フォレンジック・ソーシャルワーカーの養成が必要となる

日本司法福祉学会全国集会 第15回大会 大阪
2014年8月3日
地域移行支援の対象施設拡大に伴う
障害のある矯正施設等退所者支援の
今後についての一考察
南海福祉専門学校
原田 和明
[email protected]
研究の目的①
2014年4月1日より,障害者総合支援法(障害者の
日常生活及び社会生活を総合的に支援するための
法律)における地域移行支援の対象施設等は,従
来の障害者支援施設又は精神科病院にあわせ,矯
正施設等も含めてその対象は拡大されることとなっ
た.
一方で障害のある矯正施設からの退所者の地域
移行支援については,地域生活定着支援センター
がその役割を担ってきた.しかし,この地域移行支
援の対象施設等の拡大により,地域移行支援を行
なっている相談支援事業所についても矯正施設か
らの退所者の地域移行支援の役割を担うこととなっ
た.
研究の目的②
そのため,新しい制度における障害のある矯
正施設等退所者支援の方法論について,地域
生活定着支援センターと地域移行支援を行
なっている相談支援事業所との関係や.障害
者総合支援法における地域移行支援も含めた
矯正施設退所者の地域移行支援のシステムな
どに視点をおいた考察を行ない,そしてその課
題を提示し,さらにこれからの障害のある矯正
施設等退所者支援を中心としたフォレンジック・
ソーシャルワークについての提言を行なうこと
を目的としている.
研究の視点および方法と対象①
障害者総合支援法における地域移行支援に関
わる制度変更について新旧を比較検討する.また,
矯正施設から相談支援事業所を通じ地域移行した
障害のある者の事例について旧制度と新制度に
おける実践を想定し比較検討する.
なお,ここで想定しているフォレンジック・ソーシャ
ルワークは,直接接触しない有識者等による集団
が関わることは前提とせず,入口・出口対応を問
わず.ワーカーがクライエントと直接向き合うことを
前提としている.地域移行支援もその一環である.
研究の視点および方法と対象②
事例については,現障害者総合支援法及び
関係する法令と地域移行支援事業や相談支援
事業を含む障害福祉サービスを利用して地域
移行した障害のある矯正施設退所者のケース
である.なお,本研究おける障害者の定義は,
その年齢に関わらず,身体,知的,発達,精神
に障害のある者であり,医学的な診断に基づき
それらの障害があるとされた者である.
倫理的配慮
事例については,性別と矯正施設の種類の
みを取り上げ,個人の特定やその他プライバ
シーの侵害にならないよう留意している.また,
その内容についても,考察において必要な事の
み取り上げているものである.
地域移行支援について
• 居住系施設,精神科病院からグループホー
ム,単独居住などへの地域移行を支援
• 障害福祉サービスの体験利用も行なう
• 市町村にある指定地域移行支援事業所(地
域相談支援事業を行なう事業所)が行なう
• 個別給付である(地域相談支援給付)
• 地域での障害福祉サービスの利用にあたっ
ては,計画相談支援(サービス等利用計画)
が必要となる.
全国厚生労働関係部局長会議 (厚生分科会)資料 2014年1月22日
地域移行支援対象施設拡大の内容等
従来は障害者支援施設又は精神科病院
平成26年度から対象施設が拡大され,矯正施設
(刑事施設(刑務所、少年刑務所及び拘置所)及び
少年院,更生保護施設等,生活保護施設も対象
施設となった.
ただし,矯正施設を退所する者については,
対象とする障害者は、矯正施設の長が施設外で
処遇を行うことを認め、地域相談支援の事業を行
なう事業所によって障害福祉サービスの体験利用
や体験宿泊などを実施することが可能な者に限定
する.
刑事施設退所予定者の場合
外部施設へ刑事施設の職員が同行した,障害福
祉サービスの体験,グループホームの宿泊体験が
可能なのか.複数職員同行でのこういった処遇は,
現実として難しく,対象者が極めて限られている状
態よって刑事施設から直接に移行支援事業の利
用は現実困難である
しかし,刑務所と地域移行支援事業を行なう相談
支援との関係は近くなる.したがって,刑務所,保
護観察所等とも連携し更生緊急保護等で更生保
護施設に入所してからの地域移行支援事業の利
用が考えられる
少年院退院予定者の場合
現在でも,少年院職員が同行しての障害福祉サー
ビス事業所(通所系)の見学や体験は行なってい
る施設が多い
ソーシャルワーカーの配置は医療少年院のみであ
り,一般少年院で処遇されている場合は窓口の制
度理解が乏しい恐れがある
しかし,少年院職員同行の宿泊体験は現状行なう
のは困難か
よって刑事施設と比較すると,少年院から直接移
行支援事業を利用できる可能性は高い
地域生活定着支援センターとの関係
現状でも,地域生活定着支援センターと相談支
援事業所が共同して支援をする事はしばしばある.
しかしながら,新たな地域移行支援では,矯正施
設が地域移行支援を行なっている相談支援事業
所や行政に直接地域移行支援を依頼する事が可
能になる.
矯正施設にとっては,とりわけ刑事施設について,
職員が同行した,障害福祉サービスの体験,グ
ループホームの宿泊体験が可能であれば,保護
観察所からの依頼による地域生活定着支援セン
ターでの支援よりも行政に地域移行支援を依頼す
る方がプロセスとしては短くなる.
2014年3月7日 障害保健福祉関係主管課長会議資料
矯正施設から直接退所時支援を依頼された
ケース対応について新旧制度の比較
X 男性 医療少年院仮退院 仮退院前に3回通
所事業所及び日帰りでのグループホーム見学・
体験をする
少年院から直接相談支援事業所に依頼有(障
害者自立支援法時)
旧制度では,体験及び相談支援業務などすべ
てに報酬が発生しないが新制度では支援その
ものや体験利用に報酬が発生する.
入口支援との関係
矯正施設退所或は更生保護施設等退所後,
帰住地に戻るか,入口支援を担った相談支援
事業所等の所在地に戻る場合.
入口支援を担った相談支援事業所或は関係
の地域移行支援事業所が生活環境調整も含め
た,入口から出口の一貫した支援が可能になる.
執行猶予や不起訴等で勾留から釈放された
後,更生緊急保護等で更生保護施設,生保受
給で保護施設を通過することで地域移行支援
を行なうことができる.
課題と提言①
• 地域生活定着支援センターと地域移行支援事
業所の矯正施設退所者等への支援における役
割分担を明確化する必要がある→地域移行支
援事業所へ矯正施設(特に少年院)からの依頼
が集中する可能性.
• 矯正施設等が,その施設の職務範囲内で福祉
サービスの体験利用に対し人員を派遣する事が
可能なのか.特に刑事施設退所者については,
利用を促すためには体験利用が可能という条件
を緩和する必要性がある→そうなった場合,前
記の通り依頼が集中する可能性あり.
課題と提言②
• 一般少年院のケースではソーシャルワーカーの
配置がなく,ソーシャルワークとしての支援が行
ないにくい
• 入口から出口までの一貫した支援を地域で行な
うことが出来る
• 支援を行なうにあたって,地域定着生活支援セ
ンターとの協働が必要.また,フォレンジック・
ソーシャルワーカーの養成が必要となる
(参考)今後の試行的展開
前述のとおり,本考察では矯正施設を退所する者
等を対象とする地域移行支援についてフォレン
ジック・ソーシャルワークの一環と捉えている.
入口から出口,そしてその後という一貫した障害の
ある人を対象としたフォレンジックソー.シャルワー
クの展開の方法として
「地域移行支援事業をおこなう相談支援事業所,
自立準備ホーム,障害福祉サービスを同一法人運
営等の強固な連携体制での支援を試みる」
参考文献
• 内田扶喜子,谷村慎介,原田和明,水藤昌彦「罪を犯した
知的障がいのある人の弁護と支援」現代人文社
• 原田和明『発達障害のある少年を中心とした福祉と刑事司
法の連携』浜井浩一,村井敏邦編著「発達障害と司法龍谷
大学矯正・保護研究センター叢書第11号) 」現代人文社
• 原田和明『触法障がい者に対する刑事裁判における福祉
的支援 』「ホームレスと社会」編集委員会「ホームレスと社
会Vol.6」明石書店
• 中川英男,益子千枝,百枝孝泰,寺戸亮二,上出晶子,深
谷裕, 谷村慎介,原田和明,水藤昌彦,萱沼美香,江口賀
子 加藤幸雄・前田忠弘監修/藤原正範・古川隆司編著「司
法福祉」法律文化社
• 原田和明『福祉的ニーズのある被告人に対しての刑事裁
判における福祉的支援』龍谷大学矯正・保護総合センター
• 「龍谷大学矯正・保護総合センター研究年報No.3」現代人
文社