
長 さ が 100~ 200 nmで あ り 、生 成 時 の カ ー ボ ン ナ ノ ポ ッ ト は フ ァ イ バ ー( 繊 維 )
状 に 連 結 し て い て ( 図 3 ) 、 フ ァ イ バ ー の 長 さ は 20~ 100 mに 達 し ま す 。 そ
のため、カーボンナノポットはカーボンナノファイバーとしても利用可能で
す。また、連結部では片方のナノポットの底部がもう一方のナノポットの開
口部にはまっているだけであってグラフェン層はつながっていないので、ナ
ノポット単体に分離することも可能です。
さらに、表面分析を詳しく行ったところ、カーボンナノポットの胴部外表
面に密集しているグラフェン端にはヒドロキシル基(※6)が結合している
ことを示唆する結果が得られました(図3の構造模式図)。グラフェン層の
表面は疎水的ですが、ヒドロキシル基が胴部外表面に密集していれば、その
部分は親水的になります。そのため、カーボンナノポットは疎水性と親水性
の二つの特質(両親媒性)をもつユニークなナノ物質である可能性がありま
す。現在その確証を得るためにさらに高度な表面分析に取り組んでいるとこ
ろです。
Advances in Engineering(AIE)社 は 、 科 学 的 に 特 に 優 れ た 信 頼 で き る 論 文
に脚光を当てて幅広い科学技術分野の読者にタイムリーに研究成果を紹介し
て い る 、2005年 に カ ナ ダ で 設 立 さ れ た リ サ ー チ 会 社 で す 。AIEに よ れ ば 、同 社
の Webサ イ ト ( https://advanceseng.com/) は 技 術 者 や 大 学 教 員 、 研 究 者 に 毎
月 ほ ぼ 45万 回 閲 覧 さ れ 、 主 要 な 研 究 機 関 ば か り で な く 上 位 50の 技 術 系 会 社 に
リ ン ク さ れ て い ま す 。今 回 、横 井 准 教 授 ら の 論 文 が AIE社 か ら Key Sciencific
Articleと 認 定 さ れ た こ と は 、 新 規 に 開 発 さ れ た カ ー ボ ン ナ ノ ポ ッ ト が 実 用
的・応用的に大いに期待される物質であることを示しています。
【用語解説】
※ 1 ナ ノ 炭 素 物 質 : 炭 素 原 子 の み で 構 成 さ れ る ナ ノ メ ー ト ル サ イ ズ ( 1 nm
は 10億 分 の 1 m ) の 物 質 。
※2フラーレン:炭素原子が五角形または六角形の網目状に結合して閉じ
た 殻 の 形 に な っ て い る 中 空 の 物 質 の 総 称 。 炭 素 原 子 60個 で 構 成 さ れ る フ
ラ ー レ ン C60は サ ッ カ ー ボ ー ル 状 の 形 を し て い る 。
※3カーボンナノチューブ:炭素原子が六角形の網目状に結合して筒状に
なった物質の総称。六角形の網目を筒状に丸める向きや直径の違いなど
により、半導体になるものや金属になるものがある。電子デバイス材料
としても構造材料としても期待されている。
※4グラフェン:炭素原子が六角形の網目を組んで平面的に結合したシー
ト 状 物 質 。 黒 鉛 (グ ラ フ ァ イ ト )は グ ラ フ ェ ン が 多 数 積 み 重 な っ て で き て
いる。電気伝導性、熱伝導性、機械的強度ともに既存物質の中でトップ
クラスである。
※5液面下化学気相析出法:化学気相析出法は、反応容器内で加熱した基
板上に原料ガスを供給して、基板表面あるいは気相での化学反応により
基 板 上 に 生 成 物 を 得 る 方 法 。 液 面 下 化 学 気 相 析 出 法 は 2009年 に 横 井 准 教
授が開発した新しい化学気相析出法。ナノ炭素物質の原料となる有機液
体中に、底面を開放した反応容器(図1)を沈めることにより、反応容
器内を気相に保ちつつ、有機液体の気化により原料ガスを反応容器の底
面から基板上に供給できるようにした。反応容器全体が有機液体により
冷却されて反応容器内に高い温度勾配が生じるため、新規構造をもつ物
質の生成に有利となる。
※ 6 ヒ ド ロ キ シ ル 基 : 水 酸 基 。 化 学 構 造 に お け る OHの 基 で 、 こ の 基 を 持 つ
物質は水素結合により親水性を示す。
【お問い合わせ先】
熊本大学大学院先端科学研究部(工学系)
物質材料科学部門
担当:准教授 横井 裕之
電 話 : 096-342-3727
e-mail: [email protected]
図 1 液 面 下 化 学 気 相 析 出( サ ブ マ リ ン 式 基 板 加 熱 )装 置 の 反 応 容 器 概 要 図 。
反 応 容 器 内 部 を 見 や す く す る た め 、前 面 の ガ ラ ス 板 が 外 さ れ て い る 。(a)電 極 、
(b)ホ ウ ケ イ 酸 ガ ラ ス 板 、 (c)触 媒 塗 布 シ リ コ ン 基 板 、 (d)基 板 支 持 材 、 (e)カ
ーボンヒーター。
図2 カーボンナノポットの透過電子顕微鏡写真。カーボンナノポットはラ
ベル付けされているようにグラフェン層の積層構造が異なるいくつかの部分
から成っている。挿入図は主図の破線部拡大図。数値は層間隔の平均値であ
り、矢印は胴部外表面に露出したグラフェン端を示している。
図3 カーボンナノポットファイバーの透過電子顕微鏡写真。矢印はカーボ
ンナノポットの開口端を示している。閉口端近傍のグラフェン端にヒドロキ
シル基が結合したカーボンナノポットの構造模式図(縮尺は一定でない)も
示している。
本 研 究 は JSPS 科 研 費 JP24510153 の 助 成 な ら び に JST、 CREST の 支 援 を 受 け
たものです。
<論文名>
Novel pot-shaped carbon nanomaterial synthesized in a submarine-style
substrate heating CVD method
<著者名・所属>
横 井 裕 之 1*、 畠 山 一 翔 2、 谷 口 貴 章 2† 、 鯉 沼 陸 央 2、 原 正 大 3、 松 本 泰 道
1
熊本大学大学院先端科学研究部(工学系)機能材料設計学分野
2
熊本大学大学院先端科学研究部(工学系)物理化学分野
3
熊本大学大学院先端科学研究部(理学系)物理科学分野
*
論文の筆頭・責任著者
†
現 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点
‡
現 熊本大学理事
<掲載雑誌>
Journal of Materials Research, vol.31, pp.117-126 (2016).
<熊本大学学術リポジトリ>
http://hdl.handle.net/2298/34681
< Advances in Engineering, Key Scientific Article 掲 載 記 事 URL>
2‡
https://advanceseng.com/nanotechnology-engineering/novel-pot-shapedcarbon-nanomaterial-synthesized-submarine-style-substrate-heating-cv
d-method/