基礎商法2 第8回 1 本日のお題 • 運送人の運送品に対する責任 • 場屋営業者の寄託物等に対する責任 2 運送営業 運送営業 I. (一般的な用語としての)運送営業の意義 人または物品を場所的に(ある地点から別の地点 へ)移動させること II. 運送営業の区分 運送対象による区分 i. • 旅客運送/物品運送 ii. 運送手段による区分 • 陸上運送/海上運送/航空運送/複合運送 iii. 運送領域による区分 • 国内運送/国際運送 ※わが国においては国際陸上運送は成立しない 物品運送の概要 運送状 荷送人 運送人 貨物引換証 商法における運送営業 運送営業=陸上、湖川、港湾における物品・旅客運 送を業とする者(商569) ※改正中間試案では海上運送、航空運送も対象 〔留意点〕 商法上の運送営業は国内陸上運送(物品、旅客)。た だし旅客運送の規定はほとんどない。国際海上物品 運送は国際海上物品運送法が規制 有償・諾成・双務契約 運送契約の法的性質は請負(運送という事実行為の 完成の請負) 運送人は自分で運送手段を有する必要はなく、他人を 履行補助者として利用することにより運送を引き受け る契約も許される(利用運送契約) 運送契約の成立 I. 運送契約の成立 運送契約は諾成契約 →運送品引渡しは効力発生要件ではない II. 契約成立時、成立後の行為 1. 運送状の交付(商570) ※宅配便の送り状をイメージ。貨物引換証と区別 ※運送状の交付は運送品の引渡し以前でもよい 2. 貨物引換証の交付(商571) ・・・運送品引渡請求権を表章する有価証券 ※貨物引換証は運送品引渡しと同時履行(詳細は次回) 運送人の権利 自主学習 I. 運送状交付請求権(商570) II. 運送賃請求権(商512) 1. 運送賃請求権の行使 ① ② 運送賃は荷送人負担(契約当事者だから) 運送賃は先払いでも後払いでもよい(成功報酬ではない) ※費用は別に請求できる(商589が準用する商562参照) ③ 運送品を荷受人が受け取った後は荷受人にも運送賃を 請求可能(商583Ⅱ) 2. 運送品の滅失と運送賃 ・・・不可抗力による運送品滅失の場合は運送人は運送賃請求不 可。収受した運送賃は返還。ただし荷送人に過失があるか、ま たは運送品の性質・瑕疵に起因する滅失の場合は運送賃収受 可(商576) 。 3. 立替金償還請求権(商513) 自主学習 III. 運送人の供託・競売権(商585~587) ・・・受領遅滞の場合の売主の権利と同趣旨 1. 運送人は、運送品を①供託、②荷送人に相当の期間 を定めて処分についての指図をなすように催告し、な お指示がない場合には競売(商585) ※競売時は荷送人に遅滞なく通知発信 2. 引渡しに争いがある場合(例:荷受人が数量不足を理 由に受領拒否)には、①供託、②荷受人に対して相当 の期間を定めて受取の催告をし、その後に荷送人に 催告を行い、指示がない場合には競売(商586) ※競 売の場合は荷送人・荷受人に遅滞なく通知発信 3. 損敗する物については無催告競売可(商524Ⅱ準用) 4. 売得金は運送賃に充当して残額を供託(同Ⅲ準用) IV. 運送人の留置権(商589、562) 自主学習 1. 要件 ① 債権者が運送人、債務者が運送料等の支払義務者 であること ② 被担保債権が運送賃、荷送人のために行った立替 え、前貸金であること ※運賃前払い特約がない限り荷物到着まで被担保債権未発生 ③ 債務者が債務を履行していないこと ④ 留置物と債権の間には個別的牽連関係が必要(ただ し債務者所有の物である必要はない) ⑤ 債権者が運送品を占有していること 2. 効果 債権者は運送品を留置可能 ※荷送人が運送賃を負担する場合に、荷受人に対して運送賃の請 求ができることにはならない(留置できるだけ) 自主学習 【留置権】 運送賃・立替金請求権 荷送人 留置権 請求 運送人 留置権 V. その他の権利 1. 運輸の先取特権(民318) 2. 民事留置権(民295) 3. 商人間の留置権(債務者が商人の場合) 自主学習 運送人の義務 I. 善管注意義務(民400) II. 貨物引換証交付義務(商571) III. 荷送人の指示に従う義務(商582) ① 荷送人、貨物引換証所持人は運送人に対して運送 の中止、運送品の返還、その他の処分を請求するこ とができる ② 上記の場合、運送賃は割合にしたがって請求 ③ 荷送人の指図権限は運送品が目的地に到達し荷受 人が引渡しを請求した時点で消滅 運送人の責任 I. 総論 運送人は運送品の滅失、毀損、延着について損害 賠償責任を負う(債務不履行責任)。ただし運送人 側が自己又は履行補助者の無過失を立証する義 務を負う 〔留意点〕 ① 高価品免責(商578) ② 賠償額算定の特則(商580、581) II. 高価品免責 1. 要件 ① 運送品が高価品であること ② 荷送人が委託時に明告していないこと ③ 運送人が悪意・重過失で運送品を滅失・毀損したもので ないこと(最判S55.3.25百96。ただし581条を根拠とするこ と(原審)については批判多し) 2. 趣旨 運送人保護規定。高価品と判れば高度の注意を払い、割 増運賃を請求したり引受けを拒絶したであろう点に配慮 3. 効果 運送人は賠償責任を負わない(普通品としての責任もない) ※普通品としての賠償額の算定ができないから 4. 高価品=容積・重量の割に著しく高価な物品 研磨機は該当せず、新聞原稿は該当する 5. 明告 明告は運送契約成立時までに行う必要がある 明告の内容=種類と価額 明告がなくても運送人が高価品であることについて悪 意・重過失の場合は高価品免責は適用がない 6. 不法行為責任への適用 前提として請求権競合論 判例は請求権競合説に立ち、不法行為への責任制限 規定適用を否定(ただし過失相殺で処理) 学説は不法行為責任への責任制限規定の(類推)適用 を肯定。根拠は国際海上物品運送20の2Ⅰ ※改正中間試案は不法行為責任制限を明確化 7. 約款との関係 ① 約款による免責・責任制限は公序良俗や消費者契約 法に反しない限り認められる ② 約款が運送品について賠償額の上限を定めている場 合には約款優先で限度額までは賠償される(運送人は 上限までの賠償リスクを折り込んで運賃設定をしてい るはず) ③ 約款の免責規定が不法行為にも適用されるかどうか については、判例は肯定(最判H10.4.30判時1646-162 百-99)。ただし運送人に悪意・重過失がある場合には (商578と同様に)免責を認めない。 ※不法行為を含めた免責規定自体は約定可能。意思解釈の問題。 ④ 事情によっては非契約当事者(たとえば荷受人)も約 款の免責規定を超えた賠償請求を信義則違反で否定 される(前掲、最判H10.4.30) III. 損害賠償額の算定(商580,581) 1. 趣旨 運送人の損害賠償額の算定の特則(定型化)。運送人保 護規定 2. 要件 ① 運送品が滅失・毀損・延着したこと ② 運送人が悪意・重過失で滅失・毀損・延着させたもので ないこと ※「悪意・重過失」は滅失・毀損を知っているかどうかではない 3. 効果 全部滅失・延着の場合は引き渡すべき日の到達地の価 格 一部滅失・毀損の場合は引渡日の到達地の価格 4. 留意点 推定規定ではないので、「実損額>算定額」でも「実損 額<算定額」でも算定額を用いる ただし、まったく損害が生じていない場合(単に荷送人、 荷受人に損害がないだけでなく、第三者との関係でも 損害が生じていないことが必要)には賠償額は0(最 判S53.4.20百-95) 損益相殺は認められる(580Ⅲ) 悪意・重過失の場合には実損填補になるが、「580条 の算定額>実損額」となる場合は、580条の算定額を 用いる(悪意の運送人の保護は不要だから) 履行補助者に悪意・重過失がある場合も本条の適用 がある(最判S55.3.25百選96事件) 581条は580条の特則だが、578条の特則ではない(通 説) IV. 約款による責任制限 1. 総説 商法の運送人の損害賠償規定は任意規定であり、別途 損害賠償についての約定は可能。問題はどの範囲の約 定を有効とみるか 2. 損害賠償額の制限 ① 普通品・高価品いずれについても、損害賠償額の上 限を定めることは可能(ドイツ商法は明文で制限を認 める) ② ただし、荷送人等が消費者である場合には消費者契 約法の規定による制約がある 3. 免責条項 運送人を一律に免責する条項の効力については、民法 90条等によって判断(諸外国でも対応は分かれる) 特に問題になるのは「保険利益享受約款」(運送品にか けられた保険金の範囲で運送人を免責する)の有効性。 ※国際海上物品運送法は明文で禁止。国内陸上運送については、 判例は契約の意思解釈として、荷主が損害賠償請求権を放棄す るのは経験則上異例であるとして、保険金額を超える部分の損 害賠償請求権の放棄の趣旨の条項と解する。学説からは批判 が多い。 4. ヒマラヤ条項 運送人の使用人、履行補助者の賠償責任を運送人と同 じ範囲に制限する約定 ⇒多くの運送契約(基本的には国際海上運送)で用いられている ※改正中間試案では、悪意・重過失がない限り、履行補助者の不 法行為責任も制限 責任の消滅 I. 総論 i. ii. 責任の特別消滅(商588) 責任の短期消滅時効(商589,566) II. 責任の特別消滅 1. 趣旨 運送人保護。運送人に証拠保全の機会が失われるから 2. 要件 ① (通常)荷受人が留保なく運送品受取り+運送費用等 支払 ② (直ちに発見することができない一部滅失・毀損のある 場合)に引渡後2週間以内に通知が発せられない ③ 運送人に悪意がない 3. 要件の検討 運送品の受取りが要件であるから、全部滅失の場合に は適用がない 「留保ヲ為サズ」=荷受人が、一部滅失、毀損について 概要を運送人に知らせないこと ※本条も受取時の検査が前提 運送品に直ちに発見できない瑕疵があった場合、引渡 日から2週間以内に通知を発しなければならない(商526 条対照) 運送人の悪意(2項)は、判例によれば、運送人が運送 品に一部滅失・毀損があることを知りながら引き渡すこ とを言う(最判S41.12.20百-90)。通説は運送品の滅失・ 毀損を悪意で生じさせたか悪意で滅失・毀損を隠蔽した 場合と解する。 ※判例・通説は立場は違うが特別消滅と短期消滅時効の「悪意」 は共通と考えるが、588条は判例、566条は学説という有力説有り。 III. 責任の短期消滅時効(商589,566) 1. 趣旨 運送人保護。法律関係の早期解決 2. 要件 ① 運送品受取(全部滅失の場合は引渡予定日)から1 年経過 ② 運送人に悪意がない 3. 「悪意」の意味 判例は滅失・毀損の認識があることが悪意とする(最判 S41.12.20百-90事件)。多数説は、故意に滅失・毀損を惹 起したか悪意で隠蔽した場合とする。有力説は特別消 滅では判例の立場に立ち、短期消滅時効の場面では多 数説に同調する。 荷受人の地位 荷受人は運送品の到達後は荷送人の権利を 取得し、受取後は運送賃等の支払義務を負 う(商583) 1. 趣旨 荷受人の引渡請求権の根拠。法定の特別な権利と解す る見解と、第三者のためにする契約を理由とする見解が ある 2. 荷送人の地位の変化 i. 運送品到達時点では、荷送人の権利は消滅しない (荷送人と同一の権利が荷受人にも発生する) ii. 荷受人が引渡請求をした時点で荷送人の権利は消 滅する(商582Ⅱ) 相次運送 荷 送 人 A B C 荷 A B C 下請運送 A B C 部分運送 送 人 A B C A 共同運送 B C 連帯運送 相次運送人の責任(商579) 1. 趣旨 連帯運送(狭義の相次運送)人につき損害賠償責任 の連帯を定める ※商563の「数人相次テ」は、下請運送、部分運送、共同 運送も含む 2. 留意点 相次運送人は全区間について連帯して損害賠償責任 を負う。ただし特約で排除可。 旅客運送人の責任 1. 趣旨 旅客運送人に特有の責任についての規定。 2. 規定 i. 損害賠償責任(商590) • 責任原因は物品運送と同じ。ただし損害算定において「被害者及 び其(の)家族の状況を斟酌すること」ができるとする ※改正中間試案では、①片面的強行規定化(旅客に不利な特約の 禁止)の提案があるほか、②損害賠償額の算定の特則(本条2 項)は削除予定 ii. 託送手荷物(チッキ)についての責任 • 旅客から引渡しを受けた旅客の手荷物については、無償であっ ても物品運送人としての責任を負う • 手荷物到達後1週間内に旅客の引渡請求がなければ供託・競売 可(商524準用) iii. 手回り品についての責任 • 本来責任はない(寄託されていない)はずだが、特別な法定責 任が課されている。 ※改正中間試案では、①手回り品のほか身回り品についても同 様の規制が及ぶこととされたほか、損害算定についての特則 等について物品運送の規定を準用 場屋営業者の責任 30 寄託を受けた商人の責任 商人が営業の範囲内で寄託を受けた場合には善 管注意義務を負う(商593) ⇒無償寄託でも寄託物に対する善管注意義務が発 生する(営業自体が有償行為だから) 31 場屋営業者の責任(商594) I. 場屋営業者(場屋の主人) 1. 意義 場屋営業者=場屋取引を業とする者 2. 場屋取引 ・・・多数の人が来集するのに適した人的・物的設備を備 えて、客の需要に応じて設備を利用させる取引 旅館(ホテル)、食堂、映画館、ボウリング場等。床屋については 判例は否定(設備は床屋が利用)、学説は肯定。 32 II. 客 客=設備の利用者。ただし利用契約の成立は不要 〔例〕 • • • ホテルの宿泊客 ホテルの宿泊客とロビーで待ち合わせている者 ロビーで時間を潰している者 ※ガソリンスタンドで給油後数時間駐車していた車の運転者は 客ではない(東京高判H14.5.29) III. 荷物の区別 ① 寄託物(594Ⅰ) ② 携帯品(同Ⅱ) 33 IV. 寄託物に対する責任 1. 趣旨 レセプトゥム責任(ローマ時代の旅店の責任) 2. 要件 ① 客が場屋の主人に物品を寄託 ② 寄託物が滅失・毀損 ③ 原因が不可抗力ではない(不可抗力を場屋営業者 が立証できない) ④ 高価品免責が適用されない 3. 効果 場屋営業者は損害賠償責任を負う 34 4. 要件の検討 i. 「寄託」 ・・・寄託 =受託者が物品を自己の支配下に置くこと(≠ 保管 場所の提供) →コインロッカー、ホテルの客室のセーフティボックス、管理の ない駐車場の利用は「寄託」ではない ii. 不可抗力 ① 主観説 事業の性質に従い最大の注意を払っても避け がたい場合 〔批判〕無過失とかわらない ② 客観説 外部的事象で通常その発生を予測できないも の 〔批判〕経済的合理性を全く無視している ③ 折衷説 外部的事象で通常必要とされる予防方法を講じ ても防ぎえないもの ※内部的要因(従業員の横領等)については、予防方法 の如何にかかわらず常に不可抗力には当たらない 35 5. 高価品免責(商595) 趣旨 場屋営業者保護。運送人の高価品免責と同じ。 ii. 留意点 ① 高価品・明告の意義は運送人(商578)と同じ、不法 行為責任への適用についても同様 i. ② 明文規定はないが、場屋営業者が悪意・重過失で 目的物を滅失・毀損した場合は免責されない(最判 H15.2.28百選(5版)108事件) →この点でも運送人と同じ ③ 客の携帯品(商594Ⅱ)には適用がない(そもそも携 帯品については明告のしようがない) 36 V. 携帯品に関する責任(594条2項3項) 1. 要件 ① 客の携行品を ② 場屋営業者が不注意で滅失・毀損 2. 効果 場屋営業者に損害賠償責任 3. 検討 ① 携帯品=場屋営業者に寄託しなかった物品 ② 不注意=注意義務違反 ③ 携帯品につき責任を負わない旨の告知は効果がな い(商594Ⅲ)。ただし免責の特約を別途締結するこ とは妨げられない 37 VI. 責任の短期消滅事項(商596) 商法566条の短期消滅時効と同じ。場屋営業者の 「悪意」について議論がある点も同様 38
© Copyright 2024 ExpyDoc