債権総論2 講義 相殺 その3 明治学院大学法学部教授 加賀山 茂 六法とノートを用意してください。 条文が出てきたら必ず六法で確かめましょう。 疑問点は,ノートに書きとめ,理解できたら,メモを追加しましょう。 そのノートがあれば,定期試験の準備がとても楽になります。 しかも,そのノートは,あなたの一生の宝になることでしょう。 2015/12/8 Lecture on Obligation, 2015 1 三者間相殺 (Aを相殺権者とした場合の3類型) 1. C→A→B型(債権譲渡の相殺の抗弁型) 2. A→B→C型(連帯債務者の相殺型) 3. B→C→A型(保証人の相殺援用型) 2015/12/15 Lecture on Obligation2, 2015 2 三者間相殺の類型 (Aが相殺権者) C→A→B A B A→B→C A B B→C→A A B 相殺 C C 債権譲渡の相殺の抗弁型 連帯債務者の相殺型 2015/12/15 Lecture on Obligation2, 2015 C 保証人の相殺援用型 3 第1類型 債権譲渡の相殺抗弁型 2015/12/15 Lecture on Obligation2, 2015 4 三者間相殺(1/6) C→A→B型(Aが相殺権者)→まとめ 民法468条2項(債権譲 渡抗弁型) 〔債権の〕譲渡人が譲渡 の通知をしたにとどまる ときは, 債務者は,その通知を 受けるまでに譲渡人に 対して生じた事由〔相殺 を含む〕をもって 譲受人に対抗すること ができる。 2015/12/15 S β α G1 G: Gläubiger S: Schuldner G2 Lecture on Obligation2, 2015 5 三者間相殺(2/6) C→A→B型(Aが相殺権者)→まとめ 改正案 469条(債権の譲渡にお ける相殺権) ①債務者は,対抗要件具備時より前に 取得した譲渡人に対する債権による相 殺をもって譲受人に対抗することができ る。 S β α G1 S: Schuldner G: Gläubiger G2 ②債務者が対抗要件具備時より後に取 得した譲渡人に対する債権であっても, その債権が次に掲げるものであるときは, 前項と同様とする。ただし,債務者が対 抗要件具備時より後に他人の債権を取 得したときは,この限りでない。 一 対抗要件具備時より前の原因に基 づいて生じた債権 二 前号に掲げるもののほか,譲受人 の取得した債権の発生原因である契約 に基づいて生じた債権 2015/12/15 Lecture on Obligation2, 2015 6 第2類型 連帯債務者・保証人による相殺型 2015/12/15 Lecture on Obligation2, 2015 7 三者間相殺(3/6) A→B→C型(Aが相殺権者) →まとめ 民法457条2項(保証人相殺型) 旧民法財産編521条1項は,「保証人は債 権者が主たる債務者又は自己に対して負 担する債務の相殺を以て対抗することを 得」と規定していた。 現行民法の起草者は,民法457条2項を立 法する際に,「本条第2項は既成法典財産 編第521条第1項の規定と其主意を同じう す」としながら,「主たる債務者〔又は自己〕 の債権による相殺をもって対抗することが できる」の〔 〕部分を現行法から脱落させ るというミスを犯してしまった。 しかし,通説は,保証人が自ら債権者に有 する債権で,主債務を相殺することを実質 的に認めている[我妻・債権総論(1964)490 頁]。 民法436条1項(連帯債務者相殺型) B α 相殺 β G β B: Bürge G: Gläubiger S: Schuldner S 保証人相殺型の応用 2015/12/15 Lecture on Obligation2, 2015 8 三者間相殺(4/6) A→B→C型(Aが相殺権者) →まとめ 第436条(連帯債務者 の1人による相殺等) ①連帯債務者の1 人が債権者に対し て債権を有する場 合において,その 連帯債務者が相 殺を援用したとき は,債権は,すべ ての連帯債務者 の利益のために 消滅する。 2015/12/15 S1 α (β + γ) β γ G γ S1: Gesamtschuldner1 G: Gläubiger S2: Gesamtschuldner2 Lecture on Obligation2, 2015 S2 9 第3類型 保証人相殺援用型 2015/12/15 Lecture on Obligation2, 2015 10 三者間相殺(5/6) B→C→A型(Aが相殺権者) →まとめ 第457条(主たる債 務者について生じた 事由の効力) ②保証人は,主たる 債務者の債権による 相殺をもって,債権 者に対抗することが できる。 2015/12/15 B S α β S: Schuldner G: Gläubiger B: Bürge Lecture on Obligation2, 2015 G 11 三者間相殺(6/6) B→C→A型(Aが相殺権者) →まとめ 民法479条(錯誤弁 済相殺型) D 利益 G 前条〔民法478条:準占有 者への弁済〕の場合を除き, 弁済を受領する権限を有 しない者〔D〕に対してした 弁済は, 債権者がこれによって利 益を受けた限度において のみ,その効力を有する。 2015/12/15 α G: Gläubiger S: Schuldner D: Dritte Lecture on Obligation2, 2015 S 12 三者間相殺のまとめ(Aが相殺権者) C→A→B A→B→C B→C→A 利益 A B A B A B 相殺 C C 債権譲渡抗弁型 保証人相殺型 錯誤弁済相殺型 民法468条2項 改正案469条 民法457条2項(解釈) 民法436条1項 民法457条2項 民法479条 2015/12/15 Lecture on Obligation2, 2015 C 13 三者間相殺の復習(Aが相殺権者) C→A→B S G1 A→B→C B G B→C→A D G 相殺 G2 S 債権譲渡抗弁型 保証人相殺型 錯誤弁済相殺型 民法468条2項 改正案469条 民法436条1項 民法457条2項(解釈) 民法457条2項 民法479条 2015/12/15 Lecture on Obligation2, 2015 S 14 マルチラテラル・ネッティング 多数当事者間相殺 CCP(Central Counter Party) 全銀ネッティング 2015/12/15 Lecture on Obligation2, 2015 15 多数当事者間相殺(1/6) CCPを積極的に利用する方法(1/2) 10 A 4 1 2015/12/15 7 CCP 8 5 3 B 6 3 8 9 D A B C D Lecture on Obligation2, 2015 4 C 16 多数当事者間相殺(2/6) CCPを積極的に利用する方法(2/2) A B 6 A B 6 3 3 CCP CCP 8 D 2015/12/15 8 4 C D Lecture on Obligation2, 2015 4 C 17 多数当事者間相殺(3/6) CCPを最後のみに利用する方法(1/2) 10 A A A -2 B 4 1 6 3 8 9 5 8 3 D C 7 2015/12/15 B B -3 D D +4 Lecture on Obligation2, 2015 4 C C +1 18 多数当事者間相殺(4/6) CCPを最後のみに利用する方法(2/2) A -2 B -3 6 A -2 B -3 6 3 1 2 1 CCP 8 D +4 2015/12/15 3 8 4 C +1 D +4 Lecture on Obligation2, 2015 4 C +1 19 多数当事者間相殺(5/6) 最後まで相殺前の状態を残す方法(1/2) 10 A B 4 1 3 D C 7 2015/12/15 4 CCP 9 5 B -3 1 8 9 10 A -2 D +4 Lecture on Obligation2, 2015 3 7 8 5 C +1 20 多数当事者間相殺(6/6) 最後まで相殺前の状態を残す方法(2/2) 10 A A -2 B B -3 4 1 CCP 9 D D +4 2015/12/15 3 7 4 CCP 9 C C +1 B -3 1 8 5 10 A -2 D +4 Lecture on Obligation2, 2015 3 7 8 5 C +1 21 振り込みと全銀ネット A D 貸金0 貸金10 銀行勘定10 銀行勘定0 B A 預 金 10 0 預 金 10 0 C D B 銀行勘定0 銀行勘定10 C CCP CCP 2015/12/15 売掛金0 売掛金10 Lecture on Obligation2, 2015 22 誤振込事件の復習(1/2) Xの 債権者 対価関係 債務者 振込指 図人X 抗 弁 諾約者 D銀行 丙支店 支払 委託 預 金 債 権 対価関係 なし 預 金 債 権 誤 振 振 込 込 委 委 託 託 要約者 A銀行 甲支店 誤振込 受取人 C 支払 委託 債権 Cの 債権者 Y 差押え 諾約者 A銀行 乙支店 全銀ネット口座 2015/12/15 Lecture on Obligation2, 2015 23 誤振込事件の復習(2/2) Xの 債権者 対価関係 債務者 振込指 図人X 預 金 債 権 諾約者 D銀行 丙支店 支払 委託 誤振込 受取人 C 預 金 債 権 誤組 振戻 込委 委託 託 要約者 A銀行 甲支店 組戻 引受 Cの 債権者 Y 差押え 諾約者 A銀行 乙支店 全銀ネット口座 2015/12/15 Lecture on Obligation2, 2015 24 活用すべき文献 組織のリーダーは何をすべきであり,何 をしてはならないか P.F.ドラッカー(上田惇生訳)『非営利組織 の経営』ダイヤモンド社(2007) フィッシャー=ユーリー(金山宣夫,浅井和 子訳)『ハーバード流交渉術』三笠書房 (1990) 法律家のものの考え方 カイム・ペレルマン,江口 三角 (訳) 『法律 家の論理―新しいレトリック』木鐸社 (2004) 民法の入門書(DVD付) 加賀山茂『民法入門・担保法革命』信山社 (2013) 民法(財産法)全体を理解する上での 助っ人 我妻栄=有泉亨『コンメンタール民法』〔第3 版〕日本評論社(2013) 金子=新堂=平井編『法律学小辞典』有斐 閣(2008) 2015/12/15 契約法全体についての概説書 佐藤孝幸『実務契約法講義』民事法研究 会(2012) 加賀山茂『契約法講義』日本評論社 (2009) 債権総論の優れた教科書 平井宜雄『債権総論』 〔第2版〕弘文堂 (1994) 債務不履行に関する文献 平井宜雄『損害賠償法の理論』東京大学 出版会(1971) 浜上則雄「損害賠償における「保証理論」 と「部分的因果関係の理論」(1)(2・完)民 商66巻4号(1972)3-33頁, 66巻5号35-65 頁 相殺の文献 深川裕佳『相殺の担保的機能』信山社 (2008) Lecture on Obligation2, 2015 25
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