日本透析医学会統計調査の公開データを用いた 二次分析の実例 若杉 三奈子(わかすぎ 1)新潟大学 1)2) みなこ) 、風間 2) 順一郎 、成田 2) 一衛 2) 臓器連関研究センター、 第二内科 目 的 結 論 透析医学会統計調査の公開データを用いた二次分析として、 脳血管障害死亡率を一般住民と比較検討した。 統計調査データを用いた考察は 「考える透析」に繋がる。 二次分析とは? 二次データを用いた分析のこと。 二次データ:本人以外が収集したデータ。 一次データ:研究者本人が直接収集したデータ。 方 1) 二次分析の利点 ・データ収集の過程を省略 ⇒限りある時間や労力を研究の中心部分(仮説構築・データ分析・結果解釈等)に集中的に投入可能。 ・全国規模のデータ分析も可能 ⇒地域限定研究から無理な一般化をすることがなくなる。 ・別の研究者による分析結果の再現・検証が可能 ⇒研究の精度向上。 ・類似した調査がすでにある場合、そのデータを二次分析すれば良く、新たに実施する必要が少なくなる ⇒回答者に無用な負担を掛けなくて済むため、調査環境の悪化を防ぐことに貢献。 ・多大な経費・時間・労力などを投入して作成された既存データの有効活用。 など 2) 法 結 ・使用データ 日本透析医学会 統計調査委員会 わが国の慢性透析療法の現況 2008-2009 会員HPから表データを入手 人口動態統計2008-2009 e-Stat3)から表データを入手 ・アウトカムの定義 脳内出血、脳梗塞、クモ膜下出血による死亡は、ICD-10コード で定義(注:現在の透析学会データは異なります)。 2年間の観察期間、一般住民2億5千万人年および透析患者55万人年中、 一般住民および透析患者の、脳内出血死亡は51,994人および933人、脳梗塞死亡は 79,124人および511人、クモ膜下出血死亡は24,957人および147人であった。 死亡率 (1万人年あたり) 死亡率 = Σ (Patient time at risk*) = Patient time t2 t1 死亡 at risk (ti) 観察期間内の死亡数 t4 離脱 tn 2008年12月31日 t3 Σ ti i =1 それぞれのpatient time at riskも、 このデータからはわからない。 分母をどうやって計算したらいいの? 2008年12月31日の患者数×2 (分母) 2009年末 データ 死亡数 (分子) 導入 n 透析患者数は死亡や導入などで日々変化する。 一般住民も同様。 2008年末 データ 死亡数 (分子) 脳梗塞 死亡率 (1万人年あたり) 30 25 20 15 10 5 0 観察期間の真ん中の時点の人数に 観察期間をかけることにより patient time at riskを推計することができます。 ただし、戦争や大災害など、急激な人口変化があった場合には、この 方法は不適切です。詳細は文献4)をご参照ください。 2009年12月31日 年齢 (歳) 標準化死亡率比 3.8 標準化死亡率比 1.3 標準化死亡率比 1.3 (95%信頼区間 3.6 - 4.1) (95%信頼区間 1.2 – 1.4) (95%信頼区間 1.1 – 1.6) 図1 年齢階級別死亡率および年齢調整した標準化死亡率比 脳内出血、脳梗塞、クモ膜下出血のいずれも透析患者で死亡率が高いが、特に脳内出血で著しい。 死亡率(1万人年あたり) 死亡率 25 (1万人年あたり) 20 15 20 脳内出血 15 脳梗塞 透析患者の 実際の クモ膜下出血 0 観測数 年齢階級別 発症率 透析患者の 年齢階級別 patient time at risk 0 透析歴 (年) 透析患者の 発症 期待数* *もし透析患者が、一般住民と同じ発症率(今回の場合は 脳卒中死亡率)なら、透析患者の年齢分布では、このくらい の発症(今回の場合は脳卒中死亡)が起こっただろうという 期待値。これにより年齢の影響が補正される。 ・透析患者については、透析歴別にも死亡率を求めた。 この研究のきっかけ 心房細動を合併した血液透析患者では、ワルファリンを投与したらいいのか、しないほうがいいのかを悩んでいた時7)、 「そもそも心房細動の重篤な合併症である心原性脳塞栓症が、血液透析患者では一般住民よりも多いのか? ワルファリン投与時の合併症の一つである脳内出血は多いのか?」と疑問に思ったことが本研究のきっかけである。悩みと疑問は、まだまだ続く・・・ 脳梗塞 クモ膜下出血 標準化死亡率比(SMR) 一般住民の 脳内出血 10 5 5 実際の観測数を期待数で割ることで求められる。 クモ膜下出血 年齢 (歳) 10 ・標準化死亡率比の計算方法2)5)6) 死亡率 (1万人年あたり) 5 4 3 2 1 0 年齢 (歳) *イベントを起こす可能性のある人年です。 2007年12月31日 脳内出血 25 20 15 10 5 0 ・年齢階級別死亡率の計算方法2)4)5)6) 観察期間内の死亡数 2) 果 図2 一般住民と透析患者の死亡率 図3 透析歴別 死亡率 一般住民は、脳梗塞、脳内出血、クモ膜下出血 の順で、透析患者は脳内出血、脳梗塞、クモ膜 下出血の順で、死亡率が高い(一般住民の死亡 率は透析患者の年齢分布で補正)。 いずれの透析歴でも、脳内出血、脳梗塞、クモ膜下出血の 順で死亡率が高い。 エラーバーは95%信頼区間を示す。 ただし、本図では年齢補正をしていない点に注意。 本研究の限界 透析患者の脳内出血、脳梗塞、 クモ膜下出血死亡率は、確診例のみのため、低めに見積もっている可能性がある。 もちろん公表されているデータからの解析には限界もある。しかし、数字が示す現状と、実際の臨床での経験を 繋ぎ合わせ、「なぜ?」と考えることにより、改善に繋がる新たな気づきが生まれる可能性がある。 文 献 謝 辞 1) 佐藤 博樹, 間淵 領吾.特集 二次分析の新たな展開を求めて.理論と方法 2002;17: 1-2 2) Wakasugi M, et al. Higher mortality due to intracerebral hemorrhage in dialysis patients: A comparison with the general population in Japan. Ther Apher Dial. (in press) 3) http://www.e-stat.go.jp 4) Esteve J, et al. Techniques for the analysis of Cancer Risk. In: Statistical Methods In Cancer Research: Volume IV: Descriptive Epidemiology. Lyon, France: International Agency for Research on Cancer, 1994;49–105. 5) Wakasugi M, et al. High mortality rate of infectious diseases in dialysis patients: a comparison with the general population in Japan. Ther Apher Dial. 2012;16:226-31. 6) Wakasugi M, et al. Cause-specific excess mortality among dialysis patients: comparison with the general population in Japan. Ther Apher Dial. 2013;17:298-304. 7) Wakasugi M, et al. Association between warfarin use and incidence of ischemic stroke in Japanese hemodialysis patients with chronic sustained atrial fibrillation: a prospective cohort study. Clin Exp Nephrol. 2013 Oct 11. [Epub ahead of print] 本研究は一般社団法人 日本透析医学会「わが国の 慢性透析療法の現況2008年12月31日現在」および 「同 2009年12月31日現在」のデータを用いました。 統計資料利用許可をいただいた日本透析医学会 統計調査委員会ならびに本統計調査にご協力いただ いた、すべての関係者に心より感謝申し上げます。 なお、本研究内容は著者らの見解であり、統計調査 委員会の公式見解ではありません。
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