上級価格理論II 第5回 2011年後期 中村さやか 今日やること 2. 完備情報の動学ゲーム • 2.3 繰り返しゲーム – 2.3.B 無限繰り返しゲーム (続き) – 2.3.C クールノー型複占企業間の共謀 定義: 実現可能な利得 • • • • 段階ゲームGの利得 (x1 ,…, xn) がGの純粋戦 略による利得の突結合とし て書けるとき、その利得を 実現可能(feasible)と呼ぶ 突結合:非負で和が1にな るウェイトを用いた加重平 均 二つの点を結んだ線上の 点は突結合として書ける 図形の内部の点も突結合 として書ける x2 囚人のジレンマゲーム の純粋戦略の利得 (0,5) (4,4) (1,1) (5,0) x1 青緑の部分が実現可能な 利得 実現可能な利得と混合戦略 例1 • 混合戦略によって(0,5)と (4,4)がそれぞれ正の確率 で実現し、平均的にはAが 実現 例2 • 混合戦略によって(0,5)、 (4,4)、(1,1)がそれぞれ正 の確率で実現し、平均的に はBが実現 x2 4つの点:囚人のジレン マゲームの純粋戦略の 利得 (0,5) (4,4) B (1,1) A (5,0) x1 青緑の部分が実現可能な 利得 定義: 平均利得 • • 割引因子がδの時に、各期に利得をπ1, π2, π3,・・・だけ得る のと同じ現在価値を、毎期同じ値の利得を得て達成するに は、毎期どれだけの利得を得る必要があるか? 毎期同じ利得πを得た場合の利得の無限列の現在価値は π/(1-δ) これが利得の無限列π1, π2, π3,・・・の現在価値と一致する なら、πは利得の無限列の平均利得(average payoff) 1 t 1 t t 1 (1 ) t 1 t t 1 フリードマンの定理 (Friedman 1971) Gを完全情報の有限静学ゲームとする。 (e1,・・・en)をGのナッシュ均衡での利得とし、(x1,・・・ xn) をG のそれ以外の実現可能な利得とする。 このときもし xi > ei がどのプレーヤーについても成り立ち、か つδが十分1に近いならば、無限回繰り返しゲームG(∞, δ)の、 (x1,・・・ xn)を平均利得とするサブゲーム完全なナッシュ均衡 が存在する。 フリードマンの定理の例 • 4つの点:囚人のジレン マゲームの純粋戦略の 利得 有限ゲームでのナッシュ均 x2 衡の利得は(1,1) ⇒ π1>1 かつ π2>1 ならば (4,4) (0,5) 各プレーヤーがこれを超え る利得を得られる ⇒ (もしδが十分1に近けれ ば)青色の部分に含まれる どの点も、無限回繰り返し (1,1) (5,0) ゲームのサブゲーム完全 x1 なナッシュ均衡の平均利得 として達成可能 青緑の部分が実現可能な 利得 フリードマンの定理の証明 (ae1,・・・, aen): 均衡利得が(e1,・・・, en)となるGのナッシュ均衡 (ax1,・・・, axn): 実現可能な利得(x1,・・・, xn)をもたらす行動の組 プレーヤーiのトリガー戦略: • 第1段階では axi をプレーする • 第t段階では、もし前の期のt-1段階の結果が (ax1,・・・, axn) ならば axi をプレーし、そうでなければ aei をプレーする WTS (証明したいこと): 1. もしδが十分1に近いならば、各プレーヤーがこの戦略を取る ことが無限回繰り返しゲームのナッシュ均衡になる 2. そのようなナッシュ均衡はサブゲーム完全 WTS1: トリガー戦略がナッシュ均衡 WTS1: もしδが十分1に近いならば、各プレーヤーがこのトリガー戦 略を取ることが無限回繰り返しゲームのナッシュ均衡になる 証明: ① 他の全員がトリガー戦略を取っていて、それまで毎回(ax1,・・・, axn)がプレーされていたとする • プレーヤーiがトリガー戦略から逸脱した期に得られる最大の 利益をdiとすると、この期以降の利得の現在価値は di+δei/(1-δ) • 逸脱しなければ、この期以降の利得の現在価値は xi/(1-δ) • 逸脱しないほうがよい ⇔ xi/(1-δ) ≧ di+δei/(1-δ) ⇔ δ≧(di-xi)/(di-ei) WTS1: トリガー戦略がナッシュ均衡 続き • 「各プレーヤーがこのトリガー戦略を取ることが無限回繰り返 しゲームのナッシュ均衡になる」 ⇔ δ≧Max(di-xi)/(di-ei) (★) i • どのプレーヤーiについても、di≧xi>ei より、 (di-xi)/(di-ei)<1 – – – di: 逸脱した期の最大利益 ei: 有限回繰り返しゲームのナッシュ均衡での利得 xi: 実現可能な利得 定理の仮定によりxi>ei ⇒ もしδが十分1に近ければ(★)が成立 ② 他の全員がトリガー戦略を取っていて、それ以前に一度でも (ax1,・・・, axn)以外がプレーされていたとする ⇒ 他の全員が(ae1,・・・, aei-1, aei+1,・・・, aen)をプレーするので、 自分もeiをプレーするのが最適 WTS2: トリガー戦略のナッシュ均衡は サブゲーム完全 WTS2: G(∞,δ)のどのサブゲームにおいても、各プレーヤーがこのト リガー戦略を取ることがナッシュ均衡になる 証明: • G(∞,δ)のどのサブゲームも、 G(∞,δ)と同じ形をしている • サブゲームは二種類ある: ① それまでの結果すべてが (ax1,・・・, axn)のサブゲーム ⇒ 上で示した通り、全員がトリガー戦略をとるのがナッシュ均衡 ② それ以前に少なくとも1回 (ax1,・・・, axn)以外の結果が生じて いるサブゲーム ⇒ 上で示した通り、全員がトリガー戦略をとるのがナッシュ均衡 クールノー型複占企業間の共謀 静学的クールノーモデル: • 両企業が同時に生産量を決定 • ナッシュ均衡における両企業の利潤の和は、独占利潤より も少ない (両企業の生産量の和が独占生産量よりも多いため) • 両企業が結託して各企業が独占生産量の半分を作るのは 静学的モデルではナッシュ均衡ではない 無限回繰り返しゲーム: • トリガー戦略によって結託が可能になる クールノー・モデル: 仮定 • • • • • • • 複占(duopoly): 企業1,2 同質的な生産物 qi =企業iの生産量, i =1,2 Q = q1 + q2 = 市場での総供給量 P(Q) = a – Q, (a > 0) = 市場での総供給量がQのとき需給が一致する価格 (逆需要曲線) 企業iの総費用= Ci(qi) = cqi, (0 < c < a) ⇒ 固定費用ゼロ、限界費用はcで一定 企業は生産量を同時に(=相手の生産量を知る前に)決定 クールノー・モデル: ナッシュ均衡 (q*i, q*j)がナッシュ均衡 ⇔ i=1,2について、 q*iが Max πi (qi, q*j) の解になっている qi≧0 Max πi (qi, q*j) = qi [a - (qi+q*j) - c] を解くと、一階の条件より qi≧0 qi =(a - q*j - c)/2 注意:相手の生産量は自分にとって所与(定数) 連立方程式として q*1 =(a - q*2 - c)/2, q*2 =(a - q*1 - c)/2 を解くと、 q*1 = q*2 =(a-c)/3 クールノー・モデル: 独占/談合との比較 • 2社の利潤の和が最大になるように各社の生産量を選択: Max π1(q1,q2)+π2(q1,q2)=(q1+q2)[a-(q1+q2)-c] q1,q2≧0 ⇔ Max Q[a-Q-c] ⇒ 一階の条件より Q**=q**1+q**2=(a-c)/2 Q≧0 • 一方、ナッシュ均衡の総供給量は 2(a-c)/3 > (a-c)/2 ⇒ ナッシュ均衡での総供給量は独占の下での総供給量より多 く、総利潤はより少ない • もし片方の企業が独占供給量の半分の(a-c)/4だけ生産した 場合、もう一方の企業の最適反応は qi = [a-c-(a-c)/4]/2 = 3(a-c)/8 > (a-c)/4 ⇒ 各企業が独占供給量の半分ずつ生産する場合、どちらの企 業にもそこから逸脱するインセンティブが働く トリガー戦略がサブゲーム完全なナッシュ均衡 トリガー戦略: • 第1期には独占生産量の半分qm/2を生産する • 第t期には、もしt-1期において2企業が毎期それぞれqm/2を 生産していたなら、その期でもqm/2を生産する • そうでなければクールノー生産量qcを生産する • もしδの値が十分1に近ければ、両企業が上のトリガー戦略 をプレーすることがサブゲーム完全なナッシュ均衡になる 生産量と利潤 1. 両企業とも独占生産量の半分qm/2を生産 ⇒ 両企業の利潤: πm/2 = (a - c)2/8 2. 両企業ともクールノー生産量qcを生産 ⇒ 両企業の利潤: πc = (a - c)2/9 3. 相手がqm/2を生産しているときに自分が今期の利潤を最大 化する生産量を選択 ⇒ Max qi [a - (qi + qm/2) - c] qi≧0 ⇒ 1階の条件より qi = (a - qm/2 - c)/2 ⇒ qm = (a - c)/2 を代入すると qi = 3(a - c)/8 ⇒ 逸脱(deviate)した期の利潤: πd = 9(a - c)2/64 逸脱しない方がよいのはどんなとき? 逸脱しない方がよい ⇔ (πm/2)/(1-δ) ≧ πd + πc[δ/(1-δ)] πm/2 = (a-c)2/8 πc = (a-c)2/9 πd = 9(a-c)2/64 を上式に代入 ⇒ δ≧9/17 つまり、 δ≧9/17ならばトリガー戦略がナッシュ均衡 これはどのようなサブゲームについても成立する ⇒ このナッシュ均衡はサブゲーム完全 割引率δが小さい場合のトリガー戦略 δ<9/17 のときは何が達成できるか? ⇒ 両企業が独占生産量の半分qm/2を選ぶという結果はトリ ガー戦略によっては達成できないが、両企業がクールノー 生産量qcよりは少ない生産量を選ぶという結果ならサブ ゲーム完全なナッシュ均衡として達成できる トリガー戦略: • 第1期にはある生産量q*を生産する • 第t期には、もしt-1期において2企業が毎期それぞれq*を生 産していたなら、その期でもq*を生産する • そうでなければクールノー生産量qcを生産する 生産量と利潤 (2) 1. 両企業ともq*を生産 ⇒ 両企業の利潤: π* = q*(a - c - 2q*) 2. 両企業ともクールノー生産量qcを生産 ⇒ 両企業の利潤: πc = (a - c)2/9 3. 相手がq*を生産しているときに自分が今期の利潤を最大化 する生産量を選択 ⇒ Max qi [a - (qi+ q*) - c] qi≧0 ⇒ 1階の条件より qi = (a - q* - c)/2 ⇒ 逸脱(deviate)した期の利潤: πd = (a - c- q*)2/4 逸脱しない方がよいのはどんなとき? (2) 逸脱しない方がよい ⇔ π*/(1-δ) ≧ πd + πc[δ/(1-δ)] π* = q*(a - c - 2q*) πc = (a-c)2/9 πd = (a - c- q*)2/4 を上式に代入 ⇒ q* ≧ (9-5δ)(a-c)/3(9-δ) = (★) • (★)はδに関する単調減少関数で、δが9/17に近づけばqm/2 に近づき、δが0に近づけばqcに近づく アブル―(Abreu 1986)の戦略 • 最も厳しいペナルティーで脅すことで、割引率δが小さい場 合でも独占生産量を達成できる 飴と鞭(carrot and stick)戦略: • 第1期には独占生産量の半分qm/2を生産する • 第t期には、もしt-1期において2企業が毎期それぞれqm/2を 生産していたなら、その期でもqm/2を生産する • もしt-1期において2企業が毎期それぞれxを生産していた場 合にも、第t期でqm/2を生産する • それ以外の場合にはxを生産する 共謀・懲罰・逸脱 共謀から 逸脱 (一期の) 懲罰期 懲罰から 逸脱しない 共謀 懲罰から 逸脱 (一期の) 懲罰期 懲罰から逸脱しない: 両企業ともその期にxを生産 懲罰から逸脱: (片方もしくは両方が)その期にx以外を生産 生産量と利潤 (3) 1. 両企業ともqm/2を生産 ⇒ πm/2 = (a - c)2/8 2. 相手がqm/2を生産しているときに自分が今期の利潤を最大 化する生産量を選択⇒ πd = 9(a - c)2/64 3. 両企業ともxを生産 ⇒ π(x) = x(a - c - 2x) • V(x):今期π(x)を受け取りその後は永久に独占利潤の半分 πm/2を受け取る無限列の現在価値 V(x) = π(x) + δ(πm/2)/(1-δ) 4. 相手がxを生産しているときに自分が今期の利潤を最大化 する生産量を選択 ⇒ Max qi [a - (qi+ x) - c] ⇒ 1階の条件: qi = (a - x - c)/2 qi≧0 ⇒ 両企業ともxを生産するというpunishmentから逸脱 (deviate)した期の利潤: πdp = (a - c- x)2/4 逸脱しない方がよいのはどんなとき? (3) 2種類のサブゲーム (i) 直前期の結果が(qm/2, qm/2)または(x, x)となる共謀サブ ゲーム (ii) 直前期の結果がそれ以外のサブゲーム (i)で逸脱しない方がよい⇔ (πm/2)/(1-δ)≧ πd +δV(x) (1) (ii)で逸脱しない方がよい⇔ V(x)≧ πdp(x) +δV(x) (2) (1)(2)に V(x) = π(x) + δ(πm/2)/(1-δ) を代入 δ(πm/2 - π(x)) ≧ πd - πm/2 (1’) δ(πm/2 - π(x)) ≧ πdp - π(x) (2’) 逸脱からの今期の利益≦処罰による来季の損失の現在価値 δ=0.5の場合 δ(πm/2 - π(x)) ≧ πd - πm/2 δ(πm/2 - π(x)) ≧ πdp - π(x) (1’) (2’) πm, π(x), πd, πdp の値とδ=0.5を代入すると、 1/8≧x/(a-c) もしくは x/(a-c)≧3/8 ならば(1’)が成立 3/10≦ x/(a-c)≦1/2 ならば(2’)が成立 ⇒ 3/8≦x/(a-c)≦1/2 ならば(1’)と(2’)が成立 ⇒ この戦略がサブゲーム完全なナッシュ均衡 ⇒ δが9/17より小さくても独占生産量が達成できる
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