上級価格理論II 第3回 2011年後期 中村さやか 今日やること 2. 完備情報の動学ゲーム • 2.1 完備完全情報の動学ゲーム – 2.1.A 理論:逆向き推論法 – 2.2.B シュタッケルベルクの複占モデル – 2.2.D 逐次的交渉 完全情報の動学ゲームの例 2手番ゲーム (two-stage game) i=1,2 ① プレーヤー1がプレーヤー2に1000ドル渡すか渡さないか決 める ② プレーヤー2はプレーヤー1の選択を見たうえで、手りゅう弾 を爆発させるか決める 手りゅう弾を爆発させるとプレーヤー1,2とも死亡 完全情報 (perfect information) • 各プレーヤーが自分の手番になったとき、それまでのゲー ムの歴史を完全に知っている • 歴史 (history): 各プレーヤーの選択の記録 信頼性のない脅し ① プレーヤー1がプレーヤー2に1000ドル渡すか渡さないか決 める ② プレーヤー2はプレーヤー1の選択を見たうえで、手りゅう弾 を爆発させるか決める 手りゅう弾を爆発させるとプレーヤー1,2とも死亡 ナッシュ均衡は2つ • プレーヤー1は「渡さない」、プレーヤー2は「プレーヤー1が 渡しても渡さなくても爆発させない」をそれぞれ選択 • プレーヤー1は「渡す」、プレーヤー2は「プレーヤー1が渡す なら爆発させない、プレーヤー2が渡さないなら爆発させる」 をそれぞれ選択 ⇒信憑性のない脅し (ハッタリが効いている) こういうもっともらしくない均衡を除外する均衡概念は? 完備完全情報の動学ゲーム 次に扱う完備完全情報の動学ゲーム: 1. プレーヤー1が実行可能な行動の集合A1から行動a1を選ぶ 2. プレーヤー2はa1を見たうえで実行可能な行動の集合A2か ら行動a2を選ぶ 3. それぞれの利得 u1 (a1, a2), u2 (a1, a2) が決まる 特徴: • 手番が逐次的に回ってくる • 次の手番の前にそれまでの手番でどういう行動が選ばれた か全員にわかっている • 実行可能な行動の組み合わせで決まる各プレーヤーの利 得が共有知識 逆向き推論法 (backward induction) ゲームを後ろから解いていく • 第二段階でプレーヤー2はプレーヤー1が取った行動a1を 所与として自分の行動を選ぶので、プレーヤー2の問題は: Max u2 (a1, a2) a2∊A2 • A1に属する度の行動a1についても上の最大化問題が1つだ けの解を持つとすると仮定し、その解を反応(最適反応)と 呼び、 R2 (a1)と書く • プレーヤー1はプレーヤー2の反応を正しく予測して行動す るので、第一段階におけるプレーヤー1の問題は Max u1 (a1, R2 (a1)) a1∊A1 • 上の問題の解をa*1で表し、(a*1, R2 (a*1))を逆向き推論法 による結果(backward induction outcome)と定義する 3手番ゲーム 1. プレーヤー1はLまたはRを選ぶ Lならゲームは終わり、利得は(2,0) 2. プレーヤー2はプレーヤー1の選択を見て、RならばL’かR’ のどちらかを選ぶ L’ならゲームは終わり、利得は(1,1) 3. プレーヤー1はプレーヤー2の選択を見て(かつ自分の第1 段階での選択も念頭に置いて)、もしそれらがR, R’ならば L’’かR’’のどちらかを選ぶ どちらの場合もゲームは終わり L’’なら利得は(3,0)、R’’なら利得は(0,2) Game Tree 1 L R 2 (2,0) L’ R’ 1 (1,1) L’’ (3,0) R’’ (0,2) 逆向き推論法の前提: プレーヤーの合理性が共有知識 • プレーヤーが二人とも合理的であるにもかかわらず、プレー ヤー1がLではなくRを選ぶことはありうるか? ケース1: • プレーヤー1が合理的であることは共有知識であるが、プ レーヤー2が合理的であることは共有知識でない ⇒プレーヤー2がL’でなくR’を選ぶかもしれないとプレーヤー1 が予測 ケース2: • プレーヤー2が合理的であることは共有知識であるが、プ レーヤー1が合理的であることは共有知識でない ⇒プレーヤー1がL’’でなくR’’を選ぶかもしれないとプレーヤー2 が予測するとプレーヤー1が予測 シュタッケルベルク・モデル • Stackelberg, 1934 • 寡占市場: 1つの巨大企業とその他の企業 • 支配的(先導的)企業が先に生産量/価格を決め、それを見 て次に従属的(追従的)企業が生産量/価格を決める (ここでは複占市場で生産量を決めるモデルを紹介) 例: • GMとフォード・クライスラー • コカコーラとサントリー・キリン シュタッケルベルク・モデル: 仮定 企業が逐次的に行動する以外はクールノー・モデルと同じ • • • • • 複占(duopoly): 企業1,2 qi =企業iの生産量, i =1,2 ⇒ 総生産量: Q= q1 + q2 P(Q) = a - Q (a > 0) = 総生産量Qのもとで需給が一致する価格 企業iの総費用 = Ci(qi) = cqi, (0 < c < a) ⇒ 固定費用ゼロ、限界費用はcで一定 企業1が最初に生産量を決定し、企業2がそれを見てから 次に生産量を決定 企業2の反応関数 企業2の最適化問題: Max π2(q1, q2) = Max q2 (a - q1 - q2 - c) q2≧0 q2≧0 注意: 企業1の生産量は企業2にとって所与(定数) 1階の条件(π2(q1, q2)をq2について偏微分して0とおく): a - q1 - 2q2 - c=0 これをq2について解くと q2 = (a - c - q1 )/2 ⇒ 企業2の反応関数は R2 (q1) = (a - c - q1 )/2 企業1の生産量によって企業2の生産量が決定 ⇒企業1はこれを正しく予想して行動する 企業1の行動 企業1の最適化問題: Max π1(q1, R2 (q1)) q1≧0 π1(q1, R2 (q1)) = q1 (a - q1 - R2 (q1) - c) = q1 (a – c - q1 - (a - c - q1 )/2 ) = q1 (a - c - q1 )/2 注意: 企業2の生産量は企業1にとって所与ではない 1階の条件(π1(q1)をq1について微分して0とおく): a - c - 2q*1 =0 これをq1について解くと q*1 = (a - c)/2 ⇒ 企業2の供給量は q*2 = R2 (q*1) = (a - c - q*1 )/2 = (a - c - (a - c)/2 )/2 =(a-c)/4 クールノー・モデルとの比較 クールノー (C) シュタッケル ベルク (S) 企業1の生産量 企業2の生産量 (a-c)/3 (a-c)/3 (a-c)/2 (a-c)/4 総生産量 2(a-c)/3 3(a-c)/4 • (S)のほうが(C)より総生産量が多い⇒価格が低い • 企業1は(S)で(C)と同じ生産量を選んで(C)と同じ利潤を得 ることもできたがそうしなかった ⇒企業1は(S)では(C)より多くの利潤を得ている • (S)では(C)より価格が低い & 企業2の生産量が少ない ⇒企業2は(S)では(C)より少ない利潤を得ている クールノー・モデルとの比較 続き • もし企業2が企業1の生産量を知らずに生産量を選ぶ(そし てそれを企業1も分かっている)ならば、シュタッケルベル ク・モデルではなくクールノー・モデルになる • 企業2が企業1の生産量を知っており、さらにそのことを企 業1に知られていることが企業2を不利にしている • 1人の意思決定問題では情報を持つことでより不利になる ことはありえないが、ゲーム理論では「より多くの情報を 持っていると相手に知られること」で不利になることがある 3期間の逐次的交渉ゲーム • 2人のプレーヤー i=1,2: 2人とも危険中立的 • プレーヤーiの割引率はδi (0<δi<1) • 1(万円)の分け方(1の取り分、2の取り分)を決める ルール: t=1: 1が(1の取り分、2の取り分)=(s1, 1- s1)を提案する 2が提案を受け入れるか拒否するか決める 受け入れ ⇒ (s1, 1- s1)で分ける 拒否 ⇒ 2が分け方(s2, 1-s2)を提案する t=2: 1が提案を受け入れるか拒否するか決める 受け入れ ⇒ (s2, 1-s2)で分ける 拒否 ⇒ t=3に続く t=3: (s, 1-s)で分ける (sの値は外生的に決まっている) ナッシュ均衡はたくさんある 例) • 2は自分の取り分が1/2以上なら受け入れ、1/2未満なら拒 否 • 1は(1/2, 1/2)を提案 実は、どんな分け方もナッシュ均衡になる 逆向き推論法: 最終段階の意思決定 t=2: t=3: 1が提案を受け入れるか拒否するか決める 受け入れ ⇒ (s2, 1-s2)で分ける 拒否 ⇒ t=3に続く (s, 1-s)で分ける (sの値は外生的に決まっている) 仮定: 無差別ならば受諾する 受諾した場合の1の取り分の割引価値: s2 拒否した場合の1の取り分の割引価値: δ1s 1は s2≧δ1s ならば受諾し、 s2<δ1s ならば拒否する 逆向き推論法: プレーヤー2の提案 2が分け方(s2, 1-s2)を提案する s2≧δ1s ならば1が受諾し、(s2, 1-s2)で分ける ⇒ 2の取り分の割引価値は1-s2 s2<δ1s ならば1が拒否し、(s, 1-s)で分ける ⇒ 2の取り分の割引価値はδ2(1-s) s2>δ1s を提案するよりは s2=δ1s を提案した方がよい s2=δ1s を提案した場合の2の取り分は 1-δ1s ⇒ δ1とδ2が十分近いならば、これは s2<δ1s を提案した場合 の2の取り分の割引価値δ2 (1-s) より大きい ⇒ 2は (δ1s, 1- δ1s) を提案し、1はそれを受諾する 「交渉力の原理」 • 提案する側は、相手が受け入れても拒否してもちょうど無 差別になる水準まで相手の取り分を下げることができる 逆向き推論法: プレーヤー2の受諾/拒否 仮定: 無差別ならば受諾する 1が提案した(s1, 1- s1)を受け入れるか拒否するか 受け入れ ⇒ 取り分の割引価値は 1- s1 拒否 ⇒ 2が分け方(δ1s, 1-δ1s)を提案し、1はそれを受諾 ⇒ 取り分の割引価値は δ2 (1-δ1s) 1- s1 ≧ δ2 (1-δ1s) ならば受け入れ 1- s1 < δ2 (1-δ1s) ならば拒否 s1 ≦ 1 - δ2 (1-δ1s) ならば受け入れ s1 > 1 - δ2 (1-δ1s) ならば拒否 逆向き推論法: 最初の意思決定 仮定: 無差別ならば受諾する 1が(s1, 1- s1)をどのように提案するか? s1 ≦ 1 - δ2 (1-δ1s) ならば2が受け入れ⇒ (s1, 1- s1)で分ける ⇒ 1の取り分の割引価値はs1 s1 > 1 - δ2 (1-δ1s) ならば2が拒否 ⇒ (δ1s, 1- δ1s)で分ける ⇒ 1の取り分の割引価値はδ12s s1 =1 - δ2 (1-δ1s) にするか、2に拒否される提案をするか δ1とδ2が十分近いならば、2に拒否される提案をした場合の 取り分の割引価値 δ12s より s1=1-δ2(1-δ1s) を提案した場の 取り分の割引価値 1-δ2(1-δ1s) の方が大きい ⇒ 1は(1-δ2(1-δ1s), δ2(1-δ1s))を提案、2は受け入れ 無限期の逐次的交渉ゲーム • 2人のプレーヤー i=1,2: 2人とも危険中立的 • プレーヤーiの割引率はδi (0<δi<1) • 1(万円)の分け方(1の取り分、2の取り分)を決める ルール: t=1: 1が(1の取り分、2の取り分)=(s1, 1- s1)を提案する 2が提案を受け入れるか拒否するか決める 受け入れ ⇒ (s1, 1- s1)で分ける 拒否 ⇒ 2が分け方(s2, 1-s2)を提案する t=2: 1が提案を受け入れるか拒否するか決める 受け入れ ⇒ (s2, 1-s2)で分ける 拒否 ⇒ 1が分け方(s’1, 1- s’1)を提案する t=3: ・・・これを無限に繰り返す ナッシュ均衡はたくさんある 例) • 1は(1, 0)を必ず提案し、それ以外の分け方は拒否 • 2は1の提案は何でも受け入れる 自分も(1, 0)を提案 ⇒ 0時点では互いに最適反応 逆向き推論法 • • • ⇒ ⇒ • ⇒ ⇒ • 逆向き推論法によって最後から解いていくには最後の手 番が必要だが、無限期だと最後は存在しない 第3期から始まるゲームはゲーム全体(第1期から始まる ゲーム)と全く同じ 第3期から始まるゲームでの分け方が(s,1-s)であると仮定 このゲームは3期間のゲームとして解くことができる 1は最初に(1-δ2(1-δ1s), δ2(1-δ1s))を提案、2は受け入れ 定常性を持つ均衡を仮定すると、第1期から始まるゲーム の分け方は第3期から始まるゲームの分け方 と同じはず s=1-δ2(1-δ1s), 1-s=δ2(1-δ1s) s=(1-δ2)/(1-δ1δ2), 1-s=δ2(1-δ1)/(1-δ1δ2) 1は最初に((1-δ2)/(1-δ1δ2), δ2(1-δ1)/(1-δ1δ2))を提案、2は 受け入れ 割引率と交渉力 (s, 1-s)=((1-δ2)/(1-δ1δ2), δ2(1-δ1)/(1-δ1δ2))で分配 • δ1=δ2=δの場合、 (s, 1-s)=(1/(1+δ), δ/(1+δ)) ⇒ 先に提案するほうが有利 ⇒ δ→1のとき(我慢強くなる、もしくは提案と再提案の間の時 間が短くなる)、 (s, 1-s)→(1/2, 1/2) • δ2が一定で δ1→1のとき、 (s, 1-s) →(1, 0) δ1が一定で δ2→1のとき、 (s, 1-s) →(0, 1) ⇒ 我慢強いほうが多くの分け前を得る
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