非残留性溶媒としてのペルオキシ 化合物を用いた レアメタル(V, Mo, W)の選択的回収 徳島大学大学院 ソシオテクノサイエンス研究部 准教授 薮谷 智規 レアメタル 図 レアメタル対策部会で指定されているレアメタル31鉱種47元素 レアメタルとして指定されている元素を白抜きで示す。 日本の国際産業競争力の維持・発展上極めて重要 自動車、IT関連製品などの高付加価値化、高機能化に必要不可欠 レアメタルの最新動向 資源の地理的偏在性が高い 資源国の国家政策が強く反映される 尖閣問題によるレアアースの供給不安 中国・インドなどの急速な経済発展による利用拡 大と価格上昇 日本はレアメタルの供給をほとんど輸入依存 バナジウムの用途・供給・価格 用途:超高張鋼、切削工具、脱硫・脱硝触媒、バナ ジウム消費の80‐90 %が鉄鋼需要 価格動向:17.5 (2001)→35.5(2010) $ kg‐1 : 塊・く ず・粉ベース 国内供給:国内鉱石生産 無し。脱硫・脱硝触媒リ サイクル、重油燃焼残さからの回収 国家備蓄対象7鉱種の一種 バナジウムの資源動向 資源動向 今後の需要:ほとんどが鉄鋼添加剤として利用されており、新 興国での鉄鋼生産増産に伴い、需要の拡大が見 込まれる。 鉱石生産:中国38%、南アフリカ33%ロシア:26% 上位3カ国 で97% (2010年) 原油には10‐1400 ppmのバナジウムを含有。 現状でのリサイクル リサイクル率は2010年現在 19% 燃焼飛灰・スラグからの塩焙焼、水・アルカリ・酸によるリーチン グ後、溶媒抽出・イオン交換を経て5酸化バナジウムとして回収 石油脱硫廃触媒からは塩焙焼を経て水抽出、アンモニアを添 加しメタバナジン酸アンモニウムとして回収(Ye G. JERNKKONTORET pp24) モリブデンの用途・供給・価格 用途:特殊合金、切削工具、脱硫・脱硝触媒、潤滑油 (二硫化モリブデン) 価格動向:17.6 (2001)→44.9(2010) $ kg‐1 : 塊・粉ベー ス 国内供給:国内鉱石生産 無し。触媒からの回収、Mo 含有鉄鋼スクラップの鉄鋼への再利用 国家備蓄対象7鉱種の一種 モリブデンの資源動向 資源動向 新興国での鉄鋼生産増産に伴い、需要の拡大が見込まれる。モリブデ ンに変わる代替物が無いことから供給リスクが高い。 鉱石生産:中国:40%、アメリカ:24%、チリ:17% 上位3カ国で81% (2010年) 銅鉱石の副産物として生産 現状でのリサイクル リサイクル率は2010年現在 3% 2000年以降4回の供給障害 銅鉱山の原産に伴う供給不足(価格が1.5~2.5倍の高騰)、中国で の鉱山事故、鉄鋼向け需要の増大と焙焼設備不足 石油脱硫廃触媒からは塩焙焼を経て水抽出、アンモニアを添加し、溶 液相のバナジウムと分離し、塩酸添加してモリブデン相を沈殿させた 後回収 (廃触媒からの重金属回収技術、鈴木和彦、石油エネルギー技術センター報告 2002) タングステンの用途・供給・価格 用途:特殊合金、切削工具、電極剤、触媒 価格動向:6.7 (2001)→32.7(2010) $ kg‐1 : 塊・粉ベース 国内供給:国内鉱石生産 無し。触媒からの回収、スク ラップの鉄鋼への再利用 国家備蓄対象7鉱種の一種 資源動向 タングステンの資源動向 新興国での鉄鋼生産増産に伴い、需要の拡大が見込まれる。日本国内 におけるWO3, フェロタングステンなど中間生産がく、供給リスクが高い。 鉱石生産:中国:91%、ロシア2% (2010年) 中国の圧倒的シェア 1991 年より中国の国家保護鉱種 リサイクルの現状 リサイクル率は2010年現在 21% 2000年以降2回の供給障害、中国の輸出許可証の発給制限(価格が 1.5倍)、中国国内の需要増大と既存鉱山の閉山(2004~2008 4年間 4 倍に急騰) 高速度鋼などの切削くずはスクラップとして回収し、溶解原料へ 亜鉛処理法(真空下 超硬工具スクラップと亜鉛を溶融) 湿式処理法(溶解、イオン交換、濃縮、結晶化を経てWO3として取り出す レアメタル確保のために • 非鉄金属資源の探鉱・開発 • 非鉄金属資源のリサイクルの推進 • レアメタル代替材料の開発(2007年、経済産 業省・文部科学省より発足) • 経済安全保障上のための国家備蓄(7鉱種:V, Mo, W, Ni, Cr, Co, Mn) 従来の金属分離特許技術 特開平10−118649号公報 モリブデン酸塩を含む水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させて吸着後pH9.0 以上のアルカリ水溶液を接触させてモリブデン酸イオンを溶離して回収する方法 特開平8−295966号公報 廃触媒のようなモリブデンおよびバナジウムを含む溶液から、特定の陰イオン交 換型キレートポリマーを用いてモリブデンおよびバナジウムを選択的に回収する 方法 特開2003-48716公報 陽イオン交換型キレート樹脂を用い、酸性モリブデン酸塩を含む水溶液を、陽イ オン交換型キレート樹脂と接触、吸着後、キレート樹脂をアルカリ水溶液と接触、 溶離させ、モリブデン酸イオンの形でモリブデン酸塩を回収する方法 いずれの方法でも、高純度のバナジウム、モリブデン、タングステンを高収率で 回収することはできない。また、共存する鉄・マンガン・チタン等もイオン交換 樹脂に吸着するため、廃棄物など複雑なマトリックスを有する試料からの対象成 分の回収は極めて困難である。 新技術 廃棄物からの金属のリサイクルについて、一般的に は、金属の溶出、溶出液からの対象成分の粗分離、 精製という過程で実施されている。 今回提案する方法 • 多種金属共存下の試料からのバナジウム・モリブ デン・タングステンの選択的分離 • 非残留性溶媒(低環境負荷性)としてのペルオキ シ化合物を使用した技術開発 ペルオキシ化合物使用のコンセプト 非残留性・非窒素性・低環境負荷性 ・過酸化水素などは非常に易分解であり、金属分離工程後の溶液 には水(酸素)以外に残存する成分を持たない。 ・すなわち、実質的に“水を溶離液とした分離”が可能であり、金属 イオンの高精度分析や金属リサイクルにおける高度精製に重要 な技術となりうる。 ・分離原理として、酸化還元反応、ペルオキソ錯体形成作用を利 用できるものと考えている。 ・瀬戸内海法(排水への窒素総量規制)からも非窒素系試薬の使 用は有利である。 過酸化水素を利用した場合の分離結果 80 60 40 100 Adsorption[%] Recovery[%] 100 80 60 40 20 0 VMoWNbTaHfAlCrMnFeCoNiZnSrZrPdCdSnBaLaCePrNdSmEuDyErYbTlPb Elements 20 0 VMoWNbTaHfAlCrMnFeCoNiZnSrZrPdCdSnBaL aCePrNdSmEuDyErYbTlPb Elements ペルオキシ化合物を溶離液とした本技術では5元素のみが回収される。 Fig. 3 Recoveries of m etal ions with hydrogen peroxide from the chelating resin. 内図は硝酸を溶離液として溶出した場合の回収率(固相への吸着率としてみなせる)すなわち、 ペルオキシ化合物で溶離していない金属は、逐次的に酸で完全に回収できるため、固相の再 Eluant was hydrogen peroxide of 30 % 利用もできる。 これ以外にもアルカリ金属・アルカリ土類金属は固相自体に吸着しないので完全に分離できる。 焼却飛灰溶出液からの金属回収 表 バナジウム・モリブデン・タングステンの回収率および他の元素の除去率 添加回収率 V(V); 83.4 % Mo(VI); 88.1 % W(VI); 69.3 % 他元素の除去率 92.4 % ~99.9 % 以上 複雑なマトリクス 共存下においても 十分に適用可能 a) Mean ± standard deviation, n=3. b) Relative standard deviation. c) Instrumental detection limit measured by ICP‐AES or ICP‐MS. 想定される用途 • V, Mo, Wなどの金属は年間数千トンから数万ト ン輸入され利用されているが、リサイクル率は 10-20%程度 • リサイクル率を10%程度上げることができれば、 およそ数百トンから数千トンの再回収可能 • V, Mo, Wを多用する業種である触媒メーカー、 廃棄物回収業者などへの技術移転 実用化に向けた課題 1.処理容量(効率)の向上 ・金属吸着カラムの大容量化 ・連続通液・処理システムの構築 2.バナジウム・モリブデン・タングステン間の単離 ・分離条件の最適化 ・新規溶離液の探索(ここでも非窒素・非強酸系 溶媒を使用) 企業への期待 • 有価金属の再利用技術を必要とする精錬・ 廃棄物リサイクル企業との共同研究 • 過酸化水素・過酸化物などの化成品の使用 用途拡大にもつながる技術であり、化成品・ 試薬メーカーとの関係強化 • 分析化学的用途にも応用可能であり、例えば 機器分析時の試料マトリックスの除去などの 試料前処理用の高機能・高付加価値製品 (例:固相抽出カラム)への技術支援 本技術に関する知的財産権 • • • • 発明の名称 :レアメタルの選択的回収方法 出願番号 :特願2010‐164850 出願人 :徳島大学 発明者 :薮谷智規 産学連携の経歴 • 2011年‐2012年 JST Aステップ 探索タイプ採択 • 2012年‐2013年 JST知財活用促進ハイウェイ「大学 特許価値向上支援」採択 • 2012年‐2013年 JST Aステップ 探索タイプ採択 触媒・化学・製薬メーカーとの金属分離、超高感度分 析技術について連携の経験あり お問い合わせ先 徳島大学 産学官連携推進部 大井 文香 TEL 088-656 - 7023 FAX 088-656 - 9814 e-mail oi@ccr.tokushima–u.ac.jp 四国TLO 技術移転部 辻本 和敬 TEL 087-811- 5039 FAX 087-811- 5040 e-mail [email protected] 21
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