高額療養費制度と 受診時定額負担 早稲田大学菊池ゼミ 安部・岸本・黒田 1 高額療養費制度とは?? • 公的医療保険における制度の一つ。 医療機関や薬局の窓口で支払った額が、 一定額を超えた場合にその超えた金額を 支給する制度。 • 年齢や所得に応じて、個人が支払う医療費の上限が 定められており、またいくつかの条件を満たすことで さらに負担を軽減する仕組みも。 ex)・世帯合算 …同世帯分の受診についても月単位で合算可。 ・多数該当 …後述。 2 例:100万円の医療費で、窓口の負担 が30万円(3割負担)かかる場合 窓口負担30万円 自己負担3割 医療費100万円 医療保険7割 高額療養費として支給=窓口負担300,000円-負担の上限額87,430円 =212,570円 負担の上限額(*)=80,100円+(医療費-267,000円)×1%=87,430円 *加入者の年齢(70歳以上かどうか)や、所得水準によって分けられる。 (本例では70歳未満、所得区分:一般と仮定) 3 負担の上限額 年齢 所得区分 一ヶ月の負担の上限額 現役並みの所得者(月収28万円以上などの窓口負担3割の方) 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 一般 44,400円 70歳以上の方 Ⅱ(Ⅰ以外の方) 24,600円 Ⅰ(年金収入のみの方の場合、年金受給額80万円以下など、 総所得金額がゼロの方) 15,000円 低所得者(住民税非課税の方) 70歳未満の方 上位所得者(月収53万円以上の方など) 150,000円+(医療費-500,000円)×1% 一般 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 低所得者(住民税非課税の方) 35,400円 4 現行の高額療養費制度の課題 • 近年の医学の進歩 ⇒がんといった難病を中心に、 高額な医薬品・医療技術の登場!! ・重い経済的負担を抱えながら治療をする患者 ・経済的理由により新しい薬や治療法を断念する 患者の存在。 • ex.慢性骨髄性白血病 2001年、新薬(グリベック)の登場!! ⇒生存期間の大幅な延長が見込めるようになった!! but…薬が高額なため、 (1錠3,200円、一日4錠、月約40万円、年約480万円) 望む人が皆受けられる治療ではない!! ⇒所得によって受けられる治療の格差が生じている!! 5 現行の高額療養費制度の課題 • 自己負担限度額が月単位 ⇒当初3カ月の自己負担限度額を超えず、 長期に渡り自己負担が重い患者は 負担軽減されない場合がある。 • 3つの事例を元に考えると… 6 高額療養費制度の事例① ① 1ヶ月のみ高額療養費を利用した場合 ⇒その月のみ超過分が返還される。 80,100円 10月 11月 1月 3月 5月 7月 7 高額療養費制度の事例② 高額療養費を受けられない。 80,100円 10月 11月 1月 3月 5月 7月 8 高額療養費制度の事例③ 高額療養費を3ヶ月利用(12ヶ月以内)した場合 ⇒翌月からの医療費は多数限度額(44,400円)となる。 ① ② ③ 80,100円 多数該当 44,400円 ④ 10月 11月 1月 ⑤ 3月 ⑥ 5月 7月 9 現行の高額療養費制度の課題 毎月の医療費約23万円 自己負担額7万円の場合 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 自己負担限度額に満たず 高額療養費が支給されない 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 毎月の医療費約30万円 自己負担額9万円の場合 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 高額療養費支給 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 年間計86万円 22万円の差が生じる 年間計64万円 10 医療費に関連する現状 • 経済状況悪化の中、医療費・拠出金負担の増加により、医療保険者の財 政状況は非常に厳しい。 • 医療の高度化や急速な高齢化、医療提供体制の機能強化等から、医療 費は今後もGDPの伸びを大きく上回って増大する見込み。 これを補うための公費・保険料、自己負担の規模も増大。 ex.市町村国保の平均保険料(年間、介護分含む) 8.0万円(H17年度)⇒9.1万円(H21年度、13%増) • 高額療養費制度により、所得に応じた自己負担の上限を設定しており、実 行給付率は継続的に上昇。 高額療養費は、国民医療費の伸びを大きく上回って増加。 • 高額な治療薬の長期服用により、医療費負担の重い患者が増加。 ex.慢性骨髄性白血病の治療 • 一般所得者の所得区分の年収の幅が大きいため、非課税世帯ではない 中低所得者層の負担が重く、また近年この層の人数が増加。 11 高額療養費の改善方法 • 非課税世帯ではない中低所得者の自己負担を軽減 する方法として、例えば、現在の一般所得者の区分を 細分化して、自己負担限度額をきめ細かく設定。 • 自己負担限度額が月単位のため、年間医療費が同じ でも高額医療費が支給されない場合や、長期にわ たって負担が重い場合もあるので年間の上限額を設 けてはどうか。 • 現行制度は財政力に応じて制度ごとの公費負担が異 なり、75歳未満は職域・地域単位の縦割り • 給付増は特に低所得者の多い市町村国保の保険料 負担と公費負担に大きな負担があるので個別制度 ベースで財政中立にする必要性 12 受診時定額負担 • 今後、保険料・公費・自己負担の規模が増大する 中で、セーフティネット機能を強化(高額な医療費に かかる自己負担を軽減)するため、給付を重点化 する(改正により、患者負担の規模を変えるもので はない)。 • その財源作りのため、医療機関での外来診療一回 につき、一律100円を追加で支払う。 (高齢者、低所得者は50円との考えも・・・) 13 受診時定額負担の仕組み • 定率負担に定額負担を加えた額を自己負担とする(医療費 が高額になる場合、定額負担は高額療養費の対象となる)。 • 医療保険がカバーする範囲をせばめる「保険免責制」とは異 なる。医療保険がカバーする病気の範囲は変わらない。 *保険免責制:医療費の一定額を医療保険の対象から除外し て患者負担とする仕組み。(例 一回の診療にかかる医療費 のうち500円を患者負担とし、保険は500円を超える範囲に 適用する) • 現行制度は、高額療養費で定率負担に一定の歯止めをか けており、いわば「定率負担と併せて、患者の家計を考慮し て自己負担の水準が変わる仕組み」としている。 • このため、定率負担と併せて、患者の家計を考慮して、家 計の負担にならない程度の定額の負担であれば、これまで の自己負担の設定の考え方を変えるものではない。 14 例:100円を自己負担として設定した 場合(医療費5,000円とする) 医療費の一定額を 保険給付外とするもの (免責制) 受診時に低額の自己負担を設定した場合 <一般:3割負担> <高齢者:1割負担> 一部負担金:100円 保険給付の 対象医療費 5,000円 保険給付の 対象医療費 1,500円 自己負担額 計1,600円 定率の 一部負担金 500円 計600円 定率の一部負担金 一部負担金 保険給付の対象外15 患 者 の 負 担 受診時定額負担のメリット • 高額療養費患者への給付の財源は、保険料でま かなうべきとの考えが多いが、保険料や税金の増 額には限界があり、保険者の財政から考えてそれ は難しい。 • 高額療養費の見直しにより、高額療養患者の負担 が軽くなり、受診が増える効果を見込むと、新たに 3600億円必要となる見込み。 ⇒受診時定額負担から捻出される4100億円の財 源をあてる。 16 受診時定額負担のデメリット • 受診回数の多い高齢者や、病気がちの人ほど負担大。 • 受診を抑制し、疾患を重症化させるおそれがある。 • 患者間で対立感情が高まるおそれがある。 (高額医療患者のために負担が増えることになるため) • 導入後、徐々に100円から引き上げられるおそれがある。 (例:高齢者医療の自己負担の変遷: 無料→定額負担→金額の引き上げ→定率化) 17 日本医師会の理念 日本医師会が考える国民の安心を約束する医療保 険制度の基本理念 • すべての国民が、同じ医療を受けられる制度 • すべての国民が、支払能力に応じて公平な負担を する制度 • 将来にわたって持続可能性のある制度 ⇒将来的には、公的医療保険を全国一本化 18 日本医師会の立場 日本医師会は 1.高額療養費のあり方を見直し、患者負担を軽減 することには賛成。 2.しかしそのために、病気などで通院しておられる 患者さんに、さらなる負担を求めることには反対。 公的医療保険である以上、高額療養費のあり方を 見直すための財源は、幅広く保険料や税財源(公 費)に求めるべき。 19 日本医師会の提言 1.被用者保険の保険料率を、もっとも保険料率の高 い協会けんぽの水準に引き上げ、公平化するこ と。 2.国民健康保険の賦課限度額、被用者保険の標準 報酬月額の上限を引き上げ、高額所得者に応分 の負担を求めること。 3.低所得者や高齢者の負担軽減に配慮すること。 4.日本医師会は公的医療保険の全国一本化を提 案しているところであるが、それまでの間、保険料 の見直しを通じて確保した財源によって、保険者の 財政調整、特に財政基盤の弱い保険者を支援す 20 高額療養費と受診時定額負担 (1班) (2班) (3班) (4班) (5班) (6班) (7班) (8班) 21 高額療養費と受診時定額負担 (1班)見直し賛成。保険料引き上げよりも受診時負担の方がよい。定率も案としてはあり得るか、病 院に行く人に定額負担をお願いする。低所得者(高齢者を含む)のみ50円負担とする。 (2班)見直し賛成。年単位と月単位の限度額設定が合理的。定額負担に賛成。受診回数に応じた回 数制限は、受診回数の抑制につながる一方、必要な人が受診できなくなる弊害あり。本当に行けなく なる人(低所得者等)には定額負担は課さない。 (3班)見直し賛成。できれば公費から支出すべきだが一定の個人負担もやむを得ない。ただし定額負 担に限度を設ける。年齢と目的による(高齢になるに従い定額負担の回数上限を設ける。治療目的か 投薬だけかでも回数の差を設ける。) (4班)見直し賛成。保険料引き上げには世代間・所得間の不公平があるので、受診時定額負担が望 ましい。一律100円の弊害に対処するため、低所得者への50円減額や、回数制限を設けるべき。 (5班)見直し賛成。保険料引き上げは国民の反発が強いので、受診時定額負担に賛成。一律100円 のほうが運用しやすい。受診抑制については、毎月の回数に制限を設ける。レセプトのシステムを通 じて、管理する。 (6班)見直し賛成。受診時定額負担100円に賛成。年間・月間で、細かい基準設定をすべき。保険料 の滞納等にかんがみて受診時定額負担、低所得者は50円で、回数制限も入れるべき。 (7班)見直し賛成。月単位を年単位にする。保険料でやったほうが社会連帯の理念にかなう。しかし 限界があるので、受診時定額負担を導入する。これも一種の社会連帯の仕組みではないか。低所得 者・高齢者は50円に減額。治療の特性によっては、回数をまとめる。低所得者の区分については申 告制にする。 (8班)見直し賛成。受診時定額負担でよいが、負担軽減のため回数制限を課す。(たとえば月5回)医 療費上限額設定については、年単位にする。低所得者には、現行制度よりも少し下げた限度額にす る。 22
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