LDLに含まれるセラミドはⅡ型糖尿病によって増加し、炎症や骨格筋の

Ceramides Contained in LDL Are Elevated
in Type 2 Diabetes and Promote
Inflammation and Skeletal Muscle Insulin
Resistance
Diabetes 62:401–410, 2013
J. Boon, A. J. Hoy, R. Stark, R. D. Brown, R. C. Meex, D. C. Henstridge,
S. Schenk, P. J. Meikle, J. F. Horowitz, B. A. Kingwell, C. R. Bruce,
and M. J. Watt
LDLに含まれるセラミドはⅡ型糖尿病によって増加し、
炎症や骨格筋のインスリン抵抗性を促進する。
2015/07/27
M1 眞野 僚
リポタンパク質粒子の代謝
HDL
VLDL
LDL
ストライヤ-生化学より引用
背景と目的
・組織に蓄積したセラミドが与える影響を調べた研究は数多くある。
・肥満やⅡ型糖尿病モデルマウスやヒトにおいて、
血漿中のセラミド濃度も上昇することが報告された。(6.14)
・胃のバイパス手術(15)や生活習慣の改善(16)による
体重の減少は、血漿中のセラミドを減少させることも明らかになった。
しかし、血漿中の循環しているセラミドと肥満/糖尿病の関係
性を明示した論文は存在しない。
LDL中のセラミドがⅡ型糖尿病で増加することで、骨格筋の
インスリン抵抗性や炎症にどのような影響を与えるのか検討
を行った。
6)Wang LP et al, Cell Metab, 2007
15)Gatmaitan P et al, Obesity 2011
14)Kasumov T et al, Diabetes, 2009
16)Monte SM et al, Hepatol Res, 2011
(Supplementary Figure.1)
セラミドがリポタンパク質
中にあるかどうか確認
血漿中のセラミドの98%
が、VLDL、LDL、HDLに
含まれることが分かった。
Ⅱ型糖尿病が血漿中のセラミド量に与える影響
51%up
①一晩絶食した3種類の被験者の血液を採取
②血漿中のリポタンパク質をFPLCによって抽出
③脂質を抽出し、放射標識したセラミドをシンチレー
ション測定器を用いて測定
Lean :インスリン感受性
Obese:インスリン感受性+肥満
T2DM:インスリン抵抗性+肥満
Ⅱ型糖尿病発症時では、LDLのセラミドが上昇していた。
(Supplementary Table.1)
Plasma glucoseが7mmol/l以上かつ
OGTTが11.1mmol/l以上をインスリン抵抗性と判断
*:vs Lean
#:vs Obese
LDLに含まれるコレステロール量は変わらない。
LDL-ceramideとインスリン抵抗性の相関
HOMA-IR
Homeostasis model assessment of
insulin resistance
r=0.43
P=0.01
インスリン抵抗性の指標となる。
日本人では、2.5以上がインスリン抵抗性
が発症しているとされる。
LDLのセラミド量がⅡ型糖尿病
患者では増加しているので、イ
ンスリン抵抗性に関わっている
かもしれない。
Supplementary Table.2
食事の改善、運動によって、
12%体重が減少した
体重減少による血漿中のセラミド量の変化
22%down
①一晩絶食した3種類の被験者の血液を採取
②血漿中のリポタンパク質をFPLCによって抽出
③脂質を抽出し、放射標識したセラミドをシンチ
レーション測定器を用いて測定
LDL-ceramideとインスリ
ン感受性は負の相関を示
すかもしれない。
肝臓でのセラミド分泌は肥満やインスリン抵抗性で
上昇するのか?
57%up
①8週間低脂肪食or高脂肪食を与えた
マウスから、肝臓を単離
②セラミドの量を測定(タンパク質で補正)
・他の脂質(SM、リン脂質、
ジヒドロセラミド)は増加していない。
・筋芽細胞や3T3-L1脂肪細胞では、
セラミド分泌は確認されなかった。
肥満型マウスにおいて、肝臓
のセラミド分泌が増加していて、
循環しているセラミドの源に
なっている。
Fig.1のまとめ
・Ⅱ型糖尿病では、LDL中のセラミドが有意に増加した。
・血漿中のセラミドの増加は、肝臓のセラミド合成の増加に
よるものである。
Supplementary Figure.2
(Supplementary Figure.3)
8週齢のC57B1/6マウス
51±2歳のヒト
MSで測定
(Supplementary Table.3)
LDL or LDL-ceramideをマウスに静脈注射(2時間)
24時間後の血漿セラミドを分析
LDLが糖のクリアランスに与える影響
29%down
Quad:四頭筋
Gastroc:腓腹筋
A,B共通
①10週齢のC57BL/6Jマウス
にLDL or LDL-ceramideを
カテーテルで静脈投与(2時
間)
②マウスをケージに戻し、一晩
自由摂食(測定の4時間前
から絶食)
③2-[1-3H] DG 10 µCiと
[U-14C] glucose 2 µCiを
インスリン 0.5 U/kgとともに
静脈注射
④2,5,10,15,20,30分後
の血液を採取
Bのみ
⑤マウスを放血屠殺し、
骨格筋の2-[1-3H] DG
と2-[1-3H] DG6Pを測定
LDL-ceramideの投与によって、骨格筋の糖取り込み
が減少したことで、全身のクリアランスが減少した。
LDL-ceramideがインスリンシグナルに与える影響
インスリン投与直後の骨格筋の
ライセートをウエスタンブロット
Akt :インスリンの刺激により
リン酸化され、糖取り込みを
促進する。
LDL-ceramideの投与によって、
Aktのリン酸化の割合が低下した。
LDL-ceramideが骨格筋のセラミド組成、量に与える影響
D:骨格筋のセラミド
をMSで分析
E:骨格筋の膜画分を
作成し、セラミド量を
測定
・細胞膜が正しく取れて
いるのかの確認
・小胞体が混入していな
いかの確認
LDL-ceramideの投与によって、
D:セラミド組成に影響を与えなかった。
E:細胞膜上のセラミドは増加した。
F:骨格筋のクリアランスと細胞膜のセラミドが
負の相関を持つ。
LDL-ceramideが炎症に関わるシグナルに与える影響
インスリン投与直後の骨格筋の
ライセートをウエスタンブロット
JNK:リン酸化することで、
インスリンシグナルを阻害
IκBα:分解することで、NFκBが
活性化し、転写を促進する。
IκBαは分解の割合が減少したが、
JNKはリン酸化を上昇させなかった。
LDL-ceramideが炎症性サイトカインの発現量に与える影響
G:外側広筋からDNAを抽出し、
RT-PCRでmRNAの発現量を測定
H:Milliplex Mouse Cytokine
/chemokine 5-PLEX arrayを用いて
血漿中のサイトカインを測定
LDL-ceramideの投与に
よって、mRNA発現量、タン
パク発現量どちらも上昇傾向
が認められた。
(Supplementary Figure.4)
A~D
他の臓器では、2DGの
クリアランスに影響はない。
LDL-ceramideは
骨格筋に特異的
E
肝臓のGlucose⇒Lipidの
脂質合成
[U-14C] glucoseを測定
LDL-ceramideは
肝臓の脂質合成に
影響を与えない。
Fig.2のまとめ
・マウスを用いた実験では、
LDL-ceramideの投与によって、骨格筋のインスリン
シグナルのみ特異的に阻害している。
(Supplementary Figure.5)
LDLが筋管細胞の糖取り込みに与える影響
①L6筋芽細胞にGLUT4-mycを遺伝子導入
②筋管細胞に分化
③LDL or LDL-ceramideを6時間、24時間添加
④10 nM インスリンを20分刺激
⑤1 mCi/mL 2-[1-3H] DGを20分添加
LDL-ceramideの24時間処理では、糖取り込みの有意な減少が
確認された。
LDLが筋管細胞の糖取り込みに与える影響
D:①先ほどと同様の処理を行う。
②ELISAにより、細胞膜上のGLUT4を検出
E:①先ほどと同様の処理を行う。
②ウエスタンブロットにより、Aktのリン酸化の割合を算出
LDL-ceramideの24時間処理では、糖取り込みに関わるシグナ
ル分子の移行、リン酸化の割合は減少した。
LDLが筋管細胞の糖取り込みに与える影響
F:①先ほどと同様の処理を行う。
②ウエスタンブロットにより、ERK、JNK、IκBαのリン酸化の割合を算出
LDL-ceramideの24時間処理では、糖取り込みの阻害に関わる
シグナル分子のリン酸化には影響を与えない。
Supplementary Figure.5
C
LDL-ceramideの24時間処理では、肝臓の糖新生、脂肪細胞の
糖取り込みに影響を与えない。
これは、Fig.2の動物実験と一致する。
Fig.3のまとめ
・筋管細胞でも、動物実験と同様に
LDL-ceramideの投与によって、糖取り込みが阻害される。
筋管細胞のceramideがLDL由来かどうか確認
①L6筋芽細胞にGLUT4-mycを遺伝子導入
②筋管細胞に分化
③LDL or LDL-ceramideを24時間添加
④細胞を回収し、MSで分析
A:Cer 16:0、Cer 24:0のどち
らも蓄積していた。
B:セラミドの増加はSMaseの活
性化によるものではない。
筋管細胞のceramideがLDL由来かどうか確認
Myriocin
セラミドのde novo合成
阻害剤
①L6筋芽細胞にGLUT4-mycを遺伝子導入
②筋管細胞に分化
③10 µMのミリオシンor
LDL-R antibodyを1時間添加
④LDL or LDL-ceramideを24時間添加
⑤細胞を回収し、MSで分析
C:セラミドの増加は、de novo合
成が促進したことによるものでは
ない。
D:LDL-Rの阻害をしても、セラミ
ドの取り込みは減少しなかった。
Fig.4のまとめ
・LDL-ceramideは、LDL-Receptorを介さず蓄積している。
これとFig.2Hの結果から…
血漿中のセラミドが、マクロ
ファージの炎症を引き起こすので
はないか?
ヒトの血漿TNF-α濃度と血漿セラミド濃度の関係
マクロファージの炎症に関わるシグナルに与える影響
①RAW264.7に
LDL,100 nM LDL-ceramide,
100 ng/ml LPS,
0.75mM パルミチン酸を
0.5, 4, 8,24時間添加
②細胞を回収し、ウエスタンブロット
LPS:リポ多糖
(TLR4のアクティベータ―)
B:LDL-ceramideによる活
性化は、取り込み(代謝)に
よるものであると示唆される。
C:LDL-ceramideによって
NF-κBはすぐに活性化され
た。
炎症性サイトカインの発現量に与える影響
①RAW264.7に
LDL or LDL-ceramideを24時間添加
②細胞を回収し、RT-PCRによりmRNA発現量を測定
炎症を促進するIL-6、TNF-αは上昇の傾向を示した。
また、炎症を抑制するIL-10は有意に減少した。
炎症性サイトカインの分泌量に与える影響
①RAW264.7に
LDL or LDL-ceramideを24時間添加
②培地を無添加培地に変更し、24時間培養
③培地を回収し、ELISAにより分泌量を測定
LDL-ceramideの添加によって、
炎症を促進するIL-6、TNF-αの
分泌量が有意に増加した。
セラミドの蓄積がLDL-ceramideによるものか確認
①RAW264.7に
LDL or LDL-ceramideを24時間添加
②細胞を回収し、脂質抽出
③MSにより細胞内のセラミド蓄積量を測定
マクロファージにおいても、LDLceramideによってセラミドが取
り込まれ蓄積していることが分
かった。
TLR4によるシグナル伝達の流れ
Luke A. J. O’neill & Andrew G. B., Nature, 2007
炎症のシグナルはTLR4を介して起こるのか確認
①MyD88、TRIFをノックアウトしたマクロ
ファージ( MyD88-/-,Ticam-/-のトランス
ジェニックマウスから単離した)に
LDL,100 nM LDL-ceramide,
100 ng/ml LPSをそれぞれの時間で添加
②ウエスタンブロットにより、IκBαの発現量、
JNKのリン酸化の割合を測定した。
MyD88-/-→MyD88をコード
Ticam-/-→TRIFをコード
どちらもTLR4の下流にあり、ノックアウトす
ることで、TLR4のシグナルを遮断する。
G:NF-κBのシグナルは、TLR4
に依存している。
H:JNKのリン酸化は、TLR4と
の結合ではなく、セラミドの蓄積
が引き金である。
まとめ
・LDLのセラミドは、肥満やインスリン抵抗性発症により
増加し、運動や食事療法により減少する。
・LDLのセラミドは骨格筋の細胞膜に蓄積し、インスリン抵抗
性を引き起こす。
また、マクロファージの炎症も引き起こす。
①肝臓のセラミド産生を制限する
②リポタンパク質に貯蔵されるセラミドを減少する
これらを目的とした戦略が、骨格筋における
インスリン抵抗性を改善するかもしれない。
セラミドのインスリン抵抗性のメカニズム
Jose A. C. & Scott A. S. Cell Metab, 2012
今回使用するLDLとLDL-ceramideの調製法
①凍結乾燥していたヒトのLDLを蒸留水で溶かした。
②0.5 mg/500 ulのLDL溶解液に6.25 mgの片栗粉を加えた。
③液体窒素の中で砕く
④室温で8時間以上、遠心乾燥機で乾燥させる
・内因性のコレステロールの除去
⑤1.5 mlのヘプタンを加える
⑥2分混ぜて、15分、4℃で冷却した
⑦⑥を3回繰り返す
⑧4℃、2000 rpm、10分遠心して、上清を取り除く
⑨⑤~⑧を計3回繰り返す
・セラミドを混合する
⑩C16:0,C24:0セラミドをヘプタンに溶かし、72℃で温める
⑪40度に冷やし、沈殿する前に⑨を加えて2分混ぜる
(500 ulの⑨に対し0.4 mgのセラミド)
⑫-10℃で1時間インキュベート
⑬窒素ガスで徹底的に乾燥
・LDL-セラミドと片栗粉の分離
⑭LDL-セラミドを1 mlの水和溶液に溶かした。
(0.12 M NaCl, 10 mM Tricine in DW)
⑮18時間以上、4℃でインキュベート
⑯4℃、2000rpm、10分遠心して、上清を別の容器に移す
⑰4℃、13000rpm、20分遠心して、上清を別の容器に移す
⑱⑰をもう一度繰り返す
⑲溶媒を窒素ガスで飛ばす
⑳使用濃度は、2 µg/ml
(Supplementary Figure.6)(Fig.6BCのWB)
Supplementary Figure.7
MAPKのシグナルについて
http://www.cstj.co.jp/reference/pathway/MAPK_Cascades.php