数学の講義を補完する 自習ウェブサイトの構築 寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部 [email protected] Twitter: @aterao 1.はじめに • 全国的な背景:「学生の十分な質を伴った主 体的な学修時間の増加・確保」(中央教育審議会 答申“新たな未来を気づくための大学教育の質的転換に向 けて”) • われわれの学部での背景:2科目の数学科 目を選択必修で履修. – 演習の時間を確保してはいるが,授業外での学 習も必要 – 文系学生が半数以上 • 学習意欲が高い学生であっても,(特に理系 科目では,)授業外での自学自習は容易では ない. – 本音:学習意欲の低い学生のことは・・・ • 学部では「数学質問部屋」を開設.積極的に 利用している学生が何人かいる. – 望ましいことだが,自学自習の難しさを示してい るとも言える. • 数学の講義を補完する,テキストを自学自習 するためのウェブページの作成. – 統計学(北大・大学院文学研究科「魅力ある大学 院教育」) – 線形代数 • Question:こうしたウェブページは(学習意欲 のある)学生に受け入れられるのか? – 学生に実際に学習してもらい,有用性を評価. 2.方法 • 参加者:線形代数の入門講義を受講していた 1年生に対して,評価実験への参加者を募集. – 謝礼は4,000円. • 4名の学生が募集に応じた. 材料 • テキスト:足立俊明・山 岸正和『入門講義線形 代数』(裳華房) • 第1章を解説したウェブ ページを作成 – テキストの内容の補足 説明 – 演習問題の解答・解説 – 数式の記述には MathML を使用. テキストの内容の補足説明 演習問題の解答・解説 参考:類似の試み • ビショップ『パターン認 識と機械学習の学習 上・下』(丸善出版)の 学習を助ける書籍 手続き • ウェブページを利用してテキスト第1章の内 容すべてを学習. – 主要な教材はテキスト – ウェブページはテキストの補助教材 – いつ,どのようにウェブページを利用するかは, 参加者にまかされた. • テキストの記述に沿って配置されていた6つ の演習問題はすべて解く.章末問題に取り組 むかどうかは自由. • 学習の終了後に,いくつかの質問項目に解 答した. 3.結果と考察 評価実験前の学習 • 今回の学習より前に,テキストの第1章を 何%ぐらい学習していましたか? カ バ ー 率 ( % ) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 評価実験前に, 学習事項のすべて, あるいは大半を,一 度は学習していた. 参加者A 参加者B 参加者C 参加者D 評価実験前の理解度 • 今回の学習より前に,テキストの第1章を 何%ぐらい理解できていましたか? 理 解 度 ( % ) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 評価実験前に, 学習事項の大半を 理解できていた. (自己評価) 参加者A 参加者B 参加者C 参加者D 評価実験後の理解度 • 今回の学習で,テキストの第1章の,何%ぐら いを理解できましたか? 理 解 度 ( % ) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 いずれの参加者も 理解度の自己評価 は10%アップした 学習前 学習後 3時間 50分 2時間 3.5時間 学習に要し た時間 参加者A 参加者B 参加者C 参加者D テキスト理解に役立った? • 全体として,ウェブページはテキストを理解す るのに役立ちましたか? 1. 2. 3. 4. 5. 6. とても役に立った 役に立った やや役に立った あまり役に立たなかった 役に立たなかった まったく役に立たなかった 参加者 A, D 参加者 C 参加者 B • ウェブがテキスト理解に役立ったかの評価は 分かれた. – AとDは高評価 – B(否定的評価)と C は評価があまり高くない • 参加者Bは,評価実験の前に,テキストの内 容のほとんど(90%)を理解できていたため に,新たに役立つ内容がなかったかもしれな い.評価実験に要した時間は1時間以内だっ た. • 他の章でもこのような解説ページがウェブに 用意されたら利用しますか? 1. 2. 3. 4. 5. 利用する可能性が非常に高い おそらく利用する どちらとも言えない 参加者 B おそらく利用しない 利用する可能性は非常に低い 参加者 A, C, D 有用性についての評価が否定的であった参加者Bも含め, すべての参加者は肯定的な回答. 4.おわりに • 数学の講義で,授業を補完するウェブページ を作成すれば,授業外の学習でそれを利用 する学生は存在する. • どれほど多くの学生のニーズがあるかは不 明. – 参加者の募集に応じたのは,わずか4名. – しかし,たとえ少数でも,学習意欲の高い学生の 支援をすることには意味があると考える. 今後の予定 • 統計学の入門講義での,テキスト・授業を補 完するページ • 高校2年,3年生程度の数学を解説するペー ジ – リメディアル教育 – 社会情報学部での数学の入門講義を補完 • 問題演習のページ – 計算問題については STACK を利用 • 類似のウェブページ,電子教材が増えてきた とき,それらに勝つには? – 内容のわかりやすさ.この点は自信を持ってい る.数学,認知科学(教育心理学),情報科学の 教員で連携 – 十分な範囲をカバーする.この点は自信がない. ページのソースを書く作業をほぼ1人で行ってい るため. 謝辞 • 研究プロジェクト「数学系講義を補完する自 習システムの構築」(2013-2014年度,代表 者:寺尾敦)に対して,青山学院大学総合研 究所からの支援を受けました.
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