20130119 バセドウ病の寛解マーカー

日本内分泌学会
COI開示
発表に関連し、開示すべきCOI
関係にある企業等はありません。
2013年1月19日
寛
解
甲状腺機能
正常
0
6
12
18
24
Titration 法
LT4
Block-replace 法
② ③ 予後予測
① 投薬中止の目安
30
36
(治療開始後月数)
TRHテスト
 T3抑制試験
 血清サイログロブリン(Tg)
 血清T3/T4比
 TSH受容体抗体(TRAb)


DAHLBERG
› Block-replace 法(74例)
 TRHテスト正常反応:
寛解率 74%
 TRHテスト無反応:
再発率 71%
(J Clin Endocrinol Metab 1985)

NOTSU
› Titration 法(31例): 維持量 1錠/日を2カ月以上
 TRH投与後のFT3上昇(120-180分でピーク)で判定
 FT3上昇 正常反応:寛解率 100%
 FT3上昇 低反応: 再発率 90%
(J Clin Endocrinol Metab 1985)

YAMADA
› Titration 法(115例): 2年投与後に試験
 65例(57%)がT3で抑制:
寛解率 89%
(かつ T4がT3投与前の60%未満に抑制:寛解率 100%)
(J Clin Endocrinol Metab 1984)

YAMAGUCHI
› Titration 法(83例): MMI 1錠を数ヶ月投与後に試験
 38例(46%)がT3で抑制:
寛解率 68%
(Endocrinol Japon 1990)

KAWAMURA
› Titration 法(29例):MMI 治療期間17-40カ月
 寛解(15例):中止時Tg値68ng/mL未満
 MMI継続(14例):治療開始24カ月以上経過後の
Tg値 140ng/mL以上 (10例/14例)
(J Clin Endocrinol Metab 1983)
TgAb陽性例ではサイログロブリンは正確に測定でき
ない。

TAKAMATSU
› Titration 法(47例):期間を2年に固定して投薬中止
 中止時 TT3/TT4 > 20 再発率 86%
 中止時 TT3/TT4 ≦ 20 寛解率 58%
(J Clin Endocrinol Metab 1983)

TAJIRI
› Titration 法(44例): MMI 1錠で2カ月正常が中止条件
 治療経過中にFT3/FT4比 5.5以上:再発率 91%
 治療経過中にFT3/FT4比 5.5未満:寛解率 82%
 中止時のFT3/FT4比は差がない
(Endocrinol Japon 1991)
報告者
(年)
分析対象
Feldt-Rasmussen
(1994)*1
1991年以前の18論文を
メタ分析
-
寛解 75%
+
再発 75%
Hamada
(2011)*2
高感度(第2世代)TRAbに関
する海外5論文のデータをまとめた
-
寛解 68%
+
再発 64%
*1:TBIIとTSAbの両方の研究を含む
*2:バセドウ病ガイドライン2011
TRAb
予後

いずれのマーカーも使用する条件を考慮すれば有用である。
› マーカーが寛解の基準を満たした条件で投薬を中止した時の寛解
率はおおよそ60~80%
› TRHテスト、T3抑制試験は手技が煩雑で、実施できる施設に制
約があり、簡便さから主にTRAbが利用されてきた。
その後
 KASHIWAI論文(Endocrine Journal 2003)
› 隔日1錠の最少維持量で6カ月甲状腺機能正常が維持されてい
る条件で投薬を中止した時の寛解率は81%で、過去の寛解マー
カーの成績と同等の寛解率を得られる。
› この投与法が日本のガイドラインで中止の目安として記載。
甲状腺機能
正常
0
6
12
18
24
Titration 法
[ガイドライン]
隔日1錠で6ヶ月以上
最少維持量治療法
Block-replace 法
治療期間固定法
30
36
(治療開始後月数)
LT4
?
最少維持量治療法において有
用な寛解マーカーはあるのか?
報告者(年)
Kashiwai *1
(2003)
Okamoto *2
(2006)
Konishi
(2011)
症例数
57例
71例
107例
維持量期間
6カ月
3カ月
3~19カ月
以上
寛解率
81%
63%
74%
有意マーカー
TRAb
予後
-
寛解 89%
+
再発 60%
-
寛解 74%
+
再発 52%
-
寛解 75%
+
再発 43%
TRAb
TRAb
*1:TSAbも有意差あり。FT3, FT4, TSH, 甲状腺サイズは有意差なし
*2:TRAbは第2世代。TSHも有意差あり(1.0μU/mL以下で再発率高い傾向)
100
80
寛解率
(%)
P<0.05
NS
NS
60
TRAb陽性
40
TRAb陰性
20
0
6カ月以下
7カ月~11カ月
12カ月以上
最少維持量期間
(Konishi T , et al. Endocr J 58: 95-100, 2011)
P< 0.05
(U/L)
4
3
2
1
0
寛解群
再発群
(Okamoto Y, et al. Endocr J, 2006)
いずれの報告でも寛解群と再発群との間には
TRAbに有意差を認める。しかし、分離能は低く、
特に陽性の場合は寛解・再発予測は困難である。
 報告数は十分ではなく、さらに検討が必要。
 TRAb以外のマーカーはほとんど検討されていない。


隔日投与で正常が維持されることが良い寛解マー
カーであるなら、さらに少量にすることは有用か?





対象は2006年4月~2010年3月にすみれクリニック
を受診した未治療または抗甲状腺薬治療開始早期
(3カ月以内)の全バセドウ病患者511人(女403
人、男108人)
2012年10月までの治療経過を分析した。
年齢分布は男女とも30代をピークとする一峰性分布
を示し、これまで報告されている年齢分布と一致した。
ガイドラインに準じて抗甲状腺薬投与を行い、最少維
持量は隔日1錠または更に減量して週に2~1錠とし
た。
最少維持量で6カ月以上機能正常が持続すれば抗
甲状腺薬投与を中止した。
転帰
抗甲状腺薬中止の基準を満たしたもの
(隔日1錠で投与中止したもの)
人数
中止時寛解マーカーの分析
252 49%
(112)
(週に2~1錠で投与中止したもの)
(87)
(隔日1錠では正常で、週に2~1錠に減量後悪化したもの)
(19)
(患者希望や他の臓器合併症等により中止せずに継続しているもの)
(34)
妊娠に伴い中止できたもの
2年またはそれ以上の抗甲状腺薬治療で中止の基準を満たさないもの
抗甲状腺薬の副作用で1年以内に放射性ヨード内用療法を行ったもの
抗甲状腺薬の副作用や癌の合併のため1年以内に手術を行ったもの
転院または通院中断
特殊な病態による分析対象外
12
175 34%
14
4
52 10%
2
投薬終了時のFT3, FT4, FT3/FT4比, TSH
 投薬終了時のTRAb
 投薬終了時の血清サイログロブリン
 全投薬期間
 最少維持量期間

(男女別に分析)
寛解群(109人)
再発群(29人)
有意差
投薬期間(日)
749(132 – 1927)
843(201 – 1295)
n.s.
最少維持量期間(日)
287(37-867)
245(72-938)
n.s.
FT3(pg/mL)
2.68(1.43 - 3.30)
2.66(2.42 - 3.79)
n.s.
FT4(ng/dL)
1.15(0.65 - 1.54)
1.21(0.92 - 1.58)
n.s.
FT3/FT4比
2.28(1.61 - 3.14)
2.46(2.01 - 2.84)
n.s.
TSH(μU/mL)
1.34(0.57 - 8.31)
1.17(0.50 - 4.89)
n.s.
Tg(ng/mL)
21.8(6.4 – 47.5)
30.7(2.8 – 62.9)
n.s.
TRAb(U/L)
1.0未満(1.0未満 – 8.2)
1.05(1.0未満 – 3.1)
寛解率 79%
• TRAb 陰性: 86%
• TRAb 陽性: 71%
中央値(最小 – 最大)
P<0.05
寛解率は70%
 TRAbを含め、すべての項目で寛解群と再発群の
間に有意差なし

女性
寛解
再発
寛解率
隔日1錠で中止
67
19
38
78%
64%
週に2~1錠で中止
42
10
81%
P< 0.05
n.s.
隔日1錠で正常、週2~1錠に減量後に悪化したもの19例
これらを隔日1錠の再発群に含めると
男性
寛解
再発
寛解率
隔日1錠で中止
10
5
67%
週に2~1錠で中止
9
3
75%
n.s.

最少維持量治療法においては、TRAbはこれまで
の報告同様、再発群で有意に高値を示すが、分
離能は低く有用性は限られる。(女性)

隔日1錠では正常を維持できるが、週に2~1錠に
減量すると悪化するケースがあり、最少維持量をよ
り少量にすることは寛解率を高めるのに有用である。
(女性)

最少維持量治療法では中止の条件を満たすこと
ができれば80%の高い寛解率が得られる。

治療開始時点において、最少維持量で中止でき
る条件に持っていけるかどうかを予測できれば、治
療法の選択、治療計画を考える上で有用。
転帰
抗甲状腺薬中止の基準を満たしたもの
(隔日1錠で投与中止したもの)
人数
252 49%
(112)
(週に2~1錠で投与中止したもの)
(87)
(隔日1錠では正常で、週に2~1錠に減量後悪化したもの)
(19)
(患者希望や他の臓器合併症等により中止せずに継続しているもの)
(34)
妊娠に伴い中止したもの
2年またはそれ以上の抗甲状腺薬治療で中止の基準を満たさないもの
抗甲状腺薬の副作用で1年以内に放射性ヨード内用療法を行ったもの
抗甲状腺薬の副作用や癌の合併のため1年以内に手術を行ったもの
転院または通院中断
特殊な病態による分析対象外
12
175 34%
14
4
52 10%
2
比
較
性別
 治療開始時年齢
 FT3, FT4, FT3/FT4比
 TRAb
 甲状腺体積


治療開始6カ月後のTRAb
中止基準達成 中止基準達成せず 未達成率
女性(338人)
男性(89人)
208
130
38%
44
45
51%
P<0.05
オッズ比 1.64(95%信頼区間:1.02-2.62)
P<0.01
80
70
60
50
年齢
(歳)
41
40
34.5
30
20
10
0
達成
未達成
FT3(pg/mL)
30
FT4(ng/dL)
FT3/FT4比
12
P<0.01
8
P<0.01
25
P<0.01
7
10
6
20
8
5
16.7
15
6
5.3
12.2
10
3.1
3
3.9
4
4
3.4
2
5
2
0
0
達成
未達成
1
0
達成
未達成
達成
未達成
治療開始時
治療開始6カ月後
30
60
50
25
P<0.01
20
40
(IU/L)
P<0.01
(IU/L)
30
20
18.3
10
15
10
8.6
5
9.7
3.5
0
0
達成
未達成
達成
未達成
140
P<0.01
120
100
80
(mL)
60
40
34
24
20
0
達成
未達成
(ROCから求めたカットオフ値)
中止基準達成困難リスクの増加→
35歳未満 *
2.35(1.49-3.71)
FT3 20 pg/mL以上
3.34(1.99-5.59)
FT4 6 ng/dL以上
3.73(2.24-6.21)
FT3/FT4比 3以上
2.24(1.38-3.63)
TRAb 15 IU/L以上
3.45(2.03-5.87)
甲状腺体積 30 mL以上 *
3.63(2.29-5.78)
6カ月後のTRAb 6 IU/L以上 *
5.71(3.35-9.71)
(* 多変量解析で有意)
0 1
2
4
6
オッズ比(95% CI)
8
10

治療開始時年齢年齢
› 35歳未満:49%
› 35歳以上:69%

甲状腺体積
28%
› 30 mL以上:44%
› 30 mL未満:74%

6か月後のTRAb
› 6 IU/L以上:42%
› 6 IU/L未満:81%
34%
ROC分析から求めたカットオフ
オッズ比(95%信頼区間)
甲状腺体積40 mL以上
3.33(1.37-8.08)
治療開始6か月後のTRAb 3 IU/L以上
6.30(2.01-19.76)
他の因子は有意でない
中止基準達成率
• 甲状腺体積
40 mL以上:33%
40 mL未満:63%
• 6か月後のTRAb
3 IU/L以上:40%
3 IU/L未満:81%
25%

治療開始時

中止時
› 男性は女性に比較して、投薬を中止できない率が高い。
› 女性における中止基準達成困難予測マーカー
 35歳未満
 甲状腺体積 30 mL以上
 治療開始6カ月後のTRAb 6 IU/L以上
› 男性における中止基準達成困難予測マーカー
 甲状腺体積 40 mL以上
 治療開始6カ月後のTRAb 3 IU/L以上
› TRAbは再発群で有意に高値を示すが、分離能は低い。
› 最少維持量をより少ない週に2~1錠にすることは寛解率を高める
のに有用。
最後に
最少維持量治療法において、
投薬中止できるかどうかだけでなく、投薬中止
できた患者の寛解・再発の予測が治療開始
時にできるか?
70
P<0.05
60
50
体積 40
(mL) 30
25.4
21.9
20
10
0
寛解
再発
未治療バセドウ病 抗甲状腺薬治療
男性
女性 35歳未満
甲状腺体積の評価
女性 30mL以上
男性 40mL以上
治療開始6カ月後のTRAb評価
女性 6 IU/L以上
男性 3 IU/L以上
中止基準達成困難予測群
抗甲状腺薬治療継続
隔日1錠で正常
中止基準達成せず
甲状腺サイズ 大
and/or TRAb陽性
週に2~1錠で正常
投薬中止
抗甲状腺薬以外の治療も検討