地方自治体による クリーンエネルギー導入事例 『風をつかんだ町』より はじめに • 『毎年一五〇人が姿を消し、山が交通を阻害し、 冬になると雪に悩まされ、温泉もなければリゾー ト施設もない町―一〇年前には年間六万人に過ぎ なかった町への訪問客が、いまや五〇万人を超え た。町をあげて行っている「クリーンエネル ギー」の実態を見て、そのノウハウを学ぼうとし てやってくるのだ。』―冒頭より • 葛巻町の新エネルギー利用の経済効果は、二〇 〇四年時点で十二億円と算出された。如何にして 葛巻町は、再生可能エネルギー利用政策を軌道に 乗せることができたか、『風をつかんだ町』を読 んで考察してみる。 葛巻町 人口と世帯数の推移 18,000 16,000 15,558 15,964 人 口 15,479 世帯数 14,135 14,000 13,044 11,972 12,000 11,231 10,364 9,536 10,000 8,725 8,021 8,000 7,770 6,000 4,000 2,000 0 2,481 2,746 2,869 2,936 3,025 3,095 3,033 2,974 2,913 2,873 2,733 2,891 葛巻町とは ―クリーンエネルギー導入以前― • 地理的条件 中心部は標高約四〇〇㍍、周囲を一〇〇〇㍍を 超える山々に囲まれる。町の八六%は山林。 • 酪農 一九七五年に開始された北上山系開発事業より 広大な牧草地が造成、事業として本格化。 • その他内発型町おこし 山ぶどうワインの生産や、木材資源の活用な ど、地域の特性を活かした産業振興を行う。 クリーンエネルギー導入までの流れ • 産廃業者への対抗策として 1988年頃産業廃棄物処理業者が土地を取得 産廃事業による補償、雇用の創出 地場産業のイメージダウン • 産業廃棄物運搬反対規制同盟会結成 →産廃業者の進出は合法的で、役場は排除する 権能を持たない →「自然の豊かな町 葛巻町」のイメージを定 着させ、産廃事業を断念させる作戦へ クリーンエネルギー 導入 なぜクリーンエネルギーか • 一九八一年から木質ペレットの開発を開始して いた。 • 葛巻町らしさの模索、新しいイメージの構築 葛巻町イメージ検討委員会より三テーマ提起 <酪農を基本とした町づくり> <開かれた町づくり> <山村文化の町づくり> 葛巻町らしさ=「豊かな自然環境」 葛巻町の将来像は「自然との共生」 風車導入まで • 産廃問題解決のための具体案として一九九六年 に風車導入が提起される。 • 九八年春「エコ・ワールドくずまき風力発電株 式会社」が第三セクターとして発足。 • 同九八年七月デンマーク視察 産廃問題解決を掲げていた自治体は、ようやく 出た風力発電導入という具体案に即座に反応し た。 • 風力発電の三条件 ▶一年を通じて恒常的に風が吹いている ▶風車建設のための機材を運ぶための道路がある ▶発電した電力を送るための送電線がある 北上山系開発事業によって 畜産関係の調査としての風況調査 牧場の開発に伴う道路・送電線整備 が既に行われていた 九八年、議会で風車三基の建設が承認される。 (建設費三億四千万円;第三セクター50%国からの補助金50%) 住民との合意形成 • 経済性 住民の最大の関心 事。 風車を取り入れるこ とで実際にどのよう な利益が見込めるの か、採算は取れるの か。直接的利益。 • 環境への配慮 世界的に、また日本で 環境保護に関心が集 まっている時期である ことから、導入により 大きなイメージアップ が見込める。間接的利 益。(九七年京都議定 書) 風車建設決定その後 • 九九年三月「葛巻町新エネルギービジョン」 →風車建設に合わせ、クリーンエネルギー利用に ついての町の理念とビジョンを掲げる。 →「天のめぐみ」 太陽光や風力 「地のめぐみ」 畜産糞尿や水力 「人のめぐみ」 豊かな風土・文化 • 九九年六月風車稼働 三年ほどで安定した運用が可能に。 • 二〇〇三年新たに十二基の風車を建設。グリー ンパワー葛巻風力発電所として本格稼働。 一基の最大発電出力一七五〇kW 合計二一〇〇〇kW (以前の風車三基の合計最大発電出力一二〇〇kW) • 同二〇〇三年産廃業者完全撤退 • 風車は葛巻町のシンボルに。取材などにより、 特産品も相乗効果で売り上げを伸ばし知名度を 上げた。 その他クリーンエネルギー導入 ―クリーンエネルギーのショールーム― • 「新エネルギービジョン」から二〇〇四年「省 エネルギービジョン策定事業」を経て、葛巻町 は、畜糞・木質バイオマス、太陽光発電にも力 を入れている。 ▶畜糞バイオマス;主産業が酪農であるため ▶木質バイオマス;林業の再生という課題のため ▶太陽光発電;個人単位で比較的容易に利用でき る 例 葛巻中学校 • 二〇〇〇年全面改築に伴い、岩手県内最大規模 となる五〇kWの太陽光発電システムを導入。 生徒や地域住民に対して地球環境保全の重要性や クリーンエネルギーへの関心を高める環境教育的効果 + 災害時の電力供給 現状;利用実態 • 岩手県葛巻町は現在でも、「自然と人間の共 生」をまちづくりの基本に据え、再生可能エネ ルギー利用を推進。電気生産量はエネルギー自 給率八〇%に達している。「風力発電」が代表 的で、総定格出力二万二五〇〇kWのうち「風力 発電」が二万二二〇〇kWを担っている。 • エネルギー一〇〇%自給というテーマの下、小 水力発電やバイオガス利用などにも着手してい る。 現状;制度面での保障 • 葛巻町独自のものとして、二〇〇三年新エネル ギー導入事業費補助金制度開始 • 国や県でも導入費用に対する補助金、税制優遇 措置など • 特に太陽光発電による売電価格は改善した。 1kWh=二五円程度→四〇円程度 ケーススタディとして • 第三セクターによる町おこしの成功事例 葛巻町の代表的な第三セクターは全て黒字経営 ・くずまき高原牧場 ・くずまきワイン ・グリーンテージくずまき • エコエネルギー導入の効果 ・住民の意識を変革 ・イメージアップ ・交流人口の増加 課題 • 風力発電の経済的価値 風力発電の売電価格は現在1kWhあたり六~七 円であり、売電価格の改善が求められる。 • 風力以外のエネルギー利用 クリーンエネルギーのショールームというだけ あり、様々なエネルギー利用が試みられている が、一層の技術の向上に加え利用面での充実が 必要と言える。 おわりに • 感想 今回の事例では、産廃問題が絡み、住民と行政 の高いモチベーションがよい結果に結びつい た。それゆえ他の地域に適用できるか疑問であ る。 また、過疎化が進む地域でなく、大量のエネル ギーが実際に必要な都市での利用に関してはど うか考えさせられた。 参考 • 前田典秀 風雲舎 風をつかんだ町 • NEPS(新エネルギーパートナーシップ) http://neps.nef.or.jp/jichi_01kuzumaki.html • 葛巻町役場 http://www.town.kuzumaki.iwate.jp/index.php
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