第12回「化学結合︓ 原 分 」 - 青山学院大学理工学部化学・生命科学科

マッカーリ、サイモン物理化学(上)︓p. 352-p. 380
量⼦化学Ⅰ
第12回「化学結合︓⼆原⼦分⼦」
“分⼦軌道法”について学習し、⼀電⼦波動関数(原⼦軌道)の⼀次結合を⽤いた
⼆原⼦分⼦の取り扱い⽅を学ぶ。第11回で学んだ“変分法”が分⼦軌道を明らかに
するうえで強⼒な⼿法となることを学ぶとともに、⼆原⼦分⼦の特性が分⼦軌道
法によって正しく説明できることを学ぶ。
担当︓⻘⼭学院⼤学理⼯学部化学・⽣命科学科
阿部 ⼆朗、⼩林 洋⼀
1
【⼀原⼦から⼀分⼦へ︓分⼦軌道法】
を既知の原⼦オービタル(⼀電⼦波動関数)
分⼦軌道法︓分⼦オービタル
の線形結合として表す⼿法
分⼦オービタル
といい、
を
は原⼦オービタルの⼀次結合なので、LCAO分⼦オービタル
の基底関数という。
⽔素分⼦を例に挙げると、系のハミルトン演算⼦ は以下のように求められる
2
4
電⼦の運動エネルギー
4
4
4
4
H
電⼦同⼠、核同⼠の反発
を代⼊すれば、以下の式からオービタルのエネルギーが求められる
∗
∗
2
電⼦2
核と電⼦の引⼒によるポテンシャルエネルギー
4
と
電⼦1
(
は適当な単位体積)
H
【⽔素分⼦イオンH2+のシュレーディンガー⽅程式】
2
H2
4
4
電⼦
4
H
+のシュレーディンガー⽅程式は以下の式を満たす
,
;
,
H
の場合
;
変分原理によれば、適当な試⾏関数を⽤いれば、エネルギーの良い近似値が
得られるため、試⾏関数としてLCAO分⼦オービタルを⽤いる。
1
1
⽔素原⼦の1sオービタル
変分法により波動関数のエネルギーを求める。具体的には、以下の式に と
を代⼊し、 , についてそれぞれ微分する。それらの値を0とした時のエネル
ギーに関する⽅程式を解く。
∗
∗
3
1
1
∗
1
∗
1
∗
1
∗
1
1
1
(式1)
【重なり積分】
∗
1
∗
∗
∗
1
ここでは簡単のため、
∗
1
1
1
∗
1
1
1
∗
∗
1
1
∗
1
1
1
∗
1
1
1 (規格化条件)
1
∗
1
1
∗
∗
1
∗
1
1
1 であり、 として表す。
1
2
は⼆つの原⼦オービタルが⼤きな重なりをもつ領域
でのみ⼤きな値を持つことから、重なり積分という。
4
∗
1
⽔素原⼦の1sオービタルは実関数なので、1
2
(式1)
1
1とし、分⺟を先に計算する
∗
∗
1
【交換積分、クーロン積分】
∗
1
∗
∗
1
1
∗
1
∗
1
∗
∗
1
∗
1
∗
1
1
1
1
∗
∗
1
2
1
1
(式1)
1
原⼦単位系を⽤いる
, などを省略)
( , ,4
1
1
1
1
2
∗
1
∗
1
1
2
∗
∗
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1 , 1 はそれぞれ1電⼦原⼦A,Bについてのシュレーディンガー⽅程式なので、
1
2
5
1
1
1
及び
1
2
1
1
1
【交換積分、クーロン積分】
∗
1
∗
1
∗
1
1
∗
1
1
1
∗
1
1
1
重なり積分、及び規格化条件を⽤いて整理すると
∗
2
1
1
1
クーロン積分
交換積分
6
1
1
1
1
∗
1
1
∗
1
∗
1
∗
1
1
1
1
1
1
1
∗
∗
1
1
4
∗
1
1
4
1
∗
1
1
1
4
1
4
1
1
【交換積分、クーロン積分】
, の添字が⼊れ替わっても等価なことを⽤いて
∗
2
1
∗
2
∗
2
1
2
2
2
2 2 ∴∆
1
1
1
1
クーロン積分項は常に正であるこ
とから、 H2+の化学結合の存在は
交換積分によってもたらされる。
7
/
∆
∆ を に対してプロットすると、
右図を得る
∆
∆
/
1 【結合性、反結合性オービタル】
オービタルは安定な化学結合を⽰す状態
を表すので、結合性オービタルという。
/
1
∆
∆
1
∆
についても同様に計算すると、
∆
1
1 /
オービタルはすべての核間距離において反発相互作⽤を与えるので、
反結合性オービタルという。
を規格化するための係数を とおき、規格化された波動関数を求める
∗
1
∗
1
1
2 1
1
8
2 1
∗
1
1
1
1
1
1
2
2
∴
1
2 1
【結合性、反結合性オービタル】
波動関数の空間分布
軸⽅向の断⾯図
1
1
=
1
1
1
=
1
核間軸まわりの軸対称なオービタル = オービタル
反転によってオービタルの符号が変わらない = ゲラーデ ” g”
反転によってオービタルの符号が変わる = ウンゲラーデ ” u”
9
【等核⼆原⼦分⼦】
第⼀近似︓エネルギーの似通った原⼦オービタルだけから分⼦オービタル
ができる
(2 オービタルからなる分⼦軌道)
1 と同様の形状をしており、1
• 1
が⼤きい。
•
1
1 よりも空間的な広がり
1より、球節⾯を⼀つもつ
• 分⼦オービタルのエネルギーの順は 1
1
2
2
2
Energy
2
1
1
1
1
10
2
2
【等核⼆原⼦分⼦】
(2 オービタルからなる分⼦軌道)
核間軸を 軸として、
,
,
の⼀次結合を考える
• 2
2
は核軸間周りに軸対称であるから オービタルである。
• 2
2
は、
⾯が節⾯となる。
核軸間を含む節⾯を⼀つもつ分⼦オービタルを オービタルという。
2
•
,
2
, 及び
2
,
は縮退している
2
2
2
2
Energy
2
2
2
,
2
2
2
2
,
2
2
2
11
2
(順序は原⼦により異なる)
+
+
­
­
­
+
2
2
­
+
­
­
+ ­
+
【等核⼆原⼦分⼦】
混合が減少
Li からF に進むにつれ 2 が⼤きく安定化している理由は、 s
すること、結合⻑、実効核電荷の変化により原⼦オービタルの重なりが変わるこ
となどが要因として挙げられる。
12
【ヘリウム分⼦への応⽤】
H , He は 1 ,
1 だけを考えればよい。
パウリの排他原理
同じ原⼦の中のどの2個の電⼦についても4種類すべての量⼦数
, , , が同じになることはない。
ここで
はスピン量⼦数(電⼦スピンが上向きか下向きか)である
H は電⼦を2個もつので、パウリの排他原理に従って⼆つの電⼦を 1 に
いれる。H の電⼦配置を 1 と書く。結合性オービタルの⼆つの電⼦は
結合電⼦対を形成し、H の単結合が説明できる。
1 である。
He は電⼦を4個もつので、基底状態の電⼦配置は 1 結合性、反結合性オービタルにそれぞれ電⼦対が与えられるため、結合性
オービタルの電⼦の効果が相殺され、He が存在しえないことが分かる。
H
1
1
1
13
He
1
1
1
1
1
【結合次数】
H , He は 1 ,
1 だけを考えればよい。
結合次数 =
1
2
結合性オービタル
にある電⼦数
反結合性オービタル
にある電⼦数
H , He の電⼦配置は 1 、及び 1 1 より、H , He の結合次数
は1, 0である。1 = 単結合、2 = ⼆重結合といった具合で結合が決まる。
(例題)He
14
の電⼦配置、及び結合次数を求めてください。
【酸素分⼦への応⽤】
分⼦軌道法は酸素が常磁性であることを正しく予想する。
酸素の電⼦配置は
1 1 KK
1 2 2 2
2
2
2
2
2 2 2
2
2
2
2
1 の略(K殻のK)
2 , 2 オービタルは縮退している
ので、フントの規則に従いスピンが平⾏
になるように電⼦を⼊れる。
2
O
2
2
2
,
2
2
基底状態で2つの不対電⼦をもつと予想でき、
それらが酸素分⼦の常磁性を正しく説明する。
2
2
2
,
2
2
2
2
2
15
2
【酸素分⼦への応⽤】
(例題)O
16
,O ,O
,O
の電⼦配置を書き、結合⻑の⻑い順に並べてください。
【異核⼆原⼦分⼦】
HFを例に挙げて考える。フッ素の2 原⼦オービタルのエネルギーは⽔素の1
原⼦オービタルのエネルギーに最も近いので、第⼀近似としてそれら⼆種類
の原⼦オービタルの⼀次結合を考える。
1
•
軸を核間軸とした場合、1
•
1
と2
及び1
と2
2
と2
は核間距離によらず重なりが0になる(下図)。
• HFの荷電⼦は8個より、 2
• 2 ,2
,2
は強め合うように重なる。
2
2
は⾮結合性オービタルより、結合次数は1
Energy
1
17
2
2
2
2
2
2
2
2
1
2
2
1
1