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教育意識と社会階層
ESSM2013データを用いた潜在クラス多項ロジットモデル
日本教育社会学会第66回大会
於 松山大学・愛媛大学
中澤 渉 (大阪大学)
1
問題設定
• 教育の社会移動に果たす役割の重要性(Breen, 2010; Hout,
2012)。その中で特に高等教育費の高騰、学校外教育の重
い負担。
• 日本の公教育費負担は先進諸国で最低レベル。
• ただし日本人全体の意識でみた場合、相対的には教育費の
公的負担を求める声は必ずしも強くはない(中澤 2014)。
• 日本人が教育を軽視しているわけではない。むしろ重視。
• しかし重視の意味が問題。教育の公益性を重んじているの
か、むしろ自分の子が高い教育を受けることが重要なのか、
というのでは、公教育費負担に対する態度が異なり得る。
2
従来の意識研究の問題点
• 質問紙調査の意識項目=リッカート尺度
この数値を従属変数にして回帰分析を行う。
→1つのアイテム(項目)についての反応を見ることができるが、
意識間の複雑な構造をみることはできない。
• 因子分析による因子得点を従属変数にする
→リッカート尺度は量的変数ではないが、量的変数と見なした
上で潜在因子の得点も(その因子において)一次元的な得点で
示されるという仮定を置いている。「肯定」「否定」という反応が
一次元的な数値や単なる順序で置き換えられるのか。
因子分析の第一の関心は潜在変数(因子)の発見(変数間の
関係)であり、潜在変数における個人の位置を因子得点という
連続変量で示すが、個人の回答パターンという質的変数ならで
はの情報が失われる(藤原他 2012; Collins and Lanza, 2010)。
3
潜在クラス分析
x1
x2
u
x3
x4
• クロス表分析で関連がある
と思われる変数間に第三
の変数を入れることで、関
係が失われる→第三の変
数が真の影響。 ラザーズ
フェルドのエラボレーション
の発想。
• 複数の質的顕在変数(x1~
x4)に共通する潜在因子u
があると仮定。その潜在因
子を発見するのが潜在クラ
ス分析。
• 質的変数版因子分析ともい
われる(McCutcheon, 1987)。
4
潜在クラス分析の考え方
• 4つの顕在変数A~Dと1つの潜在変数Xを考える。顕在変数のカ
テゴリーを仮にi, j, k ,lとし、潜在変数のクラスをtで示す。仮に潜在
変数も含めた五重クロス表を作成し、その特定のセルに入る個人
の確率を𝜋𝑖𝑗𝑘𝑙𝑡 とおく。すると、
𝐴|𝑋 𝐵|𝑋 𝐶|𝑋 𝐷|𝑋
𝐴𝐵𝐶𝐷𝑋
𝜋𝑖𝑗𝑘𝑙𝑡
= 𝜋𝑡𝑋 𝜋𝑖𝑡 𝜋𝑗𝑡 𝜋𝑘𝑡 𝜋𝑙𝑡
が成立する。ここで𝜋𝑡𝑋 はXの中で潜在クラスtが占める割合を、
𝐴|𝑋
𝜋𝑖𝑡 は、クラスtにおける顕在変数Aのカテゴリーiの応答割合を示す。
この式から顕在変数と潜在変数の間にはそれぞれ関連性があるが、
顕在変数間には関連がないことがわかる(local independence)。
• この前提のもとでtの数を増やし、適合度が高く、もっとも節約的
(単純)なモデルが選択される。これは対数線形モデル(log-linear
model)において、単純なモデルから徐々に変数間の関連を仮定
してモデルを複雑にし、適合的なモデルを発見するのと同様の手
順である(藤原他 2012;三輪 2009; Heinen, 1996; 松田 1988)。
5
データ
• 2013年11月~12月
『教育と仕事に関する全国調査(ESSM2013)』
(Survey of Education, Social Stratification, and Social Mobility in
Japan, 2013)
郵送留置・訪問回収調査
日本全国 30~64歳、抽出数は240地点、4800人
有効回答数 2893(回収率 60.3%)
分析は使用する変数について欠損のない2406名
(分析にはフリーソフトのlemを用いた)
6
意識項目
• A, 「安定した生活を送っていくためには、高校卒業後も学校
に行った方がよい」(高卒後の学歴重視)
• B, 「一般に、学校の授業で得た知識は、仕事をするうえで役
立つ」(学校知の有用感)
• C, 「公立学校は信頼できる」(公立学校への信頼)
• D, 「税金を増やしてでも、今より政府の教育支出を増やすべ
きだ」(公教育支出推進)
公教育支出の増加への賛否には、単に学校教育を重視したり、
教育に対する有用感があるというほかに、「公教育」に対する信
頼といった意識が関連していると思われる。
単純なモデルを発見するため、それぞれの意識は「賛成・あて
はまる」「反対・あてはまらない」の2値に変換する。「わからな
い・どちらともいえない」は、欠損ケースを減らすため、多い方の
カテゴリーに含める(Yamaguchi(2000)でもやっている処理。分
析の大勢には影響なし)。
7
分析
①4つの意識項目の背景に何らかの潜在変数があると仮定し
て、適合度の高い潜在クラスを導き出す。
②潜在クラスは事実上のカテゴリーと見なせるので、このカテゴ
リーを従属変数とする多項ロジットモデルを推定する。これによ
り、各潜在クラスを分ける要因が導き出せる。
なお、②において従属変数となる潜在クラスは、①で導き出した潜在クラ
スと同じになるように、予め各潜在クラスの条件付き応答確率を大まかに定
義しておく。ただし現実には共変量が加わることで、潜在クラスの条件付き
応答確率は①と全く同じになるわけではない。
分析の事例としてはYamaguchi (2000)。わかりやすいlemを利
用した実践例としては都村ほか(2008)を参照。
8
変数
• 意識はp.7のスライドの通り。
• 説明変数
回答者の職業階層(いわゆるEGP階級分類(Erikson, Goldthorpe,
and Portocarero, 1979)をもとに、6カテゴリーに分類(I+II=専門・管
理に相当, III=事務・(被雇用の)販売に相当, IV=自営・家族従
業・農業に相当、V+VI=熟練に相当、VII=半熟練・非熟練に相
当、無職)。
回答者の学歴(中学・高校、短大・高専・専門、大学・大学院
の3カテゴリー)
性別(男女の2カテゴリー)
出生年代(1948-57生、1958-67生、1968-83生の3カテゴリー)
子の有無(あり・なしの2カテゴリー)
9
意識変数の分布
A 高卒後の学歴重視
A Yes
B Yes
C Yes
C No
B No
C Yes
C No
A No
B Yes
C Yes
C No
B No
C Yes
C No
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
Yes
No
Yes
No
Yes
No
Yes
No
Yes
No
Yes
No
Yes
No
Yes
No
207
245
144
303
63
117
79
231
94
131
46
200
48
116
59
323
B 学校知の有用感
C 公立学校への信頼
D 公教育支出推進
10
変数の記述統計(N=2,406)
割合(%)
EGP class I+II
EGP class III
EGP class IV
EGP class V+VI
EGP class VII
無職
26.23
21.61
8.02
10.18
14.92
19.04
割合(%)
教育 中・高校
教育 短大・専門
教育 大学
41.94
26.68
31.38
割合(%)
1948-57生
1958-67生
1968-83生
26.93
27.81
45.26
割合(%)
男性
女性
48.09
51.91
割合(%)
子どもあり
子どもなし
71.36
28.64
11
モデルの選択
• 潜在変数は1つと仮定する。
クラス数
G2
d.f.
p
AIC
BIC
モデル1
1
モデル2
2
6
30.291
.000
18.291 -16.424
モデル3
3
2
1.885
.390
-2.115 -13.686
モデル対比
11 280.835
⊿G2
.000 258.835 195.193
⊿d.f.
p
モデル1-モデル2
250.454
5
.000
モデル2-モデル3
28.405
4
.000
モデル3については識別性の問題が生じるので(Goodman,
1974)、潜在クラスの3のうち2つの潜在クラスが同じ大きさとい
う制約を設けた。モデル対比の結果からモデル3を選択。
12
潜在クラスの構成・応答確率
クラス1
(教育否定群)
肯定
否定
クラス2
クラス3
(私的利益重視群)
(公的機能重視群)
肯定
否定
肯定
否定
A 高卒後学歴重視
.321
.679
.991
.009
.638
.362
B 学校知の有用感
.373
.627
.719
.281
.784
.216
C 公立学校への信頼
.235
.765
.301
.699
.899
.101
D 公教育支出推進
.157
.844
.358
.642
.537
.464
クラス別構成割合
.481
.260
.260
13
潜在クラス多項ロジットモデルの結果
基準は教育否定群(クラス1)
職業(ベースはEGP class Ⅰ+Ⅱ)
EGP class Ⅲ
EGP class Ⅳ
EGP class Ⅴ+Ⅵ l
EGP class Ⅶ
無職
教育(ベースは中学高校)
短大高専・専修学校
大学大学院
性(ベースは男)
女
出生年(ベースは1948-57)
1958-67
1968-83
子ども有無(ベースはあり)
なし
尤度比統計量
N
+<.10 *<.05 **<.01
私的利益重視群(クラス2)
係数
S.E.
公的機能重視群(クラス3)
係数
S.E.
-.562
-.095
-.022
-1.205
-.146
.490
.618
.636
.541 *
.445
-.573
-.877
-.964
-1.396
-.816
.305
.387
.380
.330
.395
1.451
1.434
.419 **
.526 **
-.097
1.480
.422
.242 **
*
*
**
*
2.588
1.746
-.553
.318 +
-.148
-.587
.469
.432
-.566
-.524
.271 *
.261 *
.501 *
-.339
.227
-1.049
-17715.679
2406
14
各クラスの共変量ごとの構成割合(1)
職業階層別
学歴別
クラス1
クラス1
I+II
III
IV
クラス2
高校
クラス2
短大
V+VI
大学
VII
無職
クラス3
クラス3
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
15
各クラスの共変量ごとの構成割合(2)
性・子の有無
世代(出生コーホート)
クラス1
クラス1
男
クラス2
女
クラス3
1948-57
0%
20%
40%
60%
80%
クラス2
100%
1958-67
1968-83
クラス1
クラス3
子なし
クラス2
子あり
クラス3
0%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
20%
40%
60%
80%
100%
16
結果の要約
• 本発表の4つの意識の背景に1つの潜在変数があると仮定
すると、3つのクラスに縮約できる。
• 回答者の半分近くがどの意識にも否定的で、教育に対する
価値を高く見ていない。残り半分は、教育の私的な利益を重
視し、公的な機能をあまり重視しない層と、全体的に教育の
価値を重く見る層に分けられる。
• 私的利益を重視する層は、その属性から、子育てを行ってい
る(いた)比較的高学歴の女性(教育ママ的な人々?専業主
婦層も相対的に多い?)に偏っている。
• 相対的に公教育を重視している層は、専門・管理職や高学
歴が多くなる。それでも公教育費の増額を望む人は、このク
ラスに限定しても半分程度に過ぎない。
17
議論・課題
• Dの意識について、「税金を増やしてでも」という部分に反応して、
否定的な回答が増えた可能性がある。
• 男女別に同様の分析を行うと、男性は2クラス、女性は3クラスが
適合的になる。本発表の結果は、女性の分布に大きく依存してい
る。
• 回帰分析の結果は、因果関係を示しているわけではない。高学歴
と公教育重視に関連はありそうに見えるが、教育拡大が進んでい
るので、高学歴化が進む若い世代ほど公教育重視になるのか、と
いえばそうとも言えない。
• 相対的に子育てを熱心に行うことが多いと思われる女性の間で、
公立の信頼が薄く、公教育費負担の増加を望まない傾向が強い
のは、このあたりから教育の私事化が進行していることの現れ?
あるいはそもそもそういう母親ほど、自分の「子の」教育に熱心?
(税が増えれば家計に負の影響はあるが、もし教育費が増えれば
家計が助かる側面もある。それでも公教育費の増加は望む傾向
が弱い。教育における私的な選択を重視?)
• 公的機能重視群で有意に無職が少ないことをどう読み取るか。
18
謝辞・および要旨の訂正
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(基盤
研究(A)、課題番号23243083)による研究成果の一部
である。なお、データの使用にあたっては、教育・社会
階層・社会移動調査研究会の許可を得た。
要旨の訂正
要旨に掲載されている潜在クラスの応答確率の表は、p.12のよ
うな制約をつけずに行ったが、識別性の問題から本発表のよう
な制約をつけた結果の方が適切なので、これに差し替えさせて
ほしい。
19
文献
•
•
•
•
•
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•
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