機能材料組織学 第 6 回 前回

機能材料組織学 第 6 回
前回:
・金属材料の強化機構(続き)
・加工強化(硬化)とベイリー・ハーシュの関係
・金属の結晶構造
今回:
・すべり系
・ミラー指数
・ミラー指数の一括表示
「機能材料組織学」第 6 回
6.1
すべり系
● 転位の運動:
・問い:転位の運動の方向も特定の方向=「すべり方向」でのみ生じる.すべり方向はどのよ
うな特徴を持っているか?
● すべり系:
図 6.1 各結晶構造のすべり系の例
表 6.1 各結晶構造のすべり系
1
「機能材料組織学」第 6 回
6.2 ミラー指数:
●ミラー指数の表し方
・任意の方向の表し方
①その方向と平行でかつ原点を通る直線
OP を引き,OP 上の任意の点の座標
(x, y, z)を求める.
②座標(x, y, z)を各格子定数で除した値
x
a
y
b
(u, v, w)を求める. u = , v = , w =
z
c
図 6.2 ミラー指数による方向の表し方
③(u, v, w)が分数になる場合,u〜w の分母の最小公倍数を u〜w 全てに乗じ整数化する.
④(u, v, w)の括弧をカギ括弧[]に変え,カンマ「,」を省略して表す → [u v w]
・任意の面の表し方
①面と各軸の交点座標(x, y, z)を求める.
②座標(x, y, z)を各格子定数で除した逆数
a
x
b
y
(h, k, l)を求める. h = , k = , l =
c
z
③(h, k, l)が分数になる場合,h〜l の分母の
最小公倍数を h〜l 全てに乗じ整数化する.
④(h, k, l)のカンマ「,」を省略して表す → (h k l)
・読み方: 例,[1 1 2] → 「いち いち に 方向」
・値がマイナスになる場合:数字上に横線を付する
例,[1 1 2] → 「いち いちばー に 方向」
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図 6.3 ミラー指数による面の表し方
「機能材料組織学」第 6 回
・例題:下図の方向(1),(2)および面(4),(5)をミラー指数で表せ.
● (001)面と(003)面の違い
・(001)面:
・(003)面:
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6.3 ミラー指数の一括表示
●立方晶系では座標軸の 3 軸が等価である→
・単一の方向:
・一括表示の方向:
図 6.3 一括表示による方向の表し方
・単一の面:
・一括表示の面:
図 6.4 一括表示による面の表し方
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・例題:[1 1 0],(1 1 0) を下図に図示せよ.
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「機能材料組織学」第 6 回
6.4 第 6 回講義に関する意見・感想・質問のまとめ
●意見・感想
・ミラー指数の考え方が少し難しかった,ミラー指数がややこしくて難しかった,面を表すミラー指数が難しか
った,少しついていけなかった,ミラー指数がまだ慣れなくて考えると頭がごちゃごちゃしてきた,ミラー指
数の任意面の表し方の導出を理解するのが難しかった(交点座標の取り方など),図形の読み取りが苦
手なのでミラー指数(特に面)が難しかった:15
・特になし:14
・ミラー指数をしっかり理復習して身に付ける,復習頑張る,だんだん難しくなってきたのでしっかり勉強する,
ミラー指数の求め方になれる,ミラー指数の表す問題の演習をもっとする必要がある:9
・理解できた,ミラー指数はさいしょよく分からなかったが問題を解いてみて理解できた気がする,ミラー指数
を求めるのに初めは戸惑ったが慣れれば出来そうな気がした,特に分かりにくいところはなかった:4
・授業進行速度は丁度よかった:3
・以下一人ずつ:
小テストで慌てていたので間違えてしまい悔しかった,最初は(003)を(001)に変えて答えようとしていたの
でその考え方が間違っていることが分かってよかった,前半うとうとしてしまったが後半何とか巻き返すこ
とが出来て良かった,小テストの単位を誤ってしまったので確認することで復習になった,ミラー指数の表
し方における約束事を忘れないようにしなければ,方向ベクトルにおいて原点からのベクトルの引き算で
計算した方が図形で考えるよりも自分は楽だった,面の表し方に周期性が組み込まれているとこがよく出
来てるなと思った
電卓を忘れて小テストが出来なくて悲しかった←それは残念でした・・・
例題(5)で面をミラー指数で表す際に平行移動して無理やり Z 軸との交点を作ったが符号がすべて逆に
なった←面の指数の算出の際には,そもそも平行移動する必要はありませんよ.
●質問
・今回の小テストで与えられていた「定数α=0.50」は有効数字にどう関係するのか?←通常,こういった定数
も実験的関係から求められたものですので有効数字の範疇ですが,今回はその辺の指示が不明瞭でし
たので特に減点はしていません.
・すべり面の定義がよく分からなかった←授業中にも説明しましたが「すべり(=転位を介在した原子の移動)
が生じる面」です.また,そのような面は「原子の充填が最密な面」でもあります.
・ミラー指数の便利な点とは?←少なくともこれがないと,結晶内における転位の運動は記述できません.
・ミラー指数の例題で[100]と出てきたが約分時に負をかけてもいいのか?各成分に「-」をかけたらだめな
のか?(113)と(113)は同じか?←「ー」をかけると当然方向としては逆になりますので,単一の方向(面)
を求める問題としては誤りになってしまいます.ただし,一括表示として等価な方向・面を全て含めるよう
な問題であれば(前者であれば<100>を求める場合)大丈夫です.
・格子定数の意味がいまいち分からない←「意味が分からない」というのは,格子定数自体が分からないの
か,それとも格子定数を 1 とするという点のことでしょうか?格子定数自体が分からないなら先週のプリン
ト or 高校の教科書を見直してください.後者の方であれば,要するに単位格子の 1 辺の長さを基準とし
た座標を取るため,実際の材料であればそれぞれの元素の単位格子の格子定数(例えば Fe であれば室
温で 0.286nm)を,演習問題のような架空の格子であれば単純に 1 を与える,ということです.
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「機能材料組織学」第 6 回
・例題(5)を求める時に三角形を z 軸に合わせる
ように平行移動して求めてもいいのか?←
「Z 軸に合わせるように」という意味が少し分
かりにくいですが,とにかく右図のように(5)の
面(というか全ての面)において,本来もっと
広がりを有しており,それが単位格子内のみ
に限定されて描画されているためこのように
見える,ということを意識しながら,軸との交
点座標を見出してもらえればいいかと思いま
す.
・ミラー指数の例題(2)がよく分からなかった,例題(2)
の y 座標はなぜ「-1/6」となるのか?←(2)の矢印を
原点スタートに平行移動することを考えます.支点
座標は(0, 2/3, 0)ですので,y 方向に-2/3 移動さ
せればいいことになります.一方,終点座標は(1/2,
1/2, 1)ですので,移動後の終点の y 座標は 1/2-
2/3 となります.通分して計算すると-1/6 となりま
す.
・何のためにミラー指数を一括表示するの
か?←表 6.1 に示したように,例えば fcc
ではすべり面は{111}ですので,右で示
す等価なすべての面上で転位の運動が
起こり得ます(その面上には 3 つのすべり
方向があります).それら 1 つ 1 つを個別
に扱うのは煩雑なため,等価な面・方向
を一括して表し,それらを組み合わせて
「すべり系」と称するのです.
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「機能材料組織学」第 6 回
・(001)と(003)が実際は異なるのであれば,(224)と(112)も異なるのか.だとすればおなじ整数倍になってい
ても約分してはいけないのでは?←ご指摘のとおりです.方向指数に関しては周期性はないので約分し
ても同一ですが,面に関しては周期性を考慮すると厳密には同一の面指数とは言えません
(よって(224)≠(112)).私の説明の誤りでしたので,該当する部分の記述を削除しました.
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6.5 第 5 回小テスト解答
Q.1
完全焼なましした銅に対して圧延加工を行った結果,せん断変形応力が圧延前の 175.0 MPa から
350.0 MPa に上昇した.圧延加工前の転位密度ρbefore と加工後の転位密度ρafter をそれぞれ求めた後,
この加工による転位密度の増加分∆ρを求めよ.ここで銅のせん断弾性係数 G = 45.0 GPa,バーガースベ
クトル b = 0.256 nm,材料定数α = 0.50 とする.
 τ 
ベイリー・ハーシュの関係 τ = αGb ρ より, ρ = 
 にそれぞれの条件を代入する.
 αGb 
2
A.1
τ before=175.0 MPa=175.0×106 Pa, τ after=350.0 MPa=350.0×106 Pa,
α =0.50,G=45.0 GPa=45.0×109 Pa, b=0.256 nm=0.256×10−9 m
2


175.0 × 106
 =9.230…×1014 =9.23×1014 m−2
ρ before= 
−9 
9
 0.50 × 45.0 × 10 × 0.256 × 10 
2


350.0 × 106
 =3.692…×1015 =3.69×1015 m−2
ρ after= 
−9 
9
 0.50 × 45.0 × 10 × 0.256 × 10 
∆ρ =ρafter -ρ
before=2.77×10
15
=2.8×1015 m−2
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参考問題
Q.1
下図中太線に示される結晶面のミラー指数を答えよ.
Q.2
結晶方向[1 21 ]を下図に記入せよ.
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