『 どんぐりと山猫』 ※2ページ目もあります。 そこでやまねこが叫びました。 「やかましい。ここをなんとこころえる。しずまれ、しずまれ。」 別当がむちをひゅうぱちっ とならしましたのでどんぐりどもは、やっ としずまりました。やまねこは、ぴんとひ げをひねっ て言いました。 「裁判ももうきょうで三日目だぞ。いい加減に仲なおりしたらどうだ。」 すると、もうどんぐりどもが、くちぐちに云いました。 「いえいえ、だめです。なんといっ たっ て、頭のとがっ ているのがいちばんえらいのです。」 「いいえ、ちがいます。まるいのがえらいのです。」 やま ね こ 「そうでないよ。大きなことだよ。」がやがやがやがや、もうなにがなんだかわからなくなりました。山猫が叫 びました。 「だまれ、やかましい。ここをなんと心得る。しずまれしずまれ。」 別当が、むちをひゅうぱちっ と鳴らしました。山猫がひげをぴんとひねっ て言いました。 「裁判ももうきょうで三日目だぞ。いい加減になかなおりをしたらどうだ。」 「いえ、いえ、だめです。あたまのとがっ たものが……。」 がやがやがやがや。 山ねこが叫びました。 「やかましい。ここをなんとこころえる。しずまれ、しずまれ。」 別当が、むちをひゅうぱちっ と鳴らし、どんぐりはみんなしずまりました。山猫が一郎にそっ と申しました。 「このとおりです。どうしたらいいでしょう。」 一郎はわらっ てこたえました。 「そんなら、こう言いわたしたらいいでしょう。このなかでいちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっ ていないよ うなのが、いちばんえらいとね。ぼくお説教できいたんです。」 しゆす えり 山猫はなるほどというふうにうなずいて、それからいかにも気取って、繻子のきものの胸を開いて、黄いろの陣 羽織をちょっ と出してどんぐりどもに申しわたしました。 「よろしい。しずかにしろ。申しわたしだ。このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、てんで なっ ていなくて、あたまのつぶれたようなやつが、いちばんえらいのだ。」 かた どんぐりは、しいんとしてしまいました。それはそれはしいんとして、堅まっ てしまいました。
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