平成21年度卒業論文 日本の鉄道産業の競争度 〜通勤通学旅客輸送サービス事業の例〜 東京大学経済学部経済学科4年 久光 孔世留 一般的な鉄道産業の理論 • 回収不可能な固定費用が甚大 ⇒カルテルが形成されやすい (Carlton & Perloff ‘Modern Industrial Organization’) • 何らかの規制・競争政策が必要 (日本の場合:総括原価方式による価格規 制・国鉄民営化等) モデル1 • 実質的な市場シェア(Si(e))と実際の市場シェ ア(Si)の比較 P+θiQP’(Q)=MCi ⇒P-MCi=-θiQP’(Q) ⇒(P-MCi)/P=-θi(Q/P)(dP/dQ) ⇒(P-MCi)/P=θi/ε • 実はθi=1の時カルテル、θi=Siの時数量競 争、θi=0の時完全競争(価格競争) モデル2 • 推測的変動(CV: Conjectural Variation) dQ/dqi=dqi/dqi+dQ-i/dq1=1+CVi • 実は CVi={(P-MCi)/P}(ε/Si)-1 • CVi=1の時市場シェア維持(カルテル)、CVi=0 の時数量競争、CVi=-1の時価格維持(価格競 争) モデル3(モデル1’) • モデル1の両辺の市場シェアの加重をかけて 和をとる ΣSi(P-MCi/P)=(ΣSi*Si)/ε=HHI/εP=θ/ε • θ=1の時カルテル、θ=HHIの時数量競争、 θ=0の時完全競争(価格競争) • 各モデルで求まる推定値を検定することでど の状態にある(可能性が高い)かを判断する 日本の鉄道産業の概観 • 国鉄民営化以前:「速い国鉄、安い私鉄」 • 国鉄民営化以後:「安くて速いJR」(関西) • プライス・キャップ制の導入(⇒より柔軟な価 格設定?) • 特定都市鉄道整備促進特別措置法 の成功 例(京王電鉄の値下げ←戦後唯一) 今回の分析対象 • 関東(JR東日本中央線と京王電鉄京王線) ←ほぼ全線で競合しているといわれている。 (新宿駅と八王子駅は近接etc) • 通勤通学旅客のみを対象(定期利用者) • 今回の同質財の仮定を大きくは逸脱していな いと思われる。 実証分析に用いたデータ • 価格P(本稿ではPiを許容する):鉄道統計年 報から算出した路線毎の通勤通学定期利用 者一人当たりの価格を当該路線の価格の代 理変数として用いた。 • 数量Qi:都市交通年報の当該路線の最混雑 時間帯(1時間)の利用者数を通勤通学定期 需要の代理変数として用いた。 • 市場シェアSi及びHHI:Qiより独自に作成。 実証分析に用いたデータ • 需要の価格弾力性ε(本稿ではεiを許容す る):Qiを被説明変数、Piを内生変数、国内総 生産や沿線人口、失業者数を適宜外生変数 とし、企業物価指数を操作変数とした2SLSに より対数線型モデル(各機関を通じて弾力性 は一定)、線型モデル(各期により弾力性が 変化)推定。 実証分析に用いたデータ • 限界費用MCi:鉄道統計年報の各社の運送 費と減価償却費の合計を年間列車回数で除 して1運行当たりの費用wiを求め、当該路線 の1運行当たりの定員Tiと終日混雑率Ciで除 して一人当たりの限界費用とした。 wi=(運送費+減価償却費)/(年間列車回数) MCi=wi/(Ti*Ci) 実証分析の結果 • 日本の鉄道産業は相当程度競争的な状態に ある可能性がある。 1 0.9 0.8 0.7 0.6 HHI(e) 0.5 HHI 0.4 0.3 0.2 0.1 0 S62 S63 H1 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 実証分析の結果 • 国鉄民営化の結果JRの行動が価格競争的に なった(近年では逆の傾向にあるが)。 1 0 S62 H1 0.9 -0.1 0.8 -0.2 0.7 -0.3 0.6 S1(e) 0.5 S2(e) S1 0.4 S2 0.3 -0.5 -0.6 -0.7 -0.8 0.1 -0.9 0 H3 H5 H7 H9 H11 H13 H15 H17 H5 H7 H9 H11 H13 H15 H17 -0.4 0.2 S62 H1 H3 -1 CV1 CV2 考察 • 日本の鉄道産業の規制政策は相当程度成 功していた(総括原価方式やヤードスティック 方式)⇒競争的な市場形態 • 国鉄の民営化によってJRの企業行動が価格 競争的になった⇒競争政策も成功 • プライス・キャップ制はあまり成功していない (上限価格いっぱいの値付け) • 近年の競争度の低下の原因は不明 補論(実証分析) • 需要の価格弾力性の推計に関しては先行研 究と比較して相当程度改善された(内生性の 除去のための2SLS、新たなデータセットの選 択によりt-valueの値およびばらつきが大幅に 改善) • ただしerror-termのserial-correlationの除去に は失敗(ただしconsistencyは保たれている。) 補論(実証分析) • 限界費用の推計に関しては再考が必要 • 今回の方法は航空産業の分析で用いられて いるもの←ODがはっきりしている。しかし鉄道 産業にそのまま当てはめるのは無謀。 • 鉄道産業は比較的複雑な費用体系をしてい そうなのでそもそも推計できるのか? 補論(理論) • そもそも鉄道会社は利潤最大化行動をとって いるのか? • 公益企業(価格規制や安全規制)の競争実 態に即したモデルの再設計が必要ではない か? • 競争・規制政策的な言質が得られるとなおよ い。
© Copyright 2024 ExpyDoc