基礎商法2 第15回 1 為替手形・小切手 2 為替手形 I. 法的性質 支払委託証券(小切手と同じ)、信用証券(約束手形と同じ) II. 経済的機能 ① 送金の手段 ② 取立の手段 ⇒国内取引ではほとんど使われない(銀行振込等の他の簡 易・安価・確実な手段が存在) III. 約束手形との差異 ① 支払人の存在 ② 支払人による「引受」という手形行為の存在 3 為替手形・小切手の流通(その2) 送金現実編 口座残高 為替手形 振出人 受取人 当 座 勘 定 契 約 当 座 勘 定 契 約 手形用紙 銀行残高 支払人 銀行残高 4 為替手形・小切手の流通(その3) 取立編 ※貨物引換証・船荷証券を組み合わせる と「荷為替取引」 口座残高 為替手形 振出人 当 座 勘 定 契 約 受取人(甲支店) 支払人 当 座 勘 定 契 約 受取人(乙支店) 5 小切手 I. 法的性質 支払委託証券/即時支払証券 ⇒小切手には満期がない(小28) II. 経済的性質 ① もっぱら送金の手段もしくは現金代用 ② 自己宛小切手(預手)は完全に現金代用 6 II. 為替手形との差異 ① 満期がない(即時支払証券性) ② 振出人と支払人間に資金関係が必要(小3) ⇒支払人は銀行でなければならず、振出人-銀行間に小切手契約 が成立している必要があり、かつ振出人が銀行に十分な資金を 有していなければならない ※ただし違反しても罰則があるだけで小切手は有効 ③ 引受および小切手保証は禁止(ただし支払保証、自己 宛小切手は認められる) ④ 持参人払い(無記名証券)の許容 ⑤ 線引制度の存在 7 • 自己宛小切手(預手) 発行依頼者 発 行 依 頼 小切手 振出人 支払人 支払人として支払を拒絶しても振出人としての 遡求義務を負う →確実な支払(引受の代替) 8 盗難自己宛小切手の支払 1. 論点 ① 盗難自己宛小切手についての振出銀行の支払の可否 ⇒通常の小切手なら支払委託を撤回すれば銀行の支払いは不適法 になる ② 支払った場合の銀行の責任 2. 自己宛小切手についての事故届(盗難届)の意義 判例・通説は自己宛小切手の交付を小切手の売買と解し ているため発行依頼者からの事故届は支払委託の撤回 の意味を持たない(最判S39.12.4百106) 3. 銀行の責任 ① 無権利者への支払は不要だから呈示期間経過で銀行 は利得 ② 善意・無重過失で無権利者に支払えば銀行は免責され 利得は消滅するが、悪意・重過失なら利得はそのまま ③ 発行依頼者は銀行に対し不当利得返還請求が可能 9 • 線引小切手 一般線引小切手 特定線引小切手 10 1. 線引小切手の種類(小38) i. 一般線引小切手 ・・・平行線のみ or 「銀行渡り」 ① 支払銀行は銀行または自行の取引先にのみ小切手金を支払 うことができる(支払先の制限) ② 支払銀行が小切手を譲り受ける場合、または取立委任を受け る場合の譲渡人、委託者は、他の銀行または自行の取引先に 限られる ※「取引先」・・・銀行取引があり素性(氏名・連絡先等)が判明してい ることが必要。加えて一定の継続取引等の信用が必要とする見 解も。 ii. 特定線引小切手 ・・・平行線の内側に「銀行名」 ① 支払銀行は線引内に記載された銀行(被指定銀行)に対して のみ支払をなしうる ※支払銀行が被指定銀行の場合、自行の取引先に支払可 ② 小切手の譲受け、取立委任の受託については一般線引小切 手と同じ 11 2. 線引違反の支払の効果 支払の効果は無効にはならず、支払銀行が損害賠償を負う のみ(小38Ⅴ) 3. 線引の変更・抹消(小37) ○ 無印 → 一般線引 ○ 無印 → 特定線引 ○ 一般線引 → 特定線引 × 一般線引 → 無印(線引の抹消) × 特定線引 → 無印 × 特定線引 → 一般線引 ⇒限定する方向への変更は可能だが緩和する方向への変 更はできない 12 4. 裏判 線引の効力を排するために、小切手の裏面に銀行届出印を 押印する実務慣行 i. 線引を排除する特約の有効性 a. 線引抹消を禁じた小切手法に違反し無効 当事者の合意で線引の効力を排除することは認められる(最判 S29.10.29百102 ※ただし裏判の事案ではない) ⇒bが判例・通説であり結論としても妥当 b. ii. 裏判の法的な意味 線引小切手について、線引の制限に違反した銀行の支払いについ て、支払委託者が有する損害賠償請求権の放棄の特約 13 手形と会社法 14 総説 I. 手形法と会社法の関係 以前は会社の決済手段、短期の資金調達手段として手 形が多く用いられていた そのため、手形行為に関する会社法上の論点がいくつ か存在 15 II. 取締役会の決定を欠く手形債務の負担 1. 本来の論点 取締役会の決定を欠く多額の借財(or 重要な財産の処分・ 譲受け)の効果 心裡留保(民93類推適用)説、代表権制限(会349Ⅴ類推 適用)説、一般悪意の抗弁説等の学説 H20司法試験に(判例では上手く書けない)形で出題 2. 手形行為との関係 ① 手形行為が「多額の借財」に該当するかどうか ② 取締役会決議を欠く場合に第三者保護をどのように理論 構成するか 16 3. 例題 A) 甲株式会社代表取締役Aは、取締役会に無断で、乙 会社が負うP銀行からの1億円の債務について保証 した。 B) 甲株式会社代表取締役Aは、取締役会に無断で、乙 会社が負うP銀行からの1億円の債務を保証する趣 旨で、受取人をP銀行とする1億円の手形を「甲株式 会社代表取締役A」名義で振り出した 17 II. 権限濫用行為としての手形行為 1. 本来の論点 取締役の権限濫用行為の効果 前の論点と同じく、心裡留保(民93類推適用)説、代表権制 限(会349Ⅴ類推適用)説、一般悪意の抗弁説等の学説 2. 手形行為との関係 ① ② 手形行為が権限の濫用と評価できるか 権限濫用の手形行為の効果をどのように考えるか 18 3. 例題 A) 甲株式会社代表取締役Aは、自ら費消する意思で、 「甲株式会社代表取締役A」名義でP銀行との間に1 億円の金銭消費貸借契約を締結した。P銀行は1億 円の弁済を甲株式会社に求められるか。 B) 甲株式会社代表取締役Aは、自ら費消する意思で、 甲株式会社が保有する手形をP銀行に持ち込んで 手形割引を行い、P銀行から1億円の交付を受けた 。その後、当該手形が不渡りとなったため、P銀行は 甲株式会社に本件手形の買い戻しと1億円の支払 を求めた。 19 IV. 手形行為と利益相反取引 1. 本来の論点 取締役会の承認のない利益相反取引の効果 判例・通説は相対的無効説で一致 2. 手形行為との関係 ① 手形が決済手段として振り出される(裏書きされる)場合に 、原因関係の承認のほかに、手形行為についても取締役 会の承認が必要となるか ② 手形行為が、類型的に会社に損害を生じるおそれのない 取引に該当するかどうか 20 3. 例題1 A) 甲株式会社代表取締役Aは、取締役会に無断で、取 締役Bとの間で土地の購入契約締結した。Bは甲会 社に対して土地代金の支払いを請求できるか。また 、代金債権を譲り受けたCは甲会社に対して支払を 請求できるか。 B) 甲株式会社代表取締役Aは、取締役会の承認を得 て、取締役Bとの間で土地の購入契約を締結した。 その後、甲会社の手元には十分な流動資金がなか ったため、AB間の合意で、甲株式会社が土地代金 に相当する約束手形をBに振り出すこととした。Bは 本件手形金の支払いを請求できるか。また、この手 形がCに裏書譲渡された場合、Cは甲会社に本件手 形金を請求できるか。 21 3. 例題2 甲株式会社代表取締役Aは、甲会社がP銀行から1 億円を借り入れるに際して、P銀行から担保を差し入 れるように求められたため、振出人を「甲株式会社 代表取締役A」、受取人を「A」とする1億円の約束手 形を振り出し、Aは本件手形を直ちにP銀行に裏書 き譲渡した。P銀行は甲会社に対して本件手形の支 払を求めることができるか。なおP銀行は、Aが甲会 社取締役であること、および本件手形の振出につい て甲会社取締役会の承認がないことを認識している 。 22 その他 23 その他の論点 表見代表取締役と商業登記 登記簿上の取締役の責任 株券・株主名簿の効力 任務懈怠責任(会423、429)+α • • 場屋営業+手形の盗取+関係者の責任 検査・通知義務違反+関係者の責任 24
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